HOME > 診療支援 > 診療の手引等 > がん疼痛の治療

がん疼痛の治療

はじめに

がん疼痛は決して末期状態だけに出現するものではないので、がんという診断から死亡するまでの間のどの病期においても痛みに対する治療を行う必要があり、痛みの性状や原因についての検討を進めると同時に、適切な鎮痛薬の投与を開始するべきである。

1.がん患者の痛みの診断と痛み治療の目標設定

1)痛みの原因

患者の痛みの原因は、4つの要因に分けられる。
1) 腫瘍自体(浸潤や転移など)が原因となった痛み
2) がんの治療(外科治療、化学療法、放射線療法)に起因した痛み
3) 全身衰弱に関係した痛み
4) がんやがん治療に直接関係しないもので、偏頭痛、リューマチなどの痛み
上記のうち、2つか3つがともに疼痛の原因となっていることがあり、痛みの原因が次々に変わることも多い。

2)痛みの診断

効果的な治療を行うには、痛みについて適切な診断を行う必要がある。痛みが軽いうちに治療を開始すると、痛みの軽減が安全に、しかも早く得られる。

表1 がん患者の痛みの診断
  • 患者の痛みの訴えを信じ、過小評価したり、無視したりしない(最も重要)
  • 痛みの強さを把握する(痛みの強さを、軽度、中等度、重度に分けて把握する)
      痛みによる活動制限の程度
      痛みに起因した不眠の程度
      過去に体験した痛みとの対比
      投与中の鎮痛薬の効果の程度
  • 痛みの性質を把握する
  • 患者の心理状態を把握する(不安、恐怖、絶望感、鬱状態など)
  • 痛みの経過を詳しく聞く
  • 診察を慎重に行う
      全身状態、痛みのある部位の状態、関連領域の神経学的所見など
  • 検査は必要最低限とする
  • 特定の治療を必要とする緊急事態(腸閉塞など)がないことを確認する
  • 薬以外の治療法の適応も考慮する

3)痛み治療の目標設定

痛み治療の目標を3段階(表2)に分けて段階的に痛みを取っていくのがよい。

表2 痛み治療の目標の設定
第1目標:痛みに妨げられない夜間の睡眠時間の確保
第2目標:安静時の痛みの消失
第3目標:起立時や体動時の痛みの消失

非常に耐え難い強い痛みに緊急に対処する必要がある場合には、通常の投与開始量より、やや多い量の鎮痛薬を注射し、痛みが緩和したら、漸減して適切量を求める方法をとる。

4)各種鎮痛法と鎮痛薬投与経路の選択

鎮痛薬を投与するときは、食事ができているか、中心静脈栄養中か、痛みの強さ、副作用の出方などで鎮痛薬の最適な投与経路を選択することができる。がん患者の疼痛に対する鎮痛法の種類と選択を表3に示した。

表3 痛みの治療法と鎮痛薬投与法の選択(経口摂取の可否と鎮痛薬投与法の選択)
<痛みの治療法>
  • 鎮痛薬の全身投与
    経口投与
    非経口投与
    経直腸:下痢、下血、人工肛門を有する患者には困難である
    注射(持続皮下注、持続点滴):経口投与より副作用が少ない
    硬膜外・髄腔内投与:強度の痛みの出現や鎮痛薬の副作用が継続するときに適応
  • 神経ブロック:腹腔神経叢ブロック、交感神経ブロック以外はしびれを伴うので、適さないこともある
  • 放射線治療
  • 脳神経外科的治療法、理学療法、心理療法など

2.鎮痛薬使用の基本原則

がん患者の持続性の痛みを鎮痛薬によって効果的に治療するには、表4に示す基本原則を守らなければならない。
表4 鎮痛薬投与の基本原則
  • なるべく簡便な経路で投与する
  • 時間を決めて規則正しく投与する(定時投与)
  • 除痛に必要な十分量の鎮痛薬を投与する(適切量への調整:titration)
  • 鎮痛薬の副作用に対する防止策を確実に実施する

3.非ステロイド系抗炎症鎮痛薬(Non-Steroidal Anti-Inflammatory Drugs=NSAIDs)

1)作用機序と適応

疾患や外傷などによって組織損傷を受けた局所に発痛物質のプロスタグランディン(PG)が生産されるので、アスピリンや非ステロイド性抗炎症鎮痛薬がPGの生合成を抑制することにより、末梢受容レベルでの鎮痛作用を示す。副作用の代表は胃腸障害(PGは胃粘膜の細胞保護作用を持つ)であり、この副作用は薬剤と胃粘膜との接触によるものだけではないので、直腸内投与、静脈内投与によっても胃腸障害は起こりうるため注意が必要である。
また、アセトアミノフェンは抗炎症作用をほとんど持たないがNSAIDsに含まれる。

NSAIDsは基本的には、骨転移痛、感染や炎症による痛みに対して有効である。

NSAIDsが鎮痛効果を示す痛みか否かわからないときには、例えばフルルビプロフェン(ロピオン)を静注し、痛みが消失するならば、NSAIDsが有効な病態と診断し、NSAIDsが吸収されるように与える。使い慣れたNSAIDsを定期的(時間を定めて)に投与する。(ドラッグチャレンジテスト)

2)経口・坐剤の投与が不能の場合

現在、静注できるNSAIDsはフルルビプロフェン(ロピオン)だけである。ロピオン1アンプルを生理食塩水50mlに混注させたものを1日に3〜4回点滴静注する(IVHを行っている場合は、側管から30分〜1時間かけて点滴投与する)。または、脂肪乳剤(イントラファット、イントラリポスなど)にロピオンを3〜4アンプル混注させたものをIVHの側管から24時間かけて点滴投与する方法も、発汗が少なく、鎮痛効果が安定しているので、患者に好評である。

4.燐酸コデイン経口投与法

燐酸コデインは弱オピオイド鎮痛薬の代表薬である。鎮咳薬としてよく使用されるが、モルヒネのほぼ1/10〜1/6の鎮痛効力を持つ。体内で代謝され1/10がモルヒネとなり効果を発揮する。非オピオイド鎮痛薬ががん患者の痛みに十分な効果がないときに選択すべき薬は、燐酸コデインで代表される弱オピオイドか、少量の強オピオイド(モルヒネ)である。燐酸コデインは、原末、10倍散、100倍散、20mg錠が市販されている。燐酸コデインはNSAIDsと併用する。

経口コデイン30mgはアスピリン650mgとほぼ同等の鎮痛効果があり、両者を併用すると、その鎮痛効果はコデイン60mgと同等ないしそれ以上となる。投与開始量を30mg/回とし、効果をみながら30〜50%をめどに順次増量する。燐酸コデイン30〜130mg/回をアスピリン250〜500mg/回と併用(4〜6回/日)すると、相乗効果があり、ペンタゾシン内服より強い鎮痛効果が期待できる。ほぼ130mg/回が有効限界と考えられているので、2〜3回の増量で痛みが緩和しないときには、モルヒネへの切り替えを考慮する。

主な副作用は便秘で、投与初期から緩下剤の十分量を併用する。ときに嘔気を発生させるが、制吐薬が有効である(モルヒネの副作用と対策を参照)。高齢者では、急激な増量により、痰の喀出が困難となることや眠気が発生しうるので、急激な増量を避ける。

5.ブプレノルフィン坐剤

(レペタン坐剤(R)

日本で開発されたブプレノルフィン坐剤(レペタン坐剤(R))はWHOがん疼痛治療法の第3段階に属する薬である。レペタン坐剤(R)0.2mgは1個中ブプレノルフィン0.2mgを含有する。レペタン坐剤(R)0.4mgは1個中ブプレノルフィン0.4mgを含有する。いずれの製剤も水溶性基剤を用いている。

レペタン坐剤(R)はがん疼痛のみならず、術後の疼痛にも適応が認められている。

通常、成人には、術後使用においてはブプレノルフィンとして1回0.4mg、各種がんにおいてはブプレノルフィンとして1回0.2mgまたは0.4mgを直腸内に投与する。その後必要に応じて、約8〜12時間ごとに反復投与する。なお、各種がんに対しては、低用量より投与を開始することが望ましい。

レペタン坐剤(R)の投与では、特に起立、歩行時に悪心、嘔吐、めまい、ふらつきなどの症状が現れやすいので、投与後しばらくの間はできるだけ安静にするように注意する。

6.強オピオイド系鎮痛薬(モルヒネ)の経口投与

1)モルヒネの一般的事項

1986年WHOがん疼痛治療指針が発表されて以来、モルヒネは日本においてもがん疼痛治療のスタンダードとなっている。オピオイドローテーションが行われるようになってきている現在でも、がん患者の疼痛マネジメントにおける中心となっているのはモルヒネである。値段が安く、どんな国でも手に入り、患者の状態に合わせて種々の投与経路を使用できるからである。定期制な使用のためにはモルヒネを正しく使うことを考える必要がある。そのためには、適切な患者への説明によるモルヒネへの偏見の除去、副作用に対する適切な対策、予防が重要である。ペインクリニックは、痛みを包括的に治療するところであり、神経ブロックも、WHO方式も痛みをとるための重要な手段の1つであり、痛み治療の両輪とさえいわれている。神経ブロックは専門家のみが行える特殊な治療法であるが、モルヒネを基本としたWHO方式は、医師として本来、最低限知っておくべき誰でもできる痛みの治療法である。

WHOがん疼痛治療指針が作成された意図は、全世界のあらゆる国に存在するがん患者を痛みから解放することである。この意味は、どんな貧しい国でも、どんなに医療が遅れている国でも、痛みに苦しんでいるがん患者は存在するため、誰でもできる疼痛治療法を普及させる、ということである。痛みを全人的な痛みとしてみることはもちろんのこと、薬物の投与に関して5つの理念をあげている。

  1) 経口投与を基本とする(by the mouth)。これは、特別な薬物投与機器が必要ないこと、いつでも患者自身で痛みのマネジメントができることがポイントである。そして、
  2) 薬物の作用時間を考え十分な量を、時間を決めて服用すること(by the clock)。
  3) 痛みの強さに応じて弱い順から強い痛みに対しては強い痛み止めを投与する(by the ladder)。
  4) 個人の特性に合わせて(for the individual)、
  5) 細心の注意を払って(with attention to detail)のように述べられている。

モルヒネを中心としたWHO方式によってがん患者の80〜90%の痛みが和らぐといわれている。しかし、日本においてはいまだにモルヒネに対する偏見が強く、麻薬=モルヒネ、モルヒネ=死であるという公式がなかなか抜けていないのが現状である。その結果を反映してか、日本での除痛率は60%に満たないという報告もあり、モルヒネ作用に対する正しい理解、教育が重要である。モルヒネによる痛みの治療は、誰でもできるがん性疼痛治療の基本的な治療法であって、医師として最低限知っておく必要があると思う。

除痛率が低いもう1つの原因として、モルヒネの効きにくい痛みがあり、それに対する対応を理解していないことがあげられる。モルヒネの効きにくい痛みの診断、モルヒネと鎮痛補助薬の併用による鎮痛法の普及も必要である。
「WHO方式」
がん疼痛治療の基本は、現在でも1986年に発表されたモルヒネを中心としたWHO方式が基本である。
WHO方式はがん性疼痛治療のスタンダードとなっており、それによってがん性疼痛の80〜90%は改善するといわれている1。それにあたっては、下記にあげる5つの基本原則が重要である。
  1) 経口的に(by the mouth):どこでも痛みがとれる利点がある。
  2) 時間を決めて定期的に(by the clock):薬物の血中濃度を安定化させることが重要である。
  3) 徐痛ラダーに沿って(by the ladder):痛みの強さに応じてそれに見合った薬物を使用する。麻薬は痛みがある患者では精神依存は起こらないため、中等度以上の痛みがある時には適応となる。
  4) 患者ごとの個別的な量で(for the individual):至適投与量と鎮痛効果が最大となり、かつ副作用が最小となる投与量の目標に調整する。
  5) 以上の4原則を守った上で細かい配慮を行う(with attention to detail)
がんの痛みは、診断から亡くなるまでの間に強さも性質も変化するが、オピオイドの反応性を確かめながら、その変化に対応していくことが重要である。
1. 武田文和(訳)、世界保健機関(編).がんの痛みからの解放 WHO方式がん疼痛治療法 第2版.東京:金原出版1996;20-41

2)モルヒネの吸収・代謝

モルヒネは血漿中に取り込まれると、血漿中で約1/3が蛋白と結合し、血液での生理的pHではイオン化した状態が維持され、水溶性が非常に強い。従って、モルヒネが体全体に広がっていても組織に取り込まれる量は限られている。代謝は主として肝臓で行われる。主たる代謝産物はモルヒネ−3−グルクロニド(M3G)、モルヒネ−6−グルクロニド(M6G)であり、M3Gは不活性であるが、M6Gは活性がありモルヒネそれ自体よりも半減期が長く、鎮痛作用も強いといわれている。グルクロン酸抱合されたものは腎から排泄され、腎機能が低下している患者ではM6Gの蓄積が起こり、呼吸抑制を含めたオピオイドの副作用が強くなることがある。一方、肝機能障害がある患者では、肝性昏睡になる直前までの間、肝臓での代謝は保たれていることが多く、モルヒネの代謝障害による影響は出にくいとされている。モルヒネをワンショットで静注した場合、血漿中のモルヒネ濃度は急激に上昇しても効果を発現させる脳や脊髄の受容体に作用するまでには15〜30分以上かかるといわれている。また、中枢神経症状が発現するまでにかかる時間も同様である。血漿中の半減期は2〜3時間とされている。初回投与量としては、1日持続投与量約10mgで行っている。経口投与を行うと、肝での初回通過効果(First Pass Effect)が高くbioavailabilityが低くなるため、経口投与量は持続静脈投与量の約2倍とされている。

モルヒネの薬理作用は中枢神経系の作用と消化管平滑筋への作用、末梢受容体への作用が中心である。中枢作用は鎮痛、気分の昂揚、催眠、鎮咳、呼吸抑制などである。末梢作用は腸管、膀胱などの平滑筋の緊張を亢進させ、便秘や腹満、排尿困難の原因になることがある。

モルヒネの使用は身体的依存と耐性との発生につながるといわれているが、これは投与を継続した結果生じる薬理的正常反応であることを銘記するべきであろう。身体的依存とは投与を突然中断すると自律神経の嵐である退薬症候(頻脈、発汗、下痢などの自律神経系の多彩で激烈な症状で、以前は禁断現象と呼ばれていた)が出現することを特徴とし、耐性とは反復投与していると効果が減少することである。また、精神的依存性とは薬への欲求のあまり、その入手に異常に執着することを特徴とした行動様式であるが、疼痛を有する患者には依存性(乱用)の発現や耐性は皆無に等しいと報告されている。実際に国立がん研究センター中央病院では、術後の鎮痛目的に硬膜外モルヒネ注入による除痛法を1万人以上に施行し、患者から好評を得ているが、退院してからモルヒネを求めてきた患者は1人もいない。しかし、中止にあたっては漸減することが望ましい。

3)モルヒネ投与開始時期と注意事項

非常に強い痛みがあるとき、あるいは適切に使用された弱オピオイド・クラスの鎮痛薬(コデインなど)などの他の鎮痛薬の効果が薄れ、拮抗性鎮痛薬(ペンタゾシンやブプレノルフィンなど)の注射が1〜2回行われるようになったときはモルヒネ投与の適応である。1〜2mgのモルヒネを静注し、除痛が得られるのであれば、モルヒネが鎮痛効果を示す痛みと診断し、モルヒネが吸収され、しかも患者の自立性が保たれるような投与経路を考えるのも良い方法である。

頻回に鎮痛効果と副作用の出現を観察することが、モルヒネ投与による治療の成績を向上させる。また、投与継続中は、効果と副作用を追跡し、痛みの消長に応じた必要な投与量の調整を行う必要がある。確実な副作用防止策、ことに便秘と嘔気の対策が重要である。

4)モルヒネ投与時の薬品名の説明

鎮痛に必要な十分量の鎮痛薬を服用してもらう(服薬コンプライアンスを上げる)ことから、痛み治療が始まる。鎮痛薬の定期的(時間ごとの)服用と継続のためには、鎮痛薬の臨床薬理の知識と副作用の説明・対策が必要になる。「モルヒネ=麻薬中毒=廃人」のイメ−ジを取り除くために、折に触れて患者・家族に時間をかけて説明していることを表5に記載した。

表5 モルヒネへの誤解を解くためのモルヒネ投与時の説明の実際
  • 正岡子規は脊椎カリエスの根症状による激痛のために明治35年3月頃より亡くなるまでの約1年6ヵ月にわたり、同じ薬を飲んでいた。昔から使われてきた安全な薬である。
  • 昭和30年代に三環系抗欝薬が開発されるまでの間、モルヒネは抗欝薬として、経口投与されてきて、安全性が確立されている。
  • 現在でも、大きな手術の後や心臓発作の時の痛みにモルヒネをしばしば使っている。硬膜外腔にモルヒネを注入する方法で、術後の痛みをほとんど感じないで済むようになった。今までに何十万人もの患者に応用されてきたが、痛みがなくなってからも、モルヒネをずっと欲しがるような、精神依存の患者はひとりも報告されていない。
  • 幻影肢痛に麻薬を3年間投与して安全であった。例えば、交通事故や戦争または腫瘍の手術などで手足をなくした人の、その失った手足があたかもあるように痛むということを説明し、痛みの原因をはっきりさせることが難しいこともあるが、痛みの原因がわからなくても、安全に痛みを取り除くことができるようになったことを話す。
  • てんかんの患者の場合と同じく、モルヒネの服薬によってもたらされる利益が多いか不利益が多いかを考える。「1〜2回/月の発作に対しても、抗痙攣薬を毎日服用している。まして、四六時中痛みがあるというのに、なぜ薬を服用することに抵抗を示すのですか?」と柔らかく話す。
  • 手術前の患者が痛みのためにベッドに寝てばかりいると、足腰の筋肉の力が弱くなってしまい、手術後の回復も悪くなるので、モルヒネを使って痛みを止める。そのような場合でも手術の後に痛みがなくなれば、安全にモルヒネを止めることができている。
  • モルヒネもステロイドやβブロッカーと同じで、漸減すれば、退薬症候が出現しないで、中止できる薬である。
  • モルヒネは痛みを伝える神経や痛みを感じる中枢、つまり脳や脊髄の疼痛中枢に作用して、痛みを少なくしたり、なくしたりする。モルヒネを使って痛みを取り除いても、体をつねれば、モルヒネを使う前と同じように痛みを感じる。モルヒネを使って痛みを止めても、熱さ、冷たさ、味覚などの他の感覚は全く変わりがない。
  • 今までに一番多く飲んでいた人の1日の量はモルヒネの粉薬で5,000mgを超え、MSコンチン30mg錠(R)に換算すると160錠以上にもなり、またアンペック20mg坐剤(R)なら250個にもなることを患者に説明すると、患者はモルヒネの増量にも抵抗を示さない。

5)モルヒネ製剤の種類とその特徴

現在、日本で入手できるモルヒネ製剤は下記のとおりである。

(1)モルヒネ速放製剤(疼痛時の頓用、レスキューとして)

  • 塩酸モルヒネ末(原末、5g/瓶)
  • 塩酸モルヒネ水、シロップ(院内調整製剤 10mg/10mlが基本であるが調整可能)
  • 塩酸モルヒネ錠(10mg/錠)
  • オプソ(R)液(モルヒネ水 5mg/2.5ml、10mg/5ml)

(2)モルヒネ徐放製剤

  • 硫酸モルヒネ徐放錠(MSコンチン錠(R)10mg/錠、30mg/錠、60mg/錠)
  • MSツワイスロン(R)(カプセル10mg、30mg、60mg)
  • モルペス(R)(細粒10mg、30mg)
  • カディアン(R)(カプセル20mg、30mg、60mg、スティック30mg、60mg、120mg)
  • ピーガード(R)(錠 20mg、30mg、60mg、120mg)
  • パシーフ(R)(カプセル30mg、60mg、120mg)

(3)その他のモルヒネ製剤

  • 塩酸モルヒネ坐剤(アンペック坐剤(R)10mg/個、20mg/個、30mg/個)
  • 塩酸モルヒネ注射液(10mg/1ml/アンプル、50mg/5ml/アンプル、200mg/5ml/アンプル)
塩酸モルヒネ末、モルヒネ水は、どのmg数の投与量にも簡便に用いることのできる製剤で、モルヒネ末は保管も容易である。モルヒネ水は冷蔵庫での保管が好ましく、使用可能期間は薬剤師の説明に従うべきであるが、通常1〜2週間以内である。

塩酸モルヒネ錠は、吸収も速く、保存性もよく、10mg単位の調剤に便利な剤型であるが、端数のmg数の調剤には不向きである。服用時に、必要なら簡単に水に溶かすことができる。塩酸モルヒネ錠はモルヒネ末・水と同様徐放製剤を使用しない場合には5〜6回/日の定期的な服用が必要である。

硫酸モルヒネ徐放錠製剤は、服用後に消化管内(小腸内)でモルヒネが錠剤外へ徐々に放出される機能を持つため、カディアンの場合には1日に1回、その他の徐放製剤の場合には1日に必要なモルヒネ量を2分して12時間ごと(患者によっては、8時間ごと)に与える。カディアンの場合には約7時間後、その他の徐放製剤では服用後2.5時間ほどで最高血中濃度に達する(塩酸モルヒネは約30分後、アンペック坐剤(R)は約1.5時間後)。

アンペック坐剤(R)は吸収がよいモルヒネ製剤で、しかも通常その投与回数は1日3回(患者によっては4回/日)と少ない回数で済み、安定した除痛状態が持続する。しかし、下痢の場合には使用できない。

6)経口モルヒネの投与量・投与回数

(1)塩酸モルヒネ製剤

  • 開始1回量:5〜10mg(痛みの強さで量を選択する)
  • 投与間隔:4時間ごと(6時間ごとでも除痛状態が継続する患者もいる)
  • 増量の方法:最初は50%増量 モルヒネ投与量が多くなったら、25%の増量
モルヒネ経口投与開始量は5〜10mg/回、4時間ごとに投与する。24時間後に効果を判定し、鎮痛効果が不十分なら(痛みが残存するならば)、50%をめどに増量し、また翌日効果を判定する。1回のモルヒネ投与量は5→10→15→20→30→40→60→80mg/回の順に増量していく。徐放製剤の種類が多くなった現在は、モルヒネ速放製剤は徐放製剤のレスキューとしての使用が中心となっている。

(2)硫酸モルヒネ徐放錠(MSコンチン錠(R))への変更

MSコンチン錠(R)は上記のようにして1日の除痛に必要なモルヒネ個人量(例えば、60mg)が定まったら、1日に必要なモルヒネ量を2分して12時間ごとに与える(1回30mgを12時間ごとに服用)。投与時刻は患者の生活上の便宜を配慮して、午前と午後の同時刻(患者と相談し、例えば午前7時と午後7時)とする。

(3)最初からMSコンチン錠(R)を処方する場合

  • 開始1回量:10〜20mg
  • 投与間隔:12時間ごと(服用開始時間は患者の生活サイクルに合わせる)
  • 増量の仕方:10→20→30→40→60→80→100mg/回
最初からMSコンチン錠(R)を投与する場合は初回1日量を20〜40mg(1回10〜20mg、12時間ごと)とし、効果が得られなければ(痛みが残存するならば)、60mg、80mg、100mgというように増量する。割ったり、噛み砕いたり、水に溶かして服用すると、徐放性が失われるので、患者をよく指導する。誤って、食後3回とか4時間ごとに内服しないように注意する。なお、奇数錠を投与する時には、夜間の服用分を1錠多くするのが、一般的である。

(4)モルヒネの投与量の限界

痛みの消失(完全除痛)に必要なモルヒネ量は患者ごとに異なる。大部分の患者では1日のモルヒネ量としては30〜180mgである。ときには1日量として1,200mg以上が必要となるが、痛みの除去に適切な量であれば、特に副作用が多くなる訳ではない。

7)モルヒネの副作用と対策

副作用が出現すると、患者は目に見えない部位の臓器(例えば肝や腎)にもモルヒネが悪影響を与えているのでないかという不安を持つ。副作用に適切に対応すれば(あるいは予防すれば)、モルヒネを中断することなく投与でき、治療成績は向上する。

(1)嘔気・嘔吐

嘔気は、モルヒネの嘔吐中枢への刺激作用によって発生し、患者にとって非常に不快な自覚症状である。モルヒネ服用後に嘔吐があるとモルヒネが吸収されないことにより、痛みがそのまま残り、ひいてはモルヒネに対する患者の信頼感が失われる。モルヒネの反復投与開始とともに制吐薬を併用する。モルヒネの催吐作用への耐性は比較的早く発生し、モルヒネの投与開始からおよそ2週間を経ると、制吐薬を中止あるいは減量しても大多数の患者で嘔気は起こらなくなる。表6にモルヒネによる嘔気への対策を一覧表にした。

表6 モルヒネによる嘔気の管理法
<制吐薬の投与法>
  • メトクロプラミド(プリンペラン):10mg/回4〜8時間ごとの経口投与
  • プロクロルペラジン(ノバミン):10mg/回4〜8時間ごとの経口投与
嘔吐があるときには、上記のいずれかの注射、または、
  • ドンペリドン坐剤(ナウゼリン坐剤):60mg/回1日2回を用い、嘔吐が消失してから経口投与に切り替えるとよい
上記が十分な効果をあげないときには、制吐作用の強い次の薬を用いる。
  • ハロペリドール(セレネース):0.75〜1mg/回8〜12時間ごとの経口投与
  • チミペロン(トロペロン(R)):0.5〜1mg/回8〜12時間ごとの経口投与

(2)便秘

モルヒネを投与したほとんどすべての患者に便秘が発生し、便通の管理を怠ると、頑固な便秘となり、患者にとって新たな苦悩になる。この作用は鎮痛のために必要なモルヒネ量によって発現し、耐性ができにくいため、どの経路で投与したモルヒネによっても投与が続く限り便秘が続く。従って、モルヒネを反復投与する時には便秘防止策を必ず行わなければならない(表7)。最もよく用いられる緩下剤は、蠕動刺激薬であるセンナ製剤であり、増量しながら適切量を求めて投与すれば、便秘を解消できる。

表7 モルヒネによる便秘の管理法
<プルゼニド錠の投与法>
  • 投与開始量は1日2錠(就寝時の1回投与)
  •  1日2錠で下痢があれば、1日1錠に減量
  • 2〜3日経っても便通がなければ、1日3錠に増量
  •  以後も便通が不十分なら、4→6→8→10錠/日の順に増量する
  • 投与量が多い時には、1日2〜3回の分服とする
<ラキソベロンの投与法>
  • 投与開始量は1日10滴(就寝時の1回投与)、1日10滴で下痢があれば減量
  • 2〜3日経っても便通がなければ、1日15滴に増量、以後も便通が不十分なら、20→25→30→40滴の順に増量する
<便通対策の補助手段>
  • 浣腸(グリセリン他)
  • 坐剤(レシカルボン)
  • 用手摘便

  • などを遅れることなく実施する。また、食事管理を患者の好みを尊重しながら行う。

(3)傾眠

強い傾眠ないし眠気は、モルヒネの投与量が多過ぎることの最初の指標となる症状である。モルヒネの投与量を減量しなければならない。しかし、軽度の眠気は高齢者においてはモルヒネ投与開始時によくみられ、また痛みのため不眠が続いていた患者では除痛後、睡眠不足解消のため睡眠時間が長くなることがある。
強い傾眠ないし眠気があるときはモルヒネの投与量を50%減量する。軽度の場合は減量せずにそのまま投与を続けると、数日で消失する。モルヒネの催眠作用には耐性が早く現れるからである。痛みが残っているため、さらに増量が必要な場合には、この副作用症状が消失してから行う。鎮痛に必要な最低量に減量しても、まだ眠気が残っていることがある。このときはメチルフェニデート(リタリン)を朝、昼の2回投与する。また、モルヒネを減量し、他の鎮痛薬(例えば、非ステロイド系抗炎症薬)を併用したり、モルヒネの硬膜外注入(後述)の一時的な実施も考慮する。

(4)錯乱・幻覚

除痛に適切なモルヒネ投与を行う限り、問題となるような錯乱の発生はまれである。また、モルヒネ投与時に出現する錯乱の原因はモルヒネだけによるものでなく、脳転移、髄膜炎、電解質異常(高Ca血症、低Na血症)、肝不全、腎障害はもとより、痛み、便秘、呼吸苦、臥床、高熱などの身体的苦痛およびそれらに伴う精神的苦痛、不安や抑欝などの心理的要因でも出現する。錯乱の原因が何であれ、患者およびその家族は気が狂ったと驚愕・不安・絶望に駆られるので、適切な対応を行う必要がある。
モルヒネ投与時の副作用である眠気や意識状態低下、幻覚や不穏あるいは興奮などが出現した場合は、非ステロイド系抗炎症鎮痛薬の持続的投与を併用すると、モルヒネを減量させ、患者・家族および医療従事者にとっても、意識が清明なよい鎮痛状態が得られる。

(5)めまい(Dizziness)、不安定感、浮遊感

投与を開始すると数日にわたって患者が自覚することがあり、この症状は高齢者に多い。よく説明しておき、消失するまで増量を控えて投与を続け、観察していれば消失するので、消失してから必要な増量を行う。しかし、患者にとっては苦痛であり、ふらつき感が継続すると、モルヒネに対する信頼度も失われるので、適切な対応を行う必要がある。

(6)呼吸抑制

「モルヒネの急性中毒時の死因は呼吸麻痺と循環不全である」と薬理学の成書に書かれてあるが、鎮痛のために適切に用いたモルヒネが原因となって呼吸抑制が発生することはまれである。しかし、万一、呼吸抑制が発生したら、生命を脅かすことがあることをよく認識し、機械的、図式的に、あるいは電話連絡のみで、モルヒネ投与および投与後の観察が行われると、このような不幸なことが起こりうる。モルヒネのワンショット静脈内投与は危険であるから、行うときは少量ずつ投与し、ベッドサイドで意識状態や呼吸数、呼吸の深さ、舌根沈下の有無などについて十分な観察を行う。呼吸抑制を生じたら、次の処置をとる(表8)。

表8 モルヒネによる呼吸抑制への対応
  • 舌根が沈下していれば、まず気道の確保を行う。
  • 動脈血ガス分析(パルスメーターでもよい)を行い、PO2が低下していれば、酸素吸入を行う。
  • 動脈血ガス分析を行い、PCO2が上昇していれば、麻薬拮抗薬ナロキソン(R)の投与を行う。
  • 除痛が完全に得られているときは、モルヒネを減量する。
  • 除痛が得られていなければ、非ステロイド系抗炎症薬や鎮痛補助薬を併用し、モルヒネを減量する。また、硬膜外モルヒネあるいは硬膜外局所麻酔薬の注入に変更する。

(7)排尿障害

排尿障害の頻度は少ないが、排尿遅延をみることが多い。効果の確実な対応法がないが、コリン作動薬(ベサコリンなど)の投与を行う。導尿が必要なこともある。

8)モルヒネ減量の時期と方法

化学療法や放射線治療は痛みにも著効を示すことがある。モルヒネ投与で副作用がなく、鎮痛状態が得られていた患者が、化学療法後しばらくしてから嘔気や眠気を訴えることがある。痛みの原因病変が完全に消失しなくとも、問診すると、痛みが全くない。このような症例では投与モルヒネを1/2〜2/3量に減量すると、痛みもなく、副作用が消失する。表9に示すように、一般的にはモルヒネ投与量を2〜3日またはそれ以上かけて少しずつ減量すれば、退薬症候の発現を回避できる(投与量にもよるが、一般的にはモルヒネ中止に至るまでに要する日数は2〜3週間である)。退薬症候は成書に書かれている幻覚や錯乱より先に頻脈、発汗などの自律神経の症状、疝痛や下痢などが出現することが多い。注意深い観察で退薬症候を防止できる。退薬症候が疑われたら、少量のモルヒネを経静脈的に投与する。α、βブロッカーを併用するのも退薬症候の軽減に有用である。

表9 具体的なモルヒネの漸減法
<塩酸モルヒネ製剤1回量30mgを4時間ごとの投与の場合>
  • まず20mgの4時間ごとの投与を2〜3日続ける→臨床的に問題がなければ、
  • 2〜3日ごとに15mg、次いで10mgの4時間ごとの投与に、
  • さらに、5mgの4時間ごとの投与とする。この時までは投与間隔の時間を長くしない。
    ここで問題がなければ、投与間隔を6〜8時間ごととし、次いで中止に至る。
<硫酸モルヒネ徐放錠(MSコンチン錠(R))1回量60mgを12時間ごとの投与の場合>
  • 40mgの12時間ごと投与(2〜3日続ける)→臨床的に問題がなければ、
  • 30mgの12時間ごと投与(2〜3日続ける)→同上
  • 20mgの12時間ごと投与(2〜3日続ける)→同上
  • 10mgの12時間ごとの投与(2〜3日続ける)→同上
  • 夜のみ10mg 1錠を投与(2〜3日続ける)後に中止

7.投与経路による体内動態と痛みの臨床

鎮痛薬を内服すると、すぐに薬が吸収されるのではなく、また剤型によってもモルヒネの吸収速度や量が異なる。従来からの塩酸モルヒネ水溶液、MSコンチン錠(R)及びアンペック坐剤(R)の薬物動態(ファーマコキネティクス)を表10に示した。

表10 モルヒネ製剤の薬物動態(ファーマコキネティクス)
  τ
ラグタイム
Tmax Cmax AUC
モルヒネ水
10mg
0.12 0.5 19.5 54*
MSコンチン錠(R)
20mg
1.2 3.0 18.7 125**
MSコンチン錠(R)
30mg
1.46 2.7 29.9 166**
アンペック
10mg
0.36 1.5 25.8 121***
アンペック
20mg
0.34 1.3 35.4 170***

注*:AUC 0〜4、 注**:AUC 0〜12、 注***:AUC 0〜8:ng・hr/ml
ラグタイム (τ:吸収開始までの時間)
Tmax (Cmaxまでの時間:hr)
Cmax (最高血漿中濃度:ng/ml)
AUC (血漿中濃度時間曲線下面積)
吸収が一番はやい製剤(ラグタイムが短い)は塩酸モルヒネ水溶液や末、錠剤である。MSコンチン錠(R)を頓用で服用させても、1時間は吸収されない。つまり、モルヒネ服用中の患者の痛みが増強したときのレスキュ−ドウズ(Rescure Dose :臨時追加投与)で使用するモルヒネ製剤には塩酸モルヒネ製剤を選択するのが合理的である。また、痛みの程度を観察し、除痛効果がTmax(最高血漿中濃度に達するまでの時間)前後で得られれば、投与したモルヒネ製剤に鎮痛効果があることを示している。痛みが消失したが、眠気などの中枢性副作用の出現がTmax前後であれば、1日量を変えずに、投与回数を増やすのがよい。

塩酸モルヒネ坐剤であるアンペック坐剤(R)のAUC、すなわち生物学的利用能は他のモルヒネ製剤に比べて高いことが知られているので、例えば、塩酸モルヒネ水溶液60mg/日を服用し、痛みがコントロ−ルされている患者の除痛法をアンペック坐剤(R)に変更する場合は、1日にアンペック10mg坐剤(R)3個を投与すれば、よいこと(同じ除痛状態)になる。もし、アンペック10mg坐剤(R)を投与して、2時間後(Tmaxが過ぎている)に除痛が得られなければ、すぐにアンペック20mg坐剤(R)を追加投与して早期除痛に努力する。また、アンペック20mg坐剤(R)を1日に3回使用することは薬物動態からみれば、モルヒネ製剤100〜120mgの経口投与と同じことである。

8.病態別モルヒネ投与法

鎮痛薬を投与するときは、食事ができているかどうか、中心静脈栄養が施行されているか否か、痛みの強さなどで鎮痛薬の投与経路が異なる。例えば、食欲の低下している患者に鎮痛薬を経口投与しても、モルヒネの吸収は悪く、除痛状態が得られないことも多いので、投与経路を変更するべきである。また、強い痛みにはモルヒネを経静脈的に投与し、早期に除痛すべきである。

1)食事が十分にできている場合

患者の自立性や、患者の日々の生活の質的な向上からすれば、経口投与がよい。

2)ときに点滴を必要とする(経口可能であるが、制限がある)場合

経口摂取がやっとの状態の患者でもモルヒネ内服が鎮痛効果を示していれば、経口投与でよい。しかし、定期的な鎮痛薬服用が困難である場合は、モルヒネ坐剤を定時的に用いることも可能であるが、モルヒネ持続皮下注、静注法を用いるほうが調節性がよい。食事の量も時間も不安定な患者は、定時的にモルヒネを内服しても、鎮痛薬の血中濃度を一定に保つことが困難なので、モルヒネ持続皮下注のよき適応である。

3)経静脈栄養を受けている患者(注射)の場合

中心静脈栄養(TPN)を受けている患者、または持続的に点滴投与を受けている患者の痛み除去にはモルヒネの持続点滴投与が適している。モルヒネの持続点滴法はモルヒネの吸収が良好か否かを推測する必要がなく、血中濃度を一定に保ち、安定した除痛状態を継続させること、および疼痛の増強に対して1時間量をレスキューとして滴下し(臨時追加投与)、除痛をはかることができることなどが利点である。在宅などの患者で除痛に必要な1日の静注モルヒネ量が定まり、除痛状態が継続している時は、IVHの袋の中に1日量のモルヒネを混注し、24時間で点滴投与することには法律上の問題はない。

9.モルヒネの非経口投与

1)モルヒネ坐剤(アンペック坐剤(R)

(1)アンペック坐剤(R)の適応

強度のがんの痛みがアンペック坐剤(R)の投与の適応である。具体的には、アンペック坐剤(R)は薬の内服が可能であるが、食事の量や時間が不定期(定期的な鎮痛薬服用が困難)で、モルヒネを必要とする患者に投与される。さらに、がん自体の病態、抗がん剤・放射線治療やモルヒネの副作用である嘔気・嘔吐があるときや、突然の激痛で経口投与が不可能となるときもアンペック坐剤(R)の適応となろう。

(2)アンペック坐剤(R)の投与法の実際

経口モルヒネ投与よりアンペック坐剤(R)のほうがモルヒネの吸収が良好なので、モルヒネ製剤としてはじめて本剤を投与する場合は、1回10mgを1日3回より開始する。もし、これで満足するべき除痛状態が得られなければ、至適投与量まで増量する方法が薬物動態からみて安全と考えられている。患者によっては、6時間ごとにアンペック坐剤(R)を投与する必要がある。
具体的には、アンペック坐剤(R)の投与開始量は1回、10mgを8時間ごとに直腸内に投与する。夜間に痛みがなく熟睡できることを第1の目標に、次いで安静時の痛みを、最終的には体動時の痛みを除去することを目指す。24時間後に効果を判定し、不十分なら、夜間の投与はアンペック20mg坐剤(R)を用いる。翌日効果と副作用を判定し、鎮痛効果が不十分なら、アンペック20mg坐剤(R)1個を8時間ごと投与に変更する。

(3)アンペック坐剤(R)使用上の留意点

アンペック坐剤(R)使用上の注意事項としては、下記のことなどがある。
  • 直腸内投与による外用にのみ使用すること
  • できるだけ排便後に投与すること
  • インテバン坐剤(水溶性基剤)と併用すると、血漿中モルヒネ濃度が低下する
  • ボルタレン坐剤(油性基剤)と併用すると、血漿中モルヒネ濃度が上昇する
  • モルヒネの吸収が良好なので、投与初期は呼吸抑制の発現に注意する
  • 下血があると、直腸粘膜内がコ−ティングされた状態になり、モルヒネの吸収が悪くなる

(4)アンペック坐剤(R)への切り替え法

A. モルヒネの経口剤からアンペック坐剤(R)への切り替え法
a. モルヒネ末、錠、水剤の場合
アンペック坐剤(R)のbioavailabilityはモルヒネ経口剤より優れているために、少ないモルヒネ投与量で除痛されることが予測されるので、経口投与量の1/2での開始を目安とするべきである。具体的には、モルヒネ経口製剤の1日量が60mgでコントロ−ルされている患者の疼痛コントロ−ルをアンペック坐剤(R)に変更する場合は、1日量が30mgの注腸モルヒネ量でよいことになる。すなわち、アンペック10mg坐剤(R)を8時間ごとに1個挿入することから始めて、鎮痛効果が不十分ならば順次アンペック坐剤(R)を増量し、疼痛の消失に必要な至適投与量まで増量する。

b. MSコンチン錠(R)の場合
MSコンチン錠(R)と同量のアンペック坐剤(R)を投与すると、呼吸抑制や眠気などの副作用が出現することがある。従って、MSコンチン錠(R)の1日投与量の1/2をアンペック坐剤(R)の1日投与量に換算して、アンペック坐剤(R)を投与する。MSコンチン錠(R)の1日投与量が60mgの場合はモルヒネ製剤として、はじめてアンペック坐剤(R)を投与する場合と同じく、1回10mgより開始し、安定した除痛効果が認められる至適投与量まで順次増量する方法が安全である。なお、アンペック坐剤(R)から、経口モルヒネに変更する場合も上述の手順を逆に行うとよい。
B. モルヒネの注射からアンペック坐剤(R)への切り替え法
モルヒネの持続皮下注入や持続点滴注入をアンペック坐剤(R)に切り替えるときには、まず、注射量の半量をアンペック坐剤(R)に変更し(アンペック坐剤(R)の投与量は切り替えるべき注射全量の半量の2〜3倍を目安とする)、他の半量をそのまま注射量とする。次いで、全量をアンペック坐剤(R)に変更する。
また、モルヒネ投与初期の副作用を少なくして除痛効果を上げるためには、痛みの治療をモルヒネ持続注射で開始するのもよい方法の1つである。除痛状態が得られたら、上記の手順をふんで、アンペック坐剤(R)、もしくはMSコンチン錠(R)に変更する。

(5)アンペック坐剤(R)の減量の仕方

モルヒネは経口投与だけでなく、坐剤投与でも急に長期投与を中止すると、退薬症候が出現するので、休薬する時には漸減投与が必要である(表11)。

表11 モルヒネ坐剤(アンペック坐剤(R))の具体的な減量法
<モルヒネ坐剤(アンペック坐剤(R))1回量20mgを8時間ごとの投与の場合>
  • 10mg坐剤(朝、午後)と20mg坐剤(夜)の投与(2〜3日続ける)→臨床的に問題がなければ、
  • 10mg坐剤の8時間ごと投与(2〜3日続ける)→同上
  • 10mgの12時間ごとの投与(2〜3日続ける)→同上
  • 夜のみ10mg坐剤 1個を投与(2〜3日続ける)後に中止

2)モルヒネの持続皮下注入法

持続皮下注はmicro infusion pumpを用いてモルヒネを皮下投与する方法である。イギリスのホスピスではモルヒネの持続皮下注が普及している。定期的に食事がとれない患者や間歇的に点滴を受けている患者には便利な方法である。患者が自分で追加ボタンを押すことができるPatient Controlled Analgesia (PCA)ポンプが使用可能である。

(1)適応

食事の量も時間も不定な患者は鎮痛薬を内服しても、鎮痛薬の吸収も不安定で、血漿中濃度を一定に保つことが困難なので、モルヒネ坐剤かモルヒネ持続皮下注を用いる。坐剤の挿入を患者が希望しなかったり、坐剤の挿入のための体位を取るのが困難である場合には、モルヒネ持続皮下注のよき適応である。
利点はモルヒネの吸収が良好か否かを推測する必要がなく、血中濃度を一定に保つことができること、急性疼痛あるいは慢性疼痛が急に悪化した患者に対して、急速にモルヒネを皮下注することで、除痛をはかることができること、在宅での生活が可能なこと、モルヒネ点滴投与法より入浴が簡単にできることなどである。
患者を教育することで、モルヒネの持続皮下注は在宅でも行うことができる。例えば、注入器にセットした翼状針を一時的に抜去すれば、入浴も簡単にでき、入浴後にまた新しい翼状針を皮下に刺入し、ポンプのスイッチを入れる。携帯用のポンプも数多く開発されており、取り扱いの簡単な使い捨て注入装置も開発されている。

(2)実際の方法

1日に必要なモルヒネ注射量(表12)を求め、それの1/6の量をまず皮下注射して、モルヒネの血漿中濃度を上げておく。モルヒネの適切量(1〜3日分)を注射器に入れ、細め(27G)の翼状針(延長チューブを介在させてよい)をつけて先端まで薬液を満たし、注射器を持続皮下注入器にセットする。続いてスイッチを入れ、翼状針を前胸部皮下など体動の影響のない部位の皮下に刺入し、絆創膏で固定する。持続注入器を布製のカバンや袋に入れたまま、患者は自由に動くことができる。薬液は終了時間に補充するが、翼状針は2〜3週間交換しないで済む。モルヒネの持続皮下注を行った結果、除痛されて食欲が回復した場合も経口投与への変更を考慮すべきである。

表12 1日に必要なモルヒネ量の計算
  • 経口モルヒネ投与量の約1/2(1/6〜1/2)が注射モルヒネ投与量と計算する。
  • 濃度はポンプの性能に合わせて設定するが、時間あたり1mlを超える量を皮下注すると、吸収が不安定になることがある。

<最初からモルヒネ持続皮下注を行う場合>
1日のモルヒネ20mgを皮下注するように濃度を決め、注入を開始する。

<モルヒネ内服から皮下注への変更>
例えば、モルヒネ180mg/日内服患者の場合は1日のモルヒネ90mg(30〜90mg)を皮下注するように濃度を定めて、注入を開始する

何らかの原因で持続点滴もしくは中心静脈栄養が施行された場合は、モルヒネの持続皮下注射から、投与量を変えずに持続点滴注射に変更するほうがよい。

3)モルヒネの持続点滴注射

(1)適応と利点

水分・栄養補給の目的で血管が確保されている患者で、モルヒネが効果ある病態(1〜2mgのモルヒネを静注し、除痛が得られる:ドラッグチャレンジテスト)がモルヒネの持続点滴投与の適応になる。また、モルヒネ内服患者に手術や化学療法を施行する際も、モルヒネを持続的に点滴で投与することはよりよき除痛状態の継続につながる。
この方法の利点はモルヒネの吸収が良好か否かを推測する必要がなく、血漿中濃度を一定に保つことができること、急性疼痛あるいは慢性疼痛が急に悪化した患者に対して、急速に滴下し、除痛をはかることができることなどである。消化器症状の軽減は単に痛みが除去されるだけでなく、モルヒネ点滴投与の結果、血漿中モルヒネ濃度と腸管粘膜のモルヒネ濃度が等しくなるので、結果的には経口投与時より腸管粘膜のモルヒネ濃度が低く、腸管の蠕動麻痺が軽度となるためと思われる。

(2)方法

モルヒネ持続点滴の開始量は表13に示したように、例えば、モルヒネ60mg/日を経口投与中の患者を持続点滴注射に変更する時は、「生理食塩液100mlにモルヒネ20mgを入れたもの」を最初4ml早送りし、以後4ml/hrで輸液ポンプを用いてIVHのル−トから持続側管注とする。疼痛発現時に4mlの早送りを施行し、12〜24時間後に効果を判定し、除痛に必要なモルヒネ量を決める。

表13 モルヒネ持続点滴注射の準備と開始
<痛みが軽い場合>
IVHの袋にモルヒネ10mgを混注し、24時間で持続投与する。

<痛みが強い場合>
「生理食塩液100ml*にモルヒネXmg**を入れたもの」を最初4ml早送りし、以後4ml/hrで輸液ポンプを用いてIVHのル−トから持続側管注とする。

<疼痛が増強した時>
発現時に4〜8ml(1〜2時間分)の早送りをし、痛みが取れるならば、モルヒネが効く状態であると判定し、痛みが消失するまでモルヒネを増量する。静注の最大効果発現時間はモルヒネで15〜30分の範囲であるから、その間は早送りをしないで様子を観察する。

<モルヒネ点滴投与量の決定>
例えば、除痛のために12時間で12回の早送りを必要としたら、注入速度を4ml/hrから8ml/hr(2倍量のモルヒネが入る)に変更し、次回の交換の時に生理食塩液100mlにモルヒネを40mgを混注し、再び4ml/hrの速度で持続側管注をする。

このようにして、除痛に必要な1日の静注モルヒネ量が定まり、除痛状態が継続している時は、IVHの袋に1日量のモルヒネを混注し、24時間で点滴静注する。

注*:
溶媒は患者の病態に応じて、5%グルコ−ス液か生理食塩液を使用
水分制限がない場合の用量は250ml(10ml/hrの速度で、調節性がよい)
水分制限がある場合には50〜100ml/日(2〜4ml/hrの速度)
注**:
<モルヒネの使用がない患者>
 モルヒネ10〜20mgを混注

<モルヒネ内服から点滴静注に変更する場合>
 経口摂取が良好=1日内服量の1/3〜1/2の量のモルヒネを混注
 経口摂取が不良=1日内服量の1/6〜1/10の量のモルヒネを混注

(3)モルヒネ経口と持続点滴静注との匹敵量

モルヒネ60mg/日を内服している患者の血漿中モルヒネ濃度の推移は10から20ng/mlである。一方、モルヒネ10mg/日を持続点滴静注を行っている患者の血漿中モルヒネ濃度は約10ng/mlである。

A. 例えばモルヒネ180mg/日内服中の患者(30〜60ng/mlを推移する)
  • 痛みが全くなければ、1/6すなわち30mg/日のモルヒネ量の注射
  • 時々痛い時間があれば、注射変更量は1/3すなわち60mgのモルヒネ量
  • いつも痛いのであれば、1/2すなわち90mg/日のモルヒネ量で持続点滴静注への変更
    分布容積が変化する病態が発生したと推測されるときには、最初から1/2量のモルヒネで持続点滴静注を開始し、臨時追加投与の回数で調節するとよい。
B. モルヒネ点滴から経口に変更するときは、
  • まずモルヒネ以外の薬を経口投与に切り替える。
  • モルヒネ注射量の半量を相当量の経口投与に変更し(経口投与量は切り替えるべき注射量の半量の2〜3倍とする)、半量をそのまま注射量とする。
  • 次いで、全量を経口投与に変更する。

(4)モルヒネの注射投与の減量の仕方

モルヒネ持続点滴静注を行うのは、末期状態の患者だけではない。原因に対する治療が奏功すると、注意深い観察と表14に示す手順でモルヒネを止めることができる。

表14 モルヒネ注射の具体的な減量法
<モルヒネ60mg/日を持続皮下注射または点滴投与の場合>

  • 40mg/日に減量投与(2〜3日続ける)→臨床的に問題がなければ、
  • 30mg/日に減量投与(2〜3日続ける)→同上
  • 20mg/日に減量投与(2〜3日続ける)→同上
  • 10mg/日に減量投与(2〜3日続ける)→同上
  • 5mg/日に減量投与(2〜3日続ける)後に中止

4)硬膜外モルヒネ注入法

硬膜外腔モルヒネ注入による除痛法の特徴は、意識や運動機能に障害をもたらさず、長時間にわたる除痛効果が得られることで、がん疼痛治療における適応は以下のように考える。

(1)緊急避難

腫瘍の急激な増大や病態の変化などで突然痛みが増強した場合は、放射線治療の除痛効果が発現されるまで、硬膜外モルヒネ注入で痛みを取り除く必要がある。

(2)モルヒネ投与で強度な副作用の出現時

モルヒネ投与時にみられる眠気、錯乱などの中枢系の副作用のみならず、嘔気、食欲低下などの消化器系の副作用の発現も硬膜外モルヒネ注入法のほうがモルヒネの経口・注腸や持続点滴投与に比べてモルヒネ量が少ない。
経口モルヒネ投与から硬膜外モルヒネ注入に変更するときは、約1/15(1/10〜1/20)量、例えば、モルヒネ経口60mg/日投与で鎮痛が得られた患者の硬膜外注入のモルヒネ量は2mg×2/日で開始する。注射からの匹敵量は1/3〜1/5量である。

(3)多種の薬剤投与で疼痛管理が混乱したとき

短期間に種々の薬剤が大量に投与され、意識レベルが低下し、混乱して痛みの程度が本人にもわからなくなることがある。硬膜外モルヒネ投与により確実に除痛すれば、他の投与薬剤を減量することができ、意識状態がはっきりし、痛みの程度を正確に評価できる。その後、経口投与などを徐々に再開すると、予想よりはるかに少ない鎮痛薬の量で鎮痛効果が得られる。

(4)予測生存期間が短いことが予測される場合

予測生存期間が短い場合には、無痛状態を早く得る必要があり、硬膜外モルヒネ注入法を最初から選択したほうがよいこともある。

(5)褥瘡の痛み

硬膜外に[モルヒネ+1%キシロカイン]を注入すると、除痛され、仰臥位で睡眠をとることができ、本人はもとより、付き添う家族の心をも和ませる。

10.モルヒネ治療上の考慮すべき問題点

1)非ステロイド系抗炎症薬の併用

がん疼痛治療において、眠らせたままの状態ではなく、患者の意識が明瞭で、しかも痛みのない状態が継続するような痛み治療を目指す。例えば、モルヒネ50mg持続点滴投与しても痛みが除去されず、60mgに増量すると痛みは取れるが、眠気を訴える患者には、モルヒネ50mgに非ステロイド系抗炎症鎮痛薬(NSAIDs)を併用すると、意識清明な除痛状態が得られる。WHOの3段階除痛法ではモルヒネ±非オピオイド(NSAIDs)になっているが、必ずNSAIDsを併用することがポイントである。

2)モルヒネが鎮痛効果があるか否かの判定

ある薬物が鎮痛効果を示す痛みか否かわからないときには、その薬物を静注し、患者の痛みの消長を調べるドラッグチャレンジテストが有効になってくる。

3)モルヒネの増量

モルヒネ治療中の患者の疼痛増強時にモルヒネを臨時追加投与した場合に意識清明で痛みの軽減が得られるならば、増量の上限はない。モルヒネの臨時追加投与の結果、患者が眠ってしまったために痛みを訴えない状態ならば、モルヒネの増量ではなくて他の鎮痛法を選択するべきである。

4)退薬症候(禁断症状)の防止

モルヒネ長期内服患者が急にモルヒネ内服を中断・中止すると、たとえ30mg/日のモルヒネ内服量であっても、退薬症候が発現する。弱い退薬症候(頻脈、発汗、下痢など)であっても、患者にとっては苦痛であるので、休薬するときには漸減投与が必要である。

5)抗がん療法とモルヒネ

モルヒネ内服中の患者に化学療法を行うときは、あらかじめ経口投与から直腸内あるいは点滴投与に変更すると、患者はより苦痛が少ない状態で、抗がん剤の治療が受けられる。

モルヒネ内服中の患者が手術を受けるときには、内服量の1/3のモルヒネ量を点滴で投与すると、退薬症候は出現せず、麻酔の覚醒も遅延しない。

6)病態とモルヒネ血漿中濃度

モルヒネを持続点滴静注しているがん患者の血漿中モルヒネ濃度は、必ずしも投与量に比例した血漿中濃度を示す訳ではない。この原因は代謝速度や排泄の速い患者の存在を疑わせるだけではなく、分布容積の問題もある。胸水あるいは腹水中のモルヒネ濃度は血漿中モルヒネ濃度とほぼ同じであるので、急激な浮腫、胸水や腹水の発症(分布容積の増加)は血漿中モルヒネ濃度を相対的に低下させ、患者の痛みを出現させる。このような病態での痛みを精神的なものに起因させることを医療者は避けるべきである。 臨床的な観察から、除痛に必要、十分な量のモルヒネを投与することが大切である。

7)強度の痛みや突然の激痛の出現時

腫瘍の急激な増大や病態の変化などで突然痛みが増強した場合は、硬膜外モルヒネ注入で痛みを取り除く必要がある。患者の自立性が高い鎮痛法は経口か直腸内投与であるが、意識が清明で強力な鎮痛効果を有する硬膜外モルヒネ注入法はときに患者のQOLを向上させる。
経口モルヒネ投与から硬膜外モルヒネ注入に変更するときの鎮痛の匹敵モルヒネ量は約1/15(1/10~1/20)と考えてよい。

8)外来患者へのモルヒネ処方

外来通院中の患者の除痛法は、下記のことなどが大切である。
  • 安全性を第一に、副作用対策を含めた服薬法を患者自身にわかりやすく説明すること
  • 痛みや行動様式のチャ−トを作成させ、持参させること
  • 開始した治療の効果が少ない場合を想定し、次なる鎮痛対策を立てておくこと
  • さらにいつでも電話連絡ができるように緊急連絡方法を教えること

9)モルヒネ治療のチェックポイント

モルヒネが鎮痛効果を示さない病態と判定する前に、表15に示す項目をチェックする必要がある。

表15 モルヒネが効果不十分または無効か否かの鑑別診断
  • 情報提供は十分か、信頼関係があるか
  • 副作用対策は十分か
  • モルヒネの投与量が少なくないか
  • NSAIDsを併用しているか
  • モルヒネが十分に吸収されているか(投与経路の選択)
  • 痛みと治療効果の評価は正確か(眠ったきりになっていないか)
  • ファーマコキネティクス、ファーマコダイナミックスに基づいたモルヒネ治療を行っているか
  • 血漿中モルヒネ濃度が低下する病態がないか

以上を検討した結果、モルヒネが効きにくい痛みと判定したら、表16に示すように鎮痛補助薬を併用するか、麻酔薬を使用する。

表16 モルヒネが効果不十分または無効ながん患者の痛みとその治療
  • 緊張性頭痛・・・・・・・・・・・・・・・・・・筋弛緩薬(ジアゼパム)、NSAIDs
  • ヘルペス後神経痛・・・・・・・・・・・・三環系抗欝薬、硬膜外局麻
  • 痛覚求心路遮断による痛み・・・・三環系抗欝薬、抗痙攣薬、ケタミン
  • 胃膨満痛・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・水酸化アルミゲル、メトクロプラミド、ケタミン
  • 筋の攣縮による痛み・・・・・・・・・・筋弛緩薬(ジアゼパム)
  • 交感神経が関与した痛み・・・・・・交感神経ブロック
  • 神経圧迫・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ステロイド、抗痙攣薬

11.モルヒネ以外の新しい強オピオイド(オキシコンチン、フェンタニルパッチ)

1)塩酸オキシコドン徐放錠(オキシコンチン錠(R))(徐放製剤のみ発売 5mg、10mg、20mg、40mg)

オキシコドンは1917年以降、臨床で使用されているが、モルヒネ製造時の廃棄物であるテバインから合成されるため、半合成オピオイドと呼ばれるμオピオイド受容体作動薬である。欧米ではこれまでアセトアミノフェンなどと配合されて使用されてきたため、アセトアミノフェンの投与量限界などの関係からがん性疼痛に対しては弱オピオイドとして使用されてきた。日本では、2003年7月に発売されたオキシコンチン(オキシコドン徐放製剤)がオキシコドンの製剤としてははじめてのものである。これはオキシコドンの単剤の徐放錠であるため、投与量の有効限界(Ceiling Effect)がなく、がん性疼痛マネジメントにおいてモルヒネとともに強オピオイドにおける中心的な存在となることが期待されている5

オキシコドンは、Mundipharma社がモルヒネに代わる強力で持続性のある麻薬性鎮痛薬として開発した。現在、アメリカ、ドイツ、イギリスをはじめ世界14ヵ国ですでに発売されている。アメリカでは、現在、オキシコンチン錠(R)がMSコンチン錠(R)よりもむしろ多く処方されており、がん性疼痛だけでなく、非がん性疼痛への適応を広げている。オキシコドンの化学構造は、モルヒネあるいはコデインと類似するが、オキシコドンの構造には初回通過効果(First Pass Effect)を受けにくくする特徴を有している。モルヒネは経口投与すると速やかに代謝されるが、生物学的利用率は約20〜30%と低い。これに比べて、オキシコドンの生物学的利用率は約60〜90%であり、臨床で使用される各種オピオイド作動薬の中で最も高いといわれている。このため血中濃度はモルヒネに比べ著しく安定していると考えられる。

(1)オキシコドンの薬理

オキシコドンは、モルヒネと同様にμオピオイド受容体作動薬であり種々の薬理作用を発揮し、a)鎮痛、b)呼吸抑制、c)鎮咳、d)嘔吐、e)縮瞳などを起こし、モルヒネと同様に便秘、掻痒、紅潮、発汗が認められる。嘔気、嘔吐、眠気、せん妄、かゆみなどはモルヒネよりも少ないとされている。ヒスタミン遊離作用はモルヒネよりも弱く、モルヒネよりもかゆみを起こしにくいゆえんである。前述のとおりオキシコドンを経口投与した場合には、消化管から吸収され肝臓で初回通過効果を受ける。肝臓のチトクロームP450(CYP)2D6でオキシモルフォン、CYP3A4でノルオキシコドンに代謝される。このうちオキシモルフォンは活性代謝産物であるが、ごく微量であり体への影響はほとんどみられない。グルクロン酸包合ではオキシコドン−グルクロナイドへ変換されるが非活性である。オキシコドンの鎮痛作用、副作用は主として未変化体が関与しているため、これらの代謝酵素の阻害は副作用の遷延を起こす可能性がある。効果発現は、経口投与の場合、15〜30分で起こり、1時間以内で血中濃度は最大となる。徐放錠のオキシコンチンでも血中濃度は1時間以内で最大となるといわれている。血中でのタンパク結合率は45〜46%である。オキシコドンの速放製剤は日本では現在治験中である。
オキシコドンは初回通過効果を受けにくい薬物動態特性に加え、以下の治療メリットを有している。1)徐放錠からのオキシコドンの溶出はpHに影響されず、さらに溶出パターンが速放相と持続放出相の2相性を示すことから、鎮痛効果の発現は短縮され、鎮痛効果が12時間以上持続する。また、オキシコドンの吸収は食事の影響を受けにくい。2)血漿中薬物濃度のピークとトラフの差が小さく、投与量ならびに血漿中濃度と鎮痛効果との相関性が高いことから、治療効果を予測しやすい。3)血漿中のオキシコドンの活性代謝産物が量的に少ないので、鎮痛効果はオキシコドン自体によるものである。4)アミトリプチリンのような鎮痛補助薬あるいは他剤と併用しても、相互作用が起きる可能性が低い。5)高齢者をはじめ、腎あるいは肝障害患者において、著しい血漿中濃度の上昇はMSコンチン錠(R)に比べて起こりにくい。6)かゆみの発現率はMSコンチン錠(R)に比べ有意に低く、幻覚の発生も低かった

(2)臨床的な使用法

A.中等度の痛みに対して
オキシコドンは本来、強オピオイドであるのでWHO方式に従って強い痛みに対して使用されるが、中等度の痛みに対しても使用される可能性がある。もともと欧米では、オキシコドンは、5mg製剤がアセトアミノフェンとの合剤で中等度のがんの痛みに対して使用されてきている。日本では世界で唯一、オキシコンチンの5mg製剤が発売されている。日本での治験の結果ではオキシコンチンとMSコンチンの換算比は1:1.5で行われ有効な結果が出ている。つまりオキシコンチンを1日量として10mgを投与することはモルヒネ徐放錠を1日15mg投与することに相当する。現状ではNSAIDsによって不十分な痛みに対しては、中等度の痛みに対するコデインに徐放剤がないため、直接モルヒネの徐放錠が投与されることが多い。モルヒネよりも副作用が少なく、少ない投与量で投与できるため、今後、中等度の痛みをカバーする割合はモルヒネよりも大きくなるものと考えられる。

B. 問題点
a. 肝障害のある患者への使用
肝障害のある患者を対象としたオキシコンチン錠(R)の比較試験では、肝障害を持つ患者は肝機能正常の患者に比べて高い血漿中濃度を呈した。通常量の1/3〜1/2の用量で治療を開始すべきである。

b. 腎機能障害のある患者への使用
クレアチニンクリアランスが低下(60ml/min未満)している腎障害患者では、血漿中オキシコドンの濃度は正常腎機能患者よりも約50%高かったので、投与は慎重にすべきである。

c. 薬剤の相互作用
オキシコドンは肝のチトクロームP450で代謝されるため、その阻害を起こす薬剤との併用により、影響を受ける可能性が多少考えられるが、安全性に関してはほとんど問題ないと考えられる。

2)フェンタニル製剤(フェンタニル注射剤、フェンタニルパッチ)

(1)フェンタニル注射剤

フェンタニル製剤にはフェンタニル静注薬、フェンタニルパッチの2種類しかない。フェンタニル静注薬は2004年3月にがん性疼痛に対する保険適応が認可された。しかし、前述のように濃度が薄いことが今後の改善点である。
フェンタニル静注薬はもともと、麻酔剤の中の鎮痛薬として古くから使用されてきた。循環動態が安定していることから心臓手術の際に好んで使用されてきている。
フェンタニル自体には特にμオピオイド受容体のうちのμ1選択性があり、モルヒネに比べ副作用が少ないことがあげられている。しかし、以下のように副作用に特徴がある。

便秘: フェンタニルも他のオピオイドと同様に痛みの抑制だけでなく、腸管の運動を抑制する。そのために便秘が起こるが、下剤の併用によって調節可能である。通常、オピオイド使用時には予防的に使用することが多い。しかし、フェンタニルに関しては上述のようにモルヒネに比べ便秘は少なく、症状が出てからでもよいと思われる。
吐き気、
嘔吐:
便秘の頻度よりももっと少ないといわれている。もちろん抗嘔吐薬によって十分調節可能である。
眠気: 投与量の増量によって起こる可能性がある。48〜72時間以内に減少していくが、芝刈り機、重機器、のこぎりなどを使用する場合には注意を要する。車の運転に関しては医療者とよく相談することが必要である。アルコールの摂取によっても眠気は増強する可能性があり、それを理解して摂取すべきである。通常のオピオイド投与の場合には薬剤を突然に中止することは禁忌であるが、本薬剤に関しては後述するように、皮下に残存するフェンタニルが投与後にも血中へ移行するため、退薬症状の危険性は低い。しかし、時間がかかっても一定以上のフェンタニル濃度の低下によって退薬症状は出現する可能性があるため、医療者との相談が必要である。

(2)フェンタニルパッチ(2.5mg、5.0mg、7.5mg、10mg)7

フェンタニルパッチの日本での保険適応はがん性疼痛のみに限られている。欧米では非がん性疼痛にも適応となっており使用頻度は高い。この理由として欧米では非がん性疼痛に対してのオピオイドの使用がある程度定着しはじめており、フェンタニルパッチを使用する場合には非がん性疼痛に対してもすでにオピオイドが使用され、それから移行する場合がほとんどだからである。日本では非がん性疼痛に対するオピオイドの投与は一般的でないため、重篤な副作用を避ける意味でも、フェンタニルパッチの使用はオピオイドがあらかじめ投与され副作用が調節されているがん性疼痛患者に対象を限るべきであると考えている。

(3)長時間作用性オピオイドとしての使用法と使用上のこつ

フェンタニルパッチは長時間作用性であり、服薬コンプライアンスはこれまでの徐放性オピオイドに比べて著しく高い。しかし、長時間作用性の薬物の利点と欠点を知る必要がある。一般的に、長時間作用するオピオイドを使用するこつは、その薬剤の薬物動態を考えて投与することである。つまり、長時間作用する薬物は効果が出現するまでに時間がかかることをまず知っておく必要がある。特にフェンタニルパッチでは、効果が出るまでには約12〜18時間かかるとされている。従って、疼痛時には短時間作用性で効果がすぐに現れる薬剤であるモルヒネ水のレスキューを併用していくことが多い。また、モルヒネの徐放錠をフェンタニルパッチに変更するときには、モルヒネの血中濃度の低下とフェンタニルパッチから吸収され血中に移行したフェンタニル量の増加がオバーラップし、痛みが出現しないように短時間作用性モルヒネ(モルヒネ水のレスキュー)を適宜併用することが重要である。また、これによって退薬症状の出現を予防することも可能になる。退薬症状としては、下痢、腹痛、吐き気、冷汗、落ち着きのなさ、四肢の異常感覚(虫が這うなど)が出現するといわれている。

(4)利点

A. 貼付剤を72時間ごとにはり替えるだけでよいため、患者の服薬コンプライアンスが著しく高い。
B. 経口ができない患者でも投与可能であり、持続皮下、持続静脈内投与するための機械が必要ない。
C. 眠気、便秘が少なく経口薬剤があればモルヒネを凌駕する可能性もある。
D. モルヒネ不耐性に対しての代替薬として有効である。

(5)欠点

持続的な痛みに対しては長時間作用性のオピオイド鎮痛薬の投与で調節し、突発的な痛みに対しては効果発現が早い短時間作用性オピオイドを組み合わせて使用する必要がある。フェンタニルパッチは長時間性であり効果発現までに12〜16時間くらいかかるため、本来、効果発現の短いフェンタニルが必要である。しかし、日本ではまだ入手できないため、現状ではモルヒネ水を併用していくべきである。米国ですでに口腔粘膜からの吸収による即効性のフェンタニル飴(Actique)が発売されている。

(6)経皮製剤の問題点

経皮製剤の利点が副作用対策において欠点となってしまうときがある。過度の鎮静や呼吸抑制など投与の継続が困難になった場合に注意する点は、パッチをはがしただけで安心してはいけない点である。皮下にフェンタニルが残存しているため、はがした後も血中にフェンタニルが移行していくことが考えられる。50%低下するためには17時間かかるとされている。従って、ナロキソン(R)によって拮抗する必要がある場合には、持続投与によって数時間ナロキソン(R)を投与していく必要がある。

12.オピオイドローテーション

1) オピオイドローテーションの意義

がん性疼痛に対するオピオイドの使用は1986年のWHOがん疼痛治療指針の発表1以来、モルヒネがスタンダードになっているが、今日ではモルヒネ以外の新しいオピオイドも少しずつ開発され、欧米ではすでに患者に合わせたオピオイドが選択できるオーダーメイドのがん性疼痛治療が視野に入っている。

がん性疼痛に使用されるオピオイドはほとんどがμ受容体を中心に作用するものであるが、同じμ受容体に作用する物質であっても、その作用以外にそれぞれが鎮痛効果、副作用のでかた、種類など、異なる特徴を持っている場合が多い。その特徴を利用し、鎮痛効果の質を高めていくことをオピオイドローテーションと呼ぶ2。オピオイドローテーションを行う理由として3は、1)鎮痛効果を高める、2)副作用を低下させる、3)その他(患者のQOLの向上)、であるが、日本ではオピオイドの種類が少ないため、オピオイドローテーションを行うにあたってまだ多くの問題点を抱えている。また、オピオイドローテーションは諸刃の剣である。患者に合ったオピオイドが選択できるという利点がある反面、オピオイド使用にあたっての副作用対策の基本的な技術を低下させてしまう可能性があるからである。適正なオピオイドローテーションに向けての基本方針、実際の使用法を述べる。

2) オピオイド製剤の基本構成と役割4

がん患者の痛みに対してオピオイド鎮痛薬の最小限の基本構成は、徐放製剤、速放製剤、注射剤の3つである。従ってオピオイドローテーションにあたっても薬剤の種類だけでなく剤型の変更も含めた総合的な観点で考える必要がある。

がん患者の痛みは時とともに強さも性質も変化するが、がんの痛みは持続的な痛みだけでなく、間歇的な痛みがあるため、長く効く薬剤だけでなく、速く効く薬剤が必要である。また、患者に合った鎮痛薬の量を決めていくためには適正量を決める(titrate)ことが必要であり、それには速放製剤の役割は大きい。そしてオピオイドの効き目、反応性を評価するうえでの速放剤の役割も忘れてはならない。なおかつ静注・皮下注製剤が必要である理由として、その患者の全身状態の変化に伴って投与経路を変更せざるを得ないことがあるからである。

(1)経口徐放剤、貼付剤

効果発現が遅いが、効果持続時間は長いことが特徴である。従って、服薬コンプライアンスの点から経口が可能であるがん性疼痛患者の鎮痛薬の基本である。一日の定期的な投与により、速放剤投与が最低量になるような投与量に調節していく(titrate)。現在はモルヒネ各種製剤、オキシコンチンのみが使用可能である。また、モルヒネ徐放剤の一日投与量が安定してきた時点で服薬コンプライアンスの点で貼付剤に変更する場合もある。

(2)経口速放剤

a) レスキューとして
即効性があるが効果が持続しないことが特徴である。Breakthrough painなどの突発的な痛みに対して使用される。持続的な痛みは徐放製剤で、間歇的な痛みは速放製剤で取ることが基本である。また、適正な徐放製剤の投与量を決定するために疼痛時にレスキューとして使用される。1日の速放製剤の投与が行われない徐放製剤の投与量が決定されるのが理想であるが、徐痛目標としてまずレスキューが2〜3回/日程度の投与が行われる程度とすることが多い。現在、速放製剤としてはモルヒネしかない。徐放製剤の1日投与量のモルヒネ換算で1/6量が基本的な投与量である。

b) 痛みの性質を調べるために(モルヒネチャレンジテスト)
痛みがモルヒネに対して反応するかどうかを検討する場合には、同様に1/6のモルヒネを疼痛時または予防的に使用する。オピオイドの1日投与量が適正量である場合に、レスキューモルヒネが効きにくい痛みが出る場合には鎮痛補助薬の投与を検討する必要がある。

(3)注射薬

注射薬は静注も皮下注にも使用可能であり、経口投与ができない場合には中心となる。現在はモルヒネ、フェンタニル製剤しかない。モルヒネには2つの濃度があり(10mg/ml、40mg/ml)、フェンタニルには50μg/mlの1つの濃度しかない。皮下注の場合には1ml/h以上投与ができないため、現在の濃度ではかなり投与量に限界があり、使用しにくいことが多い。
このようにオピオイドローテーションは徐放剤、速放剤、静注製剤が揃ってはじめて完遂することができるといっても過言ではない。メインの徐放剤の変更だけでレスキューが必要ない場合はオピオイドローテーションによってオピオイド副作用の軽減は可能であるが、オピオイド不耐性の場合には現状ではオピオイドローテーションを経口製剤だけで完全に行うことが困難である。経口投与以外の皮下注などを併用して行うことでしのぐしかない。従って、重要なことはオピオイドの副作用対策を安易なローテーションで対応してしまうことは避ける必要があるということである。モルヒネの副作用は、副作用対策を十分にすることと投与経路を経口投与から静注投与に変更するだけでも副作用対策を行うことが可能であり、耐性がついてから経口投与に戻すことが可能になる場合もある。

3) 実際のローテーション3

(1)経口徐放製剤→経口徐放製剤

MSコンチン→オキシコンチン
日本における経口の徐放製剤同士ではこのパターンのみ可能である。変換比は3:2であり、MSコンチン30mg/分2/日の場合、オキシコンチンでは20mg/分2/日に変換するのが妥当である。レスキューはいずれの場合もモルヒネで行ない5mg/回とする。腎機能の悪化時、低活動性せん妄時、眠気、嘔気が調節不能なときが適応である。
低容量の5mgのオキシコンチンが発売されているため、オキシコンチンを10mg/日で投与することが可能となった。これはモルヒネ15mg/日に相当するため、オキシコンチンをモルヒネよりもはやく徐放錠として使用する可能性が高くなると思われるが、オキシコンチンからモルヒネへのローテーションを行う場合も今後出てくる可能性は考えられる(私見であるが呼吸困難の場合など)。

(2)経口徐放製剤→フェンタニルパッチ

日本では、MSコンチン、オキシコンチンをフェンタニルパッチに変更する場合にのみ可能である。フェンタニルパッチへの変更は保険診療上、モルヒネを投与されていることが前提となるため、現在オキシコンチンからの変更が可能となるよう各方面から働きかけを行っている。MSコンチンからフェンタニルパッチへの変更は、フェンタニルパッチが1日に600μgのフェンタニルを放出することを前提とすると、MSコンチンとしては60mg/日の投与量と同等であると考えており(100:1)、それを中心として患者の状況によって変更している。疼痛時にはモルヒネによるレスキューを併用していく必要がある。しかし、モルヒネ不耐性の場合にはモルヒネレスキューも不能であり、この場合は暫定的にフェンタニルを皮下注で間歇的に投与することを行っている。その場合にはレスキューのみで使用するとよい。

(3)持続静注、皮下注→持続静注、皮下注

経口摂取が不能な患者におけるオピオイドローテーションは、現状ではモルヒネとフェンタニルの間でのみ可能である。換算の比率は100:1から開始し、鎮痛効果をみながら適正量まで増量していく。レスキューは1時間量を投与する。モルヒネが1日に30mg/日で投与されている場合にはフェンタニルとして300μg/日で投与開始している。フェンタニルは持続皮下注では最大量としてせいぜい1,200μg/日である。それ以上になる場合には静注投与を検討するか、フェンタニルパッチを併用することを検討する必要がある。また、モルヒネへの再ローテーション、併用を行うことも必要がある。本来、μオピオイド受容体に作用するオピオイド同士を併用する意味はないと考えられているが、現状では併用せざるをえないときもある。

(4)その他

経口徐放剤から静注薬に変更する場合もある。経口のモルヒネ製剤を服用している患者がせん妄になった場合には、フェンタニル持続静注に変更すると改善する場合が多い。また、サブイレウス時にも同様に行うことが多い。

4) オピオイドローテーションの理由について

本来、オピオイドの使用にあたっては、その副作用である便秘、嘔気・嘔吐、眠気、排尿障害、かゆみ、せん妄などが出現する可能性をあらかじめ予測し早急に対応する必要がある。特に出現頻度の高い副作用である便秘、嘔気・嘔吐に関しては可能な限り予防的な対策を行うべきである。それを可能な限り十分に行ったうえで副作用の調節ができない場合にはじめてモルヒネ不耐性と考え、オピオイドローテーションを検討すべきである。副作用の発生頻度、程度は患者によって著しく異なることが多く、患者それぞれの反応を把握しそれぞれの患者に合ったオピオイドの投与ができるよう考えていく必要がある。オピオイドの種類はこれからも増えていく可能性は高い。副作用の少ない質の高いオピオイドが出現する可能性があっても基本的にはμオピオイド受容体レベルでのものであれば患者それぞれによって副作用の程度は異なると考えられる。従って、上記に対する副作用対策は必要である。基本はμオピオイド受容体作動薬の基本であるモルヒネであり、その副作用に対する対策を習得していればその他のオピオイドの副作用対策も可能であると考えられる。

また、速放製剤がモルヒネしかない現在では、多くの病院、在宅医療施設ではオピオイドの種類は共通なオピオイドとしてのモルヒネ、コンプライアンスを考えたフェンタニルパッチが中心となる可能性があり、モルヒネはその意味でもオピオイドのスタンダードと考えられる。モルヒネには多くの投与経路が選択できる利点もあり、その点でも重要である。

5) オピオイドローテーションを検討するタイミング

ローテーションは、可能な限り副作用対策を行い、それでも改善しない場合に検討すべきである。副作用対策に使用される薬剤にも程度があるため、それを理解することも重要である。時期としてはオピオイド投与初期、オピオイド投与後の安定期に起こる。安定期のオピオイドの副作用は、全身状態の変化、痛みの変化などによって起こると考えられる。

(1)嘔気・嘔吐

嘔気・嘔吐はモルヒネの投与初期において、オピオイドの偏見を増悪させる最も大きな要因である。吐き気止めを使用したが嘔気が収まらないので、という依頼が多いが、その中にプリンペラン、ナウゼリンなど嘔気止めの作用としては弱いものしか使用していない場合がある。プロクロルペラジン(30mg/分3/日)やハロペリドール(1.5mg/分2/日)などの向精神薬を時間どおりに十分に使用し、それでも調整できない場合がローテーションを考える時期としている。安定期に嘔気が出現する場合には、患者の全身状態の変化によるものであることが多い(後述)。もちろん消化管の狭窄、閉塞ではないことを可能な限り確認することである。

(2)便秘

モルヒネは通常、腸管の運動抑制などにより便秘を起こす。これは末梢モルヒネ受容体に対する直接的な作用であり、経口投与においては特に重症となる。便秘は耐性がつかないため、投与開始から末期に至るまでマグネシウム製剤による便の軟化、センナなどの刺激性下剤による刺激の組み合わせにより量を調節していくほうが効率がよい。増量していても反応が見られず、腹部膨満感が強くなる場合、消化管運動への影響を考える場合にはオピオイドローテーションを行うことが多い。オキシコンチンは便秘に関してはモルヒネとほぼ同等と考えられているが、フェンタニル投与に変更することにより、重症な便秘は改善することが多い。消化管閉塞をチェックすることが重要である。

(3)眠気

眠気はモルヒネの投与初期に多くみられる副作用である。通常は経過をみるだけで数日のうちになくなってくることが多い。眠気の減少が少ない場合には、メチルフェニデイトを20mg/分2(朝、昼)で開始することでほとんどの眠気が消失するため、眠気でオピオイドローテーションを行うことは少ない。しかし、安定期に突然、悪化してくる場合には全身状態の変化であることが多くオピオイドローテーションを行う適応となる。

(4)かゆみ

モルヒネによるかゆみも投与初期に時々みられる副作用である。抗ヒスタミン薬の投与がまず行われるが、眠気が強くなる程度に使う必要があるともいわれている。鎮痛効果を拮抗しない程度の低用量のナロキソン(R)の投与が有効であるという報告がある。
抗ヒスタミン薬が効かないかゆみを有効にとる方法はないため、重篤な場合にはオピオイドローテーションを検討すべきである。高ビリルビン血症、腎不全を除外すべきである。

(5)排尿障害

モルヒネによる排尿障害も時々出現する。多くはαブロッカーであるハルナール(R)などで対応することが可能である。それでも改善しない場合にはオピオイドローテーションの適応を考える。もちろんがんによる物理的な圧迫によるものは除外すべきである。

(6)せん妄

モルヒネ単独で起こることは少なく、電解質異常など改善可能なことは改善すべきである。ハロペリドールによる対応も必要である。モルヒネの開始時にも、モルヒネを投与後しばらくしてからも起こる。末期のせん妄を除き開始時のものはオピオイドローテーションを行うと改善することが多い。

(7)ミオクローヌス

モルヒネ投与量が大量になると出現することが多い。クロナゼパムなどが投与される。難治性のものに対してはオピオイドローテーションが行われる。

(8)Paradoxical pain6

日本ではあまり認識されていないが、モルヒネ投与が大量になってくると鎮痛薬によって逆に痛みを起こすものである。くも膜下投与で多いが全身投与でも起こるとされている。欧米ではこれによるオピオイドローテーションも行われている。代謝産物のM3Gが原因と考えられている。

(9)食欲不振、全身倦怠感、ふらつき

モルヒネの副作用と考えてしまうことが多い症状である。多くはモルヒネ以外の原因を検索する必要がある症状である。患者はがんによる苦痛症状が出ているときでも、モルヒネを服用している場合にモルヒネのせいと考えてしまう。これもモルヒネに対する偏見の1つであるが、オピオイドローテーションを検討する以前に症状がモルヒネによるものであるかどうかを確認する必要がある。モルヒネでないものに変更することが目的となることは避けるべきである。

(10)その他

痛みの性質が変化(モルヒネに対する反応性の低下)した場合、剤型の変更が有利に働く場合、薬物の相互作用(代謝酵素の阻害)を避けたい場合、モルヒネの偏見を避けたい場合、オピオイドの服薬コンプライアンスを高めたい場合(フェンタニルパッチなどへ)などもあるが、最後の2者は本来、オピオイドローテーションで解決するよりも患者教育によって解決すべき問題であろう。オピオイドローテーションには絶対的な適応、相対的な適応がある。相対的な適応によって患者のQOLの向上を考えローテーションを考えることは仕方がないが、一度ローテーションを行った後には、日本では次に変更する選択肢がない場合が多いことも認識すべきである。

6) ローテーションを考慮すべき患者の状態の変化

モルヒネの投与が開始された後、副作用の調節も安定したにもかかわらず、新たに副作用が出現する場合がある。痛みが明らかに減少するような状況がある場合(神経ブロック後、放射線療法後、化学療法後、神経麻痺後)にはモルヒネの減量で対応するが、以下の場合にはオピオイドローテーションを検討する。

(1)腎機能障害

モルヒネの場合、活性代謝産物は腎から排泄され、腎機能障害時には眠気、だるさ、嘔気・嘔吐、せん妄などが出現しやすくなる。腎機能の悪化が予測される場合、悪化してきている場合で上記の症状が軽度でもみられる場合には、早急にオピオイドローテーションを行うべきであろう。

(2)肝機能障害

モルヒネを使用している場合、肝機能障害はグルクロン酸包合に関してはぎりぎりまで影響を与えないと考えられている。肝機能の障害の検査データで予防的にローテーションする必要はないと考えている。しかし、モルヒネ以外のオピオイドは多くの場合、肝臓のチトクロームP450で代謝されるため、肝機能障害、もしくはそれらの酵素の阻害剤によって効果、副作用が影響される可能性がある。

(3)経口投与不能

頭頸部の患者の場合、病気の進行によって経口摂取が不能となる。また、放射線治療中においても経口投与ではモルヒネの投与が不能となる。この場合、オピオイドの投与経路の変更でほとんど対応可能であり、オピオイドローテーションを行う必要はないが、フェンタニルパッチで対応する場合も多い。

(4)消化管閉塞

消化管のがんの場合は消化管閉塞が最終的には頻度が高い。経口オピオイドは中止せざるを得ないが、これもフェンタニルパッチで対応可能であることもある。レスキュー投与が必要であるかどうか安定するまではフェンタニルの持続皮下注、レスキューもそれで行うことが可能である。

7)オピオイドローテーションにおいて問題となっている点

オピオイドの併用は本来、μオピオイドの鎮痛効果を中心として使用しており、同じ作用機序を持った薬剤は併用しないでもすむはずである。しかし、フェンタニルの場合には、静注薬の濃度が薄いために、投与量が増加してくると1日に何回もポンプを変える必要が出てくることが多い。それに対して、一定以上のフェンタニルが投与されてくるとモルヒネ静注を併用する施設が多くみられるようになった。もともとフェンタニルに変更する理由があったものが、モルヒネを併用しても問題なくなっている場合であると考えられるが、腸管に対する作用が用量依存性である場合には少しでもモルヒネを減らしていこうとする状況もあると考えられる。ただ、現実にはオキシコンチン、フェンタニルパッチにモルヒネのレスキューを使用していることなどもあり、製剤が揃うまではやむをえないと考えられる。ただ、フェンタニルパッチとMSコンチンの併用などは現状では避けるべきと考えている。

(1)呼吸困難、咳に対して

痛みだけでなく、呼吸困難や咳に対してのオピオイドの使用が行われている現在、それに対するオピオイド使用のローテーションも考えていく必要がある。モルヒネ、オキシコンチン、フェンタニルの呼吸困難、咳に対する有効性は定まっていない。モルヒネ、コデインのほうが呼吸困難や咳に効くという医師もいる。今後、その点は科学的に検証する必要があるが、それらの症状に対して明らかな効果の違いがある場合には(フェンタニルパッチを使用している患者の咳にモルヒネを併用していくなど)併用していく意味、オピオイドローテーションを行う意味があるのではないかと考えている。

(2)神経因(障害)性疼痛に対して

モルヒネなどのオピオイドは本来、神経因(障害)性疼痛に対しては効きにくいとされている。しかし、日本でも使用可能であるオキシコンチンが、糖尿病性末梢神経障害や化学療法に伴う末梢神経障害で発生するしびれ、痛みに対して有効であることが報告されている8。副作用の軽減という点でなく、日本でも鎮痛効果の増強という点でのオピオイドローテーションが視野に入ってきていると思われる。

13.鎮痛補助薬(神経因(障害)性疼痛などに投与)

1)鎮痛補助薬使用の目的と原則

がん疼痛治療での鎮痛補助薬は特定の痛みの治療か、がん患者によく生じる痛み以外の症状の緩和を目的に投与される。以下、がん疼痛治療に重要と思われる薬剤の順に記載した。

2)鎮痛補助薬の種類とその使用法

(1)抗痙攣薬

がんの原発部位や転移部位によっては、モルヒネを主軸とするWHOがん疼痛治療法を応用しても、痛みを緩和させることが非常に困難である。神経や神経叢への浸潤・転移(特に横断麻痺の完成の直前)による痛みは、NSAIDs+モルヒネの治療効果が少ない。
クロナゼパム、フェニトインやカルバマゼピンは神経の異常発射を抑制するので、痛覚求心路遮断による刺すような痛みやがん、あるいはがんの治療に起因する神経障害として引き起こされたチック様の痛みに有効である。クロナゼパム、カルバマゼピン、フェニトインが第一選択の薬剤である。
クロナゼパムは1日に眠前0.5mgから投与開始し、眠前1.0mg、その後日中に朝、昼半量ずつ追加して使用する。カルバマゼピン(テグレトール)は1日100mg〜200mgから開始し、至適効果が現れるまで(最高600mg/日)、2〜3日ごとに100mgの割合で増量する。具体的には、睡眠補助をかねて、就寝前に1錠(200mg)を内服させる。その結果、日中に眠気が出現しなければ、あるいは出現した眠気が軽減したら、朝半錠(100mg)、昼半錠、夜1錠(200mg)を内服させる。次第に増量し、1日量3錠をおおよそ8時間ごとに内服させる。
フェニトインは1日100mgから開始、25〜50mgずつゆっくり増量し、1日250〜300mg以下とする。副作用はカルバマゼピンの副作用と同様である。

(2)ステロイド剤

ステロイド剤はがん性の脊髄圧迫、パンコスト肺がん患者の上腕神経叢あるいは腰仙骨神経叢のがん病巣が原因となる痛みの管理に有用である。さらに、末期状態のがん患者において多幸感と食欲の増進をもたらす。ステロイド投与による興奮や不眠に対しては、就眠前にジアゼパムを投与する。ステロイドの急激な中止は離脱症候が出現するだけでなく、痛みを一層悪化させることがあるので、漸減が望ましい。
多くの症例ではデキサメサゾンを1日2〜4mg、またはプレドニソロン1日量15〜30mgを投与する。脊髄圧迫症例では、デキサメサゾン1日16〜30mg(96mgまでの増量可、その等効果用量の他のステロイド)を投与する。神経圧迫の痛みにはステロイドを1週間投与し、痛みが軽減したら、その後に漸減・中止しても、症状の緩和が継続するとの報告もある。

(3)抗鬱薬

抗鬱薬ではアミトリプチリンが神経因(障害)性疼痛に有効であるとされているが、がん性疼痛においてははっきりとした報告はない。しかし、経験的にはアミトリプチリンをがん性神経因(障害)性疼痛にも用いていることが多い。投与法としては、アミトリプチリン10〜20mg/眠前で開始する。効果発現は1週以上かかると考えられている。副作用として眠気、口渇、便秘があるのでモルヒネとの併用にはその点を十分に考慮する。
当院では即効性を期待してアモキサピンを替わりに使用している。投与量は、眠前25mgで開始し、1日50mg/分2で維持することが多い。現在がん性疼痛に対して臨床試験中である。

(4)抗不整脈薬

がん患者のしびれに応用して、ときに効果がある症例に遭遇する。がん患者の神経圧迫に起因するしびれや痛みにも奏効を示すことがあるので、前述の抗痙攣薬(副作用の眠気が多い)投与の前にリドカインを選択する医師も多い。
具体的には、1%のリドカインを50〜100mgを静注して、しびれや痛みの症状が寛解もしくは軽減するようならば、メキシチール(R)の内服に変更する。
その他、抗不安薬(ベンゾジアゼピン系薬剤)、向精神薬(神経遮断剤:neuroleptics)、抗欝薬、その他の鎮痛補助薬(カフェイン、デキストロアンフェタミン)などがあるが、参考図書を参照していただきたい。

14.難治性がん疼痛治療

がんの原発部位や転移部位によっては、痛みを緩和させることが非常に困難である。さらに、がんは進行すると全身疾患の性格を強め、モルヒネの経口投与や持続注射でも、痛みが制御されなかったり、副作用対策が奏効しないために、がん患者の疼痛管理に困難をきたすことがある。

ほとんどの痛みはWHOがん疼痛治療法を応用すれば軽減するが、神経や神経叢への浸潤・転移(特に横断麻痺の直前)、消化管の通過障害による痛み、褥瘡の痛みには、NSAIDs+モルヒネの治療効果が少ない。

1)ケタミン持続点滴法による鎮痛法

ケタミンは、N-methyl-D-aspartate(NMDA)受容体の拮抗薬とされるが、その鎮痛作用は強力で、5mg/hrの速さでの点滴静注でも十分な鎮痛が得られる。従って、前述の難治性がん疼痛に1日量125〜250mgのケタミンを投与すると、傾眠や夢・幻覚などの副作用が出現せずに、よりよき除痛状態が得られる。ケタミンに精神症状の予防を目的として、ドロペリドール10mgないし20mgを混ぜるのもよい方法である。

2)硬膜外局麻

褥瘡の痛みのために、日夜ベッドに臥床できずに、ベッドの柵を利用し、両腕で体重の負荷を軽減させている患者に硬膜外チュ−ビングを行い、硬膜外にキシロカインを注入すると、患者は仰臥位で暮らすことが可能となる。さらにケタミン250mg/日の持続点滴を併用した結果、点滴モルヒネを減量でき、幻覚も消失し、車椅子で病棟内を散歩できるようになる。

3)鍼灸治療

がん患者の疼痛が改善しても、改善されない随伴症状として呼吸苦、むくみ、褥瘡、管による拘束感、動けない、倦怠感、食べられないことなどがあり、これらの症状は鎮痛補助薬でも軽減しない。鍼灸治療は副作用がなく、マッサ−ジが効果を示す痛み、ピリピリした痛み、しびれ、浮腫、こり、腹部膨満感・便秘、呼吸苦などに治療効果が認められるので、利用するほうがよい。

以上述べた難治性がん疼痛の治療法については、下記のことなどを含めてこれからの研究課題である。
  • モルヒネのTDMの必要性、簡易モルヒネ濃度の測定の機器の開発
  • 副作用対策の簡易化
  • ペインセンタ−の解説と病診連携
  • 在宅医療への器具の開発

おわりに

がん疼痛の治療は患者の病態を悪化させることなく、痛みを最大限に取り除き、しかも副作用を最小限にすることである。がん患者の痛みは治療すべき症状であり、治療しうる症状である。痛みが除去されると、たとえ末期であっても、患者の表情は明るくなり、その人らしい日々の生活が送れることにつながり、家族に残される思い出の内容も良いものに変わる。

まとめ

がんの疼痛を緩和するためにモルヒネを使用する時には以下の点に配慮する。
  1. 情報提供を十分に行う。信頼関係を確立し、正しい薬を選択する。
  2. 痛みが出てからの頓用指示をやめ、痛みが出ないように投与する。
  3. 痛みが緩和されるのに十分な量のモルヒネを投与する。
  4. 副作用対策を十分に行う。中枢神経系の副作用の出現は投与が過量なためであることが多い。
  5. 禁忌でない限り、非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDs)を併用する。
  6. モルヒネが十分に吸収されるような投与経路を選択する。
  7. 痛みの評価や治療効果の判定を正確に行う。
  8. ファーマコカイネテックス、ファーマコダイナミックスの知識に基づいたモルヒネ治療を行う。
  9. 血漿中モルヒネ濃度が低下している病態を鑑別する。
  10. 夜間に痛みで目が覚める状態の痛みは一両日内に取り除くべきである。

参考図書一覧

  1. World Health Organization. Cancer pain relief. Geneva:WHO, 1986.
    武田文和(訳)、世界保健機関(編).がんの痛みからの解放.東京:金原出版、1987.
    <WHOの3段階除痛法とWHOの政策の解説で、有益である。>
  2. Twycross, RG, Lack, SA. Therapeutics in terminal cancer.
    武田文和(訳).末期癌患者の診療マニュアル.2版、東京:医学書院、1991.
    <がん患者の症状コントロ−ルについて詳しく書かれ、モルヒネへの疑問もQ&Aで詳述されている。>
  3. 平賀一陽(編).終末期医療.大阪:最新医学社、1991.
    <終末期医療についてがん研究助成金の仕事をまとめたもので、在宅医療やコンサルテ−ションリエゾン精神医学についても記述されている。>
  4. 平賀一陽(編著).癌疼痛治療におけるモルヒネの使い方.東京:ミクス社、1991.
    <モルヒネの実際的使い方を記述したもので、WHOの各論的な役割を果たしている。>
  5. 厚生省薬務局麻薬課(監修).麻薬及び向精神薬取締法関係法令集−(付)麻薬の管理マニュアル−.東京:第一法規出版株式会社、1990.
    <麻薬の取り扱いについての法律的な面についてはこの本を参照すること。>
  6. 厚生省・日本医師会(編).がん末期医療に関するマニュアル.東京:中央法規出版、1989.
    <医師会の会員の先生方はだいたいお持ちである。机から出して一読されることをお薦めする。>
  7. Sanders, C, Baines, M. Living with dying the management of terminal disease.
    武田文和(訳).死に向かって生きる 末期癌患者のケアプログラム.東京:医学書院、1990.
    <がん患者の心理面とその対応について詳述されており、日本人も一読されることをお薦めする。>
  8. ピ−タ−・ケィ:武田文和、他(訳).緩和ケア百科.東京:春秋社、1994.
    <文化や社会制度が異なっても、患者さんへの対応は同じであることがよくわかる。>
  9. 武田文和、田村豊幸(編).がんの痛みは消えた.東京:協和企画、1993.
    <モルヒネについての迷信をときほぐす本で、各施設からのモルヒネ治療の症例が満載。>
  10. 平賀一陽、大黒正夫、吉本文男、矢島聖、江口久恵、篠道弘.国立がんセンタ−(監修).「痛み止めの薬」のやさしい知識.東京:財団法人がん研究振興財団、1993.
    <患者さん向けのモルヒネ服薬指導書で、Q&A形式で書かれており、好評を得ている。
    下記に問い合わせれば、実費《1冊500円+送料》で入手が可能である。
    財団法人 がん研究振興財団 《「痛み止めの薬」のやさしい知識》の係
    〒104-0045 東京都中央区築地5-1-1  TEL:03-3542-2511>
  11. 平賀一陽(監修).日本におけるホスピスの現状と展望.東京:協和企画通信、1988.
    <終末期医療についてがん研究助成金のワ−クショップでの講演をまとめたもの。>
  12. 吉川清(編).痛みのハンドブック. 大阪:医薬ジャ−ナル社、1992.
    <がん患者の痛み治療について分担執筆されている。巻末に文献一覧がある。>
  13. 武田文和、石垣靖子(編).癌患者の症状コントロ−ル.東京:医学書院、1992.
    <痛み以外の症状への対応が書かれてある。>
  14. 淀川キリスト教病院ホスピス(編).タ−ミナルケアマニュアル.第2版、大阪:最新医学社、1993.
    <痛み以外の症状への対応が書かれてある。>
  15. 世界保健機関:武田文和(訳).がんの痛みからの解放とパリアティブ・ケア.−がん患者の生命のよき支援のために−.東京:金原出版、1993.
    <パリアティブケアの新しい位置づけがなされた本である。>
  16. 武田文和.がんの痛みの鎮痛薬治療マニュアル.東京:金原出版、1994.
    <モルヒネの実際的治療法がやさしく書かれてある。>
  17. 山室誠.がん患者の痛みの治療.東京:中外医学社、1994.
    <モルヒネ治療だけでなく、神経ブロックについても記載されている。>

参考文献
  1. 武田文和(訳)、世界保健機関(編).がんの痛みからの解放 WHO方式がん疼痛治療法.東京:金原出版、1987,16-9.
  2. Mercadante S. Opioid rotation for cancer pain. Cancer 1999; 86: 1856-66.外部サイトへのリンクAbstracts
  3. 下山直人、高橋秀徳、戸谷美紀.オピオイドローテーションの理由について.がん患者と対症療法 2003; 14: 35-40.
  4. 下山直人、下山恵美.がん性疼痛の治療.日本臨床麻酔学全書 花岡一雄(編著).東京:真興交易医書出版、2002; 652-63.
  5. 武田文和.新経口オピオイドーオキシコドン徐放錠.がん患者と対症療法 2003; 14: 41-6.
  6. 高橋美奈、下山直人.21世紀のオピオイド鎮痛法の発展.がん患者と対症療法 2001; 12: 31-5.
  7. 下山恵美、下山直人.フェンタニルパッチのがん性疼痛治療における有用性と問題点.緩和医療学 2002; 4: 9-14.
  8. Watson CPN, Moulin D, Watt-Watson J, Gordon A, Eisenhoffen J. Controlled-release oxycodone relieves neuropathic pain:a randomized controlled trial in painful diabetic neuropathy. Pain 2003; 105: 71-8.外部サイトへのリンクAbstracts

下山 直人
的場 元弘
用語集
このページの先頭へ