日本では現在、日本膵臓学会により作成された膵癌取扱い規約(第5版)に記載されているJPS-Stageが頻用されています。一方、欧米ではAJCC/UICC(対がん米国合同委員会/国際対がん連合)により作成されたTNM悪性腫瘍の分類(第6版)が広く使用されています。膵がんを切除可能膵がん、切除不能局所進行膵がん、遠隔転移を有する膵がんに分けたとき、それぞれのStageは大まかに以下のように分類されます(ただし、この表はあくまでも大まかな分類であり、実際の治療方針は個々の患者さんの病態に応じて決定されます)。
| 切除可能膵がん | 切除不能局所進行 膵がん |
遠隔転移有する 膵がん |
|
| JPSの分類 (第5版) |
0、 I、II、III、IVaの一部 | IVaの一部 | IVb |
| AJCC/UICCの分類 (第6版) |
0、 IA、IB、IIA、IIB | III | IV |
いずれの病期においても膵がんは根治や延命することが難しい疾患であるため、新しい治療の臨床試験が積極的に行われています。治療方針に関しては、欧米と日本の間で大きな違いはありませんが、多少異なっている点を以下にあげます。
PDQの指針と本邦で切除可能であると判断する膵がんの症例に、大きな隔たりはありません。つまり、遠隔転移や主要な動脈に浸潤の認められる場合を除いて、切除を行うというおおまかな手術適応方針は同じです。しかし本邦では、胃がんの治療でリンパ節郭清の意義が重要視されてきたため、リンパ節郭清も含めて、がん病巣を完全に切除することが、正しい外科治療であるとする考え方が主流です。対して欧米では、リンパ節郭清にはこだわらずに、比較的短時間に腫瘍を切除し、補助化学療法を行って総合的に治療していこうとする考え方が主流です。したがって、例えば門脈という血管に浸潤のあるような膵頭部がんの治療では、本邦では積極的に門脈を合併切除して、外科的に少なくとも肉眼的には根治切除を行うのが基本ですが、欧米では必ずしも切除されるとは限りません。膵がんの治療では、もし病巣が完全に切除できれば、成績が良好であることは明らかですが、進行がんになるにしたがって手術の難易度や合併症の発生率も高くなります。また、欧米型の食生活になるに従い、肥満の患者さんの頻度が高くなりますが、肥満は切除を困難にする重要な因子です。本来予後のよくない病気であるため、どの程度の進行度まで切除するのかは、各国の外科の水準や考え方、患者さんの体型などによって異なるのは当然です。
膵がんは切除を行っても再発率が高いことから、補助療法(特に術後補助療法)が積極的に試みられています。過去のランダム化比較試験の結果に基づき、米国では術後化学放射線療法が、欧州では術後化学療法(5-FUやゲムシタビンなど)が広く行われていますが、まだ世界的にコンセンサスの得られた補助療法はありません。日本では術後の化学放射線療法はほとんど行われておらず、補助化学療法の開発を目的とした臨床試験が現在精力的に行われています。
切除不能局所進行膵がんに対しては、米国では過去に行われたランダム化比較試験の結果に基づき、化学放射線療法が古くから行われてきました。PDQでも切除不能局所進行膵がんの標準治療は放射線療法と化学療法(フルオロウラシル)の併用と記されています。しかし最近、ゲムシタビンなどを用いた化学療法が切除不能局所進行膵がんに対して比較的良好な成績を示しており、日本でも化学療法単独を受ける患者さんの割合が増えています。局所進行膵がんに対してどのような治療が優れているかは、今後さらに臨床試験を積み重ねて明らかにしていく必要があります。
全身状態の良い患者さんに対しては、延命および症状緩和効果を期待して化学療法が行われています。PDQにはゲムシタビンもしくはフルオロウラシルを用いた化学療法が標準治療とされていますが、第一選択の治療としては現在ゲムシタビンが世界的に広く使用されています。日本では、最近TS-1(ティーエスワン)の保険適応が膵がんに対して承認されたため使用できるようになりましたが、TS-1をどのように使用するのが良いかはまだわかっていないため、今後臨床試験で明らかにしていく必要があります。また、PDQに記載されているゲムシタビンとエルロチニブの併用療法に関しては、日本では現在治験が行われているところです。
ガストリノーマにより胃十二指腸潰瘍を合併した場合、内科治療を行って可能な限り胃を温存しますが、難治性の潰瘍の場合にはまれに胃全摘術を行うことがあります。またガストリノーマ切除の際に、予防的に迷走神経切除を選択することがありますが、必ずしも必要な術式という証拠はありません。現在の日本では、ガストリノーマに対する胃全摘術と迷走神経切断術はともに極めてまれな術式と考えられます。