悪性リンパ腫は、リンパ系の組織から発生する腫瘍(いわゆる“がん”)です。リンパ系組織とは、ヒトの免疫システムを構成するもので、リンパ節、胸腺(きょうせん)、脾臓(ひぞう)、扁桃腺(へんとうせん)等の組織・臓器と、リンパ節をつなぐリンパ管、そしてその中を流れるリンパ液からなります。リンパ系組織を構成する主な細胞は、リンパ球と呼ばれる白血球です。リンパ液の中には液体成分とリンパ球が流れていて、やがて血液と合流します。リンパ系組織は全身に分布しているため、悪性リンパ腫、特に非ホジキンリンパ腫は全身で発生する可能性があります。
悪性リンパ腫という病名は、さまざまなリンパ系組織のがんを大きくまとめて呼ぶ名前で、その中に含まれる個々の疾患の臨床経過や治療反応性、あるいは予後は大きく異なります。ですから、自分にとって最適な治療を選択するためには、「悪性リンパ腫の中のどのような病型(タイプ)ですか?」と、まずは医師に質問することが重要です。
悪性リンパ腫には、大きく分けてホジキンリンパ腫と非ホジキンリンパ腫の2つがあります。ホジキンリンパ腫は日本では少なく、約10%です。非ホジキンリンパ腫はリンパ腫の顔つき、すなわち顕微鏡でわかる形態学的特徴(病理学的分類といいます)、細胞系質的特徴(“B細胞性、T細胞性、NK細胞性”)、そして染色体・遺伝子情報などをもとに分類されます。それが腫瘍細胞の悪性度とその後の臨床経過、予後を推定し、治療法を選択するために大変重要になります。
非ホジキンリンパ腫は、発症してからの病気の進行速度によって分けることができます。進行のスピードによる分類は、「診断された病気を、治療しないで放置した場合に推測される予後」と言い換えることもできます。一方、上記の「病理学的分類」は、それぞれのがんの顔の特徴をつかまえているといえるでしょう。それぞれの患者さんに適した治療法を決めるうえで、両者を組み合わせることが重要であると考えられています。進行のスピードが速いタイプを高悪性度、ゆっくりなものを低悪性度と分類しますが、強力な化学療法や造血幹細胞移植などの進歩した現在においては、高悪性度とされるリンパ芽球性リンパ腫やバーキットリンパ腫も根治が期待できます。
| 表1 臨床経過からみた非ホジキンリンパ腫の分類 | ||||||||
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首、腋(わき)の下、足のつけ根などのリンパ節の多い部位に、痛みを伴わないしこりが触れるなどの症状がよくみられます。全身的な症状として、発熱、体重の減少、盗汗(顕著な寝汗)を伴うことがあり、これらの3つの症状を「B症状」といい、特に重要視されています。体のかゆみを伴うこともあります。その他、皮膚の発疹(ほっしん)、しこり、いろいろな場所の痛みで気づくこともあります。
悪性リンパ腫の診断に用いられる検査には、以下のようなものがあります。
大きくなっているリンパ節のすべて、あるいは一部を、いろいろな検査に用いるために局所麻酔を行って採取します。採取された組織は、病理医が顕微鏡で腫瘍の顔つきを調べて、病理学的分類を行うのに用いられます。また組織の一部は、診断に重要な染色体検査や遺伝子検査にも使われることがあります。遺伝子検査といっても、親から子へ遺伝する病気の有無について調べるものではなく、がん細胞が持っている特有の遺伝子の異常を調べるものです。診断ばかりでなく、治療の手がかりとしても非常に重要です。これらの検査によって、リンパ腫の病型(タイプ)が決定されます。
悪性リンパ腫に対する最適な治療を選択するために、病気が体のどこに、どれくらい広がっているかを知ることが大変重要です。病気の状態が進んでいるかどうかは、予後に大きく影響します。このため、以下のような検査が重要になります。
悪性リンパ腫の中には、ウイルス感染を契機に発生するものがあります。このため、さまざまなウイルスの感染状況を調べることも重要になります。
以下の血液検査をチェックすることが重要です。
悪性リンパ腫の治療法を選択するうえで、病理組織、進行のスピードによる分類のほかに、臨床病期、年齢、全身状態、リンパ節以外の病変、血清LDHの値等の血液検査の値が重要とされています。
非ホジキンリンパ腫の中で最も多いタイプとされるびまん性大細胞型B細胞性リンパ腫では、国際予後因子(International Prognostic Index:IPI)を用いることで、標準治療による治りやすさを予測することができます。
患者さんの年齢が60歳以下であるか、それより上であるかによって予後が変わってきます。60歳を超えた場合に、リスクファクター(危険因子)1点を加えます。
病気の進行状態が進んでいるほど予後に悪い影響を与えるのは、他のがんと同じです。臨床病期がIII以上でリスクファクター1点を加えます。
リンパ腫と診断されたとき、日常活動を行う能力をどれくらい持っているかを表す指標です。PS2以上でリスクファクター1点を加えます。
| 0: | 発病前と同じ状態 |
| 1: | 軽度の症状がある。肉体労働に制限がある。 |
| 2: | 日中の50%以上は起きている。軽労働に制限がある。 |
| 3: | 日中の50%以上は床に就いている。身の回りのことをするのに制限がある。 |
| 4: | 終日、床に就いている。身の回りのこともできない。常に介助が必要。 |
病気がリンパ節およびその関連臓器に限られているか、あるいはそれを越えて広がっているかによって、予後が異なります。リンパ節以外にある病気のかたまりを「節外病変」といいます。例えば、もともとリンパ節が少ない骨髄、消化管、皮膚、甲状腺、肝臓、中枢神経、肺、泌尿(ひにょう)生殖器、骨等にリンパ腫が発生した場合は節外病変といいますが、脾臓や扁桃を含む咽頭(いんとう:のど)の組織 (ワルダイエル環(かん)といいます)はリンパ節と同等と見なされますので、節外病変とはいいません。節外病変が2ヵ所以上ある場合には、リスクファクター1点を加えます。
血清LDHの値は、病気の勢いや腫瘍の大きさと相関すると考えられています。LDHが上昇しているときには、リスクファクター1点を加えます。
以上の項目をまとめますと、表2のようになります。表2にあてはまる項目の数で、表2-1によって判定します。
| 表2 国際予後因子(全年齢)(International Prognostic Index:IPI) | 表2-1 | ||
Factors Project. N Engl J Med 329:987-994, 1993 |
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標準治療を行った場合の生存曲線は図3のようになり、高危険群の方では、治療をしても5年生存率が25%弱です。現在は坑CD20モノクローナル抗体などの新しい薬剤の併用により、全体的に生存率は向上していると考えられます。それでも、標準治療だけでは治癒を期待することが難しいとなると、新しい分子標的薬剤の導入や自家造血幹細胞移植を治療に組み込むことで、生存率の向上を目指すことができます。
出典:N Engl J Med 329: 987-994, 1993(著者ら改変)
また濾胞性リンパ腫に対しては、同じように下記の5項目を点数化した濾胞性リンパ腫国際予後因子(Follicular Lymphoma International Prognostic Index:FLIPI)を用いるようになってきました。IPIとの違いは、PSの代わりにヘモグロビン値を用いる点と、節外病変の代わりにリンパ節の病変の数を用いる点です。
| 表3 濾胞性リンパ腫国際予後因子 (FLIPI) | 表3-1 | ||
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悪性リンパ腫の治療法には次のようなものがあります。
治癒を目指した治療を行う場合、まず完全寛解という状態を目指します。完全寛解とは、治療前に腫(は)れていたリンパ節や、CTなどで指摘されていた病変が小さくなって消失するか、あるいは正常の大きさになり、発病前と同じ状態になることを指します。完全寛解が得られた後に予定どおりの治療を行って、治療終了後、経過をみていても再発しない場合を治癒といいます。およそ5年間の観察期間が必要であると考えられています。
以下に大まかな治療指針について概説しますが、冒頭でも述べたように、病気のタイプと進行度、予後不良因子の有無、そして初発か再発かなどによって最も適切な治療が選択されます。十分に担当医師と話し合う必要があります。それぞれの病気に対する治療については他項で詳しく記していますが、ここではその概略を示します。
ホジキンリンパ腫には大きく分けて下記の2つのタイプがあり、(1)のほうがゆっくり進行型で、臨床病期が早い段階で病気が発見されることが知られています。したがって、同じ臨床病期が早い患者さんでも、(1)か(2)によって放射線療法と化学療法のどちらが主体になるか若干異なります。
濾胞性リンパ腫やMALT(マルト)リンパ腫の臨床病期IあるいはIIの限局期の場合には、原則として放射線療法が行われます。病期IIといっても発症場所が複数あり、かなり距離が離れている場合には進行期と同じ対応となることがあります。臨床病期IIIおよびIVの場合には、経過観察、化学療法、抗CD20モノクローナル抗体(リツキサンなど)、圧迫症状を呈する部位への放射線療法等の選択肢があります。また最近は、濾胞性リンパ腫の予後因子であるFLIPIを用いて治療方針を決めることも多くなってきています。
研究的治療として造血幹細胞移植が行われることがあります。研究的治療というとマイナスのイメージを持たれる方もいるかもしれませんが、何が有望な治療法であるかを確かめるためには非常に重要な方法です。
これまで長年、多くの患者さんたちに行われて治療成績のエビデンス(証拠)が出ているものを、標準治療ということができます。これに対して研究的治療の多くは、標準治療で良くならない患者さんに対する、より有効な治療として計画されたものです。新規の治療であるため、現時点ではエビデンスがないということから「研究的治療」といわれます。
びまん性大細胞型B細胞性リンパ腫が代表的な疾患です。臨床病期IおよびIIのときには化学療法単独か、化学療法と放射線療法の併用が行われます。臨床病期IIIおよびIVでは化学療法が主体となります。代表的な化学療法はCHOP(チョップ)療法です。最近では、CHOP療法などの化学療法にリツキサンが併用されることが多くなっています。国際予後因子(IPI)で高中危険群以上の予後不良であることが推測されるときには、初回寛解中に自家末梢血幹細胞移植を行うことで予後が改善されることを示唆する報告がありますが、まだ結論は出ていません。
リンパ芽球型リンパ腫は、急性リンパ性白血病とほぼ同じ化学療法が行われます。中枢神経浸潤を来す可能性が高いので、化学療法剤の髄腔(ずいくう)内投与が予防的に行われます。バーキットリンパ腫には有効な化学療法が開発されています。予後不良であることが予測されるときには、造血幹細胞移植を選択することもあります。
一般的に治療抵抗性とは、一度も寛解を得られない状態を指します。再発とは、いったん縮小したリンパ節が再び大きくなってきた状態をいいます。いったん良くなった悪性リンパ腫が再発したときの心痛は、非常に大きいものです。しかしながら再発の場合、一度は寛解を得られたわけですから、最初から化学療法が効かない治療抵抗性とは、その後の治療効果が少し異なります。
再発した悪性リンパ腫に期待できる治療効果は、やはり病理組織学的分類、すなわち病気のタイプによって大きく異なります。したがって、医師とともに目標をどこに設定するかを考える必要があります。
初回治療の内容や、治療を終了してから再発までの期間などによって、治療選択と予後が異なってきます。初回治療が放射線療法であった場合には、再発後の化学療法の治療効果が期待できます。初回寛解持続期間が1年以上あった場合には、化学療法を再開することにより、長期生存が一定の割合で期待できます。また、自家末梢血幹細胞移植を用いた大量化学療法が有効であることも知られています。
化学療法や抗体療法によって、病勢をコントロールすることが主な目標になります。根治をねらって自家末梢血幹細胞移植療法や同種造血幹細胞移植療法が行われることがありますが、適応や有効性についてまだ一定の見解が得られていません。
化学療法や抗体療法によって、再度寛解を得ることが目標となります。救済療法としての化学療法はいろいろなものが開発されていますが、どれが最も優れているかについてはまだよくわかっていません。再発後の治療により腫瘍が縮小した場合は、自家末梢血幹細胞移植療法が有益であるとする報告があります。
根治を目指して、同種造血幹細胞移植療法を行うことがあります。
悪性リンパ腫の病態と治療に関する知見は、過去10年間にかなり集まりました。しかしながら、まだまだすべての患者さんを治癒できるというレベルには程遠く、さらなる治療法の改善が望まれます。そのための手段の1つが臨床試験です。がんにおける標準治療は何か。この問いは、より良い治療を探し求めている医療者と患者さんたち双方にとって、永遠に未解決な課題であるともいえます。臨床試験について主治医から説明があった場合には、この趣旨をご理解のうえ、よく話を聞いていただきたいと思います。そして、治療選択肢が複数あるときは、遠慮なく担当医師に相談してみてください。