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悪性リンパ腫の造血幹細胞移植:自家移植(あくせいりんぱしゅのぞうけつかんさいぼういしょく:じかいしょく)

更新日:2006年10月01日    掲載日:2006年10月01日

1.造血細胞移植の概説

1)造血のしくみ

造血幹細胞とは
図 造血幹細胞とは

私たちの体の骨の中にはスポンジ状の「骨髄」があり、そこには血液の細胞がすんでいます。骨髄の中に造血幹細胞と呼ばれる細胞がいて、これがあらゆる血液細胞のもとになるのと同時に、この細胞自身も自分のコピーをつくることによって、骨髄が枯渇(こかつ)しない仕組みになっています。

造血幹細胞と考えられる血液の細胞を1個だけ採り出しておきます。骨髄を放射線や薬を使って完全に破壊した後、採っておいた1個の造血幹細胞を戻すと造血機能がもとに戻ることが、マウスを使った実験でわかっています。人間でこのような危険な実験はできませんが、造血幹細胞の増殖力はすごいもので、1つの細胞があれば、人間でも血液を再生できる可能性があると考えられています。このように造血幹細胞移植は、人間の体にもともと存在する再生力を利用した治療法なのです。

2)通常の造血幹細胞移植について

造血幹細胞移植とは
図 造血幹細胞移植とは

通常の造血幹細胞移植では、まず抗がん剤や全身への放射線照射によって、正常な血液細胞をすべて破壊してしまいます。白血病やリンパ腫等の患者さんでは、これにより悪い細胞も破壊することを目的とします。そこに提供者(ドナー)の造血幹細胞を入れることにより、破壊された造血組織を再生させるようにします。これが、造血幹細胞の「移植」です。移植といっても、点滴用の袋に入った造血幹細胞の含まれた液を、輸血のように静脈から体内に点滴で入れます。幹細胞は血流に乗って骨髄のしかるべき場所にたどり着き、そこで増殖をはじめます。新たに血液が置き換わるまでの2〜3週間は、感染症に気をつけながら、無菌病室で輸血や抗生物質等を投与します。移植から1ヵ月もすると、ほぼ完全に血液が新しくドナーの方の血液に置き換わります。

3)造血幹細胞移植の分類について

造血幹細胞移植の分類
図 造血幹細胞移植の分類

移植する細胞や組織を提供してくれる人をドナーと呼びますが、どのような人がドナーになるかによって、移植法を分類できます。すなわち、自分の幹細胞を治療の合間にうまく採って凍結保存しておき、それを用いて移植をする方法を「自家移植」といいます。一方、自分以外の人がドナーとなる場合は「同種移植」といいますが、一卵性双生児(双子)の場合は「同系移植」といいます。

現在は、造血幹細胞は骨髄からだけではありません。抗がん剤治療のあとや白血球を増やすG-CSF(顆粒球コロニー刺激因子)という薬を使って、骨髄から幹細胞を血液中に流れ出させます。それを成分献血と同様の方法でうまく集めて、移植に用いることができます。このようにして集めた幹細胞を、「末梢血幹細胞(まっしょうけっかんさいぼう)」といいます。さらに、出産のときの胎盤や臍の緒(へそのお)の血液は本来赤ちゃんの血液ですが、そこにも造血幹細胞が豊富に含まれていることがわかっています。これを「臍帯血(さいたいけつ)」と呼びます。
以上の3種類の造血幹細胞を用いた移植を、それぞれ「骨髄移植」、「末梢血幹細胞移植」、「臍帯血移植」と呼び、少しずつ違った工夫が必要なので、移植の際には使い分けています。このような分類を組み合わせて、「同種骨髄移植」、「自家末梢血幹細胞移植」等と呼んでいます。またこれとは別に、移植に先立って行う強力な抗がん剤、放射線治療(「前処置(ぜんしょち)」といいます)があります。これを弱めて、体への負担を和らげた移植を「ミニ移植」といい、ここ数年で盛んに行われるようになっています。

ここでは、悪性リンパ腫に対する自家移植の説明をします。自家移植の場合には、通常は末梢血幹細胞を用いた標準的な前処置による治療を行います。

4)自家移植について

自家末梢血幹細胞移植の考え方
図 自家末梢血幹細胞移植の考え方

以前は、自家移植でも骨髄細胞を使っていました。しかし、造血機能の回復が早いことから、最近では、世界中のほとんどで末梢血幹細胞を用いた移植になっています。

自家移植の目的は、大量の抗がん剤を安全に投与することです。抗がん剤を大量に使いすぎると、造血機能が障害、破壊されてしまいます。通常の化学療法(抗がん剤治療)、例えば「CHOP(チョップ)療法」などでは、少ない抗がん剤で治療できるように工夫されています。ところが、ある薬をもう少し量を増やすと有効性が高まることがわかっている場合、造血機能が傷害されることには目をつぶり、治療直後に造血幹細胞を投与して損なわれてしまった造血機能を再生させることができれば、安全に効果的な治療をすることができます。しかしやりすぎれば、肝臓や腎臓など他の臓器へのダメージも予測されますから、その点での管理をしっかりとしながら、骨髄だけが影響を受けるようにすると、10倍くらいの量の抗がん剤を使うことが可能になります。つまり自家移植は、通常の抗がん剤の量では治り切らないような患者さんを治すために、超大量の化学療法を行うことを可能にした治療法なのです。

抗がん剤が効かないとわかっている患者さんには、自家末梢血幹細胞移植は効果がありません。無理に移植を行うと、どんなに抗がん剤を大量に使っても悪い細胞はなくならず、結局すぐに再発してしまい、体にはダメージばかりが残ってよいことはありません。つまり、自家末梢血幹細胞移植を行う条件として、抗がん剤への反応が良いことが必要です。また、大量療法をしても病気が残ってしまうということを避けるために、移植前までに十分治療しておくことが大切です。自家移植は仕上げの治療といえます。

5)自家末梢血幹細胞移植の考え方と方法

自家末梢血幹細胞移植
図 自家末梢血幹細胞移植

末梢血から幹細胞を採取するには、まず抗がん剤による治療を行います。治療後は白血球が急速に減り、1〜2週間後に白血球が回復してきます。この時期に一致して、通常は骨髄の中にしかいない造血幹細胞が、全身の血流へと流れ出てきます。流れ出た幹細胞を遠心分離機の入った「血液成分採取装置」という特殊な器械で採取して、パックに凍結保存しておきます。この採取の方法(アフェレーシスといいます)は献血の「成分献血」という方法と基本的には同じですが、献血のときよりも通常長く行います(2〜4時間)。

大量化学療法でがん細胞(リンパ腫細胞)を徹底的に治療した後に、凍結保存しておいた造血幹細胞をベッドサイドで解凍し、輸血と同じように点滴で戻します。

造血幹細胞移植を行った後は、リツキシマブ(商品名:リツキサン)のように骨髄毒性のない薬剤を除いては、原則として抗がん剤治療はしません。大量に抗がん剤を使うために、何かしら合併症を引き起こしていることが多々あるからです。移植前までの治療でがん細胞をいかに叩き切っておくかが、非常に大切です。事前の治療でがん細胞が残ってしまうと、自家造血幹細胞移植後に再発し、それからの治療はなかなか困難になります。移植はやらないほうが良かったということになりかねません。それでも、一言でまとめれば、「超大量化学療法を可能にするのが自家造血幹細胞移植」ですから、慎重に行えば効果の高い治療法であることは事実です。

6)自家末梢血幹細胞移植の流れ

自家末梢血幹細胞移植の流れ
図 自家末梢血幹細胞移植の流れ

次に、自家末梢血幹細胞移植の流れについて説明します。まず、治療のための大量抗がん剤療法を行います。これは前処置療法と呼ばれ、「MCEC療法(ラニムスチン/カルボプラチン/エトポシド/シクロホスファミド)」あるいは「LEED療法(メルファラン/シクロホスファミド/エトポシド/デキサメタゾン)」等の組合せの治療があります。この前処置療法は数日かけて行いますが、副作用が強く、造血機能はほぼ完全に破壊されます。約1日空けて、血液中から抗がん剤がほとんどなくなった時期を見計らって、冷凍保存しておいた患者さんの造血幹細胞を、点滴の管から体内に輸注します。その後、白血球を増やすG-CSFという薬を注射して、造血幹細胞が増えるのを助けて回復を早めます。

移植後10日から2週間すると、輸注した造血幹細胞由来の細胞が増えてきますが、これを生着(せいちゃく)と呼びます。細胞を輸注した日から1ヵ月以内で退院、約3ヵ月後には職場復帰というのが通常の自家末梢血幹細胞移植の流れです。ただ、造血機能が完全に回復して免疫機能がもとに戻るには半年くらいは必要です。しばらくの間無理はできません。

7)自家末梢血幹細胞移植の副作用

自家末梢血幹細胞移植の副作用
図 自家末梢血幹細胞移植の副作用

この治療は通常よりも抗がん剤を大量に使うので、それなりの副作用があります。食欲不振、吐(は)き気、嘔吐(おうと)、不眠、便秘等は、ほとんどの方に出現します。まれに、アレルギー、意識障害、けいれん、不整脈、心不全、肺水腫等が起き、命にかかわる危険性もあります。また、輸注した造血幹細胞が肺の毛細血管に詰まって、低酸素血症、呼吸不全、血圧低下等が起こる方もいます。

白血球が少ないときに一致して粘膜障害や感染症等が起きやすく、造血機能がないので貧血、血小板減少等もあります。白血球を増やすG-CSFという薬なども使って、少しでも早く白血球の回復を助け、輸血をしながら危険な時期を乗り切れるようにします。

自家末梢血幹細胞移植の場合はここまでが山場で、同種移植で問題となる免疫反応(GVHD:移植片対宿主病)などはありませんから、これ以後にはあまり問題がありません。生着しない(輸注した細胞がうまく着かない)ということもないわけではありませんが、幹細胞の必要量の算定方法を間違えたとか、集め方が少なすぎたということがない限り起こりません。したがって治療関連死(2%以下)は、ほとんど前治療の段階に集中しています。ここを慎重にすることによって、比較的安全に推移するのが自家造血幹細胞移植です。

2.自家移植の適応

悪性リンパ腫の治療では、リンパ腫のタイプによって移植の役目がそれぞれ違います。非ホジキンリンパ腫では、初回寛解や再発のときに自家移植を行います。濾胞性(ろほうせい)リンパ腫では、治癒を目指すならば同種移植やミニ移植は非常に有望です。高悪性度群のリンパ腫では、化学療法で寛解が得られない場合や再発した場合には、同種移植を行います。その他特殊型のリンパ腫のいくつかについては、同種移植が有望とみられています。

1)低悪性度群のリンパ腫(濾胞性リンパ腫など)

進行期 濾胞性リンパ腫
図 進行期 濾胞性リンパ腫

ゆっくりと進むタイプの濾胞性リンパ腫は、自家移植を行ってもほとんどが再発し、治癒は期待できませんでした。けれども自家移植を行うと、生存期間延長などの効果があることがわかってきています。なるべく良い状態(寛解状態)にしてから移植を行うとよい結果が期待できます。ただし、これまでの報告では、通常の移植だけでは完治は難しく、大半の患者さんはいずれ再発してしまいました。

最近は抗CD20モノクローナル抗体であるリツキシマブ(商品名:リツキサン)という薬が世の中に出て、濾胞性リンパ腫の患者さんの予後は大きく変わってきています。通常の抗がん剤にこれを併用すると、併用しない場合に比べて明らかに寛解率も生存率も伸びています。自家移植にリツキシマブを併用するとどうなるかについて世界中で試されていますが、これまでのところまだはっきりとしたデータは出ていません。

また、後の項で説明がありますが、ミニ移植という同種移植の方法が出てきたことにより、濾胞性リンパ腫はより安全に再発なく治療ができるようになりつつあります。同種移植では再発率が極めて低いものの、移植に伴う後遺症が長期に多く認められるので、移植を受けるに当たっては十分慎重に検討する必要があります。

濾胞性リンパ腫ではいろいろな治療法が出てきたにもかかわらず、このような背景から移植はなるべく行わないというリンパ腫の専門家もいれば、早いうちから強い治療を行って、再発したら移植を急ぐ専門家もいます。自家移植をすると、その後に再発した場合には同種移植しか残っていないので、どんどんと強い治療にエスカレートしてしまうことがあります。

大切なことは、自分にはどのような治療の選択肢があるのかを主治医やセカンドオピニオンを通して早いうちに把握し、自分の人生設計の中で自ら治療法を選択していくことです。

2)中等度悪性群リンパ腫(びまん性大細胞型リンパ腫など)

自家末梢血幹細胞移植の適応
図 自家末梢血幹細胞移植の適応

進行期 中等度悪性群非ホジキンリンパ腫
図 進行期 中等度悪性群非ホジキンリンパ腫

自家移植を行って治癒が期待できる代表格は、中等度悪性群の非ホジキンリンパ腫です。それも、最初にCHOP療法を行ったものの、完全には治り切らず少し残ってしまった(部分寛解)場合、あるいはいったん再発したものの、「サルベージ療法」(2番手の治療法)がうまく効いた(まだ薬に対して感受性がある)場合です。また、診断時に体調がとても悪かったり、リンパ腫病変が全身に広がっていたりすると、その後も再発の可能性が高いと推測され、再発する前に自家移植の判断をすることもあります。移植をしなくても再発しないかもしれず、再発しなければ過剰な治療になってしまいます。しかし、再発してからでは手遅れになるので、早く移植をすることがメリットになる患者さんもいます。判断が分かれるところです。移植をするかどうかは主治医とよく相談して、納得したうえで、自分の意思で決めることが大切です。また、このような移植の適応基準に差があるために、自家移植で治る(長期無病寛解)患者さんの割合が、施設によって40〜70%とばらついています。

一方、再発をした後に2番手の治療をしたもののほとんど効いていないという場合は、自家移植をしても一般的には治りません。薬の効果が期待できないのに自家移植をしても、すぐに再発をしてしまうので意味がありません。かえって、その後の治療で不利益につながることもあります。

ところで、このタイプの悪性リンパ腫に対する同種移植の役割については、なかなかその位置づけが明確になりません。次の項で説明がありますが、同種移植では副作用が強く出て、移植治療そのもので亡くなってしまうことが多いです。ただ、自家移植に比較すると再発率が少ないことが指摘されていて、自家移植では治らないような難治性のリンパ腫の場合には、同種移植を積極的に検討する価値があるといえます。

参考文献

1) 田野崎 隆二.悪性リンパ腫の造血幹細胞移植療法について.ネクサス通信第5号 2003年7月発行 B5版24ページ
2) 森 慎一郎. 悪性リンパ腫の造血幹細胞移植療法について.ネクサス通信第10号 2005年3月発行 B5版28ページ
3) 谷口 修一. 悪性リンパ腫と造血幹細胞移植.ネクサス通信第12号 2005年10月発行 B5版44ページ
4) 鈴木 律朗. 悪性リンパ腫の造血幹細胞移植と最新の治療法.ネクサス通信第13号2006年3月発行 B5版52ページ
5) 田野崎 隆二.造血幹細胞移植:診断と治療の進歩 II.造血幹細胞移植の適応と治療成績.5.悪性リンパ腫.日本内科学会雑誌94; 1322-1330, 2005


注: ネクサス通信とは、全国的な悪性リンパ腫の患者団体であるNPOグループ・ネクサスが出版する情報誌です。入手法などについては、以下をご参照ください。
外部サイトへのリンクhttp://homepage3.nifty.com/webpage3/nexus/


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