悪性リンパ腫は、白血病と同じく血液のがんの代表的疾患です。実は白血病よりも発症頻度が高いがんで、わが国でも欧米と同じように、年々患者さんの数が増加しています。血液細胞の中の白血球に、リンパ球という人体の免疫に関与する細胞があります。主としてリンパ節、脾臓(ひぞう)、扁桃(へんとう)などのリンパ系組織に存在するこの細胞が、細胞自身が成長するある過程で悪性化したがんを悪性リンパ腫といいます。顕微鏡で観察したときに、大型で特徴的な形態をした「リード・スタンバーグ細胞」が見られるという特徴のあるものを「ホジキンリンパ腫」、そうでないものを「非ホジキンリンパ腫」として大別します。
非ホジキンリンパ腫はがん細胞の種類に基づいて、Bリンパ腫、Tリンパ腫、ナチュラルキラー(natural‐killer:NK)またはNK/Tリンパ腫に大別されます。さらに細かな特徴により、ホジキンリンパ腫は5種類の、非ホジキンリンパ腫は20種類以上のリンパ腫に分類されます。治療選択の観点からは、非ホジキンリンパ腫は大きく3種類に分けることができます。
無治療で観察した場合の経過が、年単位でゆっくりと進行するものを「低悪性度リンパ腫」もしくは「緩徐進行型(インドレント タイプ)リンパ腫」といい、「濾胞性(ろほうせい)リンパ腫」がその代表的疾患です。月単位で進行するものを「中悪性度リンパ腫」もしくは「アグレッシブ(aggressive)リンパ腫」といい、「びまん性大細胞型B細胞性リンパ腫」がその代表的疾患です。さらに、無治療では週単位で進行してしまうものを「高悪性度リンパ腫」もしくは「高度アグレッシブリンパ腫」といい、急性白血病に近い「リンパ芽球性リンパ腫」や「バーキットリンパ腫」がその代表的疾患です。わが国の成人では、びまん性大細胞型B細胞性リンパ腫と濾胞性リンパ腫が最も頻度が高いものです。
この項では、びまん性大細胞型B細胞性リンパ腫に代表される中悪性度非ホジキンリンパ腫についてお話しします。
非ホジキンリンパ腫は極めて多様な疾患群より構成され、その臨床症状も多彩ですが、最も多く見られる症状は、リンパ節が腫(は)れて大きくなること(リンパ節腫大)です。リンパ腫の2/3以上の患者さんに、体の表面のどこかに持続性(経過を観察しても小さくならないか逆に大きくなるような)で無痛性のリンパ節腫大が認められます。非ホジキンリンパ腫では、体の表面以外に扁桃(へんとう)、肘(ひじ)のリンパ節、そしておなかの中のリンパ節の腫大が多く認められます。リンパ節以外にもリンパ腫が発生(“節外性病変”といいます)するのが、非ホジキンリンパ腫の特徴です。消化器症状を主訴として消化器内科を受診して、胃や腸のリンパ腫が発見される患者さんや、人間ドックなどの検診で発見される患者さんも比較的多いです。また、まぶたの腫脹(しゅちょう)などで眼科を受診し、目の周りのリンパ腫の疑いで専門病院を紹介される患者さんもいます。消化管、眼窩(がんか)、唾液腺、甲状腺(こうじょうせん)、肺等に主な病変が好発するリンパ腫や、鼻腔(びくう)、骨髄、消化管、皮膚、精巣等に好発するリンパ腫もあります。非ホジキンリンパ腫は、全身のほぼすべての臓器に発生しうるがんといえます。激しい寝汗や体重減少、発熱といった症状を“B症状”といい、20%以下の患者さんに認められます。
腫れているリンパ節もしくは臓器の一部を外科的に切除し、病理医が顕微鏡で判定すること(これを生検といいます)でリンパ腫の最終(確定)診断が下されます。したがって、いつまでも腫れが続くか、次第に大きくなるようなリンパ節腫大に気づいたときには、かかりつけ医もしくは総合病院を速やかに受診し、医師の判断で適切な部位の生検をすることが極めて重要です。リンパ節は感染をはじめとしてさまざまな原因で腫れますので、その鑑別診断も重要です。リンパ腫と診断されれば、その後の適切かつ最良の治療を開始するために必要な検査がはじまります。血液検査、尿検査、レントゲン検査、心電図、心臓の超音波検査、胃カメラは基本ですが、リンパ腫の広がり(臨床病期といって、I期からIV期まであり、I期は早期、IV期は進行期です)を決定するのに最も重要な検査が全身のCTスキャン検査です。最近では、これに加えてPET検査があります。特に、ホジキンリンパ腫と中悪性度リンパ腫の病期の決定や、治療後の効果判定に有用であることがわかってきていて、実施することが望ましいとされています。
限局期:I期(リンパ節の腫れなど、リンパ腫の病変部位が1ヵ所にのみとどまっている場合)と、bulky病変(腫れの病変部位の直径が、数cm以上のかさばり病変のこと)がないII期(横隔膜(おうかくまく)を挟んで、上半身か下半身のどちらかに病変部位が偏(かたよ)っている場合)までを限局期(早期)といいます。
年齢が60歳以下、一般状態が良好(自分で身の回りのことができて日中はほとんど起きていられる)、血液中の乳酸脱水素酵素(LDH)が正常、リンパ節以外にリンパ腫の病変は1ヵ所以下といった4つの要素をすべて満たした状態を限局期といいます。この限局期に対しての標準治療は、3種類の抗がん剤と1つのホルモン剤からなる「CHOP療法(シクロホスファミド、ドキソルビシン、ビンクリスチン、プレドニゾロン)」を3週間ごとに3コース実施し、その後に、病変があったリンパ節領域に放射線照射をすることです。この治療法は、CHOPを8コース実施する方法よりも優れていて、5年後の生存の期待率は82%です(図1)。ただし、4つの要素を1つでも満たしていない場合には、7〜9年後にはCHOP療法8コースより成績が若干低下するという報告があり、CHOP療法8コースとの優劣は検討の余地があります。
N Engl J Med 1998; 339:21-26,
進行期:「かさばり病変」を有するII期以上を進行期といって、横隔膜を挟んで上半身と下半身の両側に病変部位があるときはIII期、骨髄、肝臓、末梢血等リンパ節以外の臓器にびまん性にリンパ腫が広がっている状態をIV期といいます。このあとでお話しする、B細胞性を除くT細胞性の中悪性度非ホジキンリンパ腫に対しての標準的化学療法は、CHOP療法8コースです(図2)。ただし、これからお話しするCHOP8コースの成績は、B細胞性リンパ腫も含んだ試験でのデータです。
CHOP療法を受けた場合、IV期症例を含んだ全体では、3年の生存率は52%を期待できます。また、年齢が60歳以下、一般状態が良好(自分で身の回りのことができて日中はほとんど起きていられる)、血液中のLDHが正常、リンパ節以外にリンパ腫の病変は1ヵ所以下、そして病期が、かさばり病変を伴うII期の5つの要素をすべて満たしているか、1つのみ満たしていない場合では、ロー・リスク(Low Risk)群といって予後は最も良好で、5年生存率は73%となります。しかし、4つもしくはすべての要素が当てはまらないときには5年生存率は26%と非常に悪くなりますので、後述の自家造血幹細胞移植などの研究的治療法も考慮すべき選択肢となります(図3)。
N Engl J Med 1993 328:1002-1006
N Engl J Med 329:987-994, 1993
II期、III期、IV期の進行期に対しては、CHOP療法に、B細胞に対する抗体薬であるリツキシマブを併用した「R-CHOP(リツキシマブ、シクロホスファミド、ドキソルビシン、ビンクリスチン、プレドニゾロン)」8コースが標準治療です(図4)。これは、R-CHOP8コースがCHOP8コースよりも明らかに優れているとの成績が、60〜79歳の症例を対象としたランダム化比較試験で公表されたことによります。また、60歳以下のリスクが低い症例に対しても、最近の試験でR-CHOP6コースがCHOP6コースよりも明らかに優れていることが公表されました。したがって、高齢者のすべてのリスク、病期に対してはR-CHOP療法8コースが、そして60歳以下の低リスク(病期がIII期かIV期、LDHは高値、PSが2以上の3つの予後不良因子の中で、最高1つまでしか保有していない場合)の患者さんに対しては、6〜8コースのR-CHOPがそれぞれ標準治療と考えられます。R-CHOP3コース後に病変部位の区域に放射線を照射する方法に関しても、推奨根拠のレベルは最高ではありませんが、限局期に対しては優れた成績が報告されつつあります。
結論として、一般的にはすべての年齢層において、R-CHOP6〜8コースが標準治療です。
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N Engl J Med 2002; 346:235-42
CHOP療法は、最初から外来で実施するか、もしくは1コース目を入院で実施し、その効果と副作用を見極めたうえで、以後は外来治療とします。ほとんどの患者さんは、2コース以後の外来治療が可能となります。すべての患者さんで好中球減少、血小板減少、赤血球減少による貧血が出現しますが、赤血球や血小板の輸血を必要とするような著明な減少はまれです。好中球の減少の程度が最も強く出ますので、1コースでその程度を確認し、減少程度が強い場合は好中球を回復させるG-CSFの皮下注射を実施する場合があります。感染予防として抗菌剤、ST合剤の内服、イソジンガーグルでのうがいをしていただきます。発熱したら直ちに抗生剤を投与するなどすれば、ほとんどの患者さんが安全に治療を継続できます。シクロホスファミドによる出血性膀胱炎を予防するために、点滴し、なるべく多くの水分をとっていただきます。ドキソルビシン(アドリアシン)による心臓障害が起きにくいかどうかを前もって心電図や心エコーで確認するとともに、化学療法途中や終了後にもチェックします。心臓症状が強いときには、アドリアシンを中止することもあります。ビンクリスチンでは手足の先端のしびれが起きることがありますが、予定した治療が終了すれば、ゆっくりとですが回復します。ビンクリスチンにより便秘になりやすくなるため、前もって緩下剤(かんげざい)を投与したり、それでもひどいときには下剤を工夫します。CHOP療法の8コースでは男性の精子が破壊され、男性不妊を来すことがあります。治療を待てる患者さんで、精子保存を希望される方は申し出てください。命にかかわるような重篤(じゅうとく)な副作用は極めてまれですが、まったくないわけではありません。
リツキシマブを注射すると、発熱、悪寒、悪心(おしん)、頭痛、疼痛(とうつう)、掻痒(そうよう)、発疹(ほっしん)、咳(せき)、虚脱感、血管浮腫(けっかんふしゅ:舌、咽喉の腫れ)等の症状が、投与開始後や注入速度上昇後に突然表れることがあります。これらを輸注関連毒性(Infusion Reaction)といいます。この予防のため、点滴30分前に抗ヒスタミン薬と鎮痛解熱剤を内服していただきます。それでも症状が出る場合には、速やかに最善の処置をします。この副作用は、2コース以降には極めて発現しにくくなることが知られています。本剤のがん原性、変異原性に関するデータ、胎児に及ぼす影響に関するデータ、あるいは男女の生殖能に及ぼす影響に関するデータはありません。本剤投与中および投与後12ヵ月の間は避妊するように注意してください。極めてまれに命にかかわる重篤な「腫瘍崩壊症候群」を生じることがありますが、起きやすい病状かどうかを前もって判断します。場合によっては、抗がん剤の投与開始後にリツキシマブを投与することも講じ、もしも腫瘍崩壊症候群が出現したら最善の処置をします。
化学療法実施後に再発したリンパ腫の予後は不良です。ホジキンリンパ腫も中悪性度リンパ腫も救援化学療法を施行し、60〜65歳以下で救援化学療法の効果が得られた(奏効した)場合は、そのあとで自家造血幹細胞移植併用の大量化学療法を実施することが、標準治療です。このことに関しては図6にも示すように、欧州でのランダム化比較試験でもその効果が証明されました。
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N Engl J Med, 1995. 333(23): p. 1540-5