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脳腫瘍(成人)(のうしゅよう(せいじん))

更新日:2006年10月01日    掲載日:1997年04月28日

1.脳腫瘍とは

脳腫瘍とは、脳組織の中に異常細胞が増殖する病気です。

脳腫瘍には、脳組織自体から発生する原発性脳腫瘍と、他の臓器のがんが脳へ転移してきた転移性脳腫瘍の2種類があります。

原発性脳腫瘍には、良性と悪性の2種類あります。たとえ良性の腫瘍であっても、頭蓋内という限られたスペース内に発生する脳腫瘍は、大きくなると正常な脳を圧迫し障害をおこし、治療の対象になります。

脳腫瘍(中枢神経を含む)の発生率は、1年間に人口10万人に対して約3.5人です。

脳腫瘍は全体として悪性のものが多く、その細胞の形や性質により細かく分類されています。治療法、完治の可能性や予後は、この脳腫瘍の種類と全身状態によりほぼ決められます。

以下に原発性脳腫瘍の種類と割合を示します。

脳腫瘍の種類 割合
1.神経膠腫 28% (悪性)
 1-1 星細胞腫(せいさいぼうしゅ) (28% ) 比較的良性
 1-2 悪性星細胞腫 (18%) 悪性
 1-3 膠芽腫(こうがしゅ) (32%) 悪性
 1-4 髄芽腫(ずいがしゅ) (4%) 悪性
 1-5 その他 (18%)
2.髄膜腫 26% (良性)(一部悪性)
3.下垂体腺腫 17% (良性)
4.神経鞘腫(しんけいしょうしゅ) 11% (良性)
5.先天性腫瘍(頭蓋咽頭腫など) 5% (比較的良性)
6.その他 13%  

原発性脳腫瘍の中で最も多いのが、神経膠(しんけいこう)細胞から発生する「神経膠腫」と呼ばれるもので、全体の約28%を占めます。神経膠細胞とは、神経細胞と神経細胞の間や、神経細胞と血管との間にあり、栄養や酸素を神経細胞に供給する役割をもっています。

神経膠腫のうち、最も発生頻度の高いものは星細胞腫です。成人では大脳半球に多く、小児では小脳に発生しやすいものです。小児の星細胞腫の中には、手術で治癒するものがあります(詳しくは「脳腫瘍(小児がん情報サービス)」を参照して下さい)。

成人発生の星細胞腫には、比較的良性の星細胞腫と悪性の悪性星細胞腫とがあります。星細胞腫は比較的良性の腫瘍ですが、悪性化をおこすことがあるため注意を要する腫瘍です。膠芽腫は、神経膠腫全体の約1/3を占め、神経膠腫の中でも最も悪性度が高く、45〜65歳の男性に好発する非常に治療が難しい腫瘍です。

神経膠腫に次いで多いのが、脳を包んでいる髄膜に発生する髄膜腫です。その他、ホルモンの中枢である下垂体に発生する「下垂体腺腫」、聴神経に発生する「神経鞘腫」などがあります。

原発性脳腫瘍が、頭蓋内の病巣から肺や肝臓など他臓器に転移することはほとんどありませんが、他の臓器で生じたがんが脳に転移することは少なくありません。これを転移性脳腫瘍といいます。特に脳への転移が多くみられるのは、肺がん、乳がんなどです。また、肺がんの転移は脳実質と呼ばれる脳の内部に、乳がんの転移の場合は硬膜などの膜組織に定着しやすい性質をもっています。また、転移性脳腫瘍の特徴として、転移が複数個所認められることがあげられます。さらに、脳脊髄液という脳を取り囲んでいる液体の中で、がん細胞が増殖することもあります。この場合は極めて治療が難しくなります。

2.症状

頭痛の程度が徐々に強くなったり、嘔吐の頻度が増えてきたり、歩き方や話の内容や話し方がおかしくなってきた場合には医師の診察を受けましょう。このような症状は脳腫瘍以外の原因でもおこることがありますが、注意が必要です。

脳腫瘍がおこす症状には、腫瘍自体が神経を圧迫したり壊したりする局所症状と、限られた頭蓋内スペースの中で腫瘍が大きくなることによりおこる頭蓋内圧亢進症状(ずがいないあつこうしんしょうじょう)があります。

1)局所症状

脳外側面の領域と名称

脳正中断面の解説図

脳は神経の中枢ですが、運動や感覚などのいろいろな機能は脳の中で分散して行われています。例えば、左の前頭葉の運動野という手足などを動かす部位に腫瘍ができると右半身の麻痺がおこるというというぐあいです(右側に腫瘍ができた時は、麻痺は左半身におこります)。

脳の前方にある前頭葉の左側に腫瘍ができた右利きの人の場合には、無気力、痴呆様行動などの性格変化や尿失禁、右半身の麻痺、言語障害などが出現します。

後頭葉に腫瘍ができた時は、視野狭窄(しやきょうさく)、視野欠損などがみられます。

右利きの人の左前頭葉(左利きの多くの人では右前頭葉)に腫瘍ができると言語障害がおこります。


脳の中心にある下垂体や松果体(しょうかたい)、視床下部付近に腫瘍ができると眼を動かす動眼神経の障害で複視(物が二重に見える)などの異常をおこしたり、ホルモンの分泌異常のために無月経や成長障害などの内分泌障害などがおこることがあります。

小脳や脳幹と呼ばれる部位に腫瘍ができた場合には、手足などがふらつき、調整が効かない失調になったり、聴力障害、顔面麻痺、めまいなどがおこってきます。

2)頭蓋内圧亢進症状

限られた頭蓋内で腫瘍が大きくなると、正常な脳を圧迫し頭蓋内圧が上昇します。これにより持続的な頭痛、吐き気、うっ血乳頭(眼底検査で視神経乳頭がはれていること)などがみられるようになります。

慢性頭痛はその中でも最も注意しなければならないものです。頭痛は脳腫瘍以外の病気でもおこりますが、脳腫瘍の場合には慢性的に持続し、朝起床時に強く、その後は次第に症状が弱くなっていく傾向があります。初期の脳腫瘍の約20%にみられますが、進行するにつれ70%以上みられるようになります。頭痛の増悪とともに吐き気、痙攣、失神などもみられるようになります。これらの症状がみられた時は、すぐに医師の診察を受ける必要があります。

3.画像診断

脳腫瘍の場合、脳ドックを除いて他のがんで行われているような検診制度はありません。今まで述べたような脳腫瘍を疑わせる自覚症状がある場合、早期に診察を受け、症状の経過を詳しく説明して、神経学的な異常があるかどうかを調べてもらうことが大切です。また、脳に転移しやすいがんで他のがんの治療を受けている場合、前に述べた自覚症状があらわれた時には、CT、MRIなどの精密検査を受ける必要があります。

1)CT(コンピュータ断層撮影)、MRI(核磁気共鳴像)

現在の画像診断の中心をなす撮影法です。腫瘍の位置や大きさ、画像上の特徴がわかり、重要な検査です。現在では5mmほどの大きさの腫瘍までわかるようになっています。大きさの変化や形状の時間的変化、周囲の脳との位置関係などを見る上で重要です。

2)脳血管造影

脳の血管を造影することにより、腫瘍への栄養血管や腫瘍自体の血管の性状などの詳細な情報を取得でき、診断や手術検討に用いる重要な検査です。

3)その他

超音波検査は現在手術中に行われ、術中の腫瘍の位置を正確に知る上で重要な役割を担っています。その他にも、いろいろな検査機器が開発されています。

4.病期診断

成人脳腫瘍が画像診断で見つかった場合には、次に治療方法を決定するために脳腫瘍がどのような種類で悪性なのか良性なのか、悪性の場合にはどの程度悪性なのかを決める必要があります。

このためには、開頭手術を行って腫瘍をできるだけとってその組織を顕微鏡で調べ、脳腫瘍の種類と悪性の場合には悪性度を診断する病理診断が行われます。また、画像診断所見によっては、手術で腫瘍の一部を採取して同様に病理診断を行う方法があります。どちらを選ぶかの基準の多くは、画像診断と全身状態によります。

5.治療法の種類

脳腫瘍の治療には、外科療法、放射線照射療法、抗がん剤による化学療法があります。

1)外科療法

外科療法により患部を全部摘出することが最も有効な治療法です。多くの良性の腫瘍はこれで治癒します。しかし、脳腫瘍は良性でも全部切除できないこともあります。手や足を動かす神経のあるところに脳腫瘍ができた場合、正常の脳を傷つけると手や足が動かなくなるので、すべての腫瘍を摘出できないこともあります。手術には機能を損なうことなくどこまで摘出できるかといった難しい判断が必要ですが、最近の最先端のコンピュータ技術を用いたより侵襲(しんしゅう)の低い手術手技と医療機器の進歩は目覚ましいものがあり、治療成績も向上しています。

2)放射線療法

悪性脳腫瘍の全部、あるいは比較的良性の腫瘍の一部に対して、放射線療法は重要な治療法のひとつです。外科療法や化学療法と併用したり、単独でも治療を行います。この場合、できるだけ病巣部だけに照射し正常脳神経には照射しないようにします。良性腫瘍でも、小さな神経鞘腫、髄膜腫には、現在ガンマナイフ治療という方法も用いることがありますが、これも放射線治療の応用です。このガンマナイフは悪性脳腫瘍に対して有効とされています。線源は違いますが、SMARTという集光照射の方法もあります(詳しくは「定位放射線照射」をご参照ください)。

放射線療法については、「放射線療法」もご参照ください。

3)化学療法

抗がん剤による化学療法は、悪性脳腫瘍の治療法として外科療法や放射線療法と併用されて行われています。経口投与、静脈注射、局所投与などの方法があります。いろいろな薬剤の組み合わせや投与の方法が、臨床研究により開発されています。他のがんに対する全身化学療法と違い、脳には脳血管関門が存在し、抗がん剤が効きにくいことがあります。

化学療法については、「薬物療法(化学療法)」もご参照ください。

4)その他の療法

遺伝子治療は、現在米国で臨床研究が行われていますが、悪性脳腫瘍への応用はその中でも注目されているもののひとつです。また、人間がもともともつ免疫力を利用した治療法(「免疫療法」)も臨床試験が行われ、有効性についての検討が行われています。

6.腫瘍の種類と治療法

(「神経膠腫」、「下垂体腺腫」、「神経鞘腫」についての詳細はそれぞれのページをご参照ください。)

1)成人星細胞腫

  • 外科手術(腫瘍摘出術)が主に行われます。
  • 病理学的診断でやや悪性の所見が疑われる場合には、外科手術後放射線療法が行われることがあります。
  • 外科療法後の放射線療法や化学療法の有効性については、臨床試験による検討が行われています。

2)成人悪性星細胞腫と成人膠芽腫

  • 通常は外科療法によって腫瘍をできるだけ摘出し、その後放射線療法により残存した腫瘍をたたく治療法が行われます。
  • 悪性度の高いものでは、外科療法後放射線療法に加え化学療法が行われます。
  • 放射線療法には現在いろいろな方法があり、通常の外照射と呼ばれる照射法の他に、腫瘍内部へ針を刺して照射する方法、摘出された腔に照射する方法、手術中に照射する方法、放射線増感剤を利用した照射方法があります。これらについては臨床試験が行われ、既存の治療法と比較して有効かどうかの検討が行われています。
  • 放射線療法後の化学療法や免疫療法などの治療法は、臨床試験で有効性の検討が行われています。

3)成人脳室上衣腫

  • 外科療法による摘出療法が中心です。
  • 病理学的診断でやや悪性の所見が疑われる場合には、外科手術後放射線療法が行われることがあります。

4)成人悪性脳室上衣腫

  • 外科手術による摘出術後に放射線療法が施行されます。
  • 摘出後、化学療法併用の放射線療法は、臨床試験により有効性の検討が行われています。

5)成人悪性乏突起細胞腫

  • 外科手術による摘出術後に放射線療法が施行されます。
  • 悪性度の高いものや化学療法がよく効く種類に対しては、手術摘出後に放射線療法と化学療法が行われます。
  • 放射線療法後の維持化学療法や免疫療法などの治療法は、臨床試験で有効性の検討が行われています。

6)成人髄芽腫

(詳しくは「脳腫瘍(小児がん情報サービス)」をご参照ください)

  • 外科手術後、放射線療法が行われます。
  • 外科手術後に放射線療法を施行し、さらに化学療法を施行する治療法の有効性については臨床試験中です。

7)成人髄膜腫

外科手術で完治する場合がほとんどですが、外科手術後腫瘍が残った場合には放射線療法が行われる場合もあります。

8)成人悪性髄膜腫

  • 外科療法後、放射線療法を施行します。
  • 放射線療法後の化学療法や免疫療法については、臨床試験で有効性についての検討が行われています。

7.生存率

生存率は、通常、がんの進行度や治療内容別に算出しますが、患者さんの年齢や合併症(糖尿病などがん以外の病気)の有無などの影響も受けます。用いるデータによってこうした他の要素の分布(頻度)が異なるため、生存率の値が異なる可能性があります。
ここにお示しする生存率は、これまでの国立がんセンターのホームページに掲載されていたものです。生存率の値そのものでなく、ある一定の幅(データによって異なりますが±5%とか10%等)をもたせて、大まかな目安としてお考え下さい。

脳腫瘍全体の5年生存率は75%を超えるようになりました。良性の脳腫瘍である髄膜種では93%、下垂体腺腫は96%、神経鞘腫は97%です。一方、神経膠腫全体では38%、最も悪性度の高い神経膠芽腫は6%、その次に悪性度の高い悪性星細胞腫は23%、星細胞腫が66%程度です。転移性脳腫瘍は13%にすぎません。このように悪性脳腫瘍の治療が今後の課題となっています。

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