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白血病と高齢者(はっけつびょうとこうれいしゃ)

更新日:2006年10月01日    掲載日:2006年10月01日

1.はじめに

高齢者(ここでは65歳以上とします)というだけで、がんの治療はできないといわれた時代がありました。現在、日本は世界有数の長寿国になり、同時に寿命を全うするまでの「生活の質(QOL:Quality of Life:クォリティ・オブ・ライフ)」をいかに保つかが問われる時代になりました。

一方、加齢に伴っていろいろな病気が発症する割合が増えています。造血器疾患(血液の病気)も例外ではありません。残念ながら、65歳を超えると白血病で命を落とす方の割合が急に高くなります。高齢者の白血病をどうみていくかが、血液内科医、腫瘍内科医にとって大変重要な問題となってきています。がん治療の専門施設では、エビデンス(科学的な根拠)に基づいて治療の標準的プロトコールを決めていますが、この治療法を定めるための臨床試験には、多くの場合65歳以下の患者さんしか参加できないのが現状です。高齢者に対しても積極的に抗がん剤を用いた治療が行われるようになり、その治療成績も改善されてきましたが、だれもが認める標準治療用語集アイコンというものは、まだ確立されていません。例えば、認知症の症状が強い患者さんの治療をどうするか、抗がん剤の投与量をどう設定するか、後期高齢者(75歳以上)、超高齢者(85歳以上)では治療をどうするかなど、まだまだ問題が山積みです1)

ここでは、高齢者での頻度が特に高い急性骨髄性白血病を中心に解説します。併せて高齢者の白血病の特徴、治療の概略、問題点を述べ、高齢者の生活の質を保ちつつ、治療を行っていくにはどうしたらよいかについて考えます。いちばん大切なことは、病気や治療の内容を理解するだけでなく、患者さんと家族が一緒になって治療に参加することです。

キーワードをあげておきます。
高齢者、白血病、生活の質(QOL)、支持療法、化学療法

なお、白血病の一般的なことは、「白血病の診断と治療」を、専門用語については「造血器疾患の用語集」を、個々の白血病についての診断については「白血病」、「多発性骨髄腫」、「悪性リンパ腫」の各項目をご覧になってください。また、必要に応じて参考になる項目(リンク先)を示しておきます。

2.白血病とは

白血球をつくるもとになる細胞ががん化して白血病細胞(がん細胞)となり、骨髄(血球細胞をつくる工場)や末梢血液中で増殖する病気が白血病です。病気の性質により、急性白血病と慢性白血病に分けられます。日本では、急性白血病の発生頻度は人口10万人あたり6人といわれていますが、増加傾向にあり、特に高齢者での発症が増えています。白血病の原因は、まだ全部解明されたわけではありませんが、一部の白血病(急性前骨髄性白血病、慢性骨髄性白血病)では、遺伝子レベルでの異常が原因となっていることが明らかにされました。異常な遺伝子を修復する薬剤が開発され、すでに一部の患者さんへの投与が行われています。しかしながら、高齢者発症の80%以上は急性骨髄性白血病であり、一部の病型を除いて、支持療法や抗がん剤を用いる化学療法の適応が中心になる場合が多いと思われます。
(「白血病の診断と治療」の項参照)

3.治療の前に

〜主治医から納得できるまで説明を受ける〜

最近ではインフォームドコンセント(「説明と同意」:患者さんに理解してもらえるように、病気について十分な説明を行ったうえでよく相談し、病状、診断、治療方針の決定について合意に達すること)を徹底し、積極的に治療する時代になりました。私たちは、理解力のある高齢者に対しては、成人の方と同様に血液疾患に関する診断、治療、予後に関して十分説明するように心がけています。この場合でも、ご家族(ご家族も高齢である場合が多いです)に対しても繰り返しわかりやすく説明し、質問にも十分に答えるようにしています。血液のがん、とりわけ急性白血病は、治療開始後の早期死亡が避けられない場合もあります。診断が確定した時点で病状や治療についての選択、治療の副作用について十分説明し、医療を提供する側と、患者さんとその家族とのより良い信頼関係を築く必要があります。

しかしながら、高齢の患者さんが自分で意志を決定する場合、ご家族との関係、家族への遠慮、自分の身体状況などから、まわりの意見に誘導されやすいことが指摘されています。高齢者は、経済的にも他者からの影響を受けやすいこともあります。医療者はこのことを念頭に置いて、いかなる状況の変化にも対応できるよう、家族とのコミュニケーションもよくとっていくことが大切です。また家族も人任せではなく、積極的に医療者に働きかけることが必要です。

高齢者では、しばしば認知症用語集アイコンを合併していることがありますが、その原因はさまざまです。明らかに認知症と判定される患者さんでは、ほとんど病気に対する理解が得られないのが現状です。患者さん本人の理解力の程度、家族が患者さん自身のQOLをどう考えているかなどを十分に検討したうえで、化学療法などの治療法の選択、治療のゴールをどこに設定していくかを決めていくことが重要です。

高齢化に伴い、白血病の発症も増加傾向にあります。しかし、若い方の白血病に比べて予後は不良であり、長期生存は10%程度というのが現実です。患者さんのQOLを考えながら治療していくことが大切です。この意味で、家族も一緒に治療に参加する心構えが必要となります。また、患者さんの全身状態が治療成績にも影響します。すなわち、治療を開始する前の日常生活の状態により、化学療法などの治療に対する反応性が予測できるとさえいわれています。実際の全身状態の指標をパフォーマンスステータス(Performance Status:PS)用語集アイコンと呼んで、0〜4の5段階の評価基準が示されています。発見が遅れて病気が進行し、悪くなって寝たきりの状態にまでなってしまうと、治療をしても予後が悪いということになります。

4.高齢者急性骨髄性白血病(高齢者AML)の治療

高齢者の急性骨髄性白血病(AML)には、成人と比較して特有の問題点があります。

【高齢者の急性骨髄性白血病(AML)特有の問題点についてさらに詳しく】


特有の問題点

成人急性骨髄性白血病に比べ、高齢者の急性骨髄性白血病(AML)の特徴として次のことがらがあげられます。

  • 造血幹細胞の異常によって起こる骨髄異形成症候群という病気がありますが、この病態から移行した白血病症例の割合が多く(約30〜40%)、一般的に治療に対する反応が悪いことがわかっています。
  • 骨髄などを材料に染色体の分析を行うと、第5番染色体、第7番染色体の異常が多い場合があります。このタイプは、病気の予後が不良とされています。成人白血病で比較的予後が良好とされている、8番・21番染色体同士の部分的な入れ替わり(転座といいます)、15番・17番染色体同士の転座、16番染色体の構造の異常などがみられる症例の割合は少ないです。
  • 抗がん剤の効きめを悪くする、多剤耐性遺伝子と呼ばれる遺伝子の発現が多くなります。
  • 以前に白血病以外のがんを患って、いろいろな抗がん剤を投与された場合、時間がたってから二次性に白血病が起こることが知られています。
  • 成人と比べて化学療法後の骨髄抑制からの回復が遅く、寛解*到達例でも、正常の造血が十分に回復するまでに30〜40日かかります。

*【寛解】
白血病に対して化学療法などの治療が行われた結果、骨髄で正常な造血細胞が回復し、白血病細胞もほとんど(5%以下)認められず、末梢血でも白血病細胞が認められず、白血球、赤血球、血小板の血球成分が正常化した状態をいいます。寛解を目指す化学療法を、寛解導入療法といいます。

抗がん剤治療(“化学療法”と呼びます)による治療成績は、国内外の報告により若干異なりますが、高齢者AMLの寛解状態に入る割合(寛解率)は、60歳代で60〜70%、70歳以上では50%前後と、加齢につれて低下します。寛解に入りやすいタイプと入りにくいタイプとしていろいろな因子がありますが、初診時の年齢、全身状態(PS)、末梢血の白血球数、染色体異常が多くの報告で見いだされています。初診時のPSが3以上、染色体異常が予後不良とされるタイプである場合の寛解率は低く、年齢、初診時末梢血白血球数が上昇するにつれて、寛解への到達は困難であるとされています。生存期間に関与する不良因子は、高年齢、PS3以上、初診時の末梢血白血球数3万以上、染色体異常が予後不良のタイプであることなど、寛解に関与する予後不良因子とほぼ同様です2,3)

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1)急性骨髄性白血病治療の実際(急性前骨髄性白血病を除く)

骨髄異形成症候群(MDS)から移行した急性骨髄性白血病の予後は、その他と比べて不良です。60歳以上での寛解率は全体の20%程度で、化学療法が行われた症例群の平均生存期間も、約11ヵ月と短いのが現状です。 多剤併用化学療法実施の条件としては、項目(1)にあげる事項に適合し、染色体分析で予後不良群でない場合であれば、本人とその家族と十分協議のうえ治療方針を決めます。

(1)多剤併用療法(75歳まで)

65歳以上75歳まででPSが2以下、認知症はなく、あっても軽度で、家族のサポートが十分期待できる患者さんが該当します。

診断時、特に重大な感染症などの合併症がない場合、多剤併用療法を選択します。高齢者急性骨髄性白血病(高齢者AML)の治療においても、成人と同様、代謝拮抗(たいしゃきっこう)剤であるAra-C(シタラビン)とダウノマイシンをはじめとする、アントラサイクリン系薬剤を中心とした多剤併用療法が基本です。投与する抗がん剤の量は、成人に用いる量の約80%となります。寛解率は約60%です。

【寛解導入療法についてさらに詳しく】


寛解導入療法

DNR とAra-C、あるいはIDR(イダルビシン)とAra-Cの組み合わせが、国際的に行われている寛解導入療法です2,3,4)。高齢者も、アントラサイクリン系薬剤を用いることが、寛解に入りやすい因子として規定されます。

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(2)多剤併用療法(76歳以上:用量をさらに減量)

76歳以上で上記の条件が整っている場合、化学療法として多剤併用療法を選択しますが、用量をさらに減じます。投与する抗がん剤の量は、成人に用いる量の約60%となります。寛解率は約40%です。

(3)寛解後地固め・維持療法の実際

完全寛解後は、成人と同様、寛解導入療法と同じ強度の地固め・維持療法を行います。日本の研究グループである、Japan Adult Leukemia Study Group(JALSG)のプロトコールが多く使われていますが、用量は減量します(成人量の85〜75%)。

【寛解後療法の比較についてさらに詳しく】


寛解後療法の比較

JALSGの研究では、寛解後療法として、強化された地固め療法4コースと、地固め3コース+強化された維持療法6コースを比較したところ、全生存・無病生存に差はみられませんでした。しかし地固め・強化維持療法のほうが、治療期間を短縮することによるQOLの向上が期待できる結果になりました5)。高齢者においては、地固め・維持療法を4回以上実施すると体への侵襲(しんしゅう)も無視できず、治療に関連する毒性が強く出現したり、QOLの低下が顕著となる症例も多くみられました。長期寛解例もわずかであることから、高齢者血液腫瘍研究会(JELLSG)では、地固め・維持療法の回数(2回vs4回)と予後との関係を検討しています。

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(4)治療抵抗例に対するゲムツズマブ Gemtuzumab(商品名:マイロターグMyelotarg)の使用

白血病細胞の表面の顔付き(抗原といいます)の1つで、CD33という名前がつけられているものがあります。この抗原を持つ細胞を特異的に攻撃する薬剤(抗体療法剤)が開発され、実際に使われはじめました。このCD33が陽性で75歳以下であれば、マイロターグ(新しい治療法のトピックス「マイロターグ」の項目参照)の使用を検討します。治療抵抗性になった高齢者急性骨髄性白血病(高齢者AML)に対しても、効果が期待できる治療法です6)。本薬剤の投与による副作用として、悪寒、発熱、悪心嘔吐(おしんおうと)、頭痛、低血圧、高血圧、低酸素血症、呼吸困難、高血糖等が報告されています。この薬剤の使用に慣れている専門医のもとで、注意深く治療を行うことが重要です。

(5)低用量化学療法

少量の抗がん剤を一定期間投与する治療を、低用量化学療法といいます。先ほど多剤併用療法でも記したAra-Cですが、この治療薬の少量療法は、白血病細胞の分化誘導効果(白血病細胞を正常に近い細胞に変化させる形で、白血病細胞を細胞死に追い込む)をねらった治療法です。

主に、診断時の骨髄の細胞数が比較的少ない場合(低形成性骨髄)に対し、行われることが多くなっています(Ara-C少量療法)。

【寛解率についてさらに詳しく】


寛解率

寛解率は、高齢者急性骨髄性白血病(高齢者AML)で約30%、平均生存期間は約11ヵ月です。一般に、低形成性白血病で成績が良好とされ、多剤併用療法が適応されない症例で考慮される治療法です。このほか、Ara-Cとアクラルビシン(ACR)を少量、G-CSFと一緒に使用することで白血病細胞に対する作用を増強させる治療法がありますが(CAG療法)、どのようなタイプの高齢者AMLに対して有効であるかについてのエビデンスは、明らかにされていません。

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(6)支持療法が中心となる場合

寛解導入療法で寛解が得られない場合、また初回寛解導入療法中、染色体分析の結果が予後不良群であることが判明した場合、マイロターグが使えない場合などに考慮します。

全身状態不良(PS3以上)の場合、多剤併用療法を実施しても寛解率10%、平均生存期間4ヵ月と予後不良です。家族と十分協議のうえ、化学療法のメリット、デメリットを十分理解してもらい、治療法を決定します。2回の寛解導入療法を行っても寛解に入らなければ、さらに強力な治療を追加しても寛解に入る確率はほとんどなく、かえって治療に関連する毒性のみが増す可能性が高くなります。このような場合、治療を支持療法中心に切り替えます。すなわち、適切な輸血療法、殖え続ける白血病細胞数を抑えるために、経口投与可能な抗がん剤(スタラシド、エトポシドなど)の使用、併発する感染症の治療、全身状態の悪化を緩和させるステロイド製剤の投与、疼痛(とうつう)に対する治療(WHO国際保健機構で推奨されている3段階方式:モルヒネの適正な使用を含める)を実施します。少しでも自宅での生活ができるよう医療相談室と連携し、家族に対する支援も強化します。胸水が貯留したり、呼吸器感染が完治しない状態などにより酸素吸入が必要な場合でも、本人の意向が強ければ在宅酸素療法(HOT)を導入して、家での生活も可能とします。状態が思わしくなければ速やかに入院できる体制をとることで、本人とその家族に安心感を持ってもらうことが大切です。

はじめから認知症の程度が強い場合、入院生活になじめないことも多いです。家族の理解を得られない場合には、化学療法を安全に実施できない場合がほとんどとなります。入院中の転倒、ベッドからの転落、点滴を自分で抜いてしまうことなどによって、抗がん剤が漏れて皮膚潰瘍を形成するなど、多くの問題が起こります。その結果十分に治療を行うことができず、支持療法や負担の少ない経口剤による、低用量化学療法を選択しなければならないことが多いのが実情です。本人のQOLをよく考えて、主治医と協議することが望ましいと考えます。

(7)骨髄非破壊的造血幹細胞移植

治癒を目指す治療法として、最近は70歳くらいまでの患者さんに、造血幹細胞移植を実施するようになってきています。一部の方で長期生存が期待されますが、治療対象の選定、化学療法のプロトコール、免疫抑制剤の使用法など、今後解決すべき問題は多くあります。治療成績の動向を見極めるべきであり、ミニ移植を多数例実施している施設の専門医の意見を聞くのがよいでしょう。

(「造血幹細胞移植」「ミニ移植」の項目を参照)

2)高齢者急性前骨髄性白血病(FAB分類でM3と呼ばれているAML(急性骨髄性白血病):APLともいう)の治療

(1)レチノイン酸(ATRA)療法の実際

高齢者急性骨髄性白血病(高齢者AML)に占める高齢者急性前骨髄性白血病(高齢者APL)の割合は少ないですが、全APL症例の約25%が60歳以上とされています。染色体異常で形成される、「PML-RARα」と呼ばれる異常な遺伝子があります。これを標的とした治療法(分子標的療法といいます)が、レチノイン酸(All-trans Retinoic Acid:ATRA、ベサノイド)療法です7)。加齢に応じて薬を減量する必要はありません。成人と同様に、末梢血球が正常に回復するまで内服します。治療前末梢血白血球数が3,000/μl(1μlあたり3,000個)を超える場合には、化学療法を短期間併用します(76歳以上の患者さんに対しては、化学療法の用量を3/4ないし2/3に減量します)。
(新しい治療法のトピックス「ATRA/Am80/トリセノックス」(「ATRA/Am80/トリセノックス」の「ATRA」の項目を参照)

【レチノイン酸(ATRA)療法についてさらに詳しく】


レチノイン酸(ATRA)療法

高齢者においても良好な寛解率が得られていますが、JALSGの報告によれば、50〜69歳の完全寛解率が90%であるのに対し、70歳以上では68%にとどまるといわれています8)。早期死亡率、レチノイン酸症候群(ATRA内服による副作用)の合併率は成人と比べて差はありませんが、レチノイン酸(ATRA)投与中に血栓症、心筋梗塞や狭心症を合併したとの報告もあるため、動脈硬化の進んだ高齢者では注意が必要です。

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(2)ATRA抵抗性、再発難治性急性前骨髄性白血病(再発難治性APL)の治療1)亜砒酸(あひさん:トリセノックス)による治療

亜砒酸は、中国では古くから漢方薬としてがんの治療に用いられてきました。急性前骨髄性白血病(APL)細胞に対する分化誘導・細胞死誘導作用が注目を集め、わが国でも再発、難治性APLに対する有用性が確認されています9)
(新しい治療法のトピックス「ATRA/Am80/トリセノックス」(「ATRA/Am80/トリセノックス」の「トリセノックス」の項目を参照)

【亜砒酸による治療についてさらに詳しく】


亜砒酸による治療

房室ブロックなどの心筋伝導系の障害、消化器症状、むくみ、歯痛などの副作用がみられるため、高齢者の使用は十分な観察が必要です。寛解導入は、トリセノックス(成人での容量の2/3)を寛解が得られるまで、計60回を超えない範囲で連日投与します。寛解後の治療は、寛解達成後計25回をめどに投与します。トリセノックスの投与後の再発でも、再投与により再び寛解に入る症例もあり、トリセノックスの作用の仕組みに興味が持たれています。

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(3)治療抵抗例に対するマイロターグの使用

急性骨髄性白血病(AML)細胞に比べ、急性前骨髄性白血病(APL)細胞はCD33の発現量が多いとされ、APL細胞に対する有効性が期待されています。

【治療抵抗例に対するマイロターグの使用についてさらに詳しく】


治療抵抗例に対するマイロターグの使用

国外での検討では、未治療例、再発例に対して高い寛解率が得られています10)。高齢者での治療効果の向上が期待できますが、まだエビデンスとしては確立されていません。

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(4)タミバロテン(Am80、 アムノレイク)による再寛解導入

わが国で開発されたレチノイン酸誘導体「Am80」は、レチノイン酸(ATRA)の約10倍の効力があること、ATRAに治療耐性となるメカニズムに打ちかつことができることから、ATRAを上回る治療効果が期待されています。寛解が得られるまで経口投与しますが、投与期間は8週間を超えないこととされています。
(新しい治療法のトピックス「ATRA/Am80/トリセノックス」(「ATRA/Am80/トリセノックス」の「Am80」の項目を参照)

5.高齢者急性リンパ性白血病(高齢者ALL)

高齢者における急性リンパ性白血病の治療法は、確立されていません。治療は、ドキソルビシン(別名:アドリアマイシン:DXR)、ビンクリスチン(VCR)、プレドニゾロン(PSL)、シクロホスファミド(CY)、L-アスパラギナーゼ(L-asparaginase)を組み合わせたものが国際的に行われていますが、40〜60%の症例に寛解が得られているにすぎません11)
( 「急性リンパ性白血病」の項目を参照)

【高齢者急性リンパ性白血病についてさらに詳しく】


高齢者急性リンパ性白血病

無病での生存期間の中央値は、7〜12ヵ月と極めて短いのが現状です。 プレドニゾロン投与により耐糖能の悪化、精神症状の発現に十分注意します。高齢者では、L-asparaginaseによる重篤(じゅうとく)な副作用が出現する頻度が高く、投与を完遂できる症例は少ないのが実状です。フィラデルフィア染色体陽性急性リンパ性白血病(ALL)では、イマチニブ(imatinib、商品名グリベック)の併用を考慮します。

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6.高齢者骨髄異形成症候群 (高齢者 Myelodysplastic Syndrome:MDS)

骨髄異形成症候群(MDS)は骨髄での造血幹細胞の異常に起因する病気で、血球の形態異常、血球がうまく骨髄でつくられない(無効造血といいます)ことを特徴とする疾患です。MDSに対してさまざまな支持療法、免疫抑制療法、化学療法、造血因子による治療、幹細胞移植などが幅広く検討されてきていますが、有効な治療法はまだ確立されていないのが現状です13〜17)。厚生労働省の治療参照ガイドでも、65歳以上の高齢者症例では、“保存的治療、経過観察”の一言しか記載されていません。

症例の多くが高齢発症であることから、治癒が期待できる造血幹細胞移植は十分には実施できないのが現状です。そうはいっても高齢者の日常生活行為を低下させることなく、治療成績の高い、長期生存が可能な治療法の確立が必要です。また、高リスク進行期MDSに対する化学療法が広く行われるようになってきたものの、急性白血病の場合と異なり、長期生存が得られる症例は少ないのが現状です。現実的には、輸血療法でQOLを保ちつつ経過観察する場合が多いですが、適切な化学療法を選択することにより、よりよいQOLが期待できる場合もあります。ここでは、高齢者に適応できると考えられるMDSに対する支持療法、免疫療法などについての概略と、抗がん剤を用いた低用量化学療法の現況について説明します。

MDSは、骨髄の未熟細胞(芽球と呼ばれている)の割合の増加の程度、赤血球、白血球、血小板の血球減少の程度、染色体分析での予後良好・不良のタイプで、個々の症例の重症度を分類する国際予後分類(IPSS)が確立されています。予後的に低リスク群、中間リスク-I群を「予後良好群」、中間リスク-II群、高リスク群を「予後不良群」に分けることができます。

(「骨髄異形成症候群」の項目を参照)

1)予後良好群に対する治療法の実際 〜支持療法を中心に〜

(1)血球減少が認められる場合でも症状が安定している時期

低リスク群で骨髄での芽球の増多がなく、汎血球減少(赤血球、白血球、血小板の減少)も進行しない症例では、経過観察が原則です。

(2)血球減少が進行し、貧血、出血傾向が出現している場合

現実的には、蛋白(たんぱく)同化ステロイドの服用を開始し、患者さんの様子をみながらビタミンKとビタミンD3の併用を行います。エリスロポエチンが使える場合は併用してもよいでしょう。貧血、出血傾向が臨床症状として顕著となれば、輸血療法を併用しつつ経過をみます。貧血の進行に改善がみられない低形成性骨髄異形成症候群(低形成性MDS)であれば、免疫抑制剤であるシクロスポリンの投与を検討します。症例によっては、抗胸腺細胞グロブリンも治療選択の1つとします。治療方法の選択に、現在のところ明確な規準はありません。

【予後良好群に対する治療法の実際についてさらに詳しく】


予後良好群に対する治療法の実際

(1)輸血療法

貧血が高度となった段階で、赤血球輸血を実施します。ヘモグロビンという血色素の値で判断しますが、本人の活動性、心機能を考慮して、少なくとも1dlあたり6〜8gのヘモグロビンレベルの維持を目安にします。血小板数が1mm3あたり20,000個以下で、出血傾向(歯磨きで歯肉から出血しやすい、皮膚に紫色の出血斑ができやすいなど)が顕著な場合、血小板輸血が考慮されます。

(2)造血因子の投与

好中球減少による感染症を併発した症例に対しては、G-CSF製剤の投与、赤血球造血に必要なエリスロポエチン(EPO)が一定の濃度に達しない貧血症例には、EPOの投与が行われます。EPO投与による貧血改善は、30〜40%の症例で観察されています。

(3)蛋白同化ステロイド療法

従来、骨髄異形成症候群(MDS)の貧血に広く用いられてきました。骨髄での芽球が増加している症例での有効性は認められていませんが、低リスクの症例に対しては約20〜40%の有効率を示します。しかし、生存期間の延長にはつながっていません。

(4)免疫抑制療法

一般的に、プレドニゾロン単独投与による有効性は証明されていませんが、メチルプレドニゾロン短期大量療法が、30〜50%の症例で血球回復に対して有用であるとの報告がされています。有効例では長期寛解が期待でき、病気の初期では、まず試みてよい治療と考えられます。無効例では、シクロスポリンという免疫抑制剤による治療を試みます。

骨髄の造血細胞が極めて少ない低形成性のMDSが、再生不良性貧血と病態が似通っていることから、シクロスポリン療法が用いられるようになりました。この治療が、輸血しなければ良くならない貧血(輸血依存性の貧血)の改善につながったと報告されました。

わが国においても、「厚生労働省特発性造血障害調査研究班」の検討の結果、約60%のMDS症例で何らかの血球回復が観察されました。効果が期待できる状態として、予後良好を示す染色体群やIPSSスコアーで低リスク群などを有する症例があげられました18)。抗胸腺細胞グロブリン(ATG)の有効性も近年報告され、今後わが国でも研究班を中心に検証が進むと思われます。

(5) 分化誘導療法

以前から、分化誘導効果、増殖制御を期待して、ATRA、ビタミンD3をはじめとしたさまざまな分化誘導療法が試みられてきましたが、有用性は実証されていません。しかしながら、QOLを保ちつつ安全に治療が実施できる点では、開発の意義は大きいと考えられます。抗アポトーシス(細胞死)効果をねらった、ビタミンK2療法が最近注目され、芽球の減少効果、血球減少の改善効果が認められ19)ています。また、分化誘導効果との相乗効果をねらったビタミンK2とビタミンD3との併用療法も、現在、「厚生労働省難治性疾患克服研究事業」および「骨髄異形成症候群に対する画期的治療の開発に関する研究班」を中心に、臨床研究が進行中です。

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2)高リスク群に対する治療

(1)低容量化学療法の意義

抗がん剤を少なめに使う治療が行われます。

【低容量化学療法についてさらに詳しく】


低容量化学療法

骨髄異形成症候群(MDS)に対する低用量化学療法は、約四半世紀前から試みられはじめました。その背景として、1980年代に行われた、通常用量での化学療法の治療成績が劣悪だったことがあげられます。また当時、G-CSFなどの造血因子製剤が十分使用できる状況ではなく、支持療法が不十分であったことも、原因の1つと考えられています。低用量のAra-C(Low-dose Cytosine Arabinoside:LDAC)が白血病細胞の分化を誘導する可能性が示唆され、細胞毒性も低く、高齢者に対しても安全で有効な治療法との期待が高まりました。その後、この治療法が広く実施されるようになりました。しかし最近、信頼できる臨床研究の結果、支持療法との比較試験がなされました。LDAC療法の奏功率は32%であり、支持療法群と比較した結果、生存期間、急性骨髄性白血病(AML)への移行の割合に有意の差はみられず、LDAC療法は標準治療として推奨されないと位置づけられました17)。ただし、MDSで限りなく急性白血病に移行しつつある症例で、化学療法による骨髄抑制が十分みられる症例では、寛解率が高いことが観察され、MDSの中には反応が良い症例もあることが示されました。現在、多くの施設での治療の実状を考えると、LDACによる奏功率はせいぜい30%と考えられます。治療による骨髄抑制が高度なこともあり、治療関連死は7〜19%と報告されています。

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(2)多剤併用化学療法の適応

予後を改善させる目的で、急性骨髄性白血病に準じた化学療法を選択してもよいと考えられる症例もあります。

【多剤併用化学療法の適応についてさらに詳しく】


多剤併用化学療法の適応

骨髄異形成症候群(MDS)で、骨髄の芽球の割合が増加しつつある症例に対しても、高齢者では骨髄不全に対する支持療法が中心となります。しかしながら、予後を改善させる目的で、急性骨髄性白血病(AML)に準じた化学療法を選択してもよいと考えられる症例もあります。AMLでの化学療法と同様にPSが2以下で、認知症はあっても軽度、家族のサポートが期待できる症例、言い換えれば本人とその家族がそろって治療に参加できる場合です。そして、診断時に重大な感染症などの合併症がなく、全身状態が良好な場合が対象となります。

現実的には、予後不良染色体のない症例で、経過観察中、骨髄中の芽球が20%を超え、AMLに移行した時点で(おそらく血球減少も進行)全身状態が悪くなる前に、AMLに準じた多剤併用化学療法を選択する場合が多いと思われます。

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3)新規治療薬への期待

(1)サリドマイドおよびその誘導体(レナリドマイド:CC5013:Lenalidomide:RevlimidTM

サリドマイドの有する抗がん活性(がんを抑える作用)が注目され、多発性骨髄腫の治療にすでに応用されています(「多発性骨髄腫」の項目を参照)。このサリドマイドが、低リスク骨髄異形成症候群(低リスクMDS)の貧血の改善にも有用であることが報告されてきています。サリドマイドの神経系副作用を軽減させた誘導体を使っての臨床研究が進み、MDSで5q-症候群(染色体分析で第5染色体の下半分が欠損する異常)を示す症例での貧血改善効果が高いことがわかりました。ただし、有用性の検証、高齢者での安全性の確認は今後の課題です。

(2)低用量ピリミジンアナログ療法

低用量化学療法で、唯一期待されている5-Aza-2'-deoxycytidine(デシタビン:Decitabine)は、低用量で細胞の分化を誘導するとされています17)。特記すべきことは、IPSS(国際予後分類)で高リスクに入る群で64%の奏功率が得られたことです。一方、高度の骨髄抑制、感染症の発症が問題点としてあげられています。しかしながら、検証に耐えられるデータはわが国ではまだありません。

【骨髄異形成症候群(MDS)の化学療法の問題点についてさらに詳しく】


骨髄異形成症候群(MDS)の化学療法の問題点

骨髄異形成症候群(MDS)の化学療法の問題点として、治療後の骨髄抑制の期間が延びることで感染症併発のリスクが増大すること、寛解率が低く寛解期間も短いこと、治療関連合併症による早期死亡が依然として多いこと、えてして日常生活行為の不良な高齢者を対象とした治療頻度が多いこと等があげられています。これらを解決する有用な治療法の開発が待たれますが、エビデンスに基づく治療(EBM)法の確立が重要視されている中、良いデザインの臨床研究を組むことが困難な場合が多いとされています。現在進行中のJALSG MDS 2000プロトコールでの、急性骨髄性白血病の標準治療として確立されつつあるAra-C+IDRによる定型的な化学療法と、低用量Ara-C+ACR(アクラルビシン)との無作為比較試験の結果が待たれます。これにより、低用量療法の有効性が示されるかどうかが評価されることになります。MDSに対する低用量化学療法の有用性については、いまだ明確なエビデンスが示されていないのが現状です。高齢者において合併症をできるだけ抑え、QOLの改善を図りながら病勢をコントロールしていく意味では、今後、望ましい低用量療法の開発が必要となります。

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4)“ミニ移植”について

骨髄異形成症候群(MDS)の病勢をコントロールする画期的治療法がないという背景があり、高齢者に対しても移植を積極的に適応していこうとする動きがあります。高齢者MDSの移植成績は、報告によって大きく異なります。移植によってQOLの改善を期待できる予後良好な結果が、MDSのどのような症例で期待できるか、まだ明らかにされていません。また、高齢者に安全かつ効率的な移植方法も結論が出ていません。
(「造血幹細胞移植」「ミニ移植」の項目を参照)

7.高齢者慢性骨髄性白血病(高齢者CML)

1)イマチニブによる治療(「グリベックと新規PTK阻害剤」の項目を参照)

イマチニブは、高齢者の慢性骨髄性白血病、慢性期においても標準治療と位置づけられています。

【イマチニブによる治療についてさらに詳しく】


イマチニブによる治療

9番・22番染色体の相互転座(こうした染色体は、フィラデルフィア染色体と名づけられています)により生じた、BCR-ABLという異常な遺伝子がつくる蛋白質(チロシンキナーゼ)が、慢性骨髄性白血病(CML)の発症と密接に関連していることがわかっています。この蛋白の活性を特異的に阻害する薬剤(Imatinib Mesilate:イマチニブ、商品名グリベック)が、フィラデルフィア染色体陽性白血病に対する分子標的療法剤として登場しました。国際的大規模試験の結果、インターフェロン(IFN)治療無効の慢性期CML、骨髄性急性転化CMLで優れた成績が示され、未治療慢性期での第一選択薬となりました12)。高齢者慢性期CMLにおいても、標準治療と位置づけられています。ただし、副作用の発現も多く、悪心・嘔吐、下痢、顔面・下肢のむくみ(浮腫(ふしゅ))が高率にみられます。治療には長期間の服用が必要なことから、十分な監視が必要です。高齢者では、成人例に対する標準量の投与では血球減少の程度が高く、減量しなければならない場合が少なくありません。この場合でも寛解が得られており、有効な血中濃度がどのくらいなのかなどの評価が必要です。

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2)新規チロシンキナーゼ阻害剤

上記、イマチニブへの治療抵抗性が問題となってきていますが、新たなチロシンキナーゼ阻害薬である「ニロチニブ:nilotinib (AMN107)」や、「ダサチニブ:dasatinib」の治療抵抗症例での有用性が証明されつつあります。
今後の動向に注目したいと思います(「グリベックと新規PTK阻害剤」の項目を参照)。

3)その他の治療

イマチニブが使えない状況では、現時点ではインターフェロン療法を選択し(グリベックが登場する以前は標準治療の1つと考えられていました)、これで効果不十分な場合、Ara-C少量、ヒドロキシカルバミド(hydroxyurea、別名:ハイドロキシウレア、商品名:ハイドレア)等を併用します。

8.高齢者慢性リンパ性白血病

B細胞性慢性リンパ性白血病(B-CLL)は欧米と比べて症例が少なく、わが国では全白血病の数%にすぎません。B-CLL患者に治癒をもたらす治療法は、確立されていません。高齢者に多く一般に経過が緩(ゆる)やかなことから、脾臓(ひぞう)、肝臓などの臓器腫大、骨髄機能が低下し貧血が進行する、血小板数が減少する等の徴候が顕著になるまでは治療しないのが一般的です。エビデンスとして治療効果が認められているのは、フルダラビン(fludarabine)療法です。腎機能に応じた減量を厳格に行ったうえで5日間点滴静注し、23日間休薬する。これを1コースとして繰り返します。
(「慢性リンパ性白血病」の項目を参照)

9.高齢者成人T細胞性白血病・リンパ腫(ATL)

まだ標準とされる治療法はありません。慢性型で病勢が進行性の場合、エトポシドを1〜2週間内服し、2週間ほど休薬する治療法があります。病気の勢いが増し、急性期に移行した場合は化学療法を年齢に応じて70〜80%の用量で実施しますが、長期的な予後を改善させるまでにはなっていません。
( 「成人T細胞白血病リンパ腫」の項目を参照)

10.高齢者白血病治療にあたって注意すべきこと

1)臓器予備能の問題

加齢による生理的変化により、全身の臓器の予備能が低下する場合がしばしばみられます。抗がん剤を投与する際には、薬物の体内での変化、体内からの排泄(はいせつ)の状態を考慮することが必要です。

(1)腎機能・肝機能に問題があるとき

体の中の老廃物は腎臓でろ過されますが、その機能は加齢に伴い減少します。また、肝臓を流れる血液の量は、65歳で25歳成人の約40〜45%になるといわれています。したがって、腎臓や肝臓の機能を正しく評価して、抗がん剤の投与量を調整する必要があります。また、肝炎ウイルスのキャリア(肝炎の症状はないが、ウイルスを体の中に持っている状態の方。特に、B型肝炎ウイルスキャリア)に副腎皮質ステロイド剤(プレドニゾロンなど)を使用した場合には、重い肝臓障害が誘発されることがあり、注意が必要です。

(2)心筋毒性の問題

高齢者においては、心臓の機能も低下していることがしばしばみられます。アントラサイクリン系薬剤と呼ばれる抗がん剤を使用する場合、ある程度の投与総量を超えると心筋への障害が出現し、心筋へのダメージが起こり、心筋梗塞や狭心症、心不全の状態になることがあります。通常の投与量ではまず問題はないのですが、注意が必要です。総投与量を把握すること、心臓超音波検査で心臓の収縮機能を定期的に評価すること、採血で心不全を評価するいろいろなデータを追跡することにより、心筋障害の発生を予知できるように監視する仕組みができています。実際の投与では、成人では短時間で注射するところを、30〜60分かけてゆっくりと点滴で静脈内に投与する方法により、心筋毒性を軽減させることができるといわれています。

(3)骨髄機能の抑制

骨髄は、正常な血球細胞(赤血球、白血球、血小板)をつくる工場です。抗がん剤は正常な骨髄にも作用して、その機能を一時的に弱めます(骨髄抑制といいます)。この結果、赤血球が減ると貧血のため息切れなどの症状が、白血球(好中球)が減ると感染しやすくなって発熱などの症状が出てきます。また、血小板が減ると出血を起こしやすくなります。白血病はもともと、この骨髄にがん細胞が増殖している状態ですので、抗がん剤の投与でさらに骨髄障害を起こしやすい状態になります。抗がん剤の効果で骨髄中のがん細胞が減れば、正常な血球細胞が回復してきます。この回復までの間、さまざまな工夫(支持療法)がなされます。

(4)その他

副腎皮質ステロイド投与による糖尿病、骨粗鬆症(こつそしょうしょう)の悪化があげられます。高齢者では血管そのものの弾力が弱くなり、もろくなってきます。また、血管周辺の結合組織(クッションの役割)も少なくなり、投与中に抗がん剤が血管の外に漏れてしまうことがあります。この結果、血管に沿って炎症が起こったり、漏れた部分に潰瘍(かいよう)ができたりすることがあります。このような場合には、直ちに適切な処置を行う必要があります。

2)認知症の問題

前にも述べましたが、認知症の問題は深刻です。患者さんの認知度に応じて病気の説明の内容を考えなければいけませんし、家族との相談の結果に基づいて実際に治療開始となる場合でも、患者さんの協力がなかなか得られない場合が少なくありません。家族との協力関係が大切です。また、もともとの病気で貧血が高度であったりすると、精神活動の様子が一見、認知症と区別がつかない場合もあり、輸血によって症状が改善することもあります。うつ病や譫妄(せんもう)でも、認知症に見えてしまう場合もあるので鑑別が必要です。本当に認知度が低下しているのか判断が難しいときは、精神科医の応援を頼むこともあります。うつ状態、譫妄に対しては、適切な薬物療法が必要です。

【化学療法における支持療法の重要性についてさらに詳しく】


化学療法における支持療法の重要性

高齢者においても、強力な化学療法により治療成績は向上しているものの、治療に関連する合併症で死亡することが問題となります。原因として、骨髄抑制期で好中球が著しく減少しているときの感染症で、細菌性肺炎、真菌症、敗血症が最も多くみられます。こうした観点から、高齢者においても支持療法が重要です。

  • 無菌空気層流装置の使用:状況にもよりますが、できるだけきれいな環境で治療を受けていただきたいと思います。空調設備の整った個室があればよいのですが、場合によっては簡易型無菌空気層流装置といって、複数人数の病室でもベッド単位で空調できる装置を使ったりすることもあります。
  • 予防的抗菌剤の内服・吸入:消化管に存在する常在菌も、骨髄抑制期には感染の原因菌になることもあります。場合によっては、抗菌剤で滅菌したり、あるいは抗菌剤を吸入します。
  • 高齢者では虫歯、歯周炎の合併が多く、日頃からの口腔内(こうくうない)のケアも大切です。余裕があれば、治療前に虫歯の治療をしておきます。また痔核(ぢかく)、痔瘻(ぢろう)など、肛門部の感染の原因となる病巣のケアも大切です。細かいことですが、ひげ剃りや歯磨きで皮膚や歯肉を傷つけないよう注意します。
  • 抗がん剤使用による好中球減少時の発熱に対しては、原因菌の培養結果を待たずに抗菌薬を開始します。血液中の好中球の数が、1mm3あたり1,000個を下回ると感染の危険が増します。経験的抗菌薬使用ガイドラインが示されており、投与に当たっての抗菌薬の種類、使用の順番などが決まっています。もちろん、培養で菌種が同定された場合は、感受性の高い薬剤を使用します。
  • 以前、結核症にかかった患者さんでは、経過中に結核症の再燃がみられることがあり、注意深く経過をみていかなければなりません。
  • 化学療法による骨髄抑制に伴う好中球減少に対しては、積極的にG-CSF(顆粒球・コロニー刺激因子、グラン、ノイトロジン、ノイアップという製剤があります)を使用します。G-CSFは、骨髄に働いて正常の好中球を増やす薬です。たまにG-CSFによって白血病細胞も殖えてしまう場合もありますので、使用方法は主治医に任せてください。
  • 最後に忘れてはいけないのは、清潔認識です。菌を持ち込まないこと、菌を広げないことが鉄則です。ご家族にお願いなのですが、病室に入るときは必ず手洗いを行ってください。病室でいちばん汚いのは、ベッド柵、テーブルです。床は意外ときれいです。一昔前にやっていたように、スリッパに履き替えて、ガウンを着てという操作は、現在では意味のあることではないことがわかっています。状況によっては、マスクをしていただくこともあります。風邪気味だと感じたときは、お見舞いを控えるようにお願いします。

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11.おわりに

高齢者白血病の治療の現況、問題点について概説しました。合併症をできるだけ抑え、QOLの改善を図りながら病勢をコントロールしていくために、高齢者にとってさらに望ましい治療法の開発を続けていかなければなりません。今後も高齢者白血病の治療のエビデンスをつくっていくため、多施設での臨床研究を推し進めていく必要があります。患者さんとその家族からのご意見もいただきながら、この項の記載事項をさらに充実したものにしていきたいと考えています。以下のホームページもご参照ください。

外部サイトへのリンク高齢者血液腫瘍研究会(JELLSG)のホームページ(1998年発足)

【参考文献】


参考文献

高齢の方の白血病に関する主な文献


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