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神経膠腫(しんけいこうしゅ)

更新日:2006年10月01日    掲載日:1997年08月23日

1.神経膠腫とは

神経膠腫(グリオーマ)とは、脳に発生する悪性腫瘍で、原発性脳腫瘍の約30%を占めます。腫瘍を構成する細胞の形態から、星細胞腫(せいさいぼうしゅ:最も悪性である膠芽腫を含めると原発性脳腫瘍の22%程度を占めます)、乏突起膠腫(ぼうとっきこうしゅ:原発性脳腫瘍の約1.3%)、上衣腫(じょういしゅ:約1.1%)、脈絡乳頭腫(みゃくらくにゅうとうしゅ:約0.4%)、髄芽腫(ずいがしゅ:約1.2%)などに分類されます。一般に、この腫瘍は周囲の脳にしみ込むように広がっていき(浸潤:しんじゅん)、正常脳との境界が不鮮明で、手術で全部摘出することは困難です。そのため、通常は再発を予防する目的で手術後の放射線療法や化学療法などが必要となります。

国内における脳腫瘍(転移性脳腫瘍を除く)の発生頻度は、人口10万人に対し12人程度とされ、欧米とほぼ同じであるといわれています。神経膠腫はそのうちのおおよそ30%を占め、最も多い腫瘍です。神経膠腫の中で最も多いのは星細胞腫で、その悪性度によって大きく4段階(グレード1〜4)に分けられます。最も悪性度の低いグレード1は、小児の小脳に発生する星細胞腫で、この腫瘍だけはあまり周囲の脳に浸潤しないので、手術のみで治癒することが期待できます。グレード2以上は手術だけでは再発することが多く、手術後に放射線療法や抗がん剤による化学療法が行われます。特にグレード4は、脳腫瘍の中でも最も悪性度の高い腫瘍のひとつで、膠芽腫(こうがしゅ)と呼ばれています。膠芽腫は、現在なお治療が困難な疾患であり、手術だけでは大半が数ヶ月以内に再発するため、術後の放射線療法や化学療法は必須です。

2.症状

1)頭蓋内圧亢進症状(ずがいないあつこうしんしょうじょう)

脳正中断面の解説図

脳腫瘍の症状として頭痛・吐き気・嘔吐がよくあげられますが、これは頭蓋骨の内部の圧が高くなることによっておこる症状(頭蓋内圧亢進症状)です。脳は頭蓋骨という硬い入れ物に囲まれているため、脳腫瘍によってこの入れ物の中の容積が増え、内圧が上昇した結果、これらの症状がおこります。特に悪性腫瘍においては、大きくなる速度が速く、しかも腫瘍の周囲に広範な脳のむくみを伴うため、急激に圧が上昇します。最も多い症状は頭痛で、腫瘍の部位に一致して痛くなることも少なくありません。腫瘍のできる部位によっては、腫瘍が小さくても脳の中にある特殊な水(脳脊髄液)の流れが障害されて、脳室といわれる所に水がたまってしまい、水頭症を引きおこします。この場合も、容積が一定の頭蓋骨の中に水がたまってくるので頭蓋内圧が高くなります。頭蓋内の圧が極度に高くなると、大脳と小脳の間にあるテントという膜の隙間や、脳と脊髄を連絡する大後頭孔に向かって脳の一部が陥入する脳ヘルニアがおこり、突然意識がなくなったり、呼吸が停止するなどの重篤な状態を引きおこします。

2)局所症状

脳外側面の領域と名称

脳腫瘍のもうひとつの症状は、腫瘍ができている部分の脳の働きが障害されることによっておこる症状です。脳は部位によって働きがはっきり分れているため、腫瘍のできた部位によって出現する症状が異なります。例えば、前頭葉と頭頂葉を分ける中心溝という溝のすぐ前は運動野と呼ばれ、運動神経細胞が中央から側方に向かって足、手、顔の順に並んでいます。この領域の障害により強い運動麻痺が出現します。中心溝のすぐ後ろが感覚野であり、感覚神経が同様に足、手、顔の順に並んでいます。

また、優位半球(多くは左大脳半球)の前頭葉の側方および側頭葉の後上方には言語中枢があり、それぞれ障害を受けると、相手の話は理解できるが自分ではしゃべれない運動性失語と、相手の話も理解できなくなる感覚性失語をきたします。後頭葉は視神経の中枢であり、一側の後頭葉の障害は、その反対側の半盲(左右ともに右半分あるいは左半分の視野が欠ける状態)をおこします。その他、腫瘍の発生部位により、左右を間違える、計算ができなくなる、読み書きができなくなる、記憶が悪くなるなどさまざまな症状が出現するため、その症状から逆に腫瘍の部位を推察することができます。

小脳は運動のバランスをとる部分であるため、小脳腫瘍ではまっすぐに歩けないなどの歩行障害や手足のふるえが出現します。また、脳脊髄液の通路に近いため、その通過障害により水頭症も出現します。脳幹は脳のすべての神経が集まり脊髄に移行する部分であるため、小さな病変でも四肢が麻痺します。また、大脳の病変では反対側の片麻痺などをおこしますが、脳幹部では顔面や目の動きの麻痺と手足の麻痺が反対側になります。

3.診断

CT、MRIによってほとんどの脳腫瘍の診断は可能です。専門医が診れば、腫瘍の部位だけでなく、多くはその腫瘍の種類まで診断可能になります。CTはX線を用い、MRIは磁気を利用して断層写真をつくるものですが、情報量はMRIのほうが多く、人体に対する影響も少ないとされています。しかし、強力な磁気を用いるため、ペースメーカーを使用している場合や、過去の手術で体内に金属を埋め込んである場合などは検査ができないこともあります。

手術を行う際には、腫瘍と脳の血管との関係をみたり、腫瘍にどの程度血管が入っているかなどを調べる目的で脳血管撮影が行われます。足のつけ根の動脈から細い管を挿入し、頸動脈や椎骨動脈まで進めて造影剤を注入してレントゲン撮影を行います。より簡便な方法として、頸動脈に直接針を刺して造影剤を注入することもあります。また、最近ではMRIやCTを用いて脳血管を映し出す方法もとられています。

4.各種神経膠腫の特徴

生存率は、通常、がんの進行度や治療内容別に算出しますが、患者さんの年齢や合併症(糖尿病などがん以外の病気)の有無などの影響も受けます。用いるデータによってこうした他の要素の分布(頻度)が異なるため、生存率の値が異なる可能性があります。
ここにお示しする生存率は、これまでの国立がんセンターのホームページに掲載されていたものです。生存率の値そのものでなく、ある一定の幅(データによって異なりますが±5%とか10%等)をもたせて、大まかな目安としてお考え下さい。

1)星細胞腫

一般に脳腫瘍の症状は、徐々に増強する頭痛と片麻痺などの神経症状を特徴とします。悪性度の高い星細胞腫では、症状の発現から重篤な意識障害をきたすまでの期間が短く、数週間〜数ヶ月ですが、悪性度の低いものでは数年におよぶこともあります。また、突然の痙攣(けいれん)発作で発症する場合もあります。一般に悪性度の低い星細胞腫は、CTでは黒くはれた画像として映ります。造影剤を静脈注射してもほとんど変化が認められないため、脳梗塞と区別のつきにくいものもありますが、多くは症状の出現のしかたで脳血管障害と区別されます。悪性度が高い星細胞腫は、造影剤により辺縁がリング状に白く造影され、内部は壊死(えし)をおこしているため黒く抜けたままです。また、周辺には広範な脳浮腫が認められます。MRIにより、腫瘍の広がりや周囲の正常脳との関係はよりいっそう明瞭になります。治療法については後述しますが、正常な脳との境界が不明瞭なため、手術のみでは腫瘍全部を摘出できないために、術後に放射線治療や化学療法が行われます。予後はグレードによって異なります。比較的おとなしいタイプのグレード2の星細胞腫であれば5年生存率は60〜70%ですが、最も悪性のグレード4では10%以下です。

2)乏突起膠腫

星細胞腫に比べ、経過が長いことが多く、数年来の痙攣発作を主症状とすることも珍しくありません。前頭葉に多くみられ、石灰化を伴うことが多く、ときに硬膜への浸潤や腫瘍内出血もみられます。まれには再発を繰り返し、頭蓋外への転移も報告されています。予後は星細胞腫よりもよく、5年生存率は70〜80%で、悪性の乏突起膠腫でも比較的よく化学療法に反応します。

3)上衣腫

大脳の深部には脳室と呼ばれる脳脊髄液を貯留する部屋があり、その壁を形成しているのが上衣細胞と呼ばれる細胞です。その上衣細胞より発生するのが上衣腫であり、普通は脳室壁に接する形で存在します。悪性度はあまり高くありませんが、大脳深部に発生することが多いため、手術で全部摘出することが難しく、術後に放射線療法や化学療法が追加されます。上衣腫の中には治療後すぐに再発し、急速に病状が進行する場合もあります。5年生存率は60〜70%程度です。

4)脳幹グリオーマ

脳幹部、特に橋と呼ばれる大脳と脊髄の中間部分に発生する星細胞腫は、特別に脳幹グリオーマとして扱われ、小児に好発します。眼の動きをつかさどる動眼神経や顔の筋肉を動かす顔面神経などの脳神経の障害側と手足の麻痺が反対側になるのが特徴です。また、両手両足の四肢が麻痺することもあります。手術が困難な部位であるため、手術が行われたとしても組織を確認するだけのことが多く、放射線照射主体の治療が行われていますが、予後はよくありません。

5)髄芽腫

小脳の中央部(虫部)より発生する小児の悪性腫瘍です。脳脊髄液の通過障害により、水頭症をきたしやすい疾患です。頭痛、嘔気、嘔吐などの頭蓋内圧亢進症状があらわれる他、歩行失調をきたしたり、姿勢保持が困難になったりします。元来、極めて悪性度が高く予後不良の腫瘍ですが、放射線の治療効果が高く、手術で摘出後、全脳、全脊髄に放射線照射を行うことにより、長期生存が期待できるようになってきました。また、抗がん剤が有効で、放射線と同時に用いられる他、放射線照射前に化学療法を行って照射量を減少させる試みがなされています。

5.治療

悪性神経膠腫に対しては手術、放射線療法、化学療法などを組み合わせた治療が行われます。この腫瘍は、正常脳に浸潤する形で発育するため、手術で全部摘出することは不可能ですが、最も悪性度の高い膠芽腫でも可能な限り広範に切除できた場合ほど生存期間が延びています。しかし、腫瘍を全部摘出すると正常な脳の機能を損なう可能性もあります。

放射線療法は、原則としてすべての悪性神経膠腫に対して行われます。かつては全脳に照射されていましたが、最近では放射線治療後の障害を少なくするため、腫瘍になるべく限局して照射するようになってきました。

抗がん剤は、単独では脳腫瘍に対する治療効果は大きくありませんが、放射線との併用により、その治療効果が高まります。わが国においては、ニトロソウレア系の薬剤であるACNU(ニドラン)が多く用いられます。一般には放射線療法開始時と6週目の2回静脈内注射されますが、さらに他の抗がん剤やインターフェロンなども組み合わせて投与されることがあります。その後も約2ヶ月ごとに繰り返し、維持療法としてこれらの薬剤が投与されます。

また、最近では,経口の抗癌剤であるテモダールが新規の治療薬として認可され、悪性神経膠腫の治療に使われ始めています。

6.再発時の治療

悪性神経膠腫の多くは、上記のような治療を行っていても初期治療から数ヶ月〜数年で再発し、その際はさらに治療が困難になっているのが現状です。再発しても再手術が可能な場合もありますが、運動野、言語野などの深部に進展した場合は、再手術が難しくなります。可能な限り手術で腫瘍を摘出し、できれば放射線の追加照射を行います。しかし、多くの場合、すでに大線量の照射が行われており、追加照射による正常脳への影響を考えると照射できる放射線の量は限られるので、初回の照射に比べ治療効果も低くなります。また、抗がん剤もACNUを用いていながらの再発の場合は、それ以外の薬剤の選択が必要となり、やはり治療効果は低くなります。最近では、再発の病巣が小さければ、その部分だけに絞って放射線の照射を行うことができる定位的放射線治療が行われています(詳しくは「定位放射線照射」の項を参照して下さい)。

7.治療の副作用(外科療法による副作用対策)

脳腫瘍に対する開頭手術は、他の臓器の手術と比較して合併症が多いということはありません。最近の画像診断の進歩により、術前に腫瘍のある部位や広がりが詳細に描出されるようになりました。手術中も顕微鏡の使用や各種のモニタリングにより、摘出範囲がかなり正確に把握できるために、予定通りの手術が行われた際には、術前に比べ手術後の神経症状が悪化することは少ないといえます。しかし、ひとたび術後出血などをおこすとその症状は重篤であり、強い麻痺を残したり、意識障害をきたしたりすることもあるため、特に手術終了時の止血は慎重に行われます。術後血腫は、摘出した腫瘍腔内、脳内、硬膜下、硬膜外のいずれの部位にもおこりえます。術後に強度の頭痛が続いたり、意識障害や運動麻痺などが出現した場合には、術後血腫を疑い早急にCTを行い、必要に応じて再手術を行います。血腫のない場合でも術後数日間は脳浮腫が強まり、神経症状が悪化することがあります。一般には、ステロイド剤やグリセロールなどの脳圧降下剤の使用により改善しますが、ときには減圧のための開頭が必要になることもあります。術後に運動麻痺がある場合は、関節の拘縮(こうしゅく)の予防や運動機能回復のため、早期からのリハビリが必要です。運動麻痺に対するリハビリだけでなく、言語障害に対するリハビリも行われています。

8.合併症

手術に伴う合併症以外では、放射線療法や化学療法に伴う合併症が問題になります。放射線の照射に伴う脳浮腫により、照射期間中の頭痛や嘔気、倦怠感などが出現することがあります。抗がん剤を併用しない場合は、白血球数や血小板数が減少することは少ないですが、髄芽腫に対する治療などで全脊髄に照射を行う際は、骨髄の血液を造る機能が強度に抑制されることがあります(骨髄抑制)。白血球数が減少して重篤な感染症をおこしたり、血を止める時に重要な働きをする血小板数が少なくなって出血をしやすくなったりするので注意を要します。抗がん剤だけの治療でも骨髄抑制をきたします。薬剤の種類により、1週間〜数週間にわたり血液状態が悪化します。特に脳腫瘍に対して用いられることの多いACNUでは、治療後3〜4週後に骨髄抑制が最も強くみられます。次回の抗がん剤投与を延期したり、投与量を減らすなどの工夫が必要です。

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