小児がんの治療を理解するためには、検査値についてある程度の勉強が必要です。病院によっては毎日の検査結果をプリントアウトして渡してくれるところも多いと思われますが、その読み方を教えてくれる時間はとれないかもしれません。本ページでは代表的な検査についての解釈の方法を示します。なお、ほとんどすべての検査において小児の正常値は成人の正常範囲とは異なっているため、注意を要します。
病院によってはCBC(Complete blood count)と呼んでいるかもしれません。
「Blood」は「血液」、「Cell」は「細胞」のことですが血液細胞は丸いので日本語では「球」と言っているようです。正常値は5000から1万です。単位は1立方ミリメートル(1mm3)=1マイクロリッター(1μl)当たりの個数で表します。ただし通常は1000を掛けないと正しい値になりません。すなわちWBCが5であればそれは5×1000=5000ということになります。白血球の総数が正常か異常かということには大きな意味はありません。白血球には多くの種類があり、それぞれの細胞の数が大きな意味を持ちます。それは血液像あるいは白血球分画という欄にパーセント表示で載っています。白血球のうちまず顆粒(かりゅう)球について述べます。顆粒球は文字どおり細胞内に顆粒があるもので好中球、好酸球、好塩基球の3種類からなります。
顕微鏡で見たときに顆粒が中性に染まることからこの名称がつきました。細菌(バクテリア)や真菌(カビ)などのばい菌を直接攻撃して食べる細胞です。通常はstab(桿状核球:かんじょうかくきゅう)とseg(分葉核球:ぶんようかくきゅう)を合わせたものです。例えばstabが2%でsegが52%だったら好中球は合わせて54%ということになります。このとき白血球総数が5000であれば好中球は5000×0.54=2700ということになります。好中球数が500未満になると感染を起こしやすくなります。500未満になると生ものを禁止している(加熱食のみ食べる)病棟もあるかもしれません。好中球数が100未満になると敗血症(細菌が血液に乗って全身に広がる)が起こりやすくなります。したがって好中球数が100未満のときに発熱があったらすぐに血液培養検査用の採血をして抗生物質を点滴投与しなければなりません。担当の先生が「白血球数はまずまずだけど中身がまだ足りませんね」などと言うとき、その中身とは好中球のことと思ってください。
顆粒が酸性の色素で染まることからこの名称がつきました。主に喘息(ぜんそく)やアトピー性皮膚炎などのアレルギー性疾患で増加します。小児がんの治療では重要ではありません。
顆粒がアルカリ性の色素で染まることからこの名称がつきました。免疫系に関係するといわれていますが、何と、いまだにその存在意義がよくわかっていない白血球です。
次は顆粒球以外の白血球です。
免疫を担当する賢い細胞群です。大まかにTリンパ球とBリンパ球に分かれますが、顕微鏡では区別がつかず、フローサイトメトリーという機械を使わなければわかりません。しかし毎日の臨床では2つを区別して考える必要はありません。Tリンパ球は細胞性免疫を担当し、主にウイルスが感染した細胞を攻撃します。一つ一つのTリンパ球は1つの標的(例えばインフルエンザ専門のTリンパ球など)を認識します。Bリンパ球は液性免疫を担当し、抗体(ガンマグロブリン)を産生します。すなわち、麻疹(ましん)に対する抗体、風疹(ふうしん)に対する抗体など一つ一つのBリンパ球は1種類の抗体を産生します。無作為に直接ばい菌を攻撃する好中球に比べて特異性が極めて高い細胞であり、またその免疫学的な記憶は長期間続きます。麻疹に一度かかると終生免疫ができるのもリンパ球のおかげです。リンパ球が200以下など、極端に少なくなると、ウイルス感染症やカリニ肺炎などにかかりやすくなります。特にステロイド剤を長く用いるとカリニ肺炎にかかりやすくなるため、リンパ球が少ない患者さんは抗菌薬であるST合剤をのんで予防します。
好中球のように細胞の核が分かれず、核が1つしかないのでこの名称がついたと思われますが、リンパ球も核が1つですからよい名称ではありません。単球は細菌などを食べて(貪食(どんしょく)という)その中身を吟味してリンパ球に教えるという働きを持っています。化学療法を行うと白血球が減少し、やがて白血球が増加してきますが、好中球に先だって単球が増加してくることが多いです。担当の先生が「単球が回復してきたからもう大丈夫でしょう」などと言うことがあると思います。
正常人の血液中には存在しません。ところで芽球(blast)という細胞があり、これは骨髄中の若い細胞を意味します。化学療法後に白血球が下がって、今度は回復してくるときに芽球が血液中に出現することがあります。白血病細胞も若い細胞なので回復期の芽球と区別がつきにくいことがあり、白血病の再発か、とびっくりさせられます。そんなときはあせらずに数日待つと、芽球が消失して白血病の再発ではなかったことがわかります。
ワインではありませんが、WhiteとくればRedもあります。赤血球数の正常値は350万から500万です。単位は1立方ミリメートル(1mm3)=1マイクロリッター(1μl)当たりの個数で表します。といっても赤血球数が日常議論されることはほとんどないと思います。赤血球にはヘモグロビン(血色素)という鉄を含むタンパク質が含まれています。赤血球の働きは酸素を運搬することです。酸素はヘモグロビンの中の鉄と結合して運ばれますから、ヘモグロビンの値はRBCの数よりも重要です。ヘモグロビンは通常HgbまたはHbと略されます。医者はよくドイツ語気分で「ハーべー」などと言うかもしれません。Hgbの正常値は10g/dl以上です。化学療法の最中には7g/dlを下回らないように予防的に輸血が行われます。
血小板は丸くはなく、お皿のような形をしているのでプレートと呼ばれます。正常値は15万から40万と大きな幅があります。注意すべき点は、病院によって千単位だったり万単位だったりすることです。すなわちpltの値が5だったときにA病院ではこれを千倍して5000ですがB病院では1万倍して5万だったりします。欧米の数字の単位は千ですが日本では1万なのでこの差が出るのです。かかっている病院の単位が欧米基準か日本基準かを知る必要があります。血小板が2万未満になると重篤な出血が起こりやすくなるため、化学療法中は2万未満にならないように予防的に血小板輸注(ゆちゅう)が行われます。反対に5万以上であれば出血は少なくなるので、手術も可能です。中心静脈カテーテルを挿入するときなどは血小板数が5万以上になるように血小板輸注が行われます。
これは番外ともいうべき指標です。若い赤ちゃん赤血球のことです。正常値はあまり意味はありませんが、増減には意味があります。すなわち、骨髄機能が回復して赤血球を自力で作り出すと増加してきます。Retの単位も病院によって異なり、世界標準はパーセント(%)ですが、多くの病院でパーミル(‰、千分率)が用いられています。
血清検査は次の生化学検査とほぼ同じような検査ですが、歴史的には検査方法が異なっていたため、今でも別のカテゴリーに分類されることがあります。
いったいこの”C”とは何のことか検査を依頼している医師たちも忘れてしまっているほど、長い間何気なく行われている検査です。”C”は肺炎球菌のC多糖体のことで、もともとは肺炎球菌の感染症においてC多糖体に反応して血液中に増加する物質がCRPと名付けられました。現在は細菌感染症、真菌感染症などの感染症一般、膠原(こうげん)病、悪性腫瘍(しゅよう)があるときに増加することがわかっています。正常値は0.3mg/dl未満ですが、1以下は大体正常、重症感染症では10以上になります。発熱時にCRPの上昇があれば細菌感染が疑われることが多いため、小児がんの治療中によく行われる検査です。結果も1時間以内に得られるのでとても便利です。感染症が軽快すると下がってきます。
抗体のことです。人間は麻疹の抗体、風疹の抗体、というようにあらゆる病原体に対して抗体をつくります。IgGはその総量を表し、通常は800mg/dl以上あります。抗体はBリンパ球(上記を参照)によって作られるため、ステロイド治療や抗がん剤治療によってリンパ球が減少するとIgGも減少します。IgGが400未満などと低くなると重症感染症を来しやすくなるため、IgG製剤の補充が必要になることもあります。
免疫グロブリンにはIgGのほかにIgA、IgM、IgEなどがあります。IgAは唾液などに入っており、局所の免疫をつかさどります。IgMはIgGに似ていますが、感染症の早期に上昇します。IgEは喘息やアトピー性皮膚炎などアレルギーのある患者さんで増加します。
主に血液中を流れる化合物や酵素の濃度を測定するものです。
TPの約3分の2はアルブミン(Albumin)というタンパクです。実は上述のIgGもTPの一部を構成します。TPやアルブミンが高いときには脱水が疑われます。低いときには低栄養が疑われますが、ネフローゼ症候群といって腎臓からタンパク質が漏れ出てしまう病気や下痢がひどく腸からタンパク質が漏れ出てしまう状態でも低下します。TPやアルブミンが下がるとむくみます。
いずれも腎機能が低下すると上昇します。BUNは消化管出血でも上がります。CRNNの正常上限は年齢が低いほど低く、年齢によって異なりますので注意を要します。
UAは中高年の男性では高くなりがちです。高尿酸血症は痛風発作あるいは腎障害を起こすことがあります。尿酸はいわゆるプリン体の一種で、肉やビール、キノコ類や貝類など、中年世代が大好きな食物に多く含まれます。運動をしたり体重を減らしたりすると下げられますが、尿酸の生成を抑える薬が用いられることもあります。ところで、白血病と診断されたばかりの患者さんでは、新たに新しい白血病細胞がどんどん作られますし、また壊れる細胞もたくさんあります。細胞が壊れると細胞の中の核にあるプリン体が出てきて尿酸が上昇しますので、白血病の診断時には高尿酸血症がよくみられます。したがって白血病の治療を開始する前にまず尿酸を下げる薬を投与する必要があります。また尿が酸性になると腎臓の中で結石ができることがあるため、白血病の治療早期には点滴に重炭酸を入れて尿をアルカリ性に保つようにします。
白血病細胞などのがん細胞が増加あるいは壊れると上昇します。したがって多くの小児がんで病勢を反映する腫瘍マーカーとして使えます。ただし、腫瘍に特異的ではなく、肝機能異常、心臓を含む筋肉の異常、脳細胞へのダメージがあるときにも上昇します。またLDHは化学療法後に起こった骨髄抑制が終わり、若い正常な血液細胞が増加してくると上昇することがあります。
従来ASTはGOT、ALTはGPTと呼ばれていました。いずれも肝機能が悪化すると上昇します。ただしASTは肝機能異常のみならず心臓を含む筋肉系の異常でも上昇します。
成人ではアルコール摂取の過多によって上昇します。小児がんの治療に際してステロイドを長期に使うと脂肪肝になり上昇します。治療に用いる薬剤の副作用で上昇することがあり、AST、ALTとあわせて肝障害の程度を判断します。
血中のビリルビンが上昇すると黄疸(おうだん)を来します。D-Bil(直接ビリルビン)とI-Bil(間接ビリルビン)を合計したものがT-Bil(総ビリルビン)です。D-Bilは肝臓の障害で上昇し、I-Bilは溶血(赤血球が破壊されること)に際して上昇します。日本人の約5%はI-Bilが体質的に高く、これは病的ではありません(体質性黄疸、その大部分はGilbert症候群です)。
以上をまとめるとAST、ALT、G-GTP、T-Bilはいずれも肝機能障害の指標ですが、一般にもっとも重視されるのはT-Bil、とりわけD-Bilの上昇です。
膵臓(すいぞう)の炎症、あるいは唾液腺の炎症(耳下腺炎(じかせんえん)など)で上昇します。白血病や悪性リンパ腫に対する治療としてL-アスパラギナーゼを用いた場合に急性膵炎がみられることがあり、注意を要します。
採血した血液を特殊な試験管に入れて立て、1時間に落ちる速さを測定するというものです。結核が多くみられた時代によく用いられた検査法です。すなわち結核の病勢が悪化すると血沈が亢進します。「1時間に100mm落ちる」というように表します。ところでその後、血沈は結核以外の感染症や膠原病、悪性腫瘍などでも亢進することがわかり、非特異的とはいえ、炎症の程度と相関することが知られています。
24時間蓄尿(ちくにょう)した尿中のCRNN値に24時間の尿量(ml)を掛け、それを血中のCRNN値で割った後、分の単位にするために1440で割り、さらに体表面積(m2)で割り、最後に1.73を掛けるという少々込み入ったものです。腎臓で濾過される血液量を反映します。正常値は100以上で、腎機能を評価する最もよい指標と考えられています。ところで体表面積(m2)は身長(cm)に体重(kg)を掛けたもののルート(平方根)を60で割ると得られます。