肝臓は腹部の右上にある、成人で800〜1,200gと体内最大の臓器です。その主な役割は、栄養分などを取り込んで体に必要な成分に換えたり、体内でつくられたり体外から摂取された有害物質の解毒・排出をすることです。
※転移性肝がんについて
肝臓にみられるがんのうち、別の臓器に発生したがんの細胞が、リンパや血液の流れに乗って肝臓に移動し、そこで大きくなったものを「転移性肝がん」と呼びます。原因となるがんの診断がなされていることもありますが、診断と同時に肝臓への転移が見つかる、あるいは原因となるがんがわからない状態で、転移性肝がんと診断されることもあります。
転移の原因となるがんの種類は、胃がん、大腸がん、膵臓がん、胆のうがんなどの消化器系のがんや、乳がん、肺がん、卵巣がん、腎細胞がん、頭頸部のがんなどがあげられます。
検査や治療は、原因となるがんの治療に準じて進められます。がんの広がりや性質を調べるための画像検査(X線
、超音波〔エコー〕
、CT
、MRI
など)に加えて、血液検査による腫瘍マーカー
検査や、がんの組織の一部を採り、どの臓器や組織から転移したがんであるかを調べるための病理検査・病理診断
などを行うこともあります。
大腸がんからの肝転移は、手術治療で取り除けば良好な治療成績を得られるので、転移が肝臓に限られている場合は、まず切除が可能かどうか検討されます。しかし多くのがんの肝転移では、肝臓に多数の病巣があったり、別の部位への転移が同時に認められるため、手術ではなく、薬物療法(抗がん剤治療)が主流となります。原因となるがんの種類や病理診断の結果、これまでの治療の内容や効果によって、使用される抗がん剤
の種類、副作用
の起こり方が異なります。原因となるがんの治療後などで、肝臓以外にがんが広がっていないと考えられる場合には、手術によって転移したがんを切除したり、肝臓の動脈に抗がん剤をカテーテルという細い管を通して注入する動注療法(どうちゅうりょうほう)を行うことがあります。がんの状態や肝臓の状態、体調などを踏まえた上で、治療や療養の方針が検討されます。
肝がんは、肺がんや子宮頸がんと並び、主要な発生要因が明らかになっているがんの1つです。最も重要なのは、肝炎ウイルスの持続感染です。ウイルスの持続感染によって、肝細胞で長期にわたって炎症と再生が繰り返されるうちに、遺伝子の突然変異が積み重なり、肝がんへの進展に重要な役割を果たしていると考えられています。肝炎ウイルスにはA、B、C、D、Eなどさまざまな種類が存在しています。肝がんと関係があるのは主にB、Cの2種類です。
世界中の肝がんの約75%は、B型肝炎ウイルス(HBV)およびC型肝炎ウイルス(HCV)の持続感染による慢性肝炎や肝硬変が背景にあります。日本では、肝細胞がんの約70%がHCVの持続感染に起因すると試算されています。このため、日本の肝がんの予防としては、肝炎ウイルスの感染予防と、持続感染者に対する肝がん発生予防が柱となります。C型、B型肝炎ウイルスに感染している人(肝炎を発症していないキャリアも含む)は、肝がんになりやすい「肝がんの高危険群(ハイリスクグループ)」といわれています。リスクの高い人は、肝がんが発症しても早期に発見して治療することができるように、定期的に検査を受けることが必要です。また、B型やC型肝炎ウイルスに感染している人は、インターフェロンなどによる抗ウイルス療法やグリチルリチンなどによって発がんの可能性を減少させることが明らかになってきています。アルコールのとり過ぎは発がんの可能性を高めますので、注意が必要です。
肝細胞がんの多くは肝炎ウイルス感染が背景にあります。通常の生活でほかの人に感染することはありませんので、気にし過ぎる必要はありませんが、いくつか知っておくとよいことがあります。
●血液が付きやすいカミソリや歯ブラシなどは共有しないようにします。
●食器やタオルを別にする必要はありません。
●B型肝炎ウイルスの感染はワクチンで予防できます。
●ウイルス肝炎には、抗ウイルス療法による治療を行うことがあります。
わからないことがあったら、担当医に相談することをお勧めします。
前述の「肝がんの高危険群」に該当しない人については、肝がんになる確率は極めて低く、肝がんを意識した定期検診は通常行っていません。職場・地域などの一般的健康診断をお受けください。
肝炎ウイルスに感染すると多くは「肝炎」という病気になります。その症状は、全身倦怠(けんたい)感、食欲不振、尿の濃染(尿の色が紅茶のように濃くなる)、さらには黄疸(おうだん)などです。しかし、自覚的には何の兆候もなく、自然に治癒することもあります。また、肝炎ウイルスが体に侵入しても、「肝炎」という病気にならず、健康な人体と共存している場合もあります。このように、体内に肝炎ウイルスを持っていても健康な人のことを肝炎の「キャリア」といいます。肝炎ウイルスの感染経路としては次のようなものがあります。
妊娠・分娩を介して「肝炎ウイルスを持った母親」から子供へウイルスが感染する経路があり、これを垂直感染といいます。この垂直感染は、主にB型肝炎に多く認められ、同一家族・家系に何人もの肝炎ウイルス感染者が存在することがあり、これを肝炎の「家族集積」といいます。現在では、B型、C型の肝炎ウイルスは検出可能で、妊娠中の母親は血液検査で肝炎ウイルスの有無を必ず調べます。母親がB型ウイルスのキャリアと判明すると、垂直感染を防止するために、新生児には直ちにワクチン治療が行われ、B型肝炎の発病を防止する措置が取られています。
肝炎ウイルスを含んだ血液の輸血を受けると、輸血を受けた人の体に肝炎ウイルスが侵入します。輸血が必要な場合は、病気・けがなどで体の抵抗力が低下していることが多く、肝炎が高率に発症します。「輸血」にはいろいろな製剤がありますが、血液中の赤血球
・血小板
だけでなく、上澄み部分(血漿)などの「ある成分」だけを注射しても、肝炎ウイルスに感染する可能性があります。現在は、輸血に用いる血液は全て厳重な品質管理が行われており、特にB型、C型についてはウイルスの有無を検査して、ウイルスの存在する血液は輸血には使わないという体制が確立しています。そのため、現在では輸血による肝炎は激減しています。しかし、B型にもC型にも検査で見つけられない場合がわずかながらあることも事実で、輸血による肝炎が完全にゼロになったわけではありません。輸血は生命を救う唯一の治療である場合も多く、輸血をしなければならないこともありますが、「どうしても必要な輸血」以外は慎むべきですし、この考え方は広く医師に定着してきています。
性行為もウイルス感染の経路となる可能性があります。しかし、B型肝炎やC型肝炎の夫婦間感染率は低く、通常の性行為では感染する危険性は低いことが報告されています。ただし、B型肝炎でHBe抗原が陽性の場合は感染力が強いので、専門医に相談することをお勧めします。
これは、医師・看護師などの医療従事者が、採血時や検査・処置・手術中などに肝炎ウイルスを持つ人の血液が付いた針を誤って自分の皮膚に刺すなどの針刺し事故や、集団予防接種での針の再利用、入れ墨・針灸治療などに使った針の使い回し、麻薬注射の回し打ちなどで起こる感染のことです。事実、入れ墨を入れた人や、麻薬常習者では肝炎ウイルス感染が高率に認められています。しかし、集団予防接種での感染の問題は、現在では使い捨て注射針を用いていますので、心配ありません。
以上、肝炎ウイルスの感染ルートについて、現在わかっているものについて解説しました。しかし、1)〜4)の感染ルートのどれにも思い当たるものがないという場合も多く、「このルートだ」と断定することは必ずしも容易ではありません。1)〜4)以外の未知の感染ルートがあるかもしれません。従って、肝炎ウイルスの感染は個人の意識・知識によってある程度予防できますが、防止できない部分があることも事実です。肝炎ウイルスに感染してしまったら、即、肝がんになり、生命が脅かされるわけではありませんが、「肝がんの高危険群」と考えて対処すべきです。
肝炎ウイルスに感染していることが判明するのは、a. 体に変調をきたし、医師を受診してウイルス性肝炎と診断される、b. 職場や居住地域の健康診断の血液検査で発見される、c. 献血をした際に血液が輸血に適するか否かの検査で後日連絡を受ける、d. ほかの病気で医師を受診して手術や検査を受ける必要が生じた際の血液検査で判明するなどの場合があります。また、家族の一員が肝炎ウイルスに感染していることが判明すると、医師は「家族集積」性を考慮して家族のほかのメンバーの血液検査も勧めます。
肝炎ウイルスに感染していることが判明したら、次には「キャリア」であるのか「肝炎」という病気になっているのかを調べる血液検査が必要です。ともに肝がんにかかりやすいリスクがあると心得るべきで、「肝がんの高危険群」といいます。
肝がんの高危険群に該当する人に肝がんを発生させないような予防法についても、研究が進んでいます。現段階では、C型肝炎に対しては、インターフェロンを中心とした治療が行われています。最近ではペグインターフェロンという新しいインターフェロンや、リバビリンというインターフェロンの効果を高める内服薬も登場し、こうした治療によって発がんを抑える効果が期待されています。またB型肝炎に関しては、内服の抗ウイルス薬であるラミブジンやエンテカビルが、発がんまでの期間や肝硬変への進展を抑制したとの報告もあります。しかし、いずれもまだ十分な決め手となっていないのが現状です。
肝がんの高危険群に属する人は自覚症状が出現してからではなく、日ごろからの定期検査が必要です。定期検査の間隔は、「肝炎ウイルスに感染している」だけでほかに異常がなければ6ヵ月に1回、血液検査や超音波検査などを行います。肝炎ウイルスの感染に加えて肝機能に異常があるときは、3〜4ヵ月に1回血液検査や超音波検査などを行い、必要に応じてCT検査などを行います。腫瘍マーカーが上昇している場合には、さらに頻繁に検査することがあります。
ウイルス感染以外の肝がんのリスク要因としては、大量飲酒と喫煙、さらに食事に混入するカビ毒のアフラトキシンが確実とされています。ほかに、糖尿病患者でリスクが高いことや、コーヒー飲用者でリスクが低いことを示す研究結果があり、その確認が今後の課題となっています。
また、タイ北東部などで高率に発生する胆管細胞がん(肝内胆管がん)については、淡水魚の生食習慣が感染源であるタイ肝吸虫(Opisthorchisviverrini)や、その他の肝吸虫の持続感染が発生要因として知られています。
年齢別にみた肝臓がんの罹患(りかん)率
は、男性では45歳から増加し始め、70歳代に横ばいとなり、女性では55歳から増加し始めます。年齢別にみた死亡率
も同様な傾向にあります。
罹患率、死亡率は男性の方が高く、女性の約3倍です。
肝臓がん罹患率と死亡率の年次推移を生まれた年代別にみると、男女とも1935年前後に生まれた人で高くなっています。これは、1935年前後に生まれた人が、日本における肝臓がんの主な要因であるC型肝炎ウイルス(HCV)の抗体陽性者の割合が高いことと関連しています。
罹患率の国際比較では、日本を含む東アジア地域が高く、アメリカの東アジア系移民の中では、日系移民が最も低くなっています。
日本国内の死亡率の年次推移は、男女とも最近減少傾向にあり、罹患率は男性で減少、女性で横ばい傾向にあります。死亡率の国内の地域比較では、東日本より西日本の方が高い傾向にあります。
肝臓は「沈黙の臓器」と呼ばれ、初期には自覚症状がほとんどありません。各自治体や職場などの検診で肝炎ウイルス検査を行っており、医療機関での定期的な検診や精密検査、ほかの病気の検査のときに肝がんが発見されることが多くあります。
肝がん特有の症状は少ないのですが、進行した場合に腹部のしこりや圧迫感、痛み、おなかが張った感じなどを訴える人もいます。がんが破裂すると腹部の激痛や血圧低下を起こします。
ほかには肝硬変に伴う症状として、食欲不振、だるさ、微熱、おなかが張った感じ、便秘・下痢などの便通異常、黄疸(おうだん:白目や皮膚が黄色くなる)、尿の濃染、貧血
、こむら返り、浮腫(ふしゅ:むくみ)、皮下出血などがあります。肝硬変が進むと肝性脳症という状態になり、意識障害を起こすこともあります。また、肝硬変になると肝臓に血液を運ぶ門脈の流れが悪くなります。血行が悪くなると、食道や胃などの静脈が腫(は)れてこぶのようになります(食道・胃静脈瘤〔じょうみゃくりゅう〕)。これらのこぶが破裂して(静脈瘤破裂)大量の吐血や下血が起こることもあります。
肝がんの検査としては、超音波検査やCTなどの画像検査と腫瘍マーカー検査を組み合わせて行います。必要があれば針生検
などの検査を追加して行います。
超音波を体の表面に当て、臓器から返ってくる反射の様子を画像にする検査です。患者さんの負担が少なく簡便に行える検査です。がんの大きさや個数、がんと血管の位置、がんの広がり、肝臓の形や状態、腹水(おなかにたまった体液)の有無などを調べます。患者さんの状態や部位によっては見えにくい場合もあります。血管から造影剤を注射して検査を行う(造影超音波検査)ことで、より詳しく腫瘍
の性質を調べることができます。
CTは、X線を使って体の内部を描き出し、治療前にがんの性質や分布、転移や周囲の臓器への広がりを調べます。病変を詳しくみるため、通常ヨード造影剤を使いながら撮影します。造影剤を入れてから何回かタイミングをずらして撮影することで、がんの性質や状態を調べます。そのためヘリカルCT、MDCTなど高速撮影のできる装置が使われます。MRIは磁気を使った検査です。必要に応じてCTと組み合わせて、あるいは単独で行われます。MRIでもガドリニウムなどの造影剤を使用することがあります。CTやMRIで造影剤を使用する場合、アレルギーが起こることがありますので、以前に造影剤のアレルギーを起こした経験のある人は、医師に申し出てください。
腫瘍マーカーは血液の検査で、体のどこかにがんが潜んでいるかどうかの目安になります。肝がんでは、AFP(アルファ・フェトプロテイン)やPIVKA-II(ピブカ・ツー)、AFP-L3分画(AFPレクチン分画)と呼ばれるマーカーが使われます。ただし、肝がんでもこれらのマーカーがいずれも陰性のことがありますし、がんのない肝炎・肝硬変、あるいはほかのがんでも陽性になることがあるので、画像診断も同時に行うことが一般的です。
血管造影
検査とは、足の付け根の動脈から細い管(カテーテル)を差し込んで、肝臓や腸管の動脈に造影剤を入れ、血管や病巣の状態を調べる検査を行うことがあります。
肝がんは多くの場合、画像診断や血液検査の結果から診断がつけられます。しかし、中には典型的な結果が得られず、診断がつけられないことがあります。このような場合には、超音波検査で肝臓内部を見ながら細い針を腫瘍部分に刺し、少量の腫瘍組織を採取する針生検という検査を行うことがあります。ただし、出血を起こしたり、がんを広げてしまう危険性がないわけではありませんので、必要性をよく検討してから行うことになります。
病期
とは、がんの進行の程度を示す言葉で、英語をそのまま用いてステージともいいます。説明などでは、「ステージ」という言葉が使われることが多いかもしれません。病期には、ローマ数字が使われ、肝がんでは、I期、II期、III期、IV期(IVA、IVB)に分類されています。
病期とは異なりますが、治療法の選択に当たっては肝臓がどのくらい障害されているかも評価します。肝障害度分類は、肝機能の状態によって3段階に分けられます。ほかにChild-Pugh(チャイルド・ピュー)分類が用いられることもあります。どちらもAからCの順序で、肝障害の程度が強いことを表します。肝障害度分類では、下の表のそれぞれの項目別に重症度を求め、そのうち2項目以上が当てはまる肝障害度に分類されます。また、2項目以上に該当した肝障害度が2ヵ所以上にある場合は、高い方の肝障害度に分類されます。例えば、肝障害度Bの項目が3項目該当していても、Cが2項目あれば肝障害度Cになります。
| 肝障害度 | A | B | C | |
| 項目 | 腹水 | ない | 治療効果あり | 治療効果少ない |
| 血清ビリルビン値(mg/dL) | 2.0未満 | 2.0〜3.0 | 3.0超 | |
| 血清アルブミン値(g/dL) | 3.5超 | 3.0〜3.5 | 3.0未満 | |
| ICGR15(%) | 15未満 | 15〜40 | 40超 | |
| プロトロンビン活性値(%) | 80超 | 50〜80 | 50未満 | |
| ポイント(Child-Pugh分類) | 1点 | 2点 | 3点 | |
| 項目 | 脳症 | ない | 軽度 | ときどき昏睡 |
| 腹水 | ない | 少量 | 中等量 | |
| 血清ビリルビン値(mg/dL) | 2.0未満 | 2.0〜3.0 | 3.0超 | |
| 血清アルブミン値(g/dL) | 3.5超 | 2.8〜3.5 | 2.8未満 | |
| プロトロンビン活性値(%) | 70超 | 40〜70 | 40未満 | |
肝がんの治療は、手術治療、局所療法、肝動脈塞栓(そくせん)術の3つが中心になります。肝がんの患者さんの多くは、がんと慢性肝疾患という2つの病気を抱えています。そのため治療は、がんの病期(ステージ)だけではなく、肝機能の状態なども加味した上で選択する必要があります。次に示すのは、肝がんの状態・肝障害度と治療選択の関係を大まかに表した図です。担当医と治療方針について話し合う参考にしてください。日本肝臓学会の「科学的根拠に基づく肝癌診療ガイドライン」もご参照ください。
がんとその周囲の肝臓の組織を手術によって取り除く治療です。肝切除をするかどうかは、がんの位置や大きさ、数、広がり、さらに肝機能の条件などによって決められます。一般に単発(1個)で比較的大きながんや、1個または少数のがんで、肝臓の機能が保たれている場合には、肝切除が選択されます。また、黄疸や腹水を認めるなど、肝機能が十分でない患者さんは、肝切除後に肝臓が機能しなくなる肝不全を起こす危険性があるため、手術の適応は限られます。肝臓は、中を走る血管(門脈)の分布によって8つの区画に分けられます。それぞれの区域には「番地」が振ってあります。「どこ」を「どのくらい」切除するかは、この区分が目安になります。
肝臓を全て摘出して、ドナー(臓器提供者)
からの肝臓を移植する治療法です。適応は転移がない場合に限られます。肝がんに対する肝移植は、a. がんが1つなら5cm以下、またはb. 3cm以下で3個以内、という基準(ミラノ基準)を満たす場合に考慮されます。日本では、脳死肝移植は法的には認められていますが、提供者の不足などの問題によって、実際にはほとんど行われていません。その代わり、主に近親者から肝臓の一部を提供してもらい、肝臓を移植する生体肝移植が大学病院を中心に行われています。肝移植の年齢制限は65歳以下とすることが多く、肝機能の面では肝硬変のために肝切除などの局所治療が困難な場合に、治療法のオプションとして考えられます。
体の外から針を刺し、がんに対して局所的に治療を行う療法をひとまとめにして経皮的局所療法と呼びます。穿刺療法ともいわれ、手術に比べて体への負担の少ないことが特徴です。この治療は一般に、がんの大きさが3cmより小さく、3個以下が対象とされています。がんの一部が残ってしまう危険もありますが、比較的手軽に行うことができ、副作用が少なく、短期間で社会復帰できるという長所があります。超音波検査や造影超音波検査などにより、がんの状態を観察しながら行います。
無水エタノール(純アルコール)を肝がんの部分に注射して、アルコールの化学作用によってがんを死滅させる治療法です。エタノール注入時には痛みがあります。通常は腹部の皮膚に局所麻酔が用いられます。術後に発熱、腹痛、肝機能障害などの合併症が起こることもあります。
体の外から特殊な針をがんに直接刺し、通電してその針の先端部分に高熱を発生させることで、局所のがんを焼いて死滅させる治療法です。焼灼時間は10〜20分程度で、腹部の皮膚の局所麻酔に加えて、焼灼で生じる痛みに対して鎮痛剤投与や軽い静脈麻酔を行います。発熱、腹痛、出血、腸管損傷、肝機能障害などの合併症が起こることもあります。ラジオ波焼灼療法は、エタノール注入療法に比べて、少ない治療回数で優れた治療効果が得られることから、最近ではラジオ波焼灼療法が主流となっています。
肝動脈塞栓術(TAE)は、がんに栄養を運んでいる血管を人工的にふさいで、がんを“兵糧攻め”にする治療です。通常は、血管造影検査に引き続いて行われます。血管造影に用いたカテーテルの先端を肝動脈まで進め、塞栓物質(多孔性ゼラチン粒、PVA)を注入し、肝動脈を詰まらせます。その後、塞栓物質は自然に溶けて、血流は元通りに回復します。肝動注化学療法(TAI)は、抗がん剤と肝がんに取り込まれやすい造影剤を混ぜてカテーテルを通じて投与する治療です。治療効果を高めるためTAEと同時に行われることが多く、この場合特に「肝動脈化学塞栓療法」(TACE)と呼ばれます。TAEは、がんの個数に関係なく治療でき、ほかの治療と併用して行われることもあります。適応の幅が広いので、最近はたくさんの患者さんに対して行われています。
放射線治療
は、骨に転移したときなどの疼痛(とうつう)緩和や、脳への転移に対する治療、血管(門脈、静脈)に広がったがんに対する治療などを目的に行われることがあります。肝臓に放射線を当てると正常な肝細胞に悪影響を与えるので、肝がん自体の治療が行われる場合には、細心の注意が払われます。最近は、陽子線、重粒子線など、放射線を当てる範囲を絞り込める放射線治療が肝がんの治療に有効と考えられています。
骨などへの転移があって痛みが強い、腹水がたまっておなかが張る、足のむくみが強い、肝機能が悪いために肝臓に負担をかける治療を行うことが難しい、などの場合には、がんそのものへの治療よりも、つらい症状の原因に応じて生活の質を維持することに重点を置いた治療が行われます。
手術の場合、手術直後には、酸素マスクや手術の場所から出る血液や体液などを排出するドレーンという管、尿をためる尿道バルーンカテーテルという管が体に付けられています。痛みや手術の創の状態によって、体の動きが制限されることがありますが、体の状態が改善するに従って、徐々に管が外されていきます。局所療法や肝動脈塞栓療法では治療後、数時間から半日程度の安静が必要です。
出血、切除面から胆汁が漏れる胆汁漏(たんじゅうろう)、肝不全などがありますが、近年は手術方法の進歩によって出血量の少ない安全な手術が可能になっています。術後の肝不全も全国平均で約1%、手術による死亡率は全国平均で1〜2%程度で、日本の手術の技術は世界でもトップレベルにあります。
体の痛みには、手術創そのものだけではなく、おなかを切開したことによる皮膚の痛みや、手術のときに肋骨(ろっこつ)を持ち上げるため、筋肉が引っ張られたことで、肋骨の周りや肩、背中、腹部などの痛みやしびれなどがあります。通常、痛みは数ヵ月で治まってきます。
創の痛みは我慢しないで担当医や看護師に伝えましょう。痛みの度合いや体の回復状況に応じて、痛みを和らげる処置が行われます。骨や筋肉は動作をすると痛むので、急に動くことは避け、手のひらで痛む部分を覆ってゆっくりと動くように心掛けましょう、「よいしょ、こらしょ」と、自分自身に声を掛けながらするとよいかもしれません。咳(せき)をするときも、傷口を手でそっと押さえると、傷口に響かなくてすみます。術後約1ヵ月は、ゆっくり過ごします。体に負担のかかることは避け、周りの人の手を借り、徐々に体を慣らしていきます。担当医と相談し、体が慣れてきたら積極的に体を動かすようにしましょう。
局所療法は、体への負担は少ないのですが、ラジオ波焼灼療法では、針を刺した場所に痛みややけどが起こることがあります。経皮的エタノール注入療法では、アルコールを注入するために、アルコールに弱い体質の人は、酔う感覚になることがあります。こうした症状のほとんどは一時的で、少しずつ回復していきます。
発熱、吐き気、腹痛、食欲不振、肝機能障害、胸痛などの副作用が起こることがあります。副作用の程度は、腫瘍の大きさ、広がり、塞栓した程度、肝機能によりますので、予想される副作用について、あらかじめ担当医から十分な説明を聞いておきましょう。
肝硬変や腹水の有無、肝臓や腎臓の機能などによって副作用の起こり方は異なります。担当医や看護師に治療の内容や副作用について確認しておきましょう。
治療後の体調や肝臓の状態について、自覚症状や検査で確認しながら、徐々に活動範囲を広げていきます。
食事については栄養のバランスを第一に、気持ちよく食べることが大切です。飲酒は肝細胞がんの発生に関係があると考えられており、特に慢性肝疾患がある人は、肝機能を悪くすることがあるので避けることが重要です。また、肝硬変のために、むくみや腹水がある場合は、塩分を控えることが必要です。担当医や看護師、栄養士などによく確認しておきましょう。
運動は、体力の回復に合わせて散歩などから始め、少しずつ運動量をふやしていきます。ただし、激しい運動は担当医に相談してからにしましょう。体力が回復し、肝機能も安定すれば、徐々に通常の生活に戻れます。
治療を行った後の体調確認のため、また再発
の有無を確認するために、定期的に通院します。再発の危険度が高いほど、頻繁、かつ長期的に通院することになります。なお、喫煙や飲酒も肝がんの発生に関係があると考えられています。肝がんの治療を受けた人や肝炎ウイルス感染者はタバコをやめ、アルコールの摂取を控えましょう。
肝細胞がんの治療は、その背景にある慢性肝疾患を治すというものではありません。肝細胞がんの患者さんの多くは、慢性肝疾患のために肝細胞がんができやすくなっています。治療をしても、肝臓の別の場所にがんが再発することがしばしばあります。
このため、がんや背景の肝臓の状態に応じて、定期的に通院して検査を受ける必要があります。肝機能や腫瘍マーカーを調べるための血液検査に加え、必要に応じて、腹部超音波(エコー)や造影超音波、CTなどの画像検査が行われます。
なお、熱がなかなか下がらない、おなかが張って苦しい、息苦しい感じが続く、疲れやすい、足がむくむ、食欲がない、何となく足元がふらふらする、手指が震える、ぼうっとしたり眠りがちになる、などの症状が普段の状態と比べて強いとき、あるいは急にひどくなったときは、担当医に連絡して受診するようにしましょう。
再発とは、治療の効果により目に見える大きさのがんがなくなった後、再びがんが出現することをいいます。肝がんは、ほかのがんに比べて再発が多いので、3〜6ヵ月に1回はチェックすることが一般的です。再発といってもそれぞれの患者さんでの状態は異なります。手術でがんを切除したり、局所療法で治療しても、残った肝臓に新しいがんができる危険も高く、再発部位の90%以上が同じ臓器内です。これを残肝再発(ざんかんさいはつ)といいます。それぞれの患者さんの状況や肝障害度に応じて治療やその後のケアを決めていきますが、肝機能が良好な場合は、手術が考慮されます。肝がんの治療は、その背景である肝炎や肝硬変を治すものではありません。
転移とは、がん細胞がリンパ液や血液の流れに乗って別の臓器に移動し、そこで成長したものをいいます。がんを手術で全部切除できたり、局所療法で治療できたようにみえても、その時点ですでにがん細胞が別の臓器に移動している可能性があり、治療した時点では見つけられなくても、時間がたってから転移として見つかることがあります。肝がんでは肺やリンパ節
、骨など、別の臓器に転移することも少なくありません。転移が生じている場合には、肝臓の状態を含めて治療方法も総合的に判断する必要があります。
一般の方向け参考資料
日本肝臓学会:「肝がん撲滅のために」