リンパ芽球性リンパ腫(Lymphoblastic Lymphoma:LBL)は、非ホジキンリンパ腫の中でも悪性度の高いリンパ腫に分類される疾患群です。小児では、非ホジキンリンパ腫の約40%を占めるのに対し、成人では非ホジキンリンパ腫の2〜4%にすぎない、比較的まれな疾患です。リンパ芽球性リンパ腫は、「B細胞性(B-LBL)」と「T細胞性(T-LBL)」に分けられ、両者では異なった病状を呈します。B細胞性の80%以上がT細胞性であり、B細胞性は5〜20%と比較的少ないです1)。
リンパ芽球性リンパ腫は一般的なリンパ腫と比べ、より未熟な分化段階のリンパ球ががん化したものです。がん細胞の本質は、急性リンパ性白血病(Acute Lymphocytic Leukemia:ALL)と同じであると考えられます。このため、WHO分類では「前駆TあるいはBリンパ芽球性白血病/リンパ腫」(Precursor T- or B-Lymphoblastic Leukemia/Lymphoma)として、一群の疾患に分類しています。LBLとALLは、骨髄に浸潤(しんじゅん)しているがん細胞の割合で区別しており、浸潤の割合が20%未満の場合はLBL、20%を超える場合にはALLという診断になります。
LBLの中でもB-LBLは骨髄に浸潤しやすく、ALLと一連の疾患であると考えられる一方、骨髄浸潤のないB-LBLが経過中にALLに移行することは、比較的少ないとされています。
リンパ芽球性リンパ腫(LBL)は若年男性に多く(約80%)、前縦隔(ぜんじゅうかく:胸骨の裏で心臓の前の部分をいいます)を主として、横隔膜(おうかくまく)より上のリンパ節に腫瘤(しゅりゅう)をつくりやすいのが特徴です。このような場所に病変ができるため、咳や息切れ、胸の圧迫感などの症状が出たり、胸に水がたまったりして発見されることがあります。また、上大静脈(上半身の血液を心臓に戻す血管)ががんによって圧迫され、血流がせき止められることで顔や腕がむくむ「上大静脈症候群」がみられることがあります。T細胞性リンパ芽球性(T-LBL)は、骨髄をはじめリンパ節以外のところに広がりやすい特徴があり、中枢神経浸潤(ちゅうすうしんけいしんじゅん:脳脊髄液という脳や脊髄を取り囲んでいる液および脳自体への浸潤)の頻度は10〜20%です。
B-LBLによる縦隔(じゅうかく)がんはまれですが、皮膚病変を来しやすいなどの特徴があります。B-LBLは比較的少ない病態であるためまとまった報告はないのですが、T-LBLに比べて予後が良いとされています。
Lin2)医師らによるB-LBLの患者さん 25人の解析では、平均年齢20歳(5〜68歳)で88%が35歳未満、男性17人、女性8人でした。また、病変の場所は、皮膚9人、骨(骨髄に広がるのではなく骨の孤立した病変)5人、軟部腫瘤4人、リンパ節3人、乳房2人、胃と腸1人、縦隔1人となっています。Soslow3)医師らの報告では、B細胞性12人の平均年齢は39歳(8〜68歳)、男性5人、女性7人でした。病変の最初にできた場所は、リンパ節5人、乳房2人、縦隔1人、軟部腫瘤1人、皮膚1人、腹膜1人、脳1人で、このうち2人に骨髄浸潤を認めています3)。
LBLの予後因子としては、いくつかのシステムが提唱されています。Coleman医師らの提唱したシステムでは、I〜III期、あるいは骨髄浸潤と中枢神経浸潤のないIV期、乳酸脱水素酵素(LDH)が正常上限の1.5倍未満を、「低リスク」であるとしています4)。このシステムは最もよく使われているものの、ドイツの多施設共同研究では、高リスクと低リスクで予後の差を認めませんでした。
Slater医師らは、急性リンパ性白血病(ALL)に準じた予後因子を用いており、年齢30歳以上、診断時血液中の白血球数が1μlあたり50,000個以上、抗がん剤治療により寛解に達しないか寛解に達するまでの期間が長い場合を「予後不良」としています5)。
現時点で確立された予後予測システムはありませんが、下記のような予後不良因子が報告されています。
| ・ | 寛解導入療法で完全寛解に達しない |
| ・ | LDHが正常上限の1.5倍以上 |
| ・ | 進行期(III期あるいはIV期) |
| ・ | 発熱、多量の汗、体重減少がある |
| ・ | 年齢30歳以上 |
| ・ | 診断時に中枢神経病変がある |
| ・ | リンパ節生検の病理組織像で細胞分裂像が1視野50以上 |
| ・ | 骨髄中へのリンパ腫細胞の浸潤 |
| ・ | 貧血(血色素(ヘモグロビン)<10g/dl) |
| ・ | 血液中にリンパ腫細胞がある |
| ・ | 白血球数>50,000/μl |
1970年以前、LBLは非常に予後が悪い疾患でした。小児での5年生存率は10%にすぎず、成人では2年以上生存することはほとんどありませんでした。その後、高悪性度非ホジキンリンパ腫の治療である「CHOP(チョップ)療法(シクロホスファミド、ドキソルビシン、ビンクリスチン、プレドニゾロン)」や、CHOP療法に類似した治療が行われるようになりました。しかし、完全寛解率50〜70%、無病生存率20〜50%と満足な結果は得られませんでした。それでもさらに、非ホジキンリンパ腫の治療にL-アスパラギナーゼという薬剤を追加すること、中枢神経浸潤予防を行うこと、維持療法を行うことで、完全寛解率79〜100%、無病生存率23〜56%と治療成績の向上を認めました。ただ、小児に行われるような、さらに強力な非ホジキンリンパ腫の治療を成人のLBLに行っても、治療成績は改善しませんでした6)。
1990年以降、LBLに対して急性リンパ性白血病(ALL)の治療(ビンクリスチン、プレドニゾロン、L-アスパラギナーゼなど)が積極的に行われるようになり、完全寛解率は55〜100%、無病生存率は45〜65%となりました。これにドキソルビシンあるいはダウノルビシンを追加することで、ようやく完全寛解率は72〜92%と比較的良好な成績が得られるようになりました7)。
これらの結果より、LBLに対しては通常の非ホジキンリンパ腫やALLに比べ、より強力な化学療法を行ったほうが治療成績が向上すること、維持療法を行わないで治療を短期間で終了した場合に再発が多いこと、中枢神経再発を予防するために集中的な中枢神経浸潤の予防治療を行う必要があること等がわかってきました。
2004年にThomas医師らは、ALLに施行されていた強力な化学療法である「Hyper-CVAD/MTX+Ara-C療法(シクロホスファミドの分割投与、ドキソルビシンの持続投与、ビンクリスチン、デキサメサゾン/メソトレキセート、シタラビン大量)」に、6〜8回の脊髄腔内(せきずいくうない)抗がん剤投与を行い、さらに2年間の維持療法を行うことで、完全寛解率91%、3年間の無病生存率66%、全生存率70%という良好な治療成績が得られたことを報告しました8)。
わが国では、日本臨床腫瘍研究グループ(JCOG)が1990年から多施設共同試験として実施した、ALLとLBLに対する臨床試験(JCOG9004およびJCOG9402)があります。このように、完全に標準治療
が確立されているわけではありませんが、ALLに準じた多剤併用療法が一般的な治療です。
T細胞性リンパ芽球性リンパ腫(T-LBL)は中枢神経浸潤を来しやすいため、診断時から脳脊髄液の検査(横に寝ていただいて、局所麻酔後に腰の部分の背骨の間に針を刺します)を行うとともに、浸潤の有無にかかわらず、繰り返し脊髄腔内に抗がん剤を投与する必要があります。また、脊髄腔内抗がん剤投与に、脳への放射線照射を併用することもあります。中枢神経再発の頻度は、予防治療を行わなかった場合42〜100%、脊髄腔内抗がん剤投与のみを行った場合3〜42%、脊髄腔内抗がん剤投与に放射線照射を併用した場合3〜15%とされています。
また中枢神経浸潤を認めた場合には、髄液中のリンパ腫細胞が消えるまで脊髄腔内に抗がん剤投与を行い、さらに再発予防のための治療を行います。放射線照射を併用することもあります。
放射線治療は、リンパ芽球性リンパ腫(LBL)の有効な治療法の1つです。しかし、放射線が隣接する臓器にあたることを避けられないため、周辺臓器の障害や二次発がんの可能性があります。抗がん剤と同時に行った場合、副作用が強くなり縦隔(じゅうかく)がんに対する放射線照射では、心臓、肺、脊椎(せきつい)、脊髄等にも放射線があたるため、特に心臓への晩期毒性(治療終了後5〜10年経過後に生じる毒性)が問題になることがあります。したがって、LBLの患者さんすべてに放射線治療が行われるわけではありません。大きな腫瘤による呼吸困難や上大静脈症候群等の症状があって、早く症状を改善させたい場合などには適応となることがあります。
化学療法後の放射線治療の適応も、個々の患者さんにより異なります。一般的に、治療前に縦隔に大きな病変があった場合や、化学療法への反応が遅い場合、治療後に病変が残ってしまった場合には、放射線治療の適応と考えられます。
強力な化学療法が、リンパ芽球性リンパ腫(LBL)の予後を改善させることが明確になりました。さらなる治療成績の向上を目指して、造血細胞移植療法が試みられています9)。自家、あるいは同種造血細胞移植を併用した大量化学療法でLBLの長期予後が改善する可能性はありますが、どのような患者さんが移植の恩恵を受ける可能性があるかについては、十分にわかっていません。LBLの第一寛解期の患者さんに自家造血細胞移植を行って再発率が低下したものの、生存率は改善しなかったとの欧米からの報告もあります10)。
わが国では、2003年までのLBLに対するHLA一致同胞間移植51例、自家移植93例の移植成績をまとめた造血細胞移植学会の報告があります。5年の全生存率は、同種移植で55%、自家移植で44%であり、寛解期に移植した例に限ると同種移植で63%、自家移植で49%となっています。寛解期に移植した例での再発率は、同種移植で18%、自家移植で48%でした。また、寛解期に移植した例での治療関連死亡率(LBLの悪化によるのではなく、治療によって死亡する率)は、同種移植で22%、自家移植で17%となっています。
わが国で、化学療法のみと移植治療の成績を比較した結果はありません。造血細胞移植学会のガイドラインでは、第一寛解期での移植適応については臨床試験段階とされています。一方、再発のLBLに対しては、同種移植、自家移植とも考慮すべき治療とされています。
参考文献