多発性骨髄腫(Multiple Myeloma、以後はMMと略します)は他の造血器腫瘍と異なり、抗がん剤を用いた治療では完全寛解(見かけ上は病気が消える状態で「Complete Remission:CR」とも呼ばれます)を得にくく、治癒が困難な血液のがん(正確には“がん”ではなく“肉腫”)と考えられてきました。しかし近年、治癒を目指して造血幹細胞移植を積極的に利用する治療方法が検討されています1,2)。
1980年代に、再発あるいはなかなか治療に反応しない多発性骨髄腫(MM)症例に対して、自家骨髄移植を行う前に超大量の抗がん剤(メルファラン)投与が試みられ、期待できる治療反応性が得られたと報告されました。このため、通常の抗がん剤治療と自家移植のどちらが優れた治療法かという答えを出すべく、新しく診断された患者さんを対象として、世界各国で無作為化比較臨床試験が実施されてきました(表1)1,2)。
現在は、65歳未満のMM患者さんで進行病期と判断できれば、初回治療(“Upfront Therapy”と呼ばれることもあります)としては初期の病勢を制御する療法を行い、奏功すれば自家造血幹細胞採取を行います。このあとに引き続き自己移植を実施することが、標準治療
あるいは第1次的治療(First-line Therapy)と位置づけられています。その際の移植前治療(“conditioning”)としては、抗がん剤であるメルファラン大量投与が頻用されます。ちなみに、メルファラン140mg/m2に全身放射線照射(Total Body Irradiation:TBI)12Gyを併用するよりも、メルファラン200mg/m2投与のほうが優れています2,6)。また自己移植の方法としては、現在は骨髄移植よりも速やかな造血回復が得られる末梢血幹細胞移植(Peripheral Blood Stem Cell Transplantation、以下PBSCTと略します)が有利とされます。自己末梢血幹細胞移植をいつ実施するか、その適正時期についても検討が行われ、診断後1年以内の早期実施が有利とされています1,2)。
1990年代に入り、自己移植を2回連続して繰り返すいわゆるタンデム自己移植が試みられ、期待できる成績が報告されました1,2)。Arkansas大学グループは、多発性骨髄腫(MM)に対してタンデム移植を組み込んだ総合治療プログラム(“Total Therapy:TT”)を開発しました。その第2次研究では、診断後5年の時点での寛解持続率は60%、無事象生存率が50%という優れた成績を報告しています7)。一方、フランスの臨床試験IFM94では、7年の時点での無事象生存率および全生存率は、単回自己PBSCTグループでそれぞれ10%と21%、タンデム自己PBSCTグループではそれぞれ20%、42%と、いずれもタンデム移植のほうが有意に優れることが認められています6)。表2は、これまで報告されている単回自己PBSCTと、タンデム自己PBSCTの無作為化臨床試験の結果です。注目すべきは、5研究中4研究で無事象生存率に有意差が認められたにもかかわらず、全生存率では1研究でのみ有意差が認められていることです(表2)1,2)。その理由として、最終的な治療効果を評価するための観察期間が短く、十分でないことを考慮する必要があります。事実、IFM94臨床試験で単回移植グループとタンデム移植グループの間で全生存率に差がみられるようになったのは、移植後4年が経過してからのことです(図1)6)。他の多くのがんと同様に、MMにおいても治療の優劣を最終決定するには、ある程度長期の観察が重要であることを示すデータです。ただ、第1回の自己PBSCT後の治療反応性は特に重要であり、第1次治療に反応しない、あるいは第1回目の移植後に寛解、またはそれに近い状態(“Near CR”)が得られない症例には、特に2回目の自己PBSCTが有用となることが示唆されています。
したがって、第1回目の自己PBSCT後に寛解、またはそれに近い状態が得られない患者さんは、引き続き第2回目の自己PBSCTを受けるべきと考えられます。逆に、第1回目の結果にかかわらず、全例に対して決まったように(ルーチン)タンデム移植を行う場合は、臨床試験としてのみ考慮すべきです。少なくとも第1回目の移植後に寛解、またはそれに近い状態が得られた患者さんに対する標準治療としては確立されていません。お勧めする強い根拠がないということです。また、第1回自己PBSCT後に引き続き第2回の自己PBSCTを実施する場合であっても、その最適時期は明らかになっていません。一般的には、第2回自己PBSCTは第1回自己PBSCT後6〜12ヵ月以内に、かつ再発する前に行ったほうが優れた治療効果が得られることが示唆されています8)。
最後に、自己PBSCTを行ったとしても、残念ながら70%以上の患者さんがやがては再発するとされていて、この治療の限界を示すものと考えられます。一般的にMMの場合、自己移植は原疾患の治癒を高率にもたらすというよりも、延命効果と治療期間の短縮によるQOLの改善が主な目的となっているといえます。
図1 自己末梢血幹細胞移植 1回対2回の全生存率

(Attal M, Harousseau JL, Facon T, Guilhot F, Doyen C, Fuzibet JG, Monconduit M, Hulin C, Caillot D, Bouabdallah R, Voillat L, Sotto JJ, Grosbois B, Bataille R. N Engl J Med. 2003;349:2495-2502 より)
同種移植は自己移植に比べて、1)移植片中に腫瘍細胞の混入がなく、2)移植免疫反応に基づくドナーリンパ球の骨髄腫細胞の増殖抑制効果、すなわち移植片対骨髄腫(Graft-versus-myeloma:GVM)効果が期待できます。別に「造血幹細胞移植」で詳しく述べているように、このGVM効果は、自己移植に比べて同種移植のほうが移植後の再発が少ないことです。このことは、移植後再発に対するドナーリンパ球輸注(Donor Lymphocyte Infusion:DLI)の有効性によって確認されています9)。しかしながら通常の同種移植では、移植前処置療法として超大量の抗がん剤投与や全身放射線照射(現在、このような治療を“骨髄破壊的移植前治療:Myeloablative Conditioning”と呼びます)が実施されるため、特に高齢者では移植に密接に関連した死亡(Transplant-related Mortality:TRM)率が40%近くまで増加し、自己移植よりも優れた無事象生存率や全生存率は得られませんでした。
そこで1990年代後半に、移植前治療を骨髄非破壊的にあるいは減弱化することによって、このような大量抗がん剤や放射線治療に関連した毒性(治療関連毒性)を低下させる、同種移植の新たな方法が開発されました。この方法は「ミニ移植」に詳しく述べるように、移植医の間ではnonmyeloablative(またはReduced-intensity Conditioning Stem Cell Transplantation:NST、あるいはRISTと略されます)、一般的には“ミニ移植”と呼ばれ、わが国でも急速に普及しつつあります。
ただ、このミニ移植を用いた多発性骨髄腫(MM)治療に関しては、多数例に基づいた長期観察成績がまだ得られていないため、どの程度勧められる治療かは定かではありません。さらに最近は、体の中にあるがん細胞量をまず自己移植を行って減少させ、引き続きミニ移植を実施する「タンデム自己/同種ミニ移植」も注目されていますが10,11)、その位置付けはまだはっきりしていません。
移植による多発性骨髄腫(MM)に対する医療戦略は、図2のように要約できます。まずMMに対する標準治療は、初期治療によりM蛋白の減少などの治療効果が得られた後に、自己の末梢血(実際には静脈血)から造血幹細胞を採取し、その幹細胞を用いて自己PBSCTを実施することです。多くの場合、これだけでは抗骨髄腫効果は十分ではないので、2回目の自己PBSCTを実施することになります。予後が極めて不良と予想され、HLA一致同胞ドナーが得られる症例には、より強力な治療効果を期待してタンデム自己/同種HSCTを臨床試験として行うことが、選択肢の1つになりうると考えられています。
サリドマイドやボルテゾミブ等の新規薬剤を、移植治療戦略の中にどのように組み込んでいくかについては、世界的にもまだ定まってはいません。今後の大きな課題となっています。
図2

(Hahn T, Wingard JR, Anderson KC, Bensinger WI, Berenson JR, Brozeit G, Carver JR, Kyle RA, McCarthy PL, Jr. Biology of Blood & Marrow Transplantation. 2003;9:4-37 より引用改変)