本文へジャンプ

ユーザー別メニューの始まり
グローバルナビゲーションの始まり
右側ナビゲーションの始まり
各種がんの解説

パンくず式ナビゲーション
TOP各種がんの解説 > 多発性骨髄腫の新しい薬

多発性骨髄腫の新しい薬(たはつせいこつずいしゅのあたらしいくすり)

更新日:2006年12月27日    掲載日:2006年10月01日

1.はじめに

多発性骨髄腫は、2006年の時点では治癒が困難とされているがんであり、病気が進行してしまうと、通常の抗がん剤治療だけでは病勢のコントロールが難しくなってきます。しかしここ数年、抗がん剤やステロイドを使った従来の治療とは全く違う治療薬(=新規薬剤)が登場し、難治例や再発例に対して優れた治療効果が報告されています。また最近になって、初期治療時にも(最初に診断されてはじめて治療を行うときから)新規薬剤を使用することによって、寛解に達する率や予後が改善するというデータが欧米より報告されています。その一方で、早い時期から新規薬剤を使用すると、末梢神経障害(手足のしびれや、進行すると筋力低下も来す)などの副作用の程度や頻度が増すことも懸念されます。サリドマイドは以前、因果関係が十分に周知されていないころに妊婦が服用し、器官形成に重篤(じゅうとく)な影響を受けた赤ちゃんの誕生に至ったり、死産に至ったという報告がされました。十分な薬の管理が必須なことはいうまでもありません。さらに、2006年の時点では国の認可が得られず、未承認薬に位置づけられているので、患者さんが内服する際には多大な経済的負担になってしまいます。

以上のことから、主治医との十分な話し合いのうえで適応を決定し、個々の患者さんの病気の状態に合わせて使用することが重要です。ここでは近い将来、わが国でも認可が下りて、治療効果が期待できる新規治療薬の最近の治療成績をまとめます。その治療薬とは、サリドマイドおよびその誘導体(化学構造式を変化させることによってつくられた薬剤)であるレナリドマイド(商品名:レブリミッド)、ならびにボルテゾミブ(商品名:ベルケイド)の3つです。

2.サリドマイド

服部 豊 臨床血液44巻5号302-312、2003年
図1 サリドマイドおよび誘導体の抗骨髄腫作用のメカニズム

1998年に米国から、サリドマイドが多発性骨髄腫に対する治療薬として有効であることがはじめて報告されました。その後、国内外よりこれを支持する研究成果が報告されています。なぜ、サリドマイドが骨髄腫に有効であるかという理由は、まだ明確にされていません。サリドマイドの代謝産物が骨髄腫細胞に直接ダメージを与えたり、骨髄腫細胞に栄養を送っている血管の発育を抑えたりすること等により、骨髄腫に対して効果があるとされました。これら以外にも、骨髄腫細胞が殖えるのに必要な因子(増殖因子)の産生を抑えたり、骨髄腫が骨髄内で殖えやすくなっている環境自体を是正する可能性が報告されたりなど、なぜ骨髄腫に有効であるかに関し、多くの機序が推測されるに至っています(図1)。

難治・再発に対する有効性の報告が、国内外から数多く発表されています。有効例では、服用を開始してから2〜8週たって、M蛋白(えむたんぱく)が徐々に低下します。いずれの報告においても、部分寛解(M蛋白が50%以上減少)到達率は約30%で、中にはまれに完全寛解(M蛋白が消失)に到達する患者さんもいます。有効例では、貧血、腎機能障害、骨痛等の合併症の改善を認めることもあります。さらに、サリドマイド単剤が無効であっても、デキサメタゾンや化学療法と併用することによって相乗効果が期待され、50%近い患者さんに部分寛解が得られると報告されています。

副作用について、眠気、便秘、口渇は頻度が高く、投与開始数日後から出現します。投与前から輸血が必要であったり白血球数が低い症例では、重篤な好中球減少症にも注意が必要です。また、3ヵ月を超えて投与を継続すると、末梢神経障害が出現します。これは、手足の指先からしびれが広がり、ひどい場合は筋力低下を来すこともあります。1年以上服用すると100%近い患者さんに出現し、その一部は不可逆性で、薬を止めても長期に症状が持続する場合もあるとされています。病期の進行を防ぐためには服用を継続せざるを得ないのですが、しびれによる不快感が強かったり、細かい作業ができないなど、日常生活に支障が出る場合は投与量を減らすか、それでも改善しない場合には投与を中止する必要があります。一方、欧米で報告が相次いだ深部静脈血栓症(しんぶじょうみゃくけっせんしょう:血管内に血のかたまりができ、痛みなどの強い症状が出現するものです。例えば、肺の血管が詰まればいわゆるエコノミークラス症候群を来し、呼吸不全に陥る場合もあります)は、日本人には発生頻度は低いようです。しかし、依然として注意は必要です。

参考までに、慶應義塾大学で61人の患者さんに投与した際の有害事象(薬との因果関係が濃厚ないわゆる副作用に加えて、薬との関連は薄いが患者さんにとって好ましくない症状も含む)のうち、頻度の高いものを表1に示します。なお、患者さんによって副作用の種類や程度は千差万別です。主治医とよく相談しましょう。

表1 慶應義塾大学におけるサリドマイド投与中の有害事象(全症例 61人)

有害事象
治療を受けた
患者さんの数
(%)
grade3以上
の重篤例
 眠気
49
(80%)
 便秘
36
(59%)
 口渇
35
(57%)
 末梢神経障害
33
(54%)
1(2%)
 皮疹
33
(54%)
 発熱
19
(31%)
 好中球減少症
15
(25%)
14(23%)
 振戦
14
(23%)
 感染
12
(20%)
12(20%)
 血小板減少症
10
(16%)
7(11%)
 めまい・ふらつき

(15%)
1(2%)
 倦怠

(15%)
 消化器症状

(10%)
1(2%)
 頭痛

(10%)
頻度10%以上のもののみ記載
copyright

【サリドマイド療法の最近の動向についてさらに詳しく】


サリドマイド療法の最近の動向について

サリドマイドが、難治性骨髄腫の治療に有効であることは明かとなりました。さらに予後改善のために、同薬を初期治療として、あるいは自家造血幹細胞移植後の維持療法として用いることが検討されています。

65才以下の患者さんには、ビンクリスチン+アドリアマイシン+デキサメタゾン(頭文字をとって「VAD療法」)を行って寛解導入を図った後、自家造血幹細胞移植を行うことが標準的治療とされています。イタリアからの報告では、自家造血幹細胞移植の適応患者さんを対象に、寛解導入時にVAD療法を行ったグループと、サリドマイド+デキサメタゾンを行ったグループに無作為に分けて治療成績を検討しました。その結果、寛解導入率は前者では52%、後者では76%と、サリドマイドを使用したグループのほうが優れていました。米国でも自家移植適応患者さんを対象に、サリドマイド+Dex併用療法グループとDex単独グループの無作為比較試験を行い、やはり寛解導入率は前者が58%、後者が42%とサリドマイドを使用したグループが優れていることがわかりました。ただし、これが実際に予後改善につながるか否かは、今後の重要課題です。

移植治療の適応のない高齢の患者さんには、メルファラン+プレドニゾロン(MP療法)が標準的治療となります。このような場合にもMP療法にサリドマイドを併用することによって、MP療法と比べて奏効率や予後が改善するか否かが検討されています。イタリアおよびフランスからは、高齢者の初発患者さんをMP療法+サリドマイドグループとMP療法グループを無作為に分け、寛解導入率および生存期間についての比較試験の成績が報告されました。その結果、寛解導入率はサリドマイド併用グループでは76%、非併用群は48%と併用グループが優れていました。また、無増悪生存期間(病気が進行することなく生存した期間)についても、サリドマイド併用グループは33ヵ月であったのに対し、非併用グループでは14ヵ月にとどまりました。2年生存率も併用グループでは82%、非併用グループでは65%でした。

このように近年の報告では、高齢者、比較的若年者ともにサリドマイドを初期治療に組み込むことによって、寛解導入率が向上することが示唆されています。しかしその一方で、深部静脈血栓症および末梢神経障害の頻度もより高くなるので、十分な注意が必要です。特に末梢神経障害は、前述の通り生活の質を著しく低下させます。骨髄腫の診断後早いうちからサリドマイドを使用することには、有効性と副作用の観点から、今後も十分な検討がなされるべきと考えられます。

一方、自家造血幹細胞移植を行っても、ほとんどの症例は早晩再発を来してしまいます。そこで欧米では、自家移植後の維持療法としてサリドマイドの投与が行われています。フランスのグループは、自家造血幹細胞移植後にサリドマイド投与を行ったグループと行わなかったグループに分けて検討したところ、サリドマイドの使用により再発までの期間は延長しますが、生存期間そのものを延ばす効果は明らかでなかったとしています。米国アーカンソーがんセンターでは、自家造血幹細胞移植後に化学療法を継続し、さらにこれにサリドマイドを併用することによって、移植治療後の完全寛解到達率は63%に至り、再発までの期間も延長されると報告しています。しかし、5年生存率に差は認められなかったようです。なお、サリドマイド使用グループにおける深部静脈血栓症の発症頻度は30%(サリドマイド非使用グループ17%)に、また末梢神経障害は27%(非使用グループ17%)と増加する傾向がありました。自家造血幹細胞移植後の再発対策は重要問題であり、移植後治療の意義については、今後もデータを蓄積し評価する必要があると考えられます。

説明を閉じる

3.レナリドマイド

サリドマイドの抗骨髄腫作用を増強し、かつ催奇形性(さいきけいせい:妊娠中に服用すると、胎児の器官形成に影響し、奇形が生じる危険性があること)や副作用を軽減することを目的に、誘導体の開発が進められてきました。その中でも、レナリドマイドは抗骨髄腫作用が最も詳しく検討され、米国では2006年に食品医薬品局(FDA)から認可されています。近年、米国とヨーロッパで難治・再発性の骨髄腫の患者さんを対象に、レナリドマイド+デキサメタゾンの併用グループと、デキサメタゾン単独グループを比較する2つの大規模な臨床試験が行われました(表2)。両臨床試験では、いずれもレナリドマイド+デキサメタゾン併用グループが反応率約60%で、病勢再燃までの期間延長は50〜60週と有意に優れていることがわかりました。その一方で、レナリドマイド+デキサメタゾン併用群では重篤な血球減少および倦怠(けんたい)が多く、心配された深部静脈血栓症も併用グループで8.5%、デキサメタゾン単独グループでは4.5%と増加する傾向が認められました。このように、難治・再発患者さんに対するレナリドマイドの有効性が確認され、サリドマイドで問題となった末梢神経障害、便秘、眠気といった副作用は著明に減少しました。その一方で、重篤な血球減少症を来すことがある点も明らかになったため、定期的に末梢血検査をする必要があります。

表2 難治・再発性骨髄腫に対するレナリマイド第3相試験

  米国からの報告 ヨーロッパからの報告
  レナリドマイド
+
デキサメタゾン
デキサメタゾン レナリドマイド
+
デキサメタゾン
デキサメタゾン
治療を受けた患者さんの数 171 171 176 175
部分寛解率 61% 23% 58% 22%
完全寛解率 27% 4% 14% 4%
再発までの期間 60週 21週 53週 21週

4.ボルテゾミブ

プロテアソームという細胞内器官で、骨髄腫細胞の増殖を抑制する物質が分解されるのを阻害することから、ボルテゾミブはプロテアソーム阻害剤と呼ばれています。ボルテゾミブは注射薬で、2週で4回の静脈注射を3〜5週ごとに繰り返します。近年、難治性骨髄腫に対するボルテゾミブの有効性に関する報告が数多く発表されています。その中でも2005年に、欧米の多施設共同の臨床試験(APEX)の成績が報告されています。再発した骨髄腫患者さん669人を対象に、ボルテゾミブ投与グループとデキサメタゾン投与グループに分けて検討したところ、奏効率は前者が38%、後者が18%で、前者の6%の患者さんに完全寛解が認められました。また、再発までの期間や生存期間についてもボルテゾミブ使用グループが優れていて、骨髄腫治療の中心となるステロイド療法と比較しても、優れていることが示されました。その一方で、ボルテゾミブ使用例の75%に重篤な(グレード3以上の)有害事象が認められました。その内訳は、(1)血小板減少症(30%)、好中球減少症(14%)、貧血(10%)といった造血器障害、(2)末梢神経障害(8%)、(3)下痢(7%)などの消化器症状、(4)倦怠や息苦しさ(いずれも6%)といった全身症状が主なものです。なお、日本人の患者さんに投与した際に、海外ではほとんど報告のなかった重篤な呼吸器合併症が認められています。日本臨床血液学会の調査では、個人輸入によってボルテゾミブを使用した52例のうち、9例(17%)に呼吸器障害が発生したと報告されています。

ただし、呼吸器障害が発症した症例はほとんどの場合、抗がん剤投与の期間が長かったり、造血幹細胞移植後の薬物療法後の増悪症例であったり、サリドマイドでも十分な効果が得られなかった症例等でした。ボルテゾミブを投与する前の多彩な治療歴が、呼吸器障害の発生する誘因ないし背景となっている可能性も否定できません。また、このような時期の骨髄腫に対し、ボルテゾミブ以外の骨髄腫に対して抗がん剤を投与した場合でも、ときに呼吸器障害が発生することも知られています。あるいは抗がん剤を投与しなくても、骨髄腫自体の合併症として、ときに多様な機序を介して呼吸器障害が発生することも知られています。これらを考慮すると、ボルテゾミブ投与が呼吸器障害の直接的な原因であるか否かに関しては、まだ不明な点が少なくないと思われます。東アジアでは、日本に先がけて韓国や台湾ですでに多数例で使用されはじめています。これらの国で同様に呼吸器合併症が多いとの報告は、2006年時点ではありません。この点から、日本人を含む東洋人に呼吸器障害が高い頻度で発生するか否か、今後、慎重に検討するべき課題と考えられます。また今回、ボルテゾミブ承認のための治験が52例進行中でした。正規の治験では、全身状態が不良の状況ではボルテゾミブを投与できません。しかし、呼吸器障害の頻度が増加した背景には、ボルテゾミブの効果を期待し、52例の中にそうした症例が少なからず含まれていたという可能性を否定できません。

いずれにしても、今回の成績をみると、ほかの治療では効果が得られずボルテゾミブを選択する際には、呼吸器障害に関する十分な注意が必要です。日本血液学会専門医とともに、重篤な呼吸器障害発症に対する十分な対応ができる設備があり、血液疾患を専門とする医師が常駐している医療機関で、本薬剤の投与が行われることが望まれます。

こうした呼吸器障害の問題点は存在するものの、ボルテゾミブは従来の骨髄腫治療薬を用いてもコントロール困難とされたタイプの骨髄腫にも、一定の効果を示すことが明らかになってきています。

第13番染色体異常を有していたり、髄外に形質細胞腫を形成する患者さんは、自家末梢血幹細胞移植やサリドマイド療法を行っても予後が悪いとされています。しかしボルテゾミブは、このようないわゆる予後不良グループにも良好な反応性を示すことがわかってきていて、実際に予後改善に寄与するかどうか検討が進められています。さらに2005年になると、初期治療にボルテゾミブを組み込むことによって、高い寛解導入効率が得られると報告されています。例えばイギリスからの報告では、ボルテゾミブ+ドキソルビシン+デキサメタゾン投与によって寛解導入率は95%、完全寛解も24%の患者さんに認められました。今後は、初回治療にもボルテゾミブを併用することによって、寛解導入効率を高めるだけでなく、生存期間をどこまで延長できるかが重要課題と考えられます。

5.わが国におけるサリドマイド使用の安全体制

図2 サリドマイドの管理体制
図2 サリドマイドの管理体制

サリドマイドは催奇形性を有し、以前に重篤な薬害を起こした経緯があります。間違って妊婦さんが服用することが絶対にないよう、十分な安全管理を行う必要があります。特に同薬は経口薬であり、患者さんが自宅に持ち帰って服用することが多いため、患者さんおよび同居する方の安全管理への協力は不可欠です。そこで、安全管理の具体策を示す必要があるのではないかとの社会の要請がありました。これを受けて厚生労働省は日本臨床血液学会に委託し、日本血液学会の協力も得てサリドマイド使用のガイドラインを作成、2004年に発表しました。これには、サリドマイド福祉センター「いしずえ」や骨髄腫患者の会の方々からも、貴重な助言がありました。

重要点は以下となります。


  • 日本血液学会研修施設において、日本血液学会認定内科専門医が使用します。したがって、現在通院中の医療機関が学会研修施設でない場合は、最寄りの学会研修施設の専門医と連携をとるよう勧めています。
  • 使用医師は、倫理委員会の承認を得たうえで、有効性、副作用、避妊や禁酒を含めた患者さんが守るべき事項などについて、文書で患者さんから同意をとります。
  • 処方にあたって、各医療機関はまず、日本血液学会認定内科専門医の資格を持つ責任医師と、薬の管理を担当する責任薬剤師を定めます。また家族内にも、例えば容態悪化などによって患者さんが自己管理不可能になったときのことを考え、家族内管理責任者を認定してもらいます(図2)。独り暮らしなどの場合、家族以外の者(訪問看護師やヘルパー)を指定してもよいです。
  • 投与情報を臨床血液学会に登録します。予期しえない重篤な副作用発現時には、日本臨床血液学会に報告します。

また現在、サリドマイド情報をネットワークを使って登録しようとする新規患者登録システム(Safety Management System for Unapproved Drugs:SMUD)の開発も進められています。主治医とともに、患者さんもサリドマイドの安全使用に積極的に取り組んでほしいと思います。

6.おわりに

骨髄腫は確かに病勢のコントロールが難しい疾患ですが、近年、上述したような大変優れた新規薬剤が開発されています。近いうちにわが国でも認可され、広く使われるようになると思います。その結果、今後数年で骨髄腫疾患の治療成績が大きく進歩する可能性があります。その一方で副作用や安全使用にも注意を払い、やみくもに新しい薬に飛びつくのではなく、主治医とよく話し合って適応を決めてください。


フッターの始まり