多発性骨髄腫は、一部(数%未満)の例外的な病型を除いて、血液や尿中にM蛋白(えむたんぱく)を認める病気です。しかしM蛋白を認めても、すべての患者さんが治療を必要とするわけではありません。例えば、本態性M蛋白血症(Monoclonal Gammopathy of Undetermined Significance:MGUSと略し、以前は良性単クローン性高γグロブリン血症と呼ばれていました)では、血中にM蛋白を認めますが骨髄腫細胞の明らかな増加は認められず、特に病的な症状もありません。しかし、年に約1%の患者さんが骨髄腫やリンパ腫などに進展するので、年に1〜2回の検査が必要です。また、無症候性骨髄腫(くすぶり型骨髄腫)と呼ばれる初期の段階では症状もなく治療の必要もありませんが、3ヵ月に1度の検査が必要です。以上のように、治療をはじめる前にしっかりと病気の状態を把握する必要があります。
今までは、主に「SWOGの基準」1)で多発性骨髄腫と診断され、Durie&Salmonの病期分類2)でII期とIII期の患者さんが治療対象とされていました。ちなみに“SWOG”とは、Southwest Oncology Groupの略で、世界の代表的な臨床試験研究グループのことです。一方I期の場合は、3〜6ヵ月に1度検査をして経過をみることが一般的でした。しかし2003年、国際骨髄腫ワーキンググループ(International Myeloma Working Group)は、骨髄腫および関連疾患の新たな診断基準を提唱しました3)。この基準では、骨髄形質細胞比率やM蛋白の量には重きを置かないで、臓器障害(貧血、腎障害、骨病変等)の有無を重視しています。つまり、これらの臓器障害がある患者さんを症候性骨髄腫と診断して治療を行うことを推奨しています。
いずれにしても、世界的にはこの「International Myeloma Working Groupの診断基準」によって、「症候性骨髄腫」と診断された患者さんを治療する方向になってきています。病状の説明の際にも、この診断基準を用いた診断および治療方針の話を聞かれると思います。
| 1.Major criteria | ||
| I) | 生検で形質細胞腫の確認 | |
| II) | 骨髄で30%以上の形質細胞比 | |
| III) | Monoclonal proteinの存在 | |
| IgG>3.5g/dl, IgA>2.0g/dl, BJP>1.0g/日(Amyloidosisなし) | ||
| 2.Minor criteria | ||
| a) | 形質細胞比10〜30% | |
| b) | M蛋白は存在するが、上記以下である。 | |
| c) | 骨融解像が存在する。 | |
| d) | 正常免疫グロブリンの低下(IgG<600mg/dl, IgA<100mg/dl, IgM<50mg/dl) | |
|
|
||
| *進行性で症状を有する症例で、以下の場合を骨髄腫とする。 | ||
| 1. | I+b,I+c,I+d | |
| 2. | II+b,II+c,II+d | |
| 3. | III+a,III+c,III+d | |
| 4. | a+b+c,a+b+d | |
| 1.Monoclonal Gammopathy of Undetermined Significance(MGUS) | ||
| I. | Monoclonal proteinの存在 | |
| II. | Monoclonal proteinの量が以下の基準を満たす IgG≦3.5g/dl IgA≦2.0g/dl BJP≦1.0g/24h |
|
| III. | 骨髄形質細胞比率<10% | |
| IV. | 骨病変を認めない | |
| V. | 症状がない | |
| 2.非活動性骨髄腫 Indolent Myeloma | ||
| 骨髄腫の診断基準を満たし、かつ以下を満たすもの | ||
| I. | 3ヵ所以下の溶骨性病変(圧迫骨折は認めない) | |
| II. | Monoclonal proteinの量が以下の基準を満たす a.IgG<7g/dl b.IgA<5g/dl |
|
| III. | 症状がなく、以下を満たす a.Performance status>70%(Karnofsky scale) b.ヘモグロビン値>10g/dl c.血清カルシウム血が正常 d.血清クレアチニン<2.0mg/dl e.感染症を認めない |
|
| 3.くすぶり型骨髄腫 Smoldering Myeloma | ||
| 非活動性骨髄腫の診断基準を満たし、かつ以下を満たすもの | ||
| I. | 骨病変を認めない | |
| II. | 骨髄形質細胞比率 10〜30% | |
| 病期 | 基準 | 測定全身 骨髄腫細胞数 (×1012/m2) |
| I | 次の項目のすべてを満たすもの | |
| 1.ヘモグロビン>10g/dl | ||
| 2.血清カルシウム正常(≦12mg/dl) | ||
| 3.骨レントゲン写真 正常像または孤立性骨病変 |
<0.6(low) | |
| 4.M成分低値 a.IgG<5g/dl b.IgA<3g/dl c.尿中BJP<4g/24h |
||
| II | 病期I、IIIのいずれにも属さないもの | 0.6〜1.2 (intermediate) |
| III | 次の項目のうち1つ以上を認めるもの | |
| 1.ヘモグロビン<8.5g/dl | ||
| 2.血清カルシウム>12mg/dl | >1.2 | |
| 3.進行した骨病変 広範囲および骨折 |
(high) | |
| 4.M成分高値 a.IgG>7g/dl b.IgA>5g/dl c.尿中BJP>12g/24h |
| 【Monoclonal Gammopathy of Undetermined Significance(MGUS)】 | ||
| ・ | 血清M蛋白<3g/dl | |
| ・ | 骨髄におけるクローナルな形質細胞の比率<10% | |
| ・ | 他のB細胞増殖性疾患が否定されること | |
| ・ | 臓器障害がないこと | |
| 【無症候性骨髄腫Asymptomatic Myeloma(Smouldering Multiple Myeloma)】 | ||
| ・ | 血清M蛋白≧3g/dl | |
| and/or | ||
| ・ | 骨髄におけるクローナルな形質細胞の比率≧10% | |
| ・ | 臓器障害※がないこと | |
| 【症候性骨髄腫Multiple Myeloma(Symptomatic)】 | ||
| ・ | 血清and/or尿にM蛋白を検出 | |
| ・ | 骨髄におけるクローナルな形質細胞の増加あるいは形質細胞腫 | |
| ・ | 臓器障害※の存在 | |
| 【非分泌型骨髄腫Nonsecretory Myeloma】 | ||
| ・ | 血清および尿にM蛋白を検出しない(免疫固相法により) | |
| ・ | 骨髄におけるクローナルな形質細胞の比率≧10%増加または形質細胞腫 | |
| ・ | 臓器障害※の存在 | |
| 【弧発性骨形質細胞腫Solitary Plasmacytoma of Bone】 | ||
| ・ | 血清and/or尿にM蛋白を検出しない* | |
| ・ | クローナルな形質細胞の増加によるただ1ヵ所の骨破壊 | |
| ・ | 正常骨髄 | |
| ・ | 病変部以外は正常な全身骨所見(X-PおよびMRI) | |
| ・ | 臓器障害※がないこと | |
|
*少量を検出することがある
|
||
| 【髄外性形質細胞腫Extramedullary Plasmacytoma】 | ||
| ・ | 血清and/or尿にM蛋白を検出しない* | |
| ・ | クローナルな形質細胞による髄外腫瘤 | |
| ・ | 正常骨髄 | |
| ・ | 正常な全身骨所見 | |
| ・ | 臓器障害※がないこと | |
|
*少量を検出することがある
|
||
| 【多発性形質細胞腫Multiple Solitary Plasmacytoma】 | ||
| ・ | 血清and/or尿にM蛋白を検出しない* | |
| ・ | 1ヵ所以上のクローナルな形質細胞による骨破壊または髄外腫瘤 | |
| ・ | 正常骨髄 | |
| ・ | 正常な全身骨所見 | |
| ・ | 臓器障害※がないこと | |
|
*少量を検出することがある
|
||
| 【形質細胞白血病Plasma Cell Leukemia】 | ||
| ・ | 末梢血中形質細胞>2,000/mm3 | |
| ・ | 白血球分画中形質細胞比率≧20 | |
| ※臓器障害【related organ or tissue impairment(end organ damage)】 | ||
| 1.高カルシウム血症:血清カルシウム>11mg/dlまたは基準値より1mg/dlを超える上昇 | ||
| 2.腎不全:creatinine>2mg/dl | ||
| 3.貧血:Hb値が基準値より2g/dl以上低下または10g/dl未満 | ||
| 4.骨病変:溶骨病変または圧迫骨折を伴う骨粗鬆症(MRI,CT) | ||
| 5.その他:過粘稠症候群、アミロイドーシス、年2回以上の細菌感染 | ||
多発性骨髄腫の治療法を考えるうえで、重要なことが2つあります。1つは骨髄腫の経過で治療法が変わることです。図1に示したように、初回治療、維持療法、再発・難反応期治療に分けられます。第2には、標準治療
と研究段階の治療があることです。ここでは主に、標準治療について説明します。
図1.現在の骨髄腫治療の概要
MP: melphalan/ prednisolone大量間歇療法, VAD: vincristine/ doxirubicine/ dexamethasone療法, HDD: high-dose dexamethasone療法, CY: cyclophosphamide
初期治療には現在、「通常化学療法」と「自己末梢血幹細胞移植を伴う大量療法(自己造血幹細胞移植)」の2つの選択肢があります。フランスのIFMのグループは、通常化学療法を行った100例と自己移植を伴う大量療法を行った100例の臨床研究で、自己造血幹細胞移植をした患者さんたちが寛解率、5年無事故生存率、5年全生存率とも有意に良かったと報告し、他のグループの報告でも同様でした。患者さんの年齢、全身状態(Performance Status:PS)、合併症の有無、患者さんとその家族の意志等を考慮して、化学療法か自己移植かを選択します。一般的には、66歳以上または移植条件を満たさない患者さんには「通常化学療法」を、65歳以下で移植条件を満たす患者さんには「自己末梢血幹細胞移植を伴う大量療法」を行います。
通常化学療法には、標準療法とされるメルファラン/プレドニゾロン(MP)療法と、抗がん剤を3種類以上併用して全体の治療内容を強くした多剤併用療法があります。1998年、イギリスのMyeloma Trialists’ Collaborative Groupより発表されたメタアナリシスの結果から、多剤併用療法はMP療法に比し、奏功率は高いものの生存期間延長効果は認められないことが確認されました。つまり一時的には効くのですが、その効果が長続きしないという意味です。このことから、一般的にはMP療法が推奨されます。しかし、腎障害が強い場合や骨病変がひどい、あるいは全身状態が悪い場合等、治療効果をより早く期待しない場合には、奏功率が高く効果発現が早い多剤併用療法が推奨されます。
いずれにしても現時点では、残念ながら化学療法のみでの治癒は困難です。化学療法によりM蛋白が減り止まって安定し、臓器障害を認めない状態が3ヵ月以上続くことをプラトー(平衡状態という意味)といいます。プラトーに達した場合には、治療を中止し経過観察するか、維持療法を行います。
(処方例)
| a.MP療法(4〜6週ごとに繰り返す) | |||
| アルケラン錠 | 6〜8mg/m2 を2回に分けて | 4日間 | |
| プレドニン錠 | 40〜60mg/body を2回に分けて | 4日間 | |
| b.ROAD療法(5週ごとに3コース) | |||
| サイメリン注 | 1回40mg/m2 点滴静注 | 第1日 | |
| オンコビン注 | 1回1.2mg/m2(max2mg)静注 | 第1日 | |
| アルケラン錠 | 8mg/m2 を3回に分けて | 第1〜6日 | |
| デカドロン注 | 1回40mg/日 点滴静注(1時間) | 第1〜4、9〜12、17〜20日 | |
| c.MCNU-VMP療法(6週ごとに繰り返す) | |||
| サイメリン注 | 1回70mg/m2 点滴静注 | 第1日 | |
| フィルデシン注 | 1回2mg/m2 静注 | 第1日 | |
| アルケラン錠 | 6.5mg/m2 を2回に分けて第1〜4、22〜25日 | ||
| プレドニン錠 | 40〜60mg/日 を2回に分けて第1〜4、22〜25日 | ||
| d.Full VAD療法(4〜5週ごとに繰り返す) | |||
| オンコビン注 | 1回0.4mg/日 24時間持続点滴静注 | 第1〜4日 | |
| アドリアマイシン | 10mg/m2/日 24時間持続点滴静注 | 第1〜4日 | |
| デカドロン | 40mg/日 点滴静注(または内服) | 第1〜4、9〜12、17〜20日 | |
| e.short VAD療法(3〜4週ごとに繰り返す) | |||
| オンコビン注 | 1回0.4mg/日 24時間持続点滴静注 | 第1〜4日 | |
| アドリアマイシン | 10mg/m2/日 24時間持続点滴静注 | 第1〜4日 | |
| デカドロン | 40mg/日 点滴静注(または内服) | 第1〜4日 | |
| f.デキサメタゾン大量療法(4週ごとに繰り返す) | |||
| デカドロン | 40mg/日 点滴静注(または内服) | 第1〜4、9〜12、17〜20日 | |
造血幹細胞移植には、同種移植と自己移植の2つの選択肢があります。1990年初期には、同種移植は移植関連死が約40%と高く、多発性骨髄腫には不適とされ、現在は主に自己幹細胞移植(特に自己末梢血幹細胞移植)が用いられるようになりました。さらに自己移植は、1回でよいか2回(タンデム移植)行ったほうが良いかを検討する、前向き臨床試験も進められてきました。フランスIFMグループは399例を対象とした比較試験を行い、2回移植した患者さんたちは、1回移植した患者さんたちに比べて生存期間が長かったと報告しています。その他の報告でも、2回移植による無事故生存期間の延長効果を認め、現在では2回移植を推奨する医師が多いようです。
詳細は次項をご覧ください。
A.同種造血幹細胞移植
Gahrtonらは、1983〜1993年と1994〜1998年の間の同種造血幹細胞移植の成績を比較し、移植関連死が46%から30%に減少したと報告しています。しかし、骨髄腫の発症年齢中央値が65歳という点を考慮すると、従来の同種造血幹細胞移植の適応となる患者さんはごく一部です。そこで、近年移植関連死が少なく、比較的高齢者にも可能な骨髄非破壊的移植(ミニ移植)の臨床試験が進められました。特に自己末梢血幹細胞移植後にミニ移植を行う方法(Auto/Mini 移植)に、多くの期待が寄せられました。しかし現在までの欧米の報告では、初発骨髄腫に対するAuto/Mini移植の成績は、タンデム自己移植に比べて必ずしも優れていないようです。現在、日本でも臨床試験が行われていますので、その結果が待たれます。
B.新規薬剤
次項で詳述するサリドマイドやボルテゾミブをはじめとした新規薬剤を、初期治療に用いる臨床試験が進んでいます。
まず、65歳以下で自己末梢血幹細胞移植対象となる患者さんの寛解導入療法に使われています。Cavoらは、サリドマイド/デキサメタゾン療法(TD療法、100例)をVAD療法(100例)と比較しています。奏功率はTD療法が有意に良く、その後に行われた造血幹細胞採取にも悪影響はなかったと報告しています。
将来的に移植を予定している患者さんの寛解導入療法に、ボルテゾミブを用いる臨床試験が行われています。この報告でも素晴らしい奏功率が得られています。
以上より、VAD療法の時代は去ったとの声も聞かれますが、日本ではその効果や安全性が十分には確認されていないので、臨床試験が必要です。
次に、65歳以上や移植対象とならない患者さんの治療についてですが、欧米ではMP療法とMP+サリドマイド療法の比較試験が行われ、MP+サリドマイド療法の有用性が確立されました。今後、日本においてもMP+サリドマイド療法の効果を確かめる臨床試験がはじまるでしょう。
MP療法をはじめとした、化学療法による維持療法の有用性に関しては、否定的な報告が大多数です。現在、維持療法として有用性が確立されているものは、インターフェロンとプレドニゾロンだけです。
化学療法後のインターフェロンによる維持療法のメタアナリシスの結果では、無事象生存期間および全生存期間の中央値は、それぞれ6ヵ月、7ヵ月の延長効果を認めています。しかし、これに伴う副作用の増加を考慮すると、必ずしも推奨されているわけではありません。また、自己移植後のインターフェロンによる維持療法の有用性に関しては、無作為比較試験でも有用性は明らかではありませんでした。
(処方例)
| スミフェロン | (300万または600万IU) 1回300〜600万IU 週2〜3回筋注 |
化学療法後のプレドニゾロンによる維持療法の有用性に関しては、SWOGが10mg(生理学的量)と50mg(薬理学的量)隔日投与の比較試験を行い、無進行期間および全生存期間とも50mgを投与したほうが有意に良く、副作用に関して差は認めなかったと報告しています。しかし、プレドニゾロンもこのくらいの量を長期投与するとさまざまな副作用が起こるため、日本ではあまり行われていません。
(処方例)
| プレドニン | 50mg/隔日、進行を認めるまで継続 |
従来、難反応例に対しては、VAD療法かデキサメタゾン大量療法、各種多剤併用療法が用いられてきましたが、十分な効果は得られていませんでした。その後、自己末梢血幹細胞移植も試されましたが、生存期間の延長効果は得られませんでした。しかし近年、サリドマイドやボルテゾミブ等の新規薬剤が開発され、再発・難治の患者さんに対して臨床試験が行われ、その有効性が確立しました。欧米では一般的に使用されていますが、日本では2006年9月時点では、まだサリドマイドもボルテゾミブも薬として認可されていません。
サリドマイドは、1950年代に副作用の少ない鎮静薬として開発されましたが、1960年代より重症新生児四肢奇形の原因薬剤であることが判明し、大きな社会問題となりました。1990年代になり、本剤が抗炎症作用、免疫調節作用を有し、らい結節性紅斑をはじめ、さまざまな病気に有効との報告が相次ぎました。1998年にアメリカ血液学会でサリドマイドの骨髄腫難反応例に対する有用性が報告され、その後、次々に追試がされて有用性が確立しました。サリドマイド単剤では30%、デキサメタゾンとの併用で40〜50%、化学療法との併用では50〜60%の奏功率が報告されています。わが国における報告も、ほぼ同様の成績です。難反応例には是非試みるべき薬剤であり、現時点ではデキサメタゾンとの併用が、最も安全かつ有用とされています。
その投与量ですが、アメリカのBarlogieらは、3ヵ月間の投与量が42gより多い患者さんのほうが、それ以下の方に比べて、M蛋白減少効果も生存期間も有意に良いと報告しています。しかし、実際は副作用のために400mg/日以上の増量は困難な患者さんが多く、日本では100〜200mg/日で維持されている場合がほとんどです。その副作用としては、末梢神経障害、便秘などの消化器症状、傾眠などの精神神経症状、深部静脈血栓症、白血球減少等が多くみられます。深部静脈血栓症については、欧米では合併頻度が高く、30%台の報告もみられます。特に、アントラサイクリンという抗がん剤との併用で合併頻度が高くなるといわれています。一方、白血球減少は日本においての報告例が多く、治療開始後比較的早期に起こります。特に、治療歴の長い患者さんや骨髄腫細胞の多い患者さんは、合併頻度が高いようです。
(処方例)
| サリドマイド | 50〜100mg/日(眠前経口)より開始し、副作用に注意して100〜200mg/日で維持 |
難反応例202例を対象としたアメリカのSUMMIT 研究では、ボルテゾミブ1.3mg/m2注射を第1、4、8、11日目に行い1週間休薬する治療を、計8サイクル行って治療効果をみています。小寛解(MR)以上の奏功率35%、生存期間中央値17ヵ月が得られ、サリドマイドと同様に、難反応例には有用な治療法であることが明らかとなりました。現在は、デキサメタゾンとの併用が推奨されています。
副作用としては、末梢神経障害、血小板減少が問題となります。強い痛みを伴う末梢神経障害が、治療継続の障害になることが多いようです。しかし、治療中や治療中止後によくなる患者さんが多いといわれます。血小板減少は、治療前の血小板数が少ない患者さんや、骨髄形質細胞比率の高い患者さんでの合併頻度が高いようです。
(処方例)
| ベルケイド | 1.3mg/m2静注 第1、4、8、11日、1週間休薬を8サイクル |
アメリカのRichardsonらは、サリドマイド誘導体であるレナリドマイド単独療法の第2相試験を行い、難反応例46例の解析でMR以上の奏功率が54%だったと報告しました。本剤はサリドマイドに比べて効果は強く、また末梢神経障害、消化器症状、精神神経症状、DVT等の副作用が軽く、やがてサリドマイドに取って代わる薬剤と考えられます。
さまざまな治療の効果を判定するには、Leukemia-Myeloma Task Forceの基準4)が世界で汎用されてきました。日本では、これに準じた「今村の基準」が長く用いられてきました。1998年には、欧州骨髄移植グループが中心となり、新たな判定基準がつくられました。これは、同種幹細胞移植を伴った大量療法の導入により完全寛解例が増加したこと、免疫固定法を用いた厳格な寛解判定法の導入、予後を反映する効果判定基準の必要性等が背景となっています。現在、EBMT/IBMTR/ABMTRの基準5)、またはBladeの基準と呼ばれ、化学療法や新規薬剤の効果判定にも用いられるようになりました。
表4 Myeloma Task Forceの骨髄腫治療効果判定基準
| 以下の1つ以上を満たせば有効と判定 | ||
| ・ | 血清M蛋白値の50%減少 | |
| ・ | 尿ベンスジョーンズ蛋白量 治療前値>1.0g/24hのときは50%減少 治療前値<1.0g/24hのときは0.1g/24h以下に減少 |
|
| ・ | 形質細胞腫径の50%縮小 | |
| ・ | レ線上骨病変の治癒像 | |
| 1.CR(Complete response)以下のすべてを満たすこと | ||
| 1) | 免疫固定法で血清および尿中のM蛋白消失が6週間持続 | |
| 2) | 骨髄穿刺で形質細胞5%以下 | |
| 3) | 溶骨性病変の大きさあるいは数に増加のないこと(圧迫骨折は考慮しない) | |
| 4) | 軟部組織の形質細胞腫の消失 | |
| 1つでもCR基準を満たさない場合、それが次のPR基準に合致すればPRと判定。 免疫固定法が実施されていなければPRと判定。 |
||
| 2.PR(Partial response)以下のすべてを満たすこと | ||
| 1) | 血清M蛋白値の50%以上の減少が6週間持続 | |
| 2) | 24時間尿でM蛋白量の50%以上の減少または200mg未満が6週間持続 | |
| 3) | 非分泌型骨髄腫では骨髄形質細胞数の50%以上の減少が6週間持続 | |
| 4) | 軟部組織の形質細胞腫の大きさ50%以上の減少 | |
| 5) | 溶骨性病変の大きさあるいは数に増加のないこと(圧迫骨折は考慮しない) | |
| 1つでもPR基準を満たさない場合、それが次のMR基準に合致すればMRと判定 | ||
| 3.MR(Minor response)以下のすべてを満たすこと | ||
| 1) | 血清M蛋白値の 25〜49%の減少が6週間持続 | |
| 2) | 24時間尿でM蛋白量が50〜89%減少するが200mg以上の存在が6週間持続 | |
| 3) | 非分泌型骨髄腫では骨髄形質細胞数の25〜49%以上の減少が6週間持続 | |
| 4) | 軟部組織の形質細胞腫の大きさ25〜29%の減少 | |
| 5) | 溶骨性病変の大きさあるいは数に増加のないこと(圧迫骨折は考慮しない) | |
| 4.NC(NO change)MRおよびPDのいずれの基準も満たさないもの | ||
| 5.PD(Progressive disease)以下の1つ以上を満たすこと | ||
| 1) | 血清M蛋白の25%以上の増加かつ絶対量で0.5g/dl以上の増加 | |
| 2) | 24時間尿でM蛋白量の25%以上の増加かつ絶対量で200mg以上の増加 | |
| 3) | 骨髄穿刺で形質細胞25%以上の増加かつ絶対数で10%以上の増加 | |
| 4) | 既存の骨病変あるいは軟部組織の形質細胞腫の明らかな増大 | |
| 5) | 新しい骨病変あるいは軟部組織の形質細胞腫の出現 | |
| 6) | 高カルシウム血症の出現(補正Ca値11.5mg/dl以上) | |
限局的な骨病変による疼痛(とうつう)に対しては、少量の局所照射(20Gy程度)で十分な効果が得られます。比較的早期に効果が現れるので有用です。一方、椎体(ついたい)病変のため下肢の麻痺などが出現している患者さんには、できるだけ速やかに(48時間以内に)照射を開始すべきです。病変部の診断にはMRIが最適で、椎体には40Gyの照射が必要です。
本剤は骨の代謝に関係して、特に骨を溶かす働きのある破骨細胞の機能を抑制します。骨髄腫では破骨細胞の機能が高まっているので、骨病変や骨痛の強い患者さんには大変有効です。ASCOガイドライン6)、IMFガイドライン7)および英国骨髄腫フォーラムガイドライン8)で、いずれもビスホスホネート製剤であるクロドロネート、パミドロネート、およびゾレドロネートの使用が推奨されています。また、これらビスホスホネート製剤は、骨髄腫細胞に対する抗腫瘍効果も認められるとの報告もあります。2006年4月より、ゾレドロネート(ゾメタ)は「多発性骨髄腫による骨病変」に対して適応となり、保険で使用できるようになりました。
(処方例)
| ゾメタ | 1回4mg 生理食塩水100mlに溶解し、15分以上かけて点滴静注 |
整形外科的治療は、骨病変の補強・固定や脊髄圧迫の除去を目的に行われます。これにより、痺(しび)れや麻痺などの治療、予防ができます。しかし、体に大きな負担をかけることもありますので、慎重に治療計画を立てます。
骨の病変部を人工骨や骨セメントで埋めたり、金属器具を用いて補強・固定します。
鎮痛薬は痛みの感覚を軽くする薬です。鎮痛薬を上手に活用すれば効果的に痛みを抑えることができて、患者さんの生活の質(QOLと呼びます)の改善に大いに役立ちます。
鎮痛薬は、痛みの強さに応じたものを選択すべきです。WHO(世界保健機構)は、図2のようながんの痛みに応じた鎮痛薬の選択法を推奨しています。もし鎮痛薬を飲んでも痛みが続く場合は、適切な薬を選んでいない可能性がありますので、主治医と相談してください。
図2.WHOのがん疼痛治療法

非オピオイド:非ステロイド系消炎鎮痛薬で、炎症や痛みのもととなるプロスタグランジンの産生を抑えます。
オピオイド鎮痛薬:痛みが脳に伝わる経路の途中にある「オピオイド受容体」という部分に作用し、痛み信号が伝わらないようにします。
高カルシウム血症になって、意識障害や口の渇きなど明らかな臨床症状を伴う患者さんには、速やかに生理食塩水の輸液とビスホスホネート製剤の点滴を行います。また、血中のカルシウム値が高値の患者さんも、できるだけ速やかに治療を受ける必要があります。ステロイドやカルシトニン製剤を併用すると、有用な場合もあります。
(処方例)
| a. | ゾメタ | 1回4mg 生理食塩水100mlに溶解し、15分以上かけて点滴静注 |
| b. | アレデイア または ビスフォナール注 |
1回30mg 点滴静注(4時間以上かけて) 1回10mg 点滴静注(2〜4時間) |
| c. | ソル・メドロール注(500mg) | 500mg/日点滴静注3日間(保険適応外) |
| d. | エルシトニン注(40単位) | 1回40単位、1日2回筋注 |
腎臓へのM蛋白の沈着、高カルシウム血症、高尿酸血症、アミロイドーシス、尿路感染症、骨髄腫細胞浸潤、その他の多くの原因で腎障害が発症するとされています。造影剤使用、非ステロイド系消炎鎮痛剤投与等で、腎障害がさらに悪化することがあります。一般の腎不全対策と同様に、輸液、アシドーシス補正、電解質補正を行い、必要に応じて血液透析も行います。大量のベンスジョーンズ蛋白を伴う患者さんには、1日3L以上の尿量を確保することが必要です。
腎障害のある患者さんの化学療法には、効果発現が早くて腎障害の少ないVAD療法ないしデキサメタゾン大量療法が推奨されます。血清クレアチニン値が6mg/dl以下の場合は、骨髄腫に対する治療が効けば腎障害が改善することが多いようです。
高γグロブリン血症による血液粘度の上昇により(血液ドロドロ状態)、出血症状(鼻出血、眼底出血、口腔内出血)、意識障害、腎障害を来すことをいいます。早急な改善には血漿交換(できれば、通常の血漿交換よりγグロブリン除去効果が高いダブル濾過法(Double Filtration)、または段階型濾過法(Cascade Filtration)の実施が望まれます)が有効ですが、骨髄腫の治療も同時に行う必要があります。ちなみに血漿交換とは、患者さんの血漿(血液の液体成分)を、健康な人からもらった血漿と交換することです。
骨髄腫細胞から産生されるM蛋白の一部が分解されて破片になると、アミロイドという、血液に溶けにくく、組織にたまりやすい物質に変化します。このアミロイド蛋白が、心臓、腎臓、消化管、舌等の臓器に沈着して、臓器の働きの障害を起こすことをアミロイドーシスといいます。アミロイド沈着は骨髄腫の患者さんの約30%にみられますが、実際に症状の出る患者さんは10%未満です。
診断には病変部位の生検(組織をつまんで採る)が最もよいのですが、比較的浸襲(しんしゅう)が少ない検査の骨髄穿刺(こつずいせんし)と皮下脂肪の生検を併用すると、約80%の患者さんで診断が可能です。アミロイドーシスのある骨髄腫の患者さんの予後を左右する因子は心機能なので、心臓エコー検査を行うことが大切です。
アミロイドを取り除く有効な治療法はありません。早期に診断して、骨髄腫の治療、特に自己造血幹細胞移植を伴った大量療法がよいとの報告があります。
骨髄腫の患者さんは、病気や治療のために免疫力が低下していて、感染症にかかりやすい状態になっています。細菌、ウイルス、真菌等のさまざまな病原体による感染症をしばしば合併します。普段の生活でも感染に注意する必要がありますが、特に治療中は免疫力がさらに低下しますので、医師の指示を受けるようにしましょう。
わかりやすくて良い文献がなかなかありませんが、参考までに、お薦めできる専門的な報告を以下に示します。