腎臓は、ちょうど肋骨の下端の高さで、左右、両方にソラマメのようなかたちをした長さ10cm×5cm、幅3cm程度の臓器で、血液をこして尿を生成しています。また、血圧のコントロールに関するホルモンや造血に関するホルモンを産生しています。
このがんは、大きくなるとさまざまな症状がみられますが、腫瘍の最大径が5cm以下で、何らかの症状があることはまれです。近年、超音波検査やCTなどの普及により、小さな腎がんが見つかるようになり、症状のない場合が増加しています。
サイズの大きい腫瘍では、血尿、腹部腫瘤(しゅりゅう)、疼痛などがみられます。また、全身的症状として発熱、体重減少、貧血などをきたすことがあります。まれに、腎がんが産生する物質によって、赤血球増多症や高血圧、高カルシウム血症などが引きおこされることがあります。このがんは、もともと静脈内に進展しやすいのですが、静脈内への腫瘍の進展によって、下大静脈という腹部で一番大きな静脈が閉塞すると、血液が他の静脈を通って心臓に戻るため、腹部体表の静脈が目立ったり、陰嚢内の静脈が目立つ(精巣静脈瘤)現象がおこることがあります。腎がんで発熱や体重減少など全身的な症状を伴っている場合、進行がはやいといわれています。検診などで症状のない腎がんが発見される機会が増えているのですが、腎がんの約2割は、肺や骨に転移した腫瘍がまず発見され、いろいろ調べているうちに腎臓に原発のがんが見つかり、腎がんの肺や骨転移と診断されることがあります。肺に転移が存在しても自覚症状はあまりありません。
超音波検査は簡便で、スクリーニング検査としては非常に診断学的価値のある検査です。腎嚢胞(じんのうほう:腎臓に水のたまる袋ができるもの)や良性疾患である腎血管筋脂肪腫などの鑑別にも有用です。さらにCT検査が施行されます。この検査によって、腎の腫瘍性病変の鑑別診断が可能です。また、静脈内の腫瘍塞栓の有無やリンパ節転移の有無などが診断できます。胸部X線写真や肺CTにより肺転移の有無を検索します。また、骨転移の有無を確認するため、骨シンチが施行されます。血管造影検査も重要な検査ですが、侵襲(しんしゅう:身体的負担)が大きいこと、質の高いCT検査を施行すれば血管造影検査とほぼ同様の情報が得られることなどにより、近年、施行される機会は少なくなっています。
腎がんの病期は、「腎癌取扱い規約 第3版 日本泌尿器科学会・日本病理学会・日本医学放射線学会/編 1999年金原出版(株) 東京」によれば次のように分類されています。
| pT 原発腫瘍 | ||
| pTX | 原発腫瘍の評価が不可能 | |
| pT0 | 原発腫瘍を認めない | |
| pT1 | 最大径が7.0cm以下で、腎に限局する腫瘍 | |
| pT1a | 最大径が4.0cm以下で、腎に限局する腫瘍 | |
| pT1b | 最大径が4.0cmを越えるが7.0cm以下で、腎に限局する腫瘍 | |
| pT2 | 最大径が7.0cmを越え、腎に限局する腫瘍 | |
| pT3 | 腫瘍は主静脈内に進展、または副腎に浸潤、または腎周囲脂肪組織に浸潤するが、Gerota筋膜を越えない | |
| pT3a | 腫瘍は副腎または腎周囲脂肪組織または腎洞脂肪組織に浸潤するが、Gerota筋膜を越えない | |
| pT3b | 腫瘍は腎静脈または横隔膜下までの下大静脈内に進展する | |
| pT3c | 腫瘍は横隔膜を越える下大静脈内に進展する | |
| pT4 | 腫瘍はGerota筋膜を越えて浸潤する | |
| pN 所属リンパ節 | ||
| pNX | 所属リンパ節の評価が不可能 | |
| pN0 | 所属リンパ節転移なし | |
| pN1 | 1個の所属リンパ節転移 | |
| pN2 | 2個以上の所属リンパ節転移 | |
| pM 遠隔転移 | ||
| pMX | 遠隔転移があるかどうか評価不能 | |
| pM0 | 遠隔転移なし | |
| pM1 | 遠隔転移あり | |
腎がんの治療の主体は外科療法です。病期にかかわらず、摘出できる場合は腎臓の摘出、あるいは腎臓を部分的に摘出することが最も一般的です。仮に肺や骨に転移があっても、腎臓の外科的摘出が考慮される場合があります。これは1)腎臓を摘出する手術がそれほど身体にダメージがないこと、2)腎臓を摘出した後、転移巣に対して免疫療法、外科療法などを行うことにより、治癒したり、がんの進行が抑えられることがあること、3)がんをそのままにしていた場合、将来、出血や腹痛、発熱、貧血などが発生し、生活の質が低下することなどを配慮して摘出が行われています。腎臓は腎の上部に位置する副腎とともにゲロタ筋膜におおわれています。したがって、腎がんに対する外科療法としては、副腎も含めてゲロタ筋膜ごと腎臓を摘出する方法が一般的ですが、近年では副腎を一緒に摘出する意義は疑問視されています。各種画像診断の普及から、腫瘍サイズが小さい腎がんが発見される機会が増加しています。このような小さい腎がんに対しては腎臓を全部摘出せず、腫瘍とともに腎臓の一部のみを摘出(腎部分切除)する手術が行われています。このような手術を受けた場合でも腎臓を全部摘出した場合でも再発率、生存率については大差がなく、施設ごとの基準にしたがって腎部分切除もさかんに行われるようになっています。
また、従来は腹部を切って腎臓を摘出していましたが、一部の施設では腹部を大きく切らず内視鏡を腹壁から挿入して手術する方法(腹腔鏡下手術、腹腔鏡補助手術)が行われています。この手術は、腹部を大きく切らないため傷が目立たず、術後早く退院できるなどのメリットがあります。しかし、手術時間は術者の慣れにもよりますが、開腹手術より長くなります。また、手術はテレビモニターを見ながら行われるため、術中知らない間に臓器を損傷させたり、急な出血に対応しにくいという問題があります。さらに、がん診断のためには摘出した腎臓をある程度現形をとどめて体外にとり出さなくてはならず、そのためにある程度、腹部を切る必要があり、せっかく傷を小さくして手術してもどうしても5〜7cm程度の傷が入ってしまうという矛盾があります。小さな腎がんに対する部分切除では、摘出される臓器が小さいため大きく傷をつける必要はないのですが、内視鏡による腎臓部分切除は技術的に難しいという問題があります。腹腔鏡による手術では、術者あるいは手術チームの慣れが重要です。当センターでも、かつて腹腔鏡手術を行ったことがありますが、現在は前述のような点から腹腔鏡手術の施行に関してはやや否定的です。
外科療法以外の方法としては、腎動脈を人工的に閉塞させ、がんに血液が流れ込まないようにする方法(動脈塞栓術)があります。この方法は摘出が不可能な場合や、大きな腫瘍を摘出する場合、手術に先立ち施行されることがあります。
転移巣に対しては、自己の免疫力を高める治療(免疫療法)を行うことが一般的ですが、転移巣が少数で、腫瘍の大きさや数がかわらない場合、経過観察後あるいは免疫療法後に手術による転移部位の摘出が行われることがあります。肺の転移巣に対する外科療法では長期生存も期待されます。さらに骨、脳転移などに対しても外科療法や放射線療法が行われることがあります。
腫瘍が多発したりしている場合は、免疫療法が主体となります。インターフェロンやインターロイキン2という薬を点滴したり、注射したりします。抗がん剤の治療効果はほとんど期待できません。
腎がんは免疫療法により効果が認められることなどにより、近年、各種の先端医療が試みられています。個々の患者さんの腎がん組織よりワクチンを作成し、これを体内に戻す治療(遺伝子治療)や免疫反応に重要な役割を果たす樹状細胞を用いた治療法、さらには移植片対宿主を利用した移植療法(当センター)などが一部の施設では実施されています。これらの先端医療は、まだ実験的な段階にあります。
最近、分子標的治療が登場し、腎がんに対してインターフェロンを上回る効果が認められる治療薬も開発されました。現在、本邦での認可のための治験を実施中です。
腎臓のみを摘出する手術に合併症はあまりありません。腎臓は左右に2つあり、ひとつのみの腎臓を摘出することで人工透析が必要となるような腎機能不全に陥ることはまずありません。動脈塞栓術は一時的な発熱、痛み、腸閉塞や全身衰弱などの副作用があります。免疫療法では、個人差もありますが、インフルエンザに似た発熱、関節の痛みなどが認められます。
生存率は、通常、がんの進行度や治療内容別に算出しますが、患者さんの年齢や合併症(糖尿病などがん以外の病気)の有無などの影響も受けます。用いるデータによってこうした他の要素の分布(頻度)が異なるため、生存率の値が異なる可能性があります。
ここにお示しする生存率は、これまでの国立がんセンターのホームページに掲載されていたものです。生存率の値そのものでなく、ある一定の幅(データによって異なりますが±5%とか10%等)をもたせて、大まかな目安としてお考え下さい。
最近、腎がんは非常に小さく早期で発見されるようになり、治療成績は、T1程度のがんでは90%以上治癒しています。しかし、5cm以上の大きな腫瘍や、転移のある腫瘍の成績は劣ります。また、発熱、著明な体重減少などの症状のあるがんの予後は、症状のないがんより明らかに不良です。