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網膜芽細胞腫(もうまくがさいぼうしゅ)

更新日:2006年10月01日    掲載日:2005年11月01日

1.網膜芽細胞腫とは

眼球の構造と名称

網膜芽細胞腫は網膜から発生する悪性腫瘍で乳幼児に多い病気です。眼球をカメラに例えると網膜はフィルムに相当する部分です。瞳孔から入った光がレンズの働きをする水晶体で屈折されて網膜に映し出されます。水晶体と網膜との空間は硝子体と呼ばれる粘ちょうで透明な卵の白味のような物質で満たされています。

網膜芽細胞腫の発症頻度は15,000人の出生につき1人の割合で、性別、人種、地域による違いはありません。現在、わが国では毎年約80人が発症しています。両眼に生じる場合と片眼だけの場合とがあり、その比率は両眼1に対し片眼2.6です。この腫瘍は13番染色体長腕の13q14という部位にあるがん抑制遺伝子であるRB1遺伝子の異常によって発生することがわかっています。

2.遺伝・遺伝子

身体の1つの細胞には23対の染色体があり、同じ遺伝子が2個あります。もともと身体の細胞に遺伝子の異常がなく、網膜の一部の細胞だけで一対のRB1遺伝子の両方が働かなくなり、その結果、腫瘍が発生することがあります。この場合は必ず片眼性であり、遺伝性はありません。

一方、親の精子か卵子にRB1遺伝子の異常があると、これから発生した胎児の身体のすべての細胞はRB1遺伝子の一方に異常を持つことになります。この状態でも細胞は正常に働きますが、網膜が作られる過程で、他方のRB1遺伝子に異常が生じると、網膜芽細胞腫が発生すると考えられています。両眼性の症例すべてと、片眼性の症例の10〜15%がこの状態とされています。RB1遺伝子は細胞分裂に重要な働きを持つため、将来骨肉腫など別の種類の悪性腫瘍の発生頻度が高いので注意が必要です。

すでに網膜芽細胞腫の子(患児)がいる場合、次に生まれる子や患児の子に網膜芽細胞腫が発生する確率は、以下のように計算されています。家系に1人しか網膜芽細胞腫の患者がいない場合、両眼性の場合はその患児の子には49%、その患児の弟や妹には3%の確率で発生し、片眼性の場合はその患児の子には5%、その患児の弟や妹には2%の確率で発生します。

遺伝子解析技術の進歩により、血液検査で遺伝子異常を検出できるようになってきました。しかしながら、現在の技術では60〜80%しか発見できません。着床前診断、羊水検査などの技術もありますが、網膜芽細胞腫は現在の倫理指針では対象になりません。遺伝子検査の目的、限界を十分理解していただくために、遺伝相談外来などでカウンセリングも行われています。

3.症状

主な症状としては、眼球の中で白い腫瘍が大きくなり、瞳を通して白く光って見える、白色瞳孔と呼ばれるものがあります。次いで、斜視(2つの眼球の向きが合っていない場合)、まぶたのはれ(進行例で眼球外に腫瘍が波及した場合)などがあります。このような症状に気づいて眼科を受診する年齢の平均は、両眼性で生後11ヵ月、片眼性で27ヵ月です。95%が5歳までに診断されます。

4.診断

網膜芽細胞腫の診断は眼底検査が基本となります。必要に応じて画像検査を併用します。病期診断のために小児科医が診察を行います。眼球内の腫瘍のみを切除することは転移の危険性があるために禁忌であり、眼球保存治療を行う場合は病理診断ではなく臨床診断に基づいて治療を開始します。

1)前眼部・眼底検査

点眼で瞳孔を開き、眼底検査を行います。これにより、1mm以下の小さな腫瘍も検出することができます。また、硝子体、前房への浸潤の有無、腫瘍に伴う網膜剥離の有無などもあわせて確認することが治療法の決定に重要です。

2)画像検査

(1)超音波検査

被曝などの危険がなく、腫瘍の大きさを測定することができます。角膜混濁などで眼底検査が十分できない場合にも有用です。網膜芽細胞腫は腫瘍の内部に石灰化を生じるのが特徴的で、超音波でこれを検出すると診断の補助となります。

(2)CT

眼球内腫瘍に対しては石灰化の検出に有効です。また眼球外への腫瘍の広がりを検出することが可能です。X線被曝による二次がんの危険があるため、複数回の撮影を必要とする場合はMRIを選択します。

(3)MRI

磁気共鳴法という磁場を用いる断層撮影で、眼球外への腫瘍の広がり、両眼性網膜芽細胞腫に脳腫瘍を併発する三側性網膜芽細胞腫の検出に有用です。石灰化の検出はできません。

3)小児科医の診察

問診、聴診などを行い、全身状態を把握します。眼球外へ腫瘍が広がっている場合、転移が疑われる場合は、病期診断のため血液検査、骨髄検査、脳脊髄液検査などを行います。

5.病期

眼球内腫瘍に対する病期分類はありませんが、眼球保存のための基準として、歴史的にReese-Ellsworth分類(表1)が進行度の分類として使われてきました。現在は国際分類(表2)が確立しつつあります。

現在多くは、眼球内腫瘍と眼球外腫瘍に分類して治療を行います。

6.治療

転移・眼球外浸潤のある場合

可能な限り腫瘍切除
術後放射線照射、全身化学療法(骨髄移植を併用した大量化学療法)
症例が少なく、治療法は未確立

眼球内にとどまる場合

進行眼(視力の期待できない場合、緑内障の合併症例など):眼球摘出
摘出眼球で眼球外浸潤が確認されれば転移予防のための化学療法
非進行眼(視力の期待できる場合):眼球温存治療
放射線照射、化学療法、眼球局所治療などを組み合わせて治療
世界的に放射線治療から化学療法へ移行
確固たる根拠(エビデンス)を持った標準的な治療は確立していない
治療の効果は眼底検査で判断。画像検査は腫瘍の残存と瘢痕(はんこん)化組織の判断が困難

1)眼球摘出手術

腫瘍を、眼球ごと切除する手術です。眼球内腫瘍の切除は転移の危険性から禁忌で、網膜芽細胞腫の場合、腫瘍切除は眼球摘出を意味します。全身麻酔で1時間程度の手術です。摘出後、義眼台という土台を埋め込む場合と埋め込まない場合があります。

手術後は眼臉腫脹や皮下の出血斑が生じることがありますが1〜2週間で消えます。手術直後に有窓義眼と呼ばれる透明なプラスチックの義眼を入れておき、結膜嚢の形成を助けます。術後2〜4週で角膜の描いてある仮義眼を装用します。その後義眼を調整し、本義眼をつくることになります。義眼は毎日外して結膜嚢内を水できれいに洗い、清潔にしておくことが必要です。眼脂が多い時は、抗生剤の眼軟こうや点眼液を使用する必要があります。

(1)放射線照射

水晶体の被曝による白内障を避けるため、側方から照射します。週に5日間、約4週間にわたり照射します。1回の照射は短時間で終わり、麻酔を必要としないため外来通院で行われます。放射線治療により約60%の症例で腫瘍が寛解し、治療効果は最も期待できますが、放射線による二次がん、眼部の骨の成長障害など副作用も多く、現在は治療困難な進行例に限り行われます。

(2)小線源治療(内照射)

放射性同位元素の金属板を眼球の外から腫瘍部に固定することで、腫瘍に大量の放射線を照射し、周囲の放射線障害を減らす治療法です。わが国ではルテニウム小線源が使われています。鉛で遮へいされた特殊病室への入院が必要です。手術の際、眼球を動かす筋肉を一時移動するため、物が二重に見える複視の生じる場合があります。

3)眼球局所治療

(1)レーザー照射

通常赤外線レーザーを使い、瞳孔を通して腫瘍にあてることで、腫瘍を45〜50℃に温め(温熱治療)、腫瘍の細胞死を促す治療です。比較的小さな腫瘍に対してはレーザー単独で、大きな腫瘍に対しては化学療法と併用して行います。重大な合併症はありません。

(2)冷凍凝固

-80℃に冷却した専用の器具を眼球の壁にあて、腫瘍を凍らせることで破壊する治療です。網膜の周辺部(眼球の前方)にある、比較的小さな腫瘍に行います。術後結膜充血を生じます。

4)化学療法(参照:がんの薬物療法

(1)全身化学療法

眼球を温存するための化学療法は、1996年に欧米で治療成績が報告され、腫瘍の縮小効果が明らかとなってきました。標準治療になってはいませんが、欧米では広く行われており、わが国でも近年行われています。ビンクリスチン、カルボプラチン、エトポシドという3種類の抗がん剤を使い、1ヵ月ごとに6回繰り返す治療方法が一般的ですが、施設により異なります。腫瘍は縮小しますが、化学療法だけで治癒するのはごく一部の症例で、多くは眼球局所治療の併用が必要となります。副作用として、軽度の免疫抑制、血球減少、脱毛、嘔気などがあります。

(2)局所化学療法

眼球だけに抗がん剤を投与するために選択的眼動脈注入という治療法がわが国独自の方法として一部施設で行われています。免疫抑制などの全身副作用は生じない治療ですが、手技が難しく症例数は限られます。標準治療ではなく、研究的治療であり、現在治療効果を評価している段階です。

結膜下(白目の部分)に抗がん剤を注射して眼球内の腫瘍を治療する方法、眼球に直接針を刺して抗がん剤を注入する方法も試みられています。

7.予後

生存率は、通常、がんの進行度や治療内容別に算出しますが、患者さんの年齢や合併症(糖尿病などがん以外の病気)の有無などの影響も受けます。用いるデータによってこうした他の要素の分布(頻度)が異なるため、生存率の値が異なる可能性があります。
ここにお示しする生存率は、これまでの国立がんセンターのホームページに掲載されていたものです。生存率の値そのものでなく、ある一定の幅(データによって異なりますが±5%とか10%等)をもたせて、大まかな目安としてお考え下さい。

生命予後は、全国登録の結果から5年生存率93.1%、10年生存率90.6%と報告されています。眼球外に腫瘍が拡がっている場合には、5年生存率71.2%、10年生存率66.0%に低下します。

眼球保存率は、全体で約50%程度です。国立がんセンターの5年眼球保存率は非進行例(国際分類のA〜C)で83%、進行例(国際分類のD〜E)で33%でした。

表1.Reese-Ellsworth分類

 Ia群 4乳頭径未満の単一腫瘍で、赤道部より後方(1乳頭径=約1.5mm、以下同様)
 Ib群 4乳頭径未満の複数腫瘍で、すべて赤道部より後方
 IIa群 4〜10乳頭径の単一腫瘍で、赤道部より後方
 IIb群 4〜10乳頭径の複数腫瘍で、すべて赤道部より後方
 IIIa群 赤道部より前方にある腫瘍
 IIIb群 10乳頭径より大きな単一腫瘍で、赤道部より後方
 IVa群 10乳頭径より大きな腫瘍を含む複数腫瘍
 IVb群 鋸状縁(網膜の前端)まで達している腫瘍
 Va群 網膜の半分を超える大きさの腫瘍
 Vb群 硝子体播種(眼球内で腫瘍が崩れている状態)がある場合


表2.国際分類
A 3mm以下の腫瘍で、黄斑部から3mm、視神経乳頭から1.5mm離れている
B 硝子体播種、網膜下播種を伴わない腫瘍、網膜剥離は腫瘍から5mmを超えない範囲
C 小線源治療で治癒できる範囲の播種を伴う症例、網膜剥離は1/4象限を超えない
D 著明な播種を伴う症例、網膜剥離は1/4象限を超えてよい
E 血管新生緑内障、大量の眼内出血、眼窩蜂窩織炎、前房浸潤、水晶体に接する巨大腫瘍、びまん性浸潤性腫瘍、眼球癆のいずれかの状態


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