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前立腺がん(ぜんりつせんがん)

更新日:2014年11月18日 [ 更新履歴 ]    掲載日:1996年10月16日
更新履歴
2014年11月18日 「4.疫学・統計」を更新しました。
2013年11月08日 内容を更新しました。タブ形式に変更しました。
2006年10月06日 内容を更新しました。
1996年10月16日 掲載しました。

1.前立腺について

前立腺は男性だけにあり、精液の一部をつくっている臓器です。前立腺は、恥骨(骨盤を形成する骨の1つ)の裏側に位置しており、栗の実のような形をしています。
図1 前立腺の構造
図1 前立腺の構造

2.前立腺がんとは

前立腺がんは、前立腺の細胞が正常な細胞増殖機能を失い、無秩序に自己増殖することにより発生します。最近、遺伝子の異常が原因といわれていますが、正常細胞がなぜがん化するのか、まだ十分に解明されていないのが現状です。

がん細胞は、リンパ液血液の流れで運ばれ別の場所に移動し、そこで増殖することもあります。これを転移といいます。前立腺がんは近くのリンパ節や骨に転移することが多いのですが、肺、肝臓などに転移することもあります。

前立腺がんは早期に発見すれば手術や放射線治療治癒することが可能です。また、比較的進行がゆっくりであることが多いため、かなり進行した場合でも適切に対処すれば、通常の生活を長く続けることができます。

3.症状

早期の前立腺がんには特徴的な症状はみられません。しかし、同時に存在することの多い前立腺肥大症による症状、例えば尿が出にくい、尿の切れが悪い、排尿後すっきりしない、夜間にトイレに立つ回数が多い、我慢ができずに尿を漏らしてしまうなどがみられる場合があります。前立腺がんが進行すると、上記のような排尿の症状に加えて、血尿や骨への転移による腰痛などがみられることがあります。腰痛などで骨の検査を受け、前立腺がんが発見されることもあります。また肺転移がきっかけとなって発見されることもあります。

最近は、症状がなくても人間ドックなどの血液検査で、腫瘍マーカーである前立腺特異抗原(PSA)が高値であることがわかり、専門医を受診される方が増えています。

4.疫学・統計

わが国の前立腺がんによる死亡数は約1.2万人で、男性がん死亡全体の約5%を占めます。前立腺がんの罹患数(全国推計値)は、約4.7万人で、男性がん罹患全体の約14%を占めます。罹患率は65歳前後から顕著に高くなります。年齢調整罹患率は1975年以降増加していますが、その理由の1つは、前立腺特異抗原(PSA)による診断方法の普及があげられます。前述したように、早期がんでは特有の自覚症状がみられないため、受診のきっかけがないという問題点がありました。しかし、PSA検査によって、気付くことが困難であった早期のがんが発見されるようになりました。

年齢調整死亡率は1950年代後半から1990年代半ばまで増加し、2005年以降は減少傾向となっています。日本人の罹患率は欧米諸国および米国日系移民より低く、欧米諸国の中では米国黒人の罹患率が最も高くなっています。

1)前立腺がんとラテントがん

前立腺がんは、加齢とともに多くなるがんの代表です。前立腺がんの中には、進行がゆっくりで、寿命に影響しないと考えられるがんもあります。

がんではない、ほかの原因で死亡した男性の前立腺を調べた結果、がんであったことが確認されることがあります。このように、生前、検査や診察などで前立腺がんが見つからず、死後の解剖により初めて確認されるがんを、ラテントがんといいます。これに対し、悪性度の高いがんは時間の経過とともに進行し、検査や診察などで発見されるようになります。

前立腺がんでは、PSA検査の普及によりラテントがんを発見する頻度が高くなる可能性が指摘されており、このような過剰診断が問題視されています。

2)前立腺がんの原因と予防

前立腺がんで明らかになっているリスク要因は、年齢(高齢者)、人種(黒人)、前立腺がん家族歴といわれています。動物実験などから、アンドロゲン(男性ホルモン)が前立腺がんの発生に重要な役割を果たしているのではないかといわれてきましたが、現在のところ、疫学研究ではこの仮説に一致する結果は得られていません。最近では、細胞増殖に関係しているタンパク質の一種であるIGF-1によって、リスクが高くなる可能性が指摘されています。

食事・栄養素に関しても、現在前立腺がんとの関係が明らかになっているものはありませんが、リスク要因として、乳製品、カルシウム、肉、脂肪、予防要因として大豆、リコピン、セレン、ビタミンE、魚、コーヒー、野菜などが候補にあげられています。

また、喫煙、運動についても、関連があるかどうかを含めて、研究が進められています。
更新日:2014年11月18日 [ 更新履歴 ]    掲載日:1996年10月16日
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2014年11月18日 掲載内容の更新が不要であることを確認しました。
2013年11月08日 タブ形式に変更しました。
2006年10月06日 内容を更新しました。
1996年10月16日 掲載しました。

1.がんの診療の流れ

この図は、がんの「受診」から「経過観察」への流れです。大まかでも、流れがみえると心にゆとりが生まれます。ゆとりは、医師とのコミュニケーションを後押ししてくれるでしょう。あなたらしく過ごすためにお役立てください。

がんの疑い

  「体調がおかしいな」と思ったまま、放っておかないでください。なるべく受診しましょう。
   

受診

  受診のきっかけや、気になっていること、症状など、何でも担当医に伝えてください。メモをしておくと整理できます。いくつかの検査の予定や次の診察日が決まります。
   

検査・診断

  検査が続いたり、結果が出るまで時間がかかったりすることもあります。担当医から検査結果や診断について説明があります。検査や診断についてよく理解しておくことは、治療法を選択する際に大切です。理解できないことは、繰り返し質問しましょう。
   

治療法の選択

  がんや体の状態に合わせて、担当医は治療方針を説明します。ひとりで悩まずに、担当医と家族、まわりの方と話し合ってください。あなたの希望に合った方法を見つけましょう。
   

治療

  治療が始まります。治療中、困ったことやつらいこと、小さなことでも構いませんので、気が付いたことは担当医や看護師、薬剤師に話してください。よい解決方法が見つかるかもしれません。
   

経過観察

  治療後の体調の変化やがんの再発がないかなどを確認するために、しばらくの間、通院します。検査を行うこともあります。

2.受診と相談の勧め

がんという病気は、患者さんごとに症状のあらわれ方が異なります。また、症状がなく検診でがんの疑いがあると言われることもあります。何か気にかかる症状があるときや、詳しい検査が必要と言われたときには、医療機関を受診してください。疑問や不安を抱きながらも問題ないとご自身で判断したり、何か見つかることを怖がって、受診を控えたりすることのないようにしましょう。受診して医師の診察を受け、症状の原因を詳しく調べることで、問題がないことを確認できたり、早期診断に結び付いたりすることがあります。

がん診療連携拠点病院がん相談支援センターでは、がんについて知りたい、話を聞きたいという方の相談をお受けしていますので、お気軽に訪ねてみてください。その病院にかかっていなくても、どなたでも無料で相談できます。対面だけでなく、電話などでも相談することができますので、わからないことや困ったことがあったらお気軽にご相談ください。

詳しくは、「がんの相談窓口『がん相談支援センター』」をご覧ください。

お近くのがん相談支援センターは「がん相談支援センターを探す」から検索することができます。

3.がんと言われたとき

がんという診断は誰にとってもよい知らせではありません。ひどくショックを受けて、「何かの間違いではないか」「何で自分が」などと考えるのは自然な感情です。

病気がどのくらい進んでいるのか、果たして治るのか、治療費はどれくらいかかるのか、家族に負担や心配をかけたくない…、人それぞれ悩みは尽きません。気持ちが落ち込んでしまうのも当然です。しかし、あまり思い詰めてしまっては、心にも体にもよくありません。

この一大事を乗りきるためには、がんと向き合い、現実的かつ具体的に考えて行動していく必要があります。そこで、まずは次の2つを心がけてみませんか。

1)情報を集めましょう

まず、自分の病気についてよく知ることです。担当医は最大の情報源です。担当医と話すときには、あなたが信頼する人にも同席してもらうといいでしょう。わからないことは遠慮なく質問してください。また、あなたが集めた情報が正しいかどうかを、あなたの担当医に確認することも大切です。

「知識は力なり」。正しい知識は、あなたの考えをまとめるときに役に立ちます。

2)病気に対する心構えを決めましょう

大きな病気になると、積極的に治療に向き合う人、治るという固い信念をもって臨む人、なるようにしかならないと受け止める人などいろいろです。どれがよいということはなく、その人なりの心構えでよいのです。そのためには、あなたが自分の病気のことをよく知っていることが大切です。病状や治療方針、今後の見通しなどについて担当医からよく説明を受け、いつでも率直に話し合い、その都度十分に納得した上で、病気に向き合うことに尽きるでしょう。

情報不足は、不安と悲観的な想像を生み出すばかりです。あなたが自分の病状について理解した上で治療に取り組みたいと考えていることを、担当医や家族に伝えるようにしましょう。

お互いが率直に話し合うことが、お互いの信頼関係を強いものにし、しっかりと支え合うことにつながります。
更新日:2014年11月18日 [ 更新履歴 ]    掲載日:1996年10月16日
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2014年11月18日 「1.検査 4)画像診断」と「図3 TNM分類の例」を更新しました。
2013年11月08日 内容を更新しました。タブ形式に変更しました。
2006年10月06日 内容を更新しました。
1996年10月16日 掲載しました。

1.検査

最近では、腫瘍マーカーである前立腺特異抗原(PSA)を用いる血液検査で異常を指摘され、受診して診断される場合が増えてきています。

受診すると、まずは排尿に関する症状を含めた問診、診察が行われます。尿検査、PSA検査、肛門から指を挿入して前立腺の腫(は)れの状態を調べる直腸診や、肛門から超音波を発する機器を挿入して前立腺の状態を調べる経直腸的前立腺超音波検査などが行われます。

これらの検査・診察でがんが疑われると、前立腺の組織の一部を採取して病理検査・病理診断が行われ、がん細胞の有無や、がん細胞の性質が調べられます(前立腺生検)。がんが疑われる場合、あるいはがんと診断された場合には、X線検査CT検査MRI検査骨シンチグラフィなどでがんの広がりや転移の有無などについて検査が行われます。

1)PSA検査

前立腺がんになると血液中のPSAという物質が増加します。前立腺がんの早期発見においては、PSAの値を測定することが必須の検査となっています。また、PSAの値は治療後の再発の警戒信号にもなります。PSAの値に異常がみられた場合は、より詳しい検査が必要になります。

PSAには、遊離型のfree PSA、結合型のcomplexed PSAがあり、総PSAに対する遊離型のfree PSAの割合を% free PSAといいます。% free PSAは、前立腺の良性疾患とがんの鑑別の参考になるもので、前立腺がんの場合は前立腺肥大症の場合より% free PSAが低くなります。

PSA基準値は、全年齢で0~4ng/mLと考えられています。PSA値が4~10ng/mLをいわゆる「グレーゾーン」といい、25~40%の割合でがんが発見されます。また、4ng/mL以下でも前立腺がんが発見されることもあります。100ng/mLを超える場合には前立腺がんが強く疑われ、さらには転移も疑われます。

PSA検査は前立腺がんのスクリーニング検査としては最も有用と考えられています。検診でPSA検査を受けて、PSA値が基準値以下であった場合の再検診の時期は、PSA値が1ng/mL以下と1.1ng/mL以上で分けて設定されており、1ng/mL以下の場合は3年ごと、1.1ng/mL以上の場合では年1回の再検診が推奨されています。

2)直腸診・経直腸的前立腺超音波検査

PSA値に異常がみられた場合、医師が肛門から指を挿入して前立腺の状態を確認する検査(直腸診)や、超音波を発する器具(プローブ)を肛門から挿入して、前立腺の状態を調べる検査(経直腸的前立腺超音波検査)を行います。
図2 経直腸的前立腺超音波検査
図2 経直腸的前立腺超音波検査

3)確定診断のための前立腺生検

PSA値あるいは直腸診、経直腸的前立腺超音波検査により前立腺がんの疑いがある場合、年齢も考慮しながら最終的な診断を行うために前立腺生体組織検査(生検)が行われます。前立腺生検では、超音波による画像で前立腺の状態をみながら、細い針で前立腺を刺し、組織を採取する「系統的生検」が行われます。初回の生検では、10~12カ所からの組織採取が勧められます。これは画像で異常がみられない場所からも前立腺がんが発見されることが多くあるため、診断率を高めるには、ある程度の数が必要だからです。

4)画像診断

前立腺がんと診断された場合、病気の広がりを確認するため、CT検査あるいは、MRI検査、骨シンチグラフィによる検査が行われます。これらの検査をすることで、前立腺内での進行の程度やリンパ節転移、あるいは骨転移の有無を確認することができます。

CT検査は、リンパ節転移の有無や肺転移の有無を確認するために行われます。MRI検査では、がんが前立腺内でどこに存在しているのか、がんが前立腺内にとどまっているか、前立腺外への進展がないか、精のうへの浸潤がないか、前立腺周囲のリンパ節への転移がないか、などの有用な情報が得られます。担当医は状況を判断して必要な検査を指示します。

骨シンチグラフィによる検査では、骨に異常がある場合には強い反応がみられます。反応の度合いやその偏りなどにより骨転移があるかどうか判定することができます。

CT検査、MRI検査ともに、造影剤を使用するため、アレルギー反応が起こることがあります。薬剤によるアレルギー反応を起こした経験のある方は担当医に申し出てください。

2.病期(ステージ)

病期とは、がんの進行の程度を示す言葉で、英語をそのまま用いてStage(ステージ)ともいいます。担当医による説明などではステージという言葉が使われることが多いかもしれません。一般的に、病期分類にはTNM悪性腫瘍分類が用いられています。また臨床病期(画像などで得られた治療前の進行度)分類としてABCD分類もあります。前立腺がんのTNM分類では、次の3点に基づいて、その病期を判定します。

T:がんが前立腺の中にとどまっているか、周辺の組織・臓器にまで及んでいるか。
N:前立腺の近くにあり、前立腺からのリンパ液が流れているリンパ節(所属リンパ節)やその他のリンパ節へ転移しているか。
M:離れた臓器への転移(遠隔転移)はないか。
T、N、Mはさらにいくつかに分けられます。

病期は、触診所見、画像診断の結果などから決定されますが、前立腺がんの分類はほかのがんと比べて複雑になっています。これは前立腺肥大症として手術が行われ、その結果、前立腺がんが認められた場合も含めて分類するためです。またPSA検査の普及に伴い、触診あるいは画像検査などで特にがんを疑う所見がなかったにも関わらず、PSA値の異常から行った生検の結果がんを認めた場合を分類する必要が生じました。

現在の分類では、前立腺がんを疑って検査を受ける場合は、T1c以上の病期と分類され、前立腺がんを疑わずに行った検査の結果として前立腺がんが発見された場合にはT1a、T1bと分類されます。例えば、PSA値の異常のみで生検を行い、がんが検出された場合はT1cと分類されることになります。

T2以上は触診、あるいは画像で異常があった場合の分類となります。T2は前立腺の中でとどまっている場合であり、T3は前立腺をおおっている膜(被膜)を越えてがんが広がっている場合です。例えば、前立腺被膜内への浸潤がみられる場合は、被膜を越えていないので、T2に分類されます。また、隣接している臓器である膀胱の頸部への浸潤は、画像診断により確認された場合はT4ですが、顕微鏡的(顕微鏡で観察して診断できる)浸潤はT3aに分類されます。

ABCD分類による臨床病期分類も複雑です。ステージAとは前立腺がんを疑わず、前立腺肥大症の手術の結果、がんが発見された場合であり(T1a、T1b)、「早期がん」であるという意味ではありません。前立腺がんを疑って検査を行った結果、前立腺がんであると診断された場合、ステージはBからDとなります。ステージBは一般的な早期がんを意味し、前立腺内にがんがとどまっている場合です(T2)。ステージCは前立腺外への進展が認められる場合(T3とT4の一部)、ステージDはD1とD2に分類されており、骨盤内への進展・転移がある場合がD1(T4かN1)、遠隔転移がある場合がD2(M1)となります。前述のT1cは当初このABCD分類には想定されておらず、B0と表現されるようになりました。ただし現在では、ABCD病期分類が多分に曖昧さを含んでいることから、可能な限りTNM分類に従って分類することが推奨されています。

次に示した表は病期分類をまとめたものです。
表1 前立腺がんの病期分類
 T1 直腸診でも画像検査でもがんは明らかにならず、偶然に発見された場合
    T1a 前立腺肥大症などの手術で切り取った組織の5%以下にがんが発見される
    T1b 前立腺肥大症などの手術で切り取った組織の5%を超えた部分にがんが発見される
    T1c 前立腺特異抗原(PSA)の上昇のため、針生検によってがんが確認される
 T2 前立腺の中にとどまっているがん
    T2a 左右どちらかの1/2までにがんがとどまっている
    T2b 左右どちらかだけに1/2を超えるがんがある
    T2c 左右の両方にがんがある
 T3 前立腺をおおう膜(被膜)を越えてがんが広がっている
    T3a 被膜の外にがんが広がっている(片方または左右両方、顕微鏡的な膀胱への浸潤)
    T3b 精のうにまでがんが及んでいる
 T4 前立腺に隣接する組織(膀胱、直腸、骨盤壁など)にがんが及んでいる
 N0 所属リンパ節への転移はない
 N1 所属リンパ節への転移がある
 M0 遠隔転移はない
 M1 遠隔転移がある
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日本泌尿器学会・日本病理学会・日本医学放射線学会編 「前立腺癌取扱い規約 2010年12月(第4版)」(金原出版)より作成
例えば、がんが精のうまで及んでいて、所属リンパ節に転移があるけれども、別の臓器への転移はない場合は、T3bN1M0と表記することになります。
図3 TNM分類の例
図3 TNM分類の例
更新日:2016年02月12日 [ 更新履歴 ]    掲載日:1996年10月16日
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2016年02月12日 「2.治療成績」の5年相対生存率データを更新しました。
2014年11月18日 「1.臨床病期による治療選択」を更新しました。
2014年10月03日 「2.治療成績」の5年相対生存率データを更新しました。
2013年11月08日 内容を更新しました。タブ形式に変更しました。
2006年10月06日 内容を更新しました。
1996年10月16日 掲載しました。

1.臨床病期による治療選択

前立腺がんの治療法には、手術(外科治療)、放射線治療内分泌療法(ホルモン療法)、さらには特別な治療を実施せず、経過観察するPSA監視療法(待機療法)があります。前立腺がんの治療を考える上で大切なポイントは、診断時のPSA値と腫瘍の悪性度(グリーソンスコア)、病期診断に基づくリスク分類(表2 NCCNリスク分類:National Comprehensive Cancer Networkによるリスク分類)、患者さんの年齢と期待余命(これから先、平均的にどのくらい生きることができるかという見通し)、最終的には患者さんの病気に対する考え方などによります。
【グリーソンスコアについて、さらに詳しく】
顕微鏡検査で前立腺がんと診断された場合、前立腺がんは腫瘍の悪性度をグリーソンスコアとよばれる病理学上の分類を使用して表現します。グリーソンスコアを求めるには、まず、がん細胞の悪性度を5段階で評価します。「1」が最もおとなしいがんで、「5」が最も悪いがんを意味します。前立腺がんの多くは、悪性度の異なる細胞を複数もっているため、最も多い悪性度の細胞の値(「1」~「5」)と次に多い悪性度の細胞の値(「1」~「5」)を足してスコア化します。これがグリーソンスコアです。グリーソンスコアの解釈ではスコアが“6”以下は性質のおとなしいがん、“7”は前立腺がんの中で最も多いパターンで中くらいの悪性度、“8”~“10”は悪性度の高いがんとされています。この分類は治療法を考える上でとても大切です。
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表2 転移のない前立腺がんに対するNCCNリスク分類
超低リスク T1c、グリーソンスコアが6以下、PSA値が10ng/mL未満、前立腺生検の陽性コア数が3未満、全コアでのがんの占拠率が50%以下、PSA密度が0.15ng/mL/g未満
低リスク T1〜T2a、グリーソンスコアが6以下、PSA値が10ng/mL未満
中間リスク T2b〜T2cまたはグリーソンスコアが7またはPSA値が10〜20ng/mL
高リスク T3aまたはグリーソンスコアが8〜10またはPSA値が20ng/mLを超える
超高リスク T3b〜T4
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NCCNガイドライン2012年第3版より作成
転移のない限局がんの低リスク群ではさまざまな治療法の選択が可能です。限局がんの中間リスク群では手術が主な治療法となります。高リスク群においては、放射線治療が主となりますが、放射線治療を行う場合には内分泌療法(ホルモン療法)を併用することで、放射線治療を単独で行うよりも再発率や遠隔転移発症率が低いとされることから、勧められることが多くなっています。中間リスク群および高リスク群においては各治療を組み合わせることも必要になります。超高リスク群では、放射線治療と内分泌療法(ホルモン療法)の併用が標準治療となっています。しかし症例によっては局所進行がんでも手術が選択肢の1つとなります。遠隔転移のあるがんについては内分泌療法(ホルモン療法)が標準治療です。

次に示すのは、リスク分類を考慮しながら、治療の選択を簡略化して示した図です。担当医と治療方針について話し合う参考にしてください。
図4 前立腺がんのリスク分類と治療
図4 前立腺がんのリスク分類と治療
図5 前立腺がんの病期と治療
図5 前立腺がんの病期と治療
日本泌尿器科学会編「前立腺癌診療ガイドライン 2012年版」(金原出版)より作成

2.治療成績

がんの治療成績を示す指標の1つとして、生存率があります。生存率は、通常、がんの進行度や治療内容別に算出しますが、患者さんの年齢や合併症(糖尿病などがん以外の病気)の有無などの影響も受けます。使っているデータによって、こうしたほかの要素の分布(頻度)が異なるため、同じがんでも生存率の値が異なる可能性があります。

以下に、全国がん(成人病)センター協議会(全がん協)が公表している院内がん登録から算出された5年相対生存率を示します。この値は、およそ10年前のがんの診断、治療に基づくものです。したがって、診断や治療の進歩により、現在は下記の数字より治療成績は向上していると考えられます。

生存率の値は平均的、かつ確率として推測されるものであるため、すべての患者さんに当てはまる値ではないことをご理解ください。
【前立腺がんの生存率について、さらに詳しく】
このデータは、2005年から2007年の間に、前立腺がんの診断や治療を受けた患者さんが対象となっています。治療については、外科治療だけではなく、放射線治療、内分泌療法、化学療法、その他の何らかの治療を受けた患者さんが対象となっています。そのため、各施設で公表している、外科治療だけを受けた患者さんを対象とした生存率と、異なる場合があります。

臨床病期については「前立腺がん 検査・診断-2.病期(ステージ)」をご参照ください。
表3 前立腺がんの病期別生存率
病期 症例数(件) 5年相対生存率(%)
I 203 100
II 4,803 100
III 940 100
IV 935 62.8
全症例 6,972 100
外部サイトへのリンク全国がん(成人病)センター協議会の生存率共同調査 KapWeb(2016年2月集計)による

なお、こちらの表の臨床病期はUICC(Union Internationale Contrele Cancer:国際対がん連合)TNM分類を用いています。
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3.自分に合った治療法を考える

治療の方針が決まると、手術(外科治療)や放射線治療、内分泌療法(ホルモン療法)など、具体的な治療の方法と予定について担当医から説明があります。治療の流れや治療後の状態についてあらかじめ思い描いておくことで、より積極的に、社会復帰に向けたリハビリテーション(リハビリ)ができたり、療養生活を過ごすことができるようになったりという効果もあります。

治療方法は、すべて担当医に任せたいという患者さんがいます。一方、自分の希望を伝えた上で一緒に治療方法を選びたいという患者さんも増えています。どちらが正しいというわけではなく、患者さん自身が納得できる方法が一番です。

まずは、詳しい病状を把握しましょう。あなたの体を一番よく知っているのは担当医です。わからないことは、何でも質問してみましょう。診断を聞くときには、病期あるいはリスク分類を確認しましょう。治療法は、病期によって異なります。医療者とうまくコミュニケーションをとりながら、自分に合った治療法であることを確認してください。

診断や治療法を十分に納得した上で、治療を始めましょう。最初にかかった担当医に何でも相談でき、治療方針に納得できればいうことはありません。

担当医以外の医師の意見(セカンドオピニオン)を聞くこともできます。そのときは、担当医に話してみましょう。多くの医師はセカンドオピニオンを聞くことは一般的なことと理解していますので、快く資料をつくってくれるはずです。

セカンドオピニオンについては、「セカンドオピニオンを求めるとき」もご参照ください。
更新日:2014年11月18日 [ 更新履歴 ]    掲載日:1996年10月16日
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2014年11月18日 各項目を全体的に更新しました。手術・治療などについて詳細ページへリンクを追加しました。
2013年11月08日 内容を更新しました。タブ形式に変更しました。
2006年10月06日 内容を更新しました。
1996年10月16日 掲載しました。

1.PSA監視療法

前立腺生検の結果、比較的おとなしいがんがごく少量のみ認められ、治療を開始しなくても、余命に影響がないと判断される場合に選択される方法です。特に高齢者の場合には、なるべく体への負担の少ない治療法を選択していくことが大切になるため、PSAの数値などをみながら経過観察をするPSA監視療法は治療法の選択肢の1つとして重要視されています。

具体的にはグリーソンスコアが6以下で、PSAが10ng/mL以下、病期T1-T2までの低リスク群に対して、PSA値を3カ月から6カ月ごとに測定して、その上昇率を確認します。PSA値が倍になる時間(PSA倍加時間)が2年以上と評価される場合にはそのまま経過観察でよいと考えられています。

特に積極的な治療を行わないため、当然、治療による副作用はありませんが、がんと診断されていながら「特に何もしない」ことに対して、精神的な負担を感じる人もおり、そのような人にはこの方法は向いていません。

PSA監視療法とは「この先、前立腺がんに対する治療をまったく行わない」ということではありません。PSAの数値の確認や症状の変化、ときには再び針生検(参照:生検)などを行い、その都度「経過観察を続けるのか」それとも「根治的治療あるいはホルモン療法などへの治療に切り替えるのか」について、判断していくものです。疑問がある場合は、納得がいくように担当医とよく話し合うことが大切です。

2.手術(外科治療)

手術では、前立腺と精のうを摘出し、その後、膀胱と尿道をつなぐ処置がなされます。一般的には前立腺の周囲のリンパ節も取り除かれます(リンパ節郭清)。がんが前立腺内にとどまった状態にあり、期待余命が10年以上であるとされる場合には、最も高い生存率が保障できる治療法であると認識されています。

手術の方法には、下腹部を切開して前立腺を摘出する方法(恥骨後式前立腺全摘除術)と、腹腔鏡とよばれる内視鏡下に切除する方法、さらにはロボットを使用する方法があります。肛門と精巣の間の股の部分を切開して前立腺を摘出する方法(会陰式前立腺全摘除術)もありますが、極めてまれです。

腹腔鏡による手術は開腹手術に比べて出血量は少ないものの、経験が浅い医師が執刀する場合は、手術時間が長い、前立腺尖部やそのまわりで切除断端陽性率(手術で切り取った組織の端[切断面]に確認できるがん細胞の割合)が高い、尿禁制(自分の意志で、適切な場所と場面で排尿できる状態)の回復が遅い場合があるといわれています。2000年に、皮膚に小さな孔(あな)を開け、精密な鉗子を持つ操作用手術ロボットを遠隔操作して行う、ロボット支援腹腔鏡下前立腺全摘除術が登場しました。開腹手術と同じくらいの経験が蓄積されてきています。ロボット支援腹腔鏡下前立腺全摘除術は、開腹手術と同等の制がん効果(がん細胞の増殖抑制効果)があり、手術侵襲(手術により生体を傷つけることによる影響)も開腹手術に比べ小さいことが知られています。2012年4月より保険適用になり、今後も手術法の選択肢の1つとして期待されています。

現在、この手術方法に慣れた施設では、手術後7日前後で退院することが可能となっています。手術後は、カテーテルという管を尿道から膀胱まで挿入し、体の外に尿を排出させます。排出された尿の色や量を観察し、問題がなければ、通常、数日から1週間でカテーテルを抜くことができます。

手術については、「手術療法を受ける方へ」および「手術のことを知る患者必携サイトへのリンクもご参照ください。
【手術に伴う主な合併症について】

1)尿失禁

前立腺を摘出する手術の際に、尿の排出を調節する筋肉である尿道括約筋が傷つくことで、尿道の締まりが悪くなり、咳をしたり力んだりしたときに尿が漏れることがあります(尿失禁)。

尿失禁は、多くの場合、手術後数ヵ月続きますが、1年もすれば排尿の機能が改善し、症状がよくなることが多いようです。たいていは徐々に機能が改善してきますが、切除した範囲が広い場合や高齢者では、尿漏れを完全に防ぐことは難しい場合があります。

尿失禁を改善するには、尿道周囲の筋肉(骨盤底筋)を鍛える運動が効果的です。体の力を抜いて、意識して肛門をキュッと締め、5つ数えて緩めるという動作を繰り返します。ゴルフやテニスの素振りなどでも骨盤底筋を鍛えることができます。尿意を感じても、すぐトイレに行かないで、少しの時間我慢してから排尿するようにし、膀胱にためられる尿の量を増やす膀胱訓練も有効です。

尿失禁の症状については、担当医にも相談しましょう。必要に応じて、膀胱の筋肉の働きを安定させ、尿道括約筋の機能を高める薬が処方されます。

また、積極的に活動することで排尿のリハビリにもなります。尿漏れが気になって外出がためらわれるかもしれませんが、体力の回復や気分転換にもなるので、近所を散歩したり、旅行に出かけたりなど、なるべく外出しましょう。足腰を鍛えることで、骨盤底筋が強化され排尿のリハビリにもつながります。外出する前には、トイレをすませてから出かけるようにするとよいでしょう。また、薄手の尿漏れ用パッドを使用すると、外から目立ちません。最近では、装着しているときに違和感が少なく、見た目にも目立たない尿漏れ用下着やパッドが市販されているので、それらを利用するのもよいでしょう。尿によるかぶれを予防するために、パッドの交換、シャワーや入浴は頻回に行います。

しかしそれでも尿失禁が改善されない場合が数%の割合で起こります。このような場合、薬が処方されることがありますが、100g以上の尿漏れが続くような場合、手動で排尿を制御できる人工尿道括約筋を挿入する手術が必要となります。これは保険適応となっています。

前立腺摘出(前立腺全摘除術)後の尿失禁については、「前立腺を摘出した場合のリハビリテーション」もご参照ください。

2)性機能障害

前立腺がんの手術では、精管が切断されるため、手術後、射精をすることができません。また、前立腺のそばにある勃起神経が傷つくため勃起障害が起こることがあります。最近では、勃起神経を傷つけずに残す神経温存手術も行われています。

手術によって起こった勃起障害の回復の程度は、神経の機能が保たれているかどうかによりますが、完全に戻ることは難しいのが一般的です。
性機能の障害に対しては、年齢に関係なく誰もが不安に思ったり、ショックを感じたりするものです。今後のパートナー(配偶者・恋人)との長い生活を考えるに当たって、クオリティ・オブ・ライフ(QOL:生活の質)を高める上でも、お二人の間の性生活は軽視できない問題です。

大切な問題ですので恥ずかしがらず、退院前や退院後の外来診察時などに、性行為が可能かどうか、対処方法なども担当医や看護師にきちんと相談してみましょう。

性機能障害とリハビリテーション(男性)」もご参照ください。
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3.放射線治療

前立腺がんに対しては、体の外から放射線をあてる外照射療法と、体の中から放射線をあてる組織内照射療法(密封小線源療法:みっぷうしょうせんげんりょうほう)があります。外照射療法では一般的に1日1回、週5日で7~8週間の照射を行いますが、通常は通院による治療が可能です。経直腸的前立腺超音波検査で確認しながら、前立腺の中に小さな放射線を出す物質(線源)を挿入することで行う組織内照射療法は、外照射療法と組み合わせて行われることもあります。組織内照射療法には、線源を一時的に前立腺の中に入れる方法と、永久的に埋め込んでおく方法があります。

がんが骨へ転移したことで起こる痛みの治療や骨折予防のために放射線治療を行う場合は、場所や痛みの程度などによって照射の方法が異なります。

放射線治療には、急性期の副作用がいくつかありますが、5年、10年と時間が経過してからあらわれる副作用(晩期合併症)もあります。

放射線治療については、「放射線治療」および「放射線治療を受ける方へ」、「放射線治療のことを知る患者必携サイトへのリンクもご参照ください。

1)外照射療法

転移のない前立腺がんに対して、体の外から、患部である前立腺に放射線を照射します。前立腺がんに対する放射線治療では、照射された放射線の総量が多くなればなるほど、その効果が高くなることが知られています。現在では治療範囲をコンピューターで前立腺の形に合わせることで、周囲の正常組織(直腸や膀胱)にあたる量をなるべく減らす三次元原体照射(3D-CRT)、または放射線に強弱をつけることでがんの形に合わせて治療を行い、正常組織への照射を減らす強度変調放射線治療(IMRT)がよく用いられます。このような方法の導入で、従来の放射線治療と比べ、より多くの放射線をがんに照射できるようになっています。外照射療法では一般的に、1日1回、週5回で7~8週間前後を要します。放射線治療は手術療法後に再発した場合にも使用されます。

粒子線治療(陽子線、重粒子線)は、2013年8月現在では先進医療となっています。施行可能な施設には限りがあり、保険適用になっていません。
【外照射療法の副作用について】
外照射療法の副作用として、前立腺のまわりの直腸、膀胱の障害に伴う症状があらわれます。さまざまな要因による直腸への刺激で、下痢や頻回の便通、排便のときの痛みや出血が起こります。また、尿がたまるなどの要因で膀胱が刺激され、頻尿、急に尿意を催して我慢できなくなる、排尿のときの痛み、といった症状が起こる場合があります。照射方法によっては放射線皮膚炎や下痢が生じることもあります。

通常は外来通院で対処可能な程度であり、治療終了後、時間がたつと次第に落ち着いてきますが、時に長引くことや悪化することがあります。

放射線治療を受けた方の尿漏れには、寝室をトイレの近くに設けたり、尿漏れパッドを使用したりするなどの対処が有効です。さまざま要因により、直腸が刺激されることで起こる頻回の便意や排便の痛みの多くは、薬で改善することができます。また、長時間座るなど、下半身を圧迫することは避けましょう。
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2)組織内照射療法(密封小線源療法)

組織内照射療法は、前立腺内にとどまった前立腺がんの中でも、悪性度の低いがんに対する適応が推奨されています。具体的には、PSA値が10ng/mL以下で、かつ、グリーソンスコアが6以下の低リスク群が単独治療の対象とされています。この場合には手術(外科治療)と同等の効果が得られるとされています。それ以外の病態に対しては、組織内照射療法に外照射療法を組み合わせて治療することが勧められています。高リスク群では、組織内照射療法の単独治療は勧められません。

前立腺肥大症に対して、内視鏡を使用した前立腺を削り取る手術(経尿道的前立腺除去術)を受けた方では、放射線を出す線源が前立腺全体に埋め込めなくなってしまうため、この治療を行うことはできません。また、前立腺が大きすぎる場合は、その一部が恥骨の後ろに隠れてしまうため、線源を埋め込むことができない場合があります。この場合は、治療前に内分泌療法(ホルモン療法)を行い、前立腺を小さくすることがあります。

組織内照射療法は、小さな粒状の容器に放射線を出す物質を密封した線源を、前立腺へ埋め込む治療法です。永久的に埋め込む方法として代表的なものには、ヨウ素125を使った永久挿入密封小線源療法(LDR:low dose rate)があります。また、一時的な埋め込みによる照射を行う方法には、イリジウム192を使った高線量率組織内照射(HDR:high dose rate)があります。

永久挿入密封小線源療法は、麻酔のもと、肛門から器具を挿入し、超音波で確認しながら行います。あらかじめ計画された場所に、専用の機械を使用して会陰(陰のうと肛門の間)から、前立腺に線源を埋め込みます。半日で治療が終了し、前立腺に高濃度の放射線を照射することが可能であり、外照射療法と比較して副作用も軽度です。ただし、線源が尿中に排せつされる可能性があるため、手術後、最低一晩は入院が必要です。埋め込まれた放射性物質は、半年程度で効力を失うため、取り出す必要はありません。手術後1週間程度は、自転車やオートバイなど、会陰部に力がかかることは避けましょう。また、手術後1週間は飲酒を避けた方がよいでしょう。その他の制限はありません。体の中に放射線が残っていますが、周囲の人に対する影響に関しては問題ありません。これらの点に関しては、退院時に担当医の先生から指導があります。もし、尿や精液中に線源が出てきたことに気付いたときには、その線源をスプーンなどで拾い、退院時に交付される容器に入れて次回の外来受診時に持っていくようにしましょう。

高線量率組織内照射は、一時的に前立腺に管状の針を刺し込み、その針に線源を通して放射線の照射を行います。施設によって異なりますが、針を一晩そのまま置いておくことが多いようです。その間はベッド上で安静となります。

わが国において、永久挿入密封小線源療法は2003年9月から開始されました。この治療では、手術の場合と違い、正常な前立腺細胞が残っているため、PSAの値が手術後と比べて非常にゆっくりと低下します。そのため、再発の判定が難しいときがあります。再発した場合には、総合的な判断から、治療を行うこととされており、ホルモン療法、救済前立腺全摘除術、組織内照射療法(LDR、HDR)、凍結療法などが行われています。
【組織内照射療法(密封小線源療法)の副作用について】
組織内照射療法(密封小線源療法)の副作用は、外照射療法では排便に関する副作用が多かったのに対して、排尿に関する副作用が多い特徴があります。治療後3カ月くらいの間は徐々に排尿困難感や頻尿が進みます。それから1年程度をかけて、徐々に排尿の副作用は低減していきます。尿失禁が起こることはまれです。また、年齢にもよりますが、外照射療法に比べて性機能が維持される割合が高いことが特徴です。ただし、精液の量は減少します。高線量率組織内照射では、器具が肛門内に置かれている場合、排便しにくかったり、体の動きが制限されたり、長時間の安静により腰が痛くなったりといった症状が起こる場合があります。
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4.内分泌療法(ホルモン療法)

前立腺がんは、精巣や副腎から分泌されるアンドロゲン(男性ホルモン)の刺激で病気が進行するという性質があります。したがって、アンドロゲンの分泌(ぶんぴ)や働きを妨げれば、前立腺がんの勢いを抑えることができます。

これを利用したのが内分泌療法(ホルモン療法)です。アンドロゲンの分泌や作用を妨げる薬を投与します。

内分泌療法(ホルモン療法)は主に転移のある前立腺がんに対して行われます。転移したがん細胞も、もともとの前立腺がんの性質をもっているため、内分泌療法(ホルモン療法)が効力を発揮します。また、転移のない前立腺がんで、年齢、合併症などのために手術や放射線治療を行うことが難しい患者さんに対しても内分泌療法(ホルモン療法)が行われます。さらに、放射線治療の前あるいは後に短期間の内分泌療法(ホルモン療法)が併用されることもあります。

方法としては精巣を手術的に除去することはほとんどせずに、LH-RH(性腺刺激ホルモン放出ホルモン)アゴニストとよばれる薬が使用されます。LH-RHアゴニストは精巣に働き、アンドロゲンの一種であるテストステロンの産生を低下させます。注射剤の場合は、1カ月あるいは3カ月に一度注射することで精巣からのテストステロンの分泌を抑えます。また、アンドロゲンががんに作用しないように働く、抗アンドロゲン剤という飲み薬を服用することもあります。抗アンドロゲン剤は副腎から分泌されるアンドロゲンの働きも遮断します。現在、内分泌療法(ホルモン療法)の初期段階では注射剤あるいは飲み薬が一般的に併用されたり、病態によっては単独で使用されたりすることがあります。

内分泌療法(ホルモン療法)の問題点は、長く治療を続けていると、反応が弱くなり、落ち着いていた病状がぶり返す点です。この状態を「再燃」といいます。再燃状態となると女性ホルモン剤や副腎皮質ホルモン剤などが使用されますが、これも、使用当初は効果がみられても、次第に弱くなります(去勢抵抗性)。そのため、内分泌療法(ホルモン療法)は前立腺がんに対して有効な治療法ですが、この治療のみで完治することは困難であると考えられています。

近年、アンドロゲン受容体を阻害するエンザルタミド(商品名:イクスタンジ)や、アンドロゲン合成を阻害するアビラテロン(商品名:ザイティガ)などをはじめとする新規ホルモン療法薬が次々と開発され、ホルモン療法の治療成績がよくなることが期待されています。例えば、従来のLH-RHアゴニストでは、一時的なテストステロンの上昇がみられるため、尿路閉鎖、転移巣に由来する骨痛、脊髄(せきずい)圧迫などが心配されています。これに対してテストステロンの上昇を伴わないLH-RHアンタゴニストが承認され、使用可能となっています。また抗男性ホルモン剤も新薬がいくつか登場しており、海外では承認されたものもあります。今後わが国でも使用が期待されます。
【内分泌療法(ホルモン療法)の副作用について】
内分泌療法(ホルモン療法)の副作用としては、ホットフラッシュとよばれる急な発汗や、のぼせやすくなる、乳腺が痛むといった症状が起こります。また、下腹部に脂肪がつきやすく体重が増加しやすくなります。また、勃起障害や性欲の低下が起こります。さらに長期に内分泌療法(ホルモン療法)を行うと胃が弱くなることがあります。

症状は一過性で、徐々に慣れてくることが多いのですが、副作用が強く対症的な治療で対応できないときには、薬の種類を変更したり、別の薬を併用したり、治療を中止したりすることがあります。体調の変化については、担当医や看護師に相談しましょう。
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5.化学療法(抗がん剤治療)

内分泌療法(ホルモン療法)が有効でない症例や、内分泌療法(ホルモン療法)の効果がなくなったときに行う治療です。現在では、ドセタキセルによる化学療法が標準化(参照:標準治療)されています。

また、2014年9月に、カバジタキセル(商品名:ジェブタナ)という新しい抗がん剤が発売となりました。ドセタキセルの有効性が認められない場合でも、カバジタキセルを使用することにより、生存期間の延長が期待できます。

化学療法(抗がん剤治療)については、「がんの治療に使われる主な薬」および「化学療法を受ける方へ」、「薬物療法(抗がん剤治療)のことを知る患者必携サイトへのリンクもご参照ください。
更新日:2014年11月18日 [ 更新履歴 ]    掲載日:1996年10月16日
更新履歴
2014年11月18日 掲載内容の更新が不要であることを確認しました。
2013年11月08日 内容を更新しました。タブ形式に変更しました。
2006年10月06日 内容を更新しました。
1996年10月16日 掲載しました。

1.治療後に日常生活を送る上で

どのがん治療も、何らかの副作用を伴います。手術においては尿失禁と性機能障害が主な副作用です。内分泌療法(ホルモン療法)では急に発汗したり、のぼせやすくなったりするホットフラッシュとよばれる症状が多くみられます。また、性機能のある人には、勃起障害などが高率に発生します。治療によってアンドロゲン(男性ホルモン)が低下し、相対的に女性ホルモン(男性にも存在します)が多い状態になるので、乳房が大きくなったり(女性化乳房)、乳頭に痛みを感じたりすることもあります。放射線治療では、照射された部位の炎症や、だるさ、吐き気、嘔吐、食欲低下、また、勃起障害が起こることがあります。さらに、治療後しばらくして(年単位の場合もあります)、直腸や膀胱に影響が出ることがあります。また、内照射法では頻尿や尿意切迫など、尿道の副作用が多いといわれていますが、ほとんどの症状は数カ月の間に解消します。

副作用の程度は患者さんによって異なりますので、それぞれの状態に応じて、副作用対策を立てていきます。

それぞれの治療の副作用と対策については、「前立腺がん 治療」をご参照ください。

2.治療後の経過観察と検査

通常、前立腺がんの進行はゆっくりであることが多く、長期間にわたり経過をみていきます。

治療中は、治療の内容や必要な検査に応じて通院します。尿失禁などの治療後に発症する合併症についても、併せて問診や診察、治療が進められます。病状にもよりますが、治療後安定した状態の方でも、手術後2年間は3カ月ごと、以降2年間は6カ月ごと、その後は年1回程度受診し、必要に応じて診察、PSA検査や画像検査を受けることが一般的です。尿の量が急に減ったり、血尿が出たりしたときは、診察の時期でなくても必ず受診するようにしましょう。

放射線治療後の検査は、血液によるPSA検査が中心です。PSA値が上昇した場合は、直腸診や経直腸的超音波検査などが行われ、再発の有無について調べます。
更新日:2014年11月18日 [ 更新履歴 ]    掲載日:1996年10月16日
更新履歴
2014年11月18日 「1.再発(治療法別)」「3.生活の質を重視した治療」を大幅に更新しました。
2013年11月08日 内容を更新しました。タブ形式に変更しました。
2006年10月06日 内容を更新しました。
1996年10月16日 掲載しました。

1.再発

根治を目的とした治療を実施したにもかかわらず、PSA値がある基準を超えたとき(PSA再発)や、リンパ節または他臓器に転移や新病変がみられたりしたとき(臨床的再発)を、再発といいます。一般的には、PSA値の推移から再発を発見します。

根治治療のあとも内分泌療法(ホルモン療法)を継続しているなどのように、併用療法が行われている場合はその限りではありませんが、通常、PSA値の上昇は再発の最初の兆候としてあらわれます。
併用療法が行われていない場合、PSA値の上昇が認められなければ、画像検査や触診は不要とされています。ただし、特殊な前立腺がんの場合は、例外もあります。

1)手術療法のみを受けた場合

一般的に、2週から4週あけて測定したPSA値が2回連続して0.2ng/mLを超えた場合、再発の疑いがあると考えられています。
PSA値0.5ng/mL未満の段階で、救済療法として放射線治療を始めることが勧められます。
また、PSAが倍の値に上昇するまでにかかる時間(倍加時間)が10カ月以内、またはグリーソンスコアが8〜10の再発については転移をしている可能性が高く、局所療法である放射線治療は効果が乏しいため、全身療法である救済ホルモン療法が勧められます。

2)放射線治療のみを受けた場合

治療後のPSA最低値から2ng/mL以上の上昇がみられると、再発の疑いがあるとされています。
この場合の治療としては、ホルモン療法が最も広く行われています。また、局所再発前立腺がん(参照:局所再発)に対する根治的救済療法(再発した際に、がんをすべて取り除くために行う治療)としては、前立腺全摘除術、凍結療法、組織内照射療法(密封小線源療法)、高密度焦点式超音波治療法(HIFU:High Intensity Focused Ultrasound)の4つがあげられますが、どの治療がより有効であるかは、専門家の間でもまだ意見の一致がみられていません。

3)内分泌療法(ホルモン療法)を受けた場合あるいは臨床的再発をした場合

内分泌療法(ホルモン療法)によって、がんの進行が一時的にとどまっていたものが、再びPSA値が上昇した場合、あるいは臨床的再発をした場合も再燃とよばれ、この場合には内分泌療法(ホルモン療法)の種類を変更したり、化学療法(抗がん剤治療)を行ったりします。

PSA値に関しては場合によって誤差が出ることがあります。
また、いずれの病態でも当面、経過観察という選択肢もあります。それぞれの患者さんの状況に応じて治療やその後のケアを決めていきます。痛みなどの症状があるときには症状を緩和する治療も行います。

2.転移

転移とは、がん細胞がリンパ液血液の流れで運ばれ別の臓器に移動し、そこで成長したものをいいます。がんを手術で全部切除できたようにみえる場合や、放射線治療でがん細胞が完全に死滅していない場合、その治療終了時点の検査では見つけられないごく少数のがん細胞が、別の臓器に移動している可能性があります。

根治治療を実施した時点では見つけられなくても、その後がんの細胞が増えてがんが大きくなることで、時間がたってから転移として見つかることがあります。前立腺がんでは骨や肺、あるいはリンパ節への転移が多いとされています。

転移のある状況では、ホルモン療法さらには化学療法(抗がん剤治療)が実施されます。骨転移を伴う前立腺がんに対しては痛みなどの症状に関わらず、ゾレドロン酸の併用が勧められます。ゾレドロン酸は破骨細胞(骨を破壊・吸収する働きをもつ細胞)を抑制することにより、骨転移の進行を抑制する働きがあります。さらにデノスマブは、破骨細胞の分化と機構を調節する因子(RANKL)を阻害し、破骨細胞の働きを抑え、骨が弱くなるのを抑制します。

痛みのある場所が限局している場合は、外照射療法が有用なことがあります。

3.生活の質を重視した治療

近年、がんと診断されたときから、クオリティ・オブ・ライフ(QOL:生活の質)の改善を目的として、がんに伴う体と心のさまざまな苦痛に対する症状を和らげたり、患者さんとご家族が自分らしく過ごしたりするための緩和ケアが浸透しはじめています。

緩和ケアは、がんが進行してからだけではなく、がんと診断されたときから必要に応じて行われるものです。痛みや吐き気、食欲不振、だるさなど体の症状や、気分の落ち込みや孤独感など心のつらさを軽くするため、また、自分らしい生活を送ることができるように、緩和ケアでは医学的な側面に限らず、幅広い対応をします。
そのためにも、治療や療養生活について不安なこと、わからないことなど、ご自身の思いを積極的に担当医に伝えましょう。十分に話し、納得した上で治療を受けることが大切です。

緩和ケアについては、「緩和ケアを受けるには」もご参照ください。
再発や転移、痛みが強いときの治療については、「患者必携 がんになったら手にとるガイド 普及新版」の以下の項もご参照ください。
がんの再発や転移のことを知る患者必携サイトへのリンク
緩和ケアについて理解する患者必携サイトへのリンク
痛みを我慢しない患者必携サイトへのリンク
もしも、がんが再発したら
がんの再発に対する不安や、再発に直面したときの支えとなる情報をまとめた冊子です。がんの再発という事態に直面しても、「希望を持って生きる」助けとなりたいという願いを込めて、再発がんの体験者、がん専門医らとともに検討を重ねて作成されたものです。
(Webサイトでもご覧になれます。「もしも、がんが再発したら [患者必携]本人と家族に伝えたいこと患者必携サイトへのリンク
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