化学療法に伴う味覚の変化や食欲不振は、治療の効果に直接影響するものではないので、見過ごされやすい副作用です。しかし、化学療法を受けた人の3割前後が、何らかの味覚の変化を経験しているという報告もあります。味覚の変化や食欲不振が長く続くと、栄養状態が悪くなって治療の妨げになることもあります。
味覚障害とは、何らかの理由で、治療前に比べて食べ物の味や食感が変化した状態のことをいいます。化学療法による味覚障害では、「金属のような味」、「砂を噛んでいるような感じ」、「舌に膜が張ったような感じ」、「味がわかりにくい」、「味が強く感じられる」などの症状が起こります。
食欲不振は、「食欲がない」、「食事がおいしく感じられない」、「たくさん食べられない(食べる気分になれない)」と感じ、食事がとれなくなっている状態のことをいいます。化学療法を受けている人では、基礎代謝の1.5〜2.0倍のエネルギーが必要ともいわれているので、健康時よりも多くのタンパク質やエネルギーの摂取が必要になります。栄養摂取は治療のためにも大切です。
抗がん剤によって、味を感じる味蕾(みらい)を構成する味細胞自体や、味細胞から中枢に向かう神経が障害を受けることで味覚が変化することがあります。抗がん剤によって口内炎や末梢神経障害を生じると、味覚障害を起こしやすくなるでしょう。
味細胞は加齢とともに減少し、味を感じる機能も低下します。高齢者では、唾液分泌が低下し、口のなかが乾燥しやすく、舌苔(ぜったい)が増加するなどの原因も重なり、味覚障害を起こしやすくなります。
唾液には、味の成分を味を感じる細胞(味蕾)に運搬する働きもあります。抗がん剤の副作用によって、唾液の分泌が減少し、口のなかが乾燥しやすくなると味がわかりにくくなります。また、抗がん剤のなかには、体のなかで代謝された後、唾液にも含まれて排泄(はいせつ)されるものがあり、味覚を変化させるものもあります。
亜鉛不足で味覚障害が生じることがあります。フルオロウラシル(5-FU(R))などは、亜鉛の吸収を悪くすることがあります。
化学療法では、味覚障害だけでなく、悪心・嘔吐、口内炎、下痢や便秘、神経障害などでも食欲不振が起こります。
味覚障害や、食欲不振そのものを予防することは難しいのですが、化学療法による口内炎や、口のなかの感染症を予防したり悪化させないようにすることで、味覚障害や食欲不振を軽くすませるようにすることができます。日常的な口腔ケアをしっかりと行いましょう。
口のなかが乾燥していると、味の成分をうまく味蕾に運搬することができなくなり、味がわかりにくくなります。口のなかをうるおった状態にしておくことは、味覚障害の予防になります。また、うがいは口のなかの乾燥を防ぎ、口内炎や口のなかの感染症の予防になります。水道水でよいので、回数多くうがいをしましょう。食事の前に、レモン水やレモン味の炭酸水でうがいすることで唾液の分泌が促され、口のなかがさっぱりして味覚の低下を予防したり、味覚の回復を促すことができます。
歯ブラシなどで、口のなかの歯垢(しこう)や食べかすを除去します。
唾液の分泌が少なくなって舌が乾燥したり、表面に白い舌苔が付着した状態になると、味覚がわかりにくくなります。舌もブラッシングや清拭できれいにしておきましょう。
食事を楽しめる雰囲気作りも大切です。食卓や食器、盛り付けを工夫したり、眺めの良い場所を選んでみるのもよいでしょう。
食事だけでなく、水分もあまりとれなくなった場合には、輸液(点滴)や経腸栄養を併用することがあります。