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摂食嚥下障害

更新日:2007年02月19日 [ 更新履歴 ]
更新履歴
2007年02月19日 更新しました。
2006年10月01日 掲載しました。

1.摂食嚥下障害とは

摂食嚥下障害とは、食べ物を口から胃や腸などの消化管へ送り込むための、一連の流れが障害されている状態をいいます。ここでは、がんに関連して起こる摂食嚥下障害に関して説明します。

治療前には、がんによる痛み、麻痺(まひ)や通過障害によって摂食嚥下障害が起こります。例えば、口腔(こうくう)がんの痛みのために思うように咀嚼(そしゃく:噛むこと)ができなかったり、飲み込みにくくなったり、咽頭(いんとう)がんや食道がんのために食べ物の通りが悪くなったりする可能性があります。治療中、治療後には、放射線治療の副作用として粘膜炎や唾液(だえき)の減少等が、また、化学療法の副作用として粘膜炎、味覚障害等が起こります。こうした副作用によって、摂食嚥下障害を来す可能性があります。また、口腔がんや咽頭がんの手術後には、摂食嚥下に関与する器官の形態や機能が大きく変化するため、多くの場合に摂食嚥下障害が起こります。そのほかに、心理的要因や環境的要因によるもの、精神科の薬など薬物に起因するものもあります。

主な症状には、以下のようなものがあります。
  • 食べ物が口からこぼれる
  • 口の中に食べ物が残っている
  • 食事中にむせたりせき込んだりする(誤嚥:動画参照)
  • 食事がのどにつかえる
  • たんが増える
  • 発熱を繰り返す
  • 体重が減少する
嚥下運動
嚥下運動
誤嚥(ごえん)
誤嚥(ごえん)

2.摂食嚥下障害が起こる原因

1)治療前に起こるもの

  • がんによる圧迫、痛み
  • がんによる神経麻痺(嚥下に関係する器官の運動障害、知覚障害)
  • がんによる食べ物の通過障害
  • 全身状態の低下に伴う食欲不振

2)手術に起因するもの

  • がんの切除による舌や咽頭の形態変化、機能低下
  • 神経の合併切除による運動機能や知覚の低下
  • 首や顎(あご)の傷が硬く変化することによる運動障害、姿勢保持の困難
  • 咽頭や食道の狭窄(きょうさく)

3)放射線治療に起因するもの

  • 口腔や咽頭、食道の粘膜炎による痛みやはれ、唾液減少
  • 皮膚炎のため首や顎が硬くなることによる運動障害

4)化学療法に起因するもの

  • 食欲不振、吐き気・嘔吐(おうと)
  • 口腔や咽頭、食道の粘膜炎による痛み
  • 胃腸障害による下痢、便秘

5)その他

  • 治療後のボディ・イメージの変化
  • 慢性呼吸器疾患に伴うたんの喀出力(かくしゅつりょく)の低下
  • 心理的要因、環境的要因

3.摂食嚥下障害への対策

摂食嚥下の過程は5段階に分類され、障害を来している過程によって対策が異なります。がんに関連して起こる摂食嚥下障害では、主として「準備期」から「食道期」までの障害に原因があります。

「認知期」・・・何をどのようなペースで食べるかなどを判断する時期
「準備期」・・・食べ物を口腔に取り込み、咀嚼してひとかたまりの「食塊」にする時期
「口腔期」・・・食塊を口腔から咽頭に送り込む時期
「咽頭期」・・・食塊を咽頭から食道へ送り込む時期
「食道期」・・・食塊を食道から胃へと送り込む時期

1)準備期の障害への対策

(1)開口、閉口障害

口唇(こうしん)、頬(ほお)、舌、顎のマッサージや運動訓練、顎関節(がくかんせつ)の可動域訓練、構音(こうおん)訓練

(2)咀嚼障害

顎のマッサージと運動訓練、関節可動域訓練、入れ歯や差し歯、詰め物などの義歯(ぎし)の調整、刻み、ミキサー食

(3)口腔の知覚障害

口腔ケア、口唇、頬、舌のマッサージ(アイスマッサージ)、含嗽(がんそう:うがい)

(4)口内炎

口腔ケア、含嗽、消炎剤、鎮痛剤

2)口腔期の障害への対策

(1)閉口障害

口唇、頬、顎のマッサージと運動訓練、介助者による閉口補助

(2)舌運動障害

マッサージや運動訓練、構音訓練、リクライニング体位、食べ物や飲み物をのみ込む一回量の調節、とろみ食、ゼリー、スプーンによる介助、交互嚥下

(3)鼻腔への逆流

プロテーゼによる形態改善、介助者による鼻腔閉鎖

(4)唾液減少

口腔ケア、とろみ食、ゼリー、交互嚥下、人工唾液

3)咽頭期の障害への対策

  • 喉頭挙上(こうとうきょじょう:物をのみ込むときに必要な運動の1つ)の低下

  • マッサージと運動訓練、空嚥下、頸部前屈、一回量の調節、とろみ食、ゼリー、息こらえ嚥下、交互嚥下、複数回嚥下、介助者による喉頭挙上補助、麻痺声帯へのコラーゲン注入、喉頭挙上手術、声門閉鎖手術、喉頭全摘手術
  • 食道入口の弛緩障害
    とろみ食、ゼリー、一回量の調節、頸部前屈、頸部回旋、息こらえ嚥下、交互嚥下、複数回嚥下、バルーン訓練、輪上咽頭筋切断手術

4)食道期の障害への対策

  • 食道狭窄(しょくどうきょうさく)
    一回量の調節、刻み、ミキサー食、ブジー、狭窄解除手術
    上記に加えて、呼吸訓練、咳嗽訓練(がいそうくんれん:せきを出す訓練)は必須です。
    また、経管栄養(経鼻胃管、胃瘻、腸瘻)や中心静脈栄養を、一時的に併用する場合があります。摂食・嚥下が高度に障害されている場合には、永久的に経管栄養や中心静脈栄養が必要になることもあります。

<用語の解説>
リクライニング体位 重力による落下を利用できるので、食塊形成や送り込みに障害がある場合に有効です
一回量の調節 一回量が多いと、誤嚥(ごえん)の危険が高まります
交互嚥下 食品の後に少量の水やゼリーを嚥下することにより、口腔や咽頭に残留した食べ物を除去します
プロテーゼ 人工材料により、口腔の欠損部を補綴(ほてつ)します
空嚥下 唾液を嚥下してもらうことにより、嚥下パターンの獲得を目的とします
頸部前屈 顎を引き、首の緊張を取り除くことにより、喉頭が挙上しやすくなります
息こらえ嚥下 息をこらえることで声門閉鎖が強化されると同時に、誤嚥した食べ物の喀出を容易にします
複数回嚥下 食事の途中に頻回に空嚥下することにより、口腔や咽頭に残留した食べ物を除去します
麻痺声帯へのコラーゲン注入 可動性が低下し、萎縮した声帯を膨張させることにより、声門閉鎖を強化します
頸部回旋 麻痺側の咽頭を狭窄させ、健常側の咽頭を拡大することを目的とします
バルーン訓練 食道入口部の筋弛緩を目的とします
ブジー 咽頭や食道の狭窄部を拡張させます

4.摂食・嚥下障害の症状を軽減する工夫

まず、呼吸が安定していることが大切です。嚥下をしているときは、0.5〜1秒間呼吸を止めなくてはいけません。息苦しい状態ではこの嚥下が上手くできないので、呼吸困難があるときは、その症状を軽減させることが先決です。

1)口腔内環境を整える

(1)歯牙、義歯

歯の状態が思わしくないと咀嚼ができないだけでなく、食欲も減退します。痛みの原因にもなります。歯の状態が思わしくないときには、歯科受診をお勧めします。

(2)唾液減少

食べ物をのみ込みやすくするために、唾液が活躍します。放射線の副作用や加齢による唾液減少がある場合、含嗽を頻繁に行って口腔内を潤わせたり、人工唾液を使用したりします。

(3)痛み

口腔内の状態を観察し、担当医に相談してください。
痛みの原因や程度により、対応が異なります。鎮痛剤は食事の30〜60分前に使用し、痛みを和らげてから食事をすることをお勧めします。

(4)口腔ケア

嚥下障害がある方は、口腔内分泌機能による自浄作用の低下に加え、唾液も上手く嚥下されていない場合があります。口腔内には汚染された唾液が充満していたり、食べ物が残っていたり、またこれらが常に気道に流れ込む危険にさらされています。口腔内を清浄に保ち、呼吸器感染を防止するために、食後の歯磨きやうがいは欠かさずに行ってください。

(5)開口、閉口の介助

1.開口障害
口が開きにくいときはスプーンなどを使用したり、介助者が口を開ける手伝いをする必要があります。
2.閉口障害
口を閉じることが不完全で食べ物が出てきてしまうようなときは、手で口を閉じる必要があります。

2)頸部環境を整える

(1)瘢痕拘縮(はんこんこうしゅく)

手術後の創部や放射線治療後、皮膚組織が固まって拘縮(こうしゅく:縮むこと)し、頸部の動く範囲が狭くなってしまうことがあります。頸部の動きが鈍いと嚥下がしにくくなり、食べ物が詰まっているように感じます。
少しでも頸部の拘縮が和らぎ、摂食嚥下しやすくなるために、食事の前に頸部の回旋や前屈、肩の上下運動をするとよいでしょう。

(2)皮膚炎

放射線治療に伴う皮膚炎がある場合は、適切な方法をとる必要があります。
放射線治療部の医師や看護師に相談してください。

3)食環境を整える

(1)環境

摂食・嚥下障害があると食事が苦痛になり、食欲がわかなくなる場合があります。
食事を楽しくするためには、食事の雰囲気づくりが大切です。
時間をゆっくりとり、落ち着いて楽しい雰囲気の中で食事をとるように心がけましょう。

(2)姿勢

食事に集中し、きちんとした姿勢で食べることは、誤嚥予防(ごえんよぼう)につながります。
むせが多い方は、いすに深く腰掛けたり、ベット上では上半身を起こし、安定した姿勢をとります。枕などを使用し体位を整えてください。
特に注意が必要なのは、液体を飲むときです。顎を上げてゴクゴクと一気に飲まず、一口ずつ含み、顎を引いて飲んでください。もし、むせてしまったらせきをして出してください。

(3)自助具

スプーンなどの食器製品がたくさん開発されています。障害や機能の程度によって選択が異なるので、主治医や看護師に相談してください。

4)食事内容を調える

(1)摂食嚥下訓練に適する食品の例

  • 準備期の障害
    咀嚼の必要がない、酸味が強くない、べたつかない、適度に冷たく知覚しやすい、とろみがありバラバラになりにくい
  • 口腔期、咽頭期の障害
    べたつかない、適度に冷たく知覚しやすい、とろみがありバラバラになりにくい
  • 食道期の障害
    べたつかない、通過するときに変形しやすい

(2)摂食嚥下訓練に適さない食品の例

  • 硬くてかみ砕けないもの(せんべいなど)
  • 密度が安定していないもの(凍り豆腐など)
  • サラサラしすぎているもの(水分の多いもの)
  • べたつくもの
  • 繊維状のもの(筍(たけのこ)など)
  • 酸味が強く、口内炎にしみるもの
その他の注意点として、一口量と1回の食事量を一定に保つようにすること、のど越しの良いものを交えて食べる順番に気をつけること、とろみ剤(増粘剤)使用の際は、濃度を一定にすること等があげられます。

5)摂食機能訓練

機能訓練はさまざまな方法があります。嚥下の障害、機能低下の部位や程度により訓練方法が異なるので、担当医と相談し、適切な訓練方法を実施してください。

機能訓練は時間を要します。訓練を毎日継続していく努力と、家族の励ましが必要です。無理をせず、あせらずゆっくりと訓練をしてください。呼吸状態が悪いときや疲れやすいとき、発熱しているときなどは、訓練を休みましょう。

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