造血幹細胞移植の副作用:移植片対宿主病:[がん情報サービス]
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造血幹細胞移植の副作用:移植片対宿主病

更新日:2015年07月06日 [ 更新履歴 ]    掲載日:2006年10月01日
更新履歴
2015年07月06日 過去の治療成績に関する内容を一部削除しました。
2006年10月08日 更新しました。

同種移植、自家移植共通の主要な合併症としては、移植前に行う大量化学療法や放射線療法の副作用である「前処置関連毒性(ぜんしょちかんれんどくせい)」と、白血球減少期にみられる「感染症」があります。同種移植では、それらに加えて「急性移植片対宿主病(きゅうせいいしょくへんたいしゅくしゅびょう: GVHD)」に代表されるような、「移植早期の免疫反応に関連する合併症」、高度の免疫力低下にともなう「ウイルス感染症」、移植後しばらく経過してからみられる肺障害などの「晩期合併症」があります。ここでは起こりうるすべての合併症について説明することはできませんが、知っておきたい代表的なものについて記述します。

1.移植片対宿主病(Graft-versus-host Disease:GVHD)とは

Graft-versus-host Diseaseの略で、日本語では「移植片対宿主病」といいます。同種移植を受けた場合にしばしばみられる合併症で、移植片に含まれるドナーリンパ球が、患者さんの体そのものを「よそ者」とみなして攻撃する厄介で複雑な免疫反応のことです。心臓移植や腎臓移植等で「拒絶反応」という言葉を聞いたことがあるかもしれませんが、GVHDはその逆の反応と考えればわかりやすいでしょう。

人の体には、自分の体でないものは体の外に排除しようとする働きがあり、臓器移植の場合には、他人の臓器を体外へ排除しようとする反応が起きます。これが拒絶反応といわれるもので、免疫応答を弱める免疫抑制剤といわれる薬を使って、この反応がひどくなりすぎないように治療します。造血幹細胞移植の場合には、患者さんの体に入れる細胞(“移植片”と呼びます)である造血幹細胞が少数のため、強い移植前治療を用いて患者さん本人の免疫力を非常に弱めておかないと、移植片が容易に体外に排除(拒絶)されてしまいます。拒絶を免れてドナーの造血幹細胞が患者さんの体の中で根づくと、やがて増えてきます(これを “生着(せいちゃく)”と呼びます)。移植片である骨髄、末梢血あるいは臍帯血(さいたいけつ)中には、ドナー由来のリンパ球がたくさん混在しています。このリンパ球は生着を助けるために大切です。また、生着した後に増えてくると、今度は免疫力をしっかりと回復させる大事な働きをします。強い移植前治療により、患者さんの免疫力は著しく低下しますので、外部から侵入した微生物や異物に対して無防備な状態にあります。ドナー由来のリンパ球は、この弱った免疫力を回復させて患者さんを感染症から守るほかに、体の中にまだ残っている白血病細胞にも追い打ちをかけるのです。

しかし一方では、このリンパ球が患者さんの臓器を自分のものでないとみなして攻撃し、排除しようとします。これがGVHDです。

移植片対宿主病(GVHD)の発症のメカニズムについて、詳しくはこちらをご参照ください。

2.HLAとは?

HLA型は、白血球の血液型とでもいうべきものです。両親から各座半分ずつを遺伝的に受け継ぐため、兄弟姉妹間では4分の1の確率で一致しますが、非血縁者間(他人)では、数百〜数万分の1の確率でしか一致しません。日本をはじめ多くの国で、血縁者間でHLAが一致したドナーが見つからない患者さんのために骨髄バンクが設立されています。HLA-A、HLA-B、HLA-CのDNA適合度がGVHD発症頻度や生存率に直接関連していて、これらの点を考慮したドナー選択を行っています。

これらに対して臍帯血移植では、造血幹細胞移植のときに重要な6抗原中4抗原以上が適合していれば、生着やGVHDにそれほど大きな影響をもたらさないことがわかっています。また、HLAが適合していなくても移植が可能な場合もあります。

白血球抗原(HLA)について、詳しくはこちらをご参照ください。

3.移植片対宿主病(GVHD)は軽度のものなら発症したほうがよいか

GVHDは重症になると、移植後の合併症の中でもかなり厄介な合併症になります。しかし、GVHDが適度に認められたほうが、もとの病気の再発も少ないといわれています。GVHDと同様な攻撃反応が、移植後に残存しているがん細胞に対して向けられるからです。移植後に白血病などの再発が抑えられる可能性があるこの反応を、「GVL効果(移植片対白血病・リンパ腫・骨髄腫効果)」といいます。この効果は、患者さんに害を及ぼす合併症ではなく良い反応といえますが、一方では、GVL効果があってGVHDのない状態がどの程度の頻度で起こるかに関しては、十分な知見が得られていません。したがって一般的には、GVHDによる臓器障害という悪い側面と、GVL効果による再発減少という良い側面の相反する反応のバランスが重要と考えられています。GVHDを発症した患者さんが、GVHDが起きなかった患者さんに比べて良い治療成績を示すことは、一部の患者さんだけに限られるようです2)

なお、進行期の造血器がんの患者さんに対する血縁者間移植では、軽い急性GVHDを発症したグループの治療成績が、発症しなかったグループよりも優れていたという解析結果があります。あまりひどいGVHDが出てしまうと、合併症で治療成績が下がってしまいます。しかし、軽い程度の急性GVHDが出た場合には、GVL効果の良い面が引き出されたことを反映していると考えられます。したがって原則としては、GVHDをしっかり抑制することが、良い治療成績を出すためには大切と考えられています。

4.移植片対白血病(GVL)効果

Graft-versus-leukemia Effect の略で、上記のように日本語では「移植片対白血病効果」といいます。症例によって、もとの病気がリンパ腫の場合は「移植片対リンパ腫効果」、多発性骨髄腫の場合は「移植片対骨髄腫効果」、その他のがんの場合は「移植片対腫瘍効果」といいます。このため、一括してGraft-versus-tumor Effect (GVT効果)ともいいます。いずれにしても、ドナーから採った細胞を輸注する同種移植でのみ認められる抗がん効果です。患者さんに他人の造血細胞を移植した場合、ドナー造血細胞は患者さんの体を「よそ者」と認識し、攻撃します。前述のようにこれを移植片対宿主病(GVHD)といいますが、がん細胞もドナー細胞にとっては「よそ者」であるため、攻撃します。この攻撃によってがん細胞は縮小、消滅に至ると考えられていて、同種造血幹細胞移植によってがんが治癒するための重要な現象です。つまり、GVHDとGVTはもろ刃の剣のようであり、GVHDを押さえ込みすぎても免疫療法的効果であるGVTを打ち消してしまうため、管理が非常に難しいといえます。

5.マイナー組織適合性抗原

移植片対宿主病(GVHD)を防ぐために、患者さんとドナーの方の白血球の型(組織適合抗原、HLAと呼びます)を可能な限り合わせてから移植を行うのが一般的です。HLAを合わせる理由は、リンパ球がHLAの違いを最も鋭敏な指標にして、その細胞がよそ者か否かを区別するからです。しかし、リンパ球は高度に訓練された免疫担当細胞であるため、HLA以外の患者‐ドナー間の微妙な違いも認識します。ヒトの体を構成するタンパク質をつくり出すもととなる遺伝子には、個人による多様性(これをSNP(スニップ)といいます)が存在することが知られています。その結果、タンパク質を構成するアミノ酸の並び方にも小さな違いが発生する場合があります。そのような、個々のヒトで相違するアミノ酸の並び方をリンパ球が識別して反応することを、「マイナー組織適合性抗原」と呼んでいます。HLAを厳密に合わせた同胞間でもGVHDがみられるのは、このマイナー組織適合性抗原の相違によるものです。ヒトのマイナー組織適合性抗原は、数百種あると推定されます。個々人の間で意味のあるマイナー組織適合性抗原は異なり、それぞれのHLAに特有のマイナー組織適合性抗原があります。したがって、レシピエント‐ドナー間で個々にマイナー組織適合性抗原を適合させることは非常に困難で、GVHDがどうしても一定の確率で生じることになります。日本人によくみられるHLA型に関連するマイナー組織適合抗原が、複数明らかにされています。

6.移植片対宿主病(GVHD)は予防可能か

同種移植では拒絶とGVHDを予防するために、強い免疫抑制作用を持つ前治療を行い、移植後は免疫抑制剤を使用します。多くの場合、拒絶は防ぐことができますが、GVHDを完全に防ぐことは困難です。予防法を強くすることにより、GVHDを押さえ込もうとする試みがあります。抗胸腺細胞グロブリン(ATG)やアレムツズマブ等を移植前治療中に併用する「GVHD予防法」です。このようなGVHD予防法を用いた移植の研究報告では、GVHDの発症頻度は確かに低くなっていますが、免疫の力を弱めすぎて感染症と再発が増加する結果、これまでのところ最終的な生存率は改善されていません。そのほか、欧米では種々の薬剤が試みられています。有望なものもありますが、結論を出すにはまだ早い段階です。現時点では、重症のGVHDがどの程度発症するかという予測に基づいた防止策が選択されています。例えば血縁者間と非血縁者間では、後者のほうが高い確率でGVHDが発症することが判っているため、一般に、より強い予防法が選択されることが多いです。その他、HLAが一致していない場合、妊娠歴のある女性ドナーから男性患者さんへ移植する場合、患者さんの年齢が高い場合等では、重症GVHD発症のリスクが高いとされています。

7.移植片対宿主病(GVHD)予防法の実際

実際の移植現場ではGVHD予防のため、移植日前後から長期間、免疫を抑える薬剤を使用します。最も多く使われるGVHD予防法は、シクロスポリンあるいはタクロリムスに、メトトレキサートを併用した方法です。メトトレキサートは、欧米では移植後1、3、6、11日目に用いられることが一般的です。重症の急性GVHDの頻度が少ない日本では、口腔粘膜の障害や骨髄回復への影響を懸念して、11日目を省いた方法もよく用いられます。シクロスポリンやタクロリムスの投与量は、有効で安全に使用できる血中濃度が維持できるように、週に2〜3回程度、血中濃度を調べるための採血を行って調節します。血中濃度が低ければ急性GVHDのリスクが高くなり、高すぎると腎障害などの有害事象が起こりやすくなります。また、内服投与や分割点滴投与の場合には、次の薬剤投与直前に採血して血中濃度が最低となるときの血中濃度(トラフ値)を指標とするのが一般的です。シクロスポリンあるいはタクロリムスは、急性GVHDがなければ原則として移植後2〜4ヵ月目ころからゆっくり減量していきますが、減量の速度は副作用が出やすいかどうか、再発しやすいかどうかなども考慮しつつ、個別的に判断されることが一般的です。また、中止の時期に関しては、慢性GVHDが出現しなければ、移植後180日前後が目標とされることが多いようです。シクロスポリンやタクロリムスの副作用には、腎障害の他に中枢神経障害(けいれん、視力障害、意識の混濁(こんだく)等)、高血圧、むくみ(浮腫(ふしゅ))、微小血管障害、高血糖、多毛等があります。他の薬剤との相互作用も多く、血中濃度に影響し腎毒性を増強しますので、併用薬剤については担当医とよく相談してください。また、グレープフルーツは薬の血中濃度を高くしますので控えましょう。

シクロスポリンとタクロリムスのどちらを用いるかは、患者さんごとに決められています。両者を比較した臨床試験などの結果、タクロリムスのほうが急性GVHDを抑える力は強いことが判っていますが、生存率には大きな差がありません3)。HLA-DNA不適合非血縁者間移植とHLA不適合血縁者間移植では、タクロリムスを使ったグループのほうが生存率が高いために、タクロリムスを使用するのは妥当です。しかし一方で、タクロリムスは免疫抑制効果が強いために、移植片対白血病(GVL)効果を弱めて、白血病再発リスクや感染症リスクを高める可能性があります。

8.急性移植片対宿主病(急性GVHD)の発症頻度

日本造血細胞移植学会の集計データによると、III度以上の重症の急性GVHDは、HLA適合同胞間移植では約8%に、HLA適合非血縁者移植では約13%に起こるとされています4)。欧米での移植成績と比較すると、日本人ではGVHDが比較的軽症にとどまる場合が多いことが知られています。また、年齢が高いほど重症GVHDの頻度は高くなると考えられていますが、非血縁者間移植例ではその影響が少なくなっています。移植片による違いも大きく、末梢血幹細胞を用いた場合は発症頻度が高く、臍帯血移植では低く、特にHLA不適合を含む臍帯血移植におけるIII度以上の重症急性GVHDの頻度は約8%です4)

GVHDの激しさの程度(重症度)は、症状が現れている器官の数とどの程度までその器官が侵されているかをもとに判断し、急性GVHDは軽度(I度)、中等度(II度)、重度(III度)と危険域(IV度)に分類されます。世界の国々において、同一の基準で急性GVHDの重症度を評価しています。日本造血細胞移植学会のガイドラインも、それに従って作成されています5)

9.急性移植片対宿主病(急性GVHD)の症状

最初の症状としては、原因不明の熱が続いたり、皮膚が赤くなったり、発疹(ほっしん)が現れることが多く、ひどい場合には皮がむけたり、水ぶくれができたりすることがあります。肝臓の細胞が破壊され、黄疸(おうだん)が出て体がだるくなり、重症の場合には、肝臓の機能が低下して意識が薄れることもあります。胃の症状としては、吐き気や、食欲がなくなり、腸管が攻撃されると大量の水様下痢便や血が混じった便(血便)が続いて栄養不全となり、いずれも重症になると患者さんは死に至ることがあります。急性GVHDが発症している期間は移植後早期のため、移植前治療による臓器障害や、免疫抑制剤などの薬剤による影響(治療関連毒性と呼ばれます)がみられる時期と一致します。また、サイトメガロウィルスなどの感染症も高頻度に合併する時期です。それらによる症状や所見は、一見、急性GVHDの臨床像と類似するものがあり、臨床的に鑑別が困難になることがあります。免疫抑制剤による微小血管病変などの場合には、急性GVHDに対する予防や治療が逆効果のことがあります。このようなことから、皮膚や大腸粘膜を生検して組織検査を行うことが確定診断、鑑別診断、治療方針決定に重要であるため、患者さんに検査への協力をお願いしなければなりません。

10.移植後微小血管病変(TMA)とは?

移植後の重大な合併症の1つに、血栓性微小血管病変(TMA)と呼ばれるものがあります。非常に細い動脈の内面を包んでいる内皮と呼ばれるところに傷害が起こり、それより末梢への血液循環が妨げられて、虚血性の組織傷害がみられるものです。通常、下部消化管の症状がまず現れ、次いで肝(黄疸)や腎(機能障害)、中枢神経(意識障害、視覚異常等)の症状が出ることがあります。特に消化管の症状は、水様下痢、腹痛、出血性下痢を来し、重症の急性GVHDに似ています6)。ひどい場合には、便中に剥離(はくり)した粘膜上皮(Mucosal Cast)が排出されます。急性移植片対宿主病(急性GVHD)と鑑別すべき疾患ですが、しばしば急性 GVHD の症状が先行して、その治療中にみられます。頻度は、同種骨髄移植で6〜10%、大部分は移植後100日以内に起こり、高い死亡率となります。背景には全身放射線照射などの強い移植前治療や、移植後の免疫抑制剤の影響があります。診断は、大腸ファイバー検査時に採られた生検標本を用いて、組織学的に確定します。血液検体を用いた検査所見も参考になります。現在のところ、TMAに対する有効な治療方法はありません。急性GVHDと判断して、免疫抑制剤を積極的に使用するとTMAを悪化させますので、TMAが疑われる場合には、早期診断と慎重なGVHD治療が重要です。

11.急性移植片対宿主病(急性GVHD)治療の適応

急性GVHDの治療は、一般にその重症度に従って決定されます。基本的にはI度のGVHDは様子をみるか、皮膚病変に対して局所ステロイド外用を行います。II度以上の場合には、予防的に用いている免疫抑制剤に加える形でステロイド剤をはじめます。しかし、発熱を伴って急激に進行する例やHLA不適合移植等では、I度のGVHDでも治療を考慮します。また逆に、II度であっても様子をみる場合があります。例えば、下痢が起こった場合を考えてみます。その原因、もしくは原因の一部が、移植前に行われた放射線や化学療法による消化管の粘膜障害、移植後のサイトメガロウイルス性腸炎、あるいは移植後TMA等によるものと考えられれば、ステロイド剤の開始を控えます。これらが原因の場合は、ステロイド剤は有効でないばかりか、逆に悪化させてしまうかもしれないからです。

12.急性移植片対宿主病(急性GVHD)治療の実際

まず、すでに投与している免疫抑制剤(シクロスポリン、タクロリムス)の濃度が、適正な範囲内に保たれていることを確認します。次にステロイド剤を投与し、反応がない場合には、さらに強力な免疫抑制剤投与も検討します。しかし、これらの薬剤療法によって日和見感染症(ひよりみかんせんしょう)が増加したり、GVHDとは直接関連のない臓器合併症が出現する場合があります。ステロイド剤による治療としては、患者さんの体重1kgあたり1~2mgのプレドニゾロン、あるいはメチルプレドニゾロンを約2週間程度投与し、その後ゆっくりと減らしていく方法が一般的です。日本は、欧米と比較して反応性は良好といわれています。ステロイドを漸減している間にGVHDが再燃した場合は、ステロイド剤の増量を考慮します。ステロイド剤による治療にもかかわらず悪化する場合、治療開始後7日経過しても変わらない場合、あるいは治療開始後14日目の時点で効果が不十分と判断された場合等には、治療法の変更を検討します。多くの施設において、患者さんの体重1kgあたり2mgのステロイド剤に反応しない場合には、ステロイド抵抗性急性GVHDと考えます。その頻度は、日本人では全体の10~15%です。このような場合、ATG等、次の候補となる薬剤の使用が検討される場合もあります。

13.慢性移植片対宿主病(慢性GVHD)とは

慢性GVHDは、移植片の中にある幹細胞が患者さんに生着した後に、患者さんの体の中で新たにつくられたT細胞が引き起こす免疫反応によるものと考えられています。通常、移植後約100日前後以降に発症し、自己免疫性疾患に類似した症状がみられます。慢性GVHDの診断は、特徴的な症状と病理診断によりなされます。発病のしかたとしては、急性GVHDに引き続いて起こるもの(progressive:進行型)、急性GVHDがいったん改善した後に発症するもの(quiescent:一時静止型)、急性GVHDにかかることなく慢性GVHDのみが起こるもの(de novo:新規発生型)等、さまざまです。急性GVHDの治療を行っているときに発症した場合、非血縁者のドナーの場合には、時期的な問題だけで急性と慢性を分けることは難しい例もあります。そのため、これらを区別するための新しい呼び方が提唱されました7)。特に全身性の慢性GVHDを発症すると、移植後晩期の生活の質(QOL)の低下を招く場合が多く、感染症も合併しやすくなるため、生命予後にも大きな影響があることが知られています。

14.慢性移植片対宿主病(慢性GVHD)の発症機構

ドナーの造血細胞やリンパ球が患者さんに生着した後に、免疫の仕組みがゆっくりと回復します。その過程でさまざまな行き違いが生じると、慢性GVHDが発症すると考えられています。移植前に行う抗がん剤や放射線治療、急性GVHDの影響、あるいは年齢による萎縮(いしゅく)のために胸腺と呼ばれるリンパ球の教育を担当する臓器の働きが弱くなって、十分な教育を受けていないT細胞が体の中に生まれます。これら自己反応性のヘルパーT細胞がさまざまな臓器に侵入し、さまざまなサイトカインを出して自分自身の組織を攻撃する細胞障害性T細胞を刺激したり、自己抗体をつくり出すB細胞を活発にさせます。また、マクロファージを刺激して別のサイトカインを生み出させてさまざまな臓器の線維分を増やした結果、皮膚や胆管、肺が硬くなってしまいます。さらに、免疫力が低下して感染症に対して非力になります。

15.慢性移植片対宿主病(慢性GVHD)の発症頻度と重症度

慢性GVHDは急性GVHDと異なり、日本と欧米での発症率の差は少ないとされています。血縁者間骨髄移植で約41%、非血縁者間骨髄移植で約44%ですが、血縁者間末梢血幹細胞移植では明らかに高頻度で60%程度に達します4)。急性GVHDのときと同様に、若年の患者さんに比べて年齢が高い患者さんほど、慢性GVHDが発現する傾向にあります。また、急性GVHDを発症した患者さんでは、慢性GVHDの発症頻度が高いことが知られています。慢性GVHDの重症度は、これまでは皮膚と肝臓の障害の程度を中心に限局型と広汎型に分けられてきました。しかし新たに、各臓器別にスコア化した障害の程度と傷害された臓器の数、そして肺病変の有無に基づいた軽症(mild)、中等症(moderate)、重症(severe)の3つに分けた分類が提唱されています7)

16.慢性移植片対宿主病(慢性GVHD)の症状

最も多い症状は皮膚障害で、かゆい発疹(ほっしん)が出たり、カサカサになって硬くなり、部分的に脱毛、脱色したりします。また、涙腺に損傷を受けて涙の量が減るため、眼球の表面(結膜といいます)が乾燥して痛みや視力障害を来す、いわゆるドライアイや目の刺激感が現れます。口の中の唾液腺も侵されることが多く、食事のときにしみたりします。食道に病変があると、飲み込むのが困難になります。肝臓の障害から、黄疸や肝機能検査結果の異常がみられることがあります。胃粘膜や腸の粘液分泌腺(ぶんぴせん)が傷害されると、適切な栄養吸収力が妨げられて胸焼け、胃痛、腹痛、体重減少等が起こります。筋膜が硬くなったり腱が萎縮することにより、関節の曲げ伸ばしが困難になることがあります。肺が硬くなると、喘息のような喘鳴(ぜんめい)音が聞こえたり、呼吸がうまくできなくなって息苦しさを感じたりします。ひどい場合には、血液中の酸素濃度が低下して動けなくなることもあります。これら以外の臓器にも、慢性GVHDに関連する障害が出現することが知られています。いずれの症状も個人差があり、人によってどのような症状が、どの程度の重症度で出現するかはさまざまです。

17.慢性移植片対宿主病(慢性GVHD)の治療適応

慢性GVHDがさほど重症でない場合、例えば症状が1~2臓器だけにあって症状がさほど強くない場合は、原則として外用薬などの局所療法を選択します。内服薬などを用いた全身治療は、症状が3臓器以上に及ぶ場合、または1臓器のみであっても症状が強い場合に行います。しかし、どの治療を選択するかは厳密なものではなく、種々の要件を踏まえて患者さんごとに決定します。移植片対白血病(GVL)効果を生かしたいとき、あるいは感染症を合併しているときは、全身治療を消極的に考えます。逆に、原病が再生不良性貧血のようにがんではない疾患の場合や、以下のようなGVHDの予後不良因子がある場合は、全身治療を比較的積極的に考慮します。

慢性GVHD診断時の症状や検査所見により、その後の経過を推定することができます。これを予後推定因子といい、現在までに種々の因子が同定され、progressive型の発症形式、血小板減少(10万以下)、広範な皮膚病変、下痢や体重減少などの消化管障害、不良な全身状態があげられています。

18.慢性移植片対宿主病(慢性GVHD)に対する局所療法、支持療法

皮膚や口の中の病変に対して、ステロイドやタクロリムスを含んだ塗り薬(外用剤)、唾液減少に対するうがいや人工唾液、ガムによる刺激が行われています。外出時などに、皮膚を紫外線から防護することも大切です。消化管吸収障害と体重減少に対しては、膵(すい)酵素製剤の内服が試みられています。眼球が乾燥すると、感染症や角膜の障害を来して視力低下がみられる場合があるため、人工涙液の点眼や涙点閉鎖術が行われます。筋膜炎や皮膚硬化により関節の動きが悪くなると日常生活に支障が生じるので、その防止のための理学療法が有用です。長期間のステロイド使用に伴う副作用対策として、糖尿病や耐糖能異常に対する食事・運動療法、骨粗鬆症(こつそしょうしょう)に対する治療が行われます。閉塞性細気管支炎は治療が難しい肺の合併症です。重症の場合、日常生活にも支障が生じるほど血液中の酸素濃度の低下が起こるため、呼吸リハビリテーションや在宅酸素療法が行われる場合もあります。

19.慢性移植片対宿主病(慢性GVHD)に対する全身療法

一般的に用いられている方法は、ステロイド剤とシクロスポリンやタクロリムスの併用療法です。患者さんの体重1kgあたり1mgでステロイド剤を開始することが標準的と考えられ、症状の改善がみられれば徐々に投与量を減らしていくことが一般的です。ただ、適切な投与期間や減量速度に関しては、定まった方法が知られていないのが現状です。減量の最終段階では、副腎の働きが悪くなることがあるため注意が必要です。ただ、以上の薬剤量や減量法が日本人の患者さんにも適切かどうかは不明のため、患者さんの症状などにより、他の方法も行われています。また、治療期間に関しても議論のあるところで、すべての症状が消失するまで続行すべきか否かは、治療に伴う薬剤の副作用や感染症など合併症とのバランスで決められます。涙腺障害や一部の皮膚・口腔病変、肺の所見はGVHDがコントロールされていても残存するため、治療続行の目安にはならないといわれています。ステロイド剤は、しばしば長期使用が必要となります。併用するシクロスポリンやタクロリムスは、ステロイド剤を中止した後に減量するのが原則ですが、その投与量は十分には検討されていません。

こうしたステロイド剤を中心とする初回治療が成功しなかったときに行う治療のことを、二次治療といいます。二次治療は、標準的な一次治療であるステロイド剤を2週間投与しても増悪する場合、あるいは4〜8週間治療を継続したにもかかわらず改善しない場合に行います。後者には、ステロイド剤を体重あたり0.5mg未満にまで減量できない場合も含まれます。二次治療は、比較的軽症の場合は経口剤であるミコフェノール酸モフェチル、シロリムス、ヒドロキシクロロキン、サリドマイド等、より重症な場合は、フォトフェレーシス、リツキシマブ、ペントスタチン、高用量ステロイドのパルス療法等があります。しかし、いずれの効果も十分ではないうえに、わが国では使用経験が乏しく、また保険適用外の治療となります。

20.参考文献

より詳しい情報については、以下の文献をお薦めします。

1) Ferrara, J. L.; Reddy, P. Pathophysiology of graft-versus-host disease. Seminars in hematology. 2006, vol. 43, p. 3-10.
2) Kanda, Y. et al. Effect of graft-versus-host disease on the outcome of bone marrow transplantation from an HLA-identical sibling donor using GVHD prophylaxis with cyclosporin A and methotrexate. Leukemia. 2004, vol. 18, p. 1013-1019.
3) Yanada, M. et al. Tacrolimus instead of cyclosporine used for prophylaxis against graft-versus-host disease improves outcome after hematopoietic stem cell transplantation from unrelated donors, but not from HLA-identical sibling donors: a nationwide survey conducted in Japan. Bone Marrow Transplantation. 2004, vol. 34, p. 331-337.
4) 日本造血細胞移植学会全国データ事務局. 平成16年度全国調査報告書. 2005, 外部サイトへのリンクhttp://www.jshct.com/report_2004/index.html, (参照 2006-10-01).
5) 日本造血細胞移植学会. 造血細胞移植ガイドライン: GVHDの診断と治療に関するガイドライン. JSHCT monograph, 1999, vol. 1, 外部サイトへのリンクhttp://www.jshct.com/guide_pdf/1999gvhv2.pdf, (参照 2006-10-01).
6) Nishida, T. et al. Intestinal thrombotic microangiopathy after allogeneic bone marrow transplantation: a clinical imitator of acute enteric graft-versus-host disease. Bone Marrow Transplantation. 2004, vol. 33, p. 1143-1150.
7) Filipovich, A. H. et al. National Institutes of Health Consensus Development Project on Criteria for Clinical Trials in Chronic Graft-versus-Host Disease: I. Diagnosis and Staging Working Group Report. Biology of blood and marrow transplantation. 2005, vol. 11, p. 945-956.
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