造血幹細胞移植は、もともと骨髄移植からはじまりました。1960年後半に、大量化学療法の後にHLAの一致する兄弟から骨髄を移植したところ、患者の血液細胞がすべてドナー由来の血液細胞となったことが、骨髄移植のはじまりです。その後、白血球を増やす薬(G-CSF)が開発され、G-CSFを注射すると血液中に造血幹細胞が出てくることが明らかになりました。これを用いた末梢血幹細胞移植が、1990年代から行われています。さらに同時期、臍帯血(さいたいけつ)には多くの造血幹細胞が含まれることがわかり、子供を中心に臍帯血移植が行われるようになりました。
現在、日本では非血縁者(バンクドナー)からの移植は骨髄移植が行われ、血縁者からの移植は、骨髄移植と末梢血幹細胞移植が行われています。HLAが一致する血縁ドナーもバンクドナーも見つからない場合には、臍帯血移植が考慮されています。
以前は、造血幹細胞は骨髄にしかないものと考えられていたので、麻酔を行って主に腸骨を繰り返し穿刺(せんし)して骨髄液を採取していました。このため、本来は「造血幹細胞移植」と呼ぶべきこのような治療を、「骨髄移植(BMT)」と呼んでいたわけです。ところが今では、末梢血中に含まれる造血幹細胞を移植に用いる末梢血幹細胞移植(Peripheral Blood Stem Cell Transplantation:PBSCT)や、分娩(ぶんべん)時の臍帯血中の幹細胞を用いる臍帯血移植が発達してきたため、もはや「骨髄移植」ではなく、「造血幹細胞移植」と呼び改められています。
上記のように治療法が増えたわけですから、同種移植の方法を選ぶのにもいろいろと迷うことが多くなりました。BMTに比べ、PBSCTは移植する幹細胞の数が多いので、移植後に白血球や血小板の数が早く回復することが知られています。このため自家移植では、もはやBMTは行わなくなっています。BMTに代わってPBSCTを行うことで、世界最大規模の移植研究を行っている欧州移植グループ(EBMT)における自家移植の治療関連死亡率(治療の副作用で亡くなる患者さんの割合)は、1990年の10%から現在は3%以下にまで減少しています。また同種移植に関しても、特に血縁者間移植では、現在その過半数がPBSCTとなっています。BMTとPBSCTのどちらが優れているかという結論は、まだ得られていません。PBSCTで投与するリンパ球が多いため、慢性の移植片対宿主病(GVHD)が増加するからです。現在のところ、生存期間や病気の再発に関して、PBSCTとBMTの間に差があるか否かをわが国でも確認している段階です。なお、骨髄バンクでは現在も末梢血幹細胞の採取を認めていないので、骨髄を用いた移植のみが行われています。

PBSCTは、現在はどこの病院でも行われています。しかし、ドナーの方に対する副作用や負担、患者さんへの治療効果も含めて、BMTとの優劣ははっきりとはわかっていないのが実状です。PBSCTでは、全身の骨に分布した造血組織から、満遍なく大量の幹細胞を採取できます。このため、移植後の造血や免疫回復は早いのですが、骨髄と比較してより多くのリンパ球が輸注されるので、特に慢性GVHDが増えます。逆に、GVHDに伴う抗がん効果(Graft-versus-tumor:GVT効果)が増強されるので、より有効にがん治療を行えて都合が良いとの考えもあります。またBMTでは、全身麻酔をかけて腸骨領域を中心に骨髄穿刺を繰り返す必要がありますが、アフェレーシスに麻酔は不要です。その代わりに、ドナーの方にG-CSFを注射する必要があります。現在わが国でも、それぞれの移植法の特徴を明らかにするための臨床試験を行っています。
各種の難治がんを根絶する手段として、骨髄毒性を無視して抗がん剤の投与量を増やした「自家PBSCT」が行われます。造血器がんに関しては、再発悪性リンパ腫やホジキン病、急性骨髄性白血病、多発性骨髄腫等への適応が確立しつつあります。しかし固形腫瘍に関しては、自家PBSCTの適応が定まった疾患は意外と少なく、小児がんの一部や精巣原発胚細胞腫瘍の再発例等にすぎません。すべてのがんが、超大量化学療法と移植療法で治癒するわけではないことは明らかです。現時点では固形腫瘍への適応は、通常量の抗がん剤治療に良好な反応を示して、臓器機能も一定に保たれている場合に限る必要があります。移植後再発を防ぐには、完全切除や放射線照射によって局所のがんを抑制することが最も重要で、体内にあるがん細胞の量が最少の状態でPBSCTを行わなければなりません。
G-CSFは、もともと細菌感染症などに際して体の中で自然に分泌される一種のホルモンですが、現在では医薬品として合成、市販され、一般の病院でも使用しています。その用途は、主に抗がん剤治療を行った後に生じる顆粒球(好中球)減少症や感染症の予防や治療です。G-CSFを投与すると、副作用として、骨痛、胸痛、頭痛、筋肉痛、発疹(ほっしん)や紅斑(こうはん)、全身倦怠、吐き気や微熱、脾臓(ひぞう)の腫大(しゅだい)、まれに血小板減少等が発生しますが、いずれも一過性です。海外の施設では、心筋梗塞、脳血管障害や脾臓破裂が生じた報告さえも、まれにあります。
G-CSFは、保険診療として一般に病院で投与されている薬剤ですが、その発がんの可能性については、現時点では確実な情報はありません。上述のように、2000年4月に開始された日本造血細胞移植学会のドナー登録制度では、2003年3月末までにすでに2,000例以上のドナー登録があり、これまで重篤(じゅうとく)な有害事象が35例以上報告されています。中には骨髄増殖性症候群、あるいは急性骨前性白血病を発症したドナーの方が、それぞれ1人ずつ含まれています。これが果たして幹細胞の動員、採取に起因したものか、あるいは偶然が重なったものかはわかりません。いずれにしても、末梢血幹細胞の動員・採取は全身麻酔下の骨髄採取に比べ、決して安全性が高いとはいえません。さらに最近はミニ移植が増加して、高齢者ドナーが増えていることにも注目する必要があります。このような状況から、学会の尽力で、2006年3月より待望の末梢血幹細胞ドナー傷害保険が導入されました。
造血幹細胞移植療法による治療成果は、今までは超大量の抗がん剤、あるいは放射線治療ががん細胞を殺し尽くすと考えられてきました。ところが最近になって、同種造血幹細胞移植に対する考え方が随分変わってきました。それは、以下のように移植片対白血病(GVL)効果や、ドナーリンパ球輸注療法(DLI)の経験を通じて明らかになったものです。このため同種移植の手法も大きく変わり、特定の病気や病状の患者さんに対しては、現在はミニ移植と呼ばれる方法が広く行われるようになっています。
同種移植では、ドナーの造血幹細胞と同時に、多くのリンパ球が患者さんの体の中に入ります。造血幹細胞とリンパ球は見た目にはよく似た形の細胞ですから、移植のために造血幹細胞を採取しても、どうしても多くのリンパ球も一緒に入ってしまいます。通常は体の中に他人の血液が入ると、その中に含まれるリンパ球は異物とみなされて、患者さんの免疫の力でたちまち殺されてしまいます。しかし移植術では、患者さんの体は「術前療法(じゅつぜんりょうほう)」と呼ばれる大量の抗がん剤投与や放射線照射で前もって十分に痛めつけられていますから、他人の細胞に抵抗したり拒絶したりする免疫の力自体がなくなっています。このため、ドナーの造血幹細胞は患者さんの体にすみ着いて殖えることができ、やがてリンパ球がたくさんつくられます。これを「生着」と呼びます。ところで、リンパ球には外から入ってきた自分の体とは違う異物をやっつける働きがありますから、あとから入り込んできたはずのドナーのリンパ球が、今度は生意気にも患者さんの体全体を異物だと思って攻撃をはじめます。これがGVHDです。重症になると、このGVHDが致命傷にもなりますので、従来は免疫抑制剤を用いてリンパ球の増加をしっかりと予防していました。
ところが最近になって、GVHDが起こった場合には、移植後のがんの再発が少なくなることがわかってきました。これを専門用語で「GVL効果」と呼びます。この効果は、他人のリンパ球を介した免疫反応なので、自家移植では発生しません。つまり、ドナーのリンパ球が患者さんの体を異物として認識する際に、ドナーのリンパ球が、患者さんの体の中に残っているがん細胞を真っ先に攻撃するのです。この効果は抗がん剤が効かないタイプの固形がんにも有効で、この場合にはGVT効果と呼びます。時には、進行期腎がんなどの固形がんをも治してしまう力を持つことが、最近知られてきました。
さらに、ドナーリンパ球にも強力な治療効果があることがわかってきました。白血病は、同種移植を行ったあとにも不幸にして再発することが多くあります。移植のように、超大量の抗がん剤の治療を行ってもまだ生き延びて再発するようながん細胞に対しては、もはやどんな抗がん剤も効果はありません。そういうときに、移植のときと同じドナーの方から採取したリンパ球を注射すると、抗がん剤を使わなくても白血病が消えていく現象が起こることがわかってきました。これを「Donor Lymphocyte Infusion(DLI)」といい、現在、造血幹細胞移植の世界では幅広く使われています。ただし、このDLIが効くタイプのがんは少数派にとどまります。
「リンパ球を入れるだけで治るのであれば、移植術など行わずに最初からリンパ球を入れればいいのではないか」と考えがちです。実際に一部の民間病院では、このようなことを医療行為として行っていますが、いきなりリンパ球を患者さんに注射して入れても効きません。前に述べたように、輸注した途端に患者さんのリンパ球に殺されて(拒絶)しまうからです。民間の施設で宣伝している「リンパ球療法」では、他人のリンパ球が患者さんの体の中でちゃんと働くように前処置療法を行うわけではないので、点滴したリンパ球は当然患者さんのリンパ球に直ちに殺されてしまい、意味をなさない「治療」となります。自分自身のリンパ球を活性化する方法もありますが、大きくなったがんに対する有効性は実証されていません。いろいろな“免疫治療薬”を用いたとしても、自分の体の中で大きくなるがんを見過ごしてきた患者さん自身の免疫系には、もはや大きくなったがんを殺すだけの余力はありません。
このように、ドナーの方のリンパ球が発揮する同種免疫反応は強力なので、これをがんの治療に何とか利用しようと、当然だれもが考えるわけです。こうした治療の代表が、「ミニ移植」です。
ミニ移植については「同種造血幹細胞移植:ミニ移植」をご参照ください。
臍帯血移植は、骨髄移植や末梢血幹細胞移植と比べると、まだまだ移植症例数の少ない移植方法です。これは臍帯血に含まれる造血幹細胞の量が少ないため、大人への移植には細胞数が不十分であると考えられてきたためです。幹細胞数が少ないために生着が遅れたり、うまく生着しなかったりします。そのため、感染症の危険性が高まるといわれています。さらに、臍帯血に含まれる幹細胞は、骨髄由来のものと異なって、より未熟な細胞です。そのため、移植後の免疫力の回復が遅れ、生着後もウイルスなどの感染に弱いと考えられています。
しかしながら、臍帯血移植は悪いことばかりではありません。骨髄移植や末梢血幹細胞移植にはない長所もあります。例えば、幹細胞がより未熟な細胞であるため、HLAが一致しない場合でも臍帯血からの移植が可能になり、ドナー候補が広がります。また、臍帯血はすでに凍結保存されているため、ドナーを探す必要もなく、早期の移植が可能です。
最近では体重の大きな患者さんに対して、幹細胞数を確保するため、2つの臍帯血を用いた移植法が検討されはじめています。臍帯血移植では、急性GVHDの発症が少ないとの報告がありますが、GVHDや抗がん効果に関しては、今後さらに検討していく必要があると思われます。
以上のように、各移植法にはそれぞれ長所、短所があります。主治医とよく相談して移植方法を決定していくことが大切です。