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造血幹細胞移植の対象となる病気

更新日:2007年01月11日    掲載日:2007年01月11日

1.適応となる病気についての考え方

造血幹細胞移植という治療法には、いくつかの目的があります。ここではその目的ごとに分けて、造血幹細胞移植の適応となりうる疾患について整理してみます。

1)がんに対して強力な治療を実施する

現在、がんに対する治療法としては、外科的治療のほかに化学療法(抗がん剤治療)や放射線療法が行われています。一般的には、抗がん剤の投与量や放射線照射の投与線量が増加すれば、抗腫瘍効果はさらに期待できると考えられます。しかし、これらの投与量がある一定の用量を超えると正常な臓器や組織に重大な影響が発生するため、抗がん剤や放射線の投与量には上限があります。骨髄は、造血幹細胞が盛んに細胞分裂を行っているため抗がん剤の影響を受けやすく、造血機能が抑制されてしまいます。したがって多くの抗がん剤では、骨髄への重大な影響が発生しない範囲で投与量の上限が定められています。しかし、この投与量の上限があるために、十分な効果を上げる量の抗がん剤を投与できないことがあります。

造血幹細胞移植は、あらかじめ正常な造血機能を有する造血幹細胞を確保します。そのうえで、がんを壊滅できる量の抗がん剤投与や、全身放射線照射を実施します。この結果、骨髄の造血機能にも回復できないほどの影響を与えますが、その後に造血幹細胞を移植することによって、正常な造血機能を取り戻すことができます。造血幹細胞移植によって従来よりも強力ながん治療が可能になり、治療効果が期待できます。

このような目的で造血幹細胞移植を実施する場合、化学療法あるいは放射線療法に対して感受性がある(効きやすい)がんが対象です。つまり、白血病、悪性リンパ腫、多発性骨髄腫等の血液悪性疾患が造血幹細胞移植の適応になります。一方、固形がんに対しては、比較的化学療法に感受性があるがんで臨床試験が行われています。

2)低下した骨髄の造血機能を回復させる

造血幹細胞移植の大きな目的は、造血機能が低下した患者さんに、提供者(ドナー)から正常な造血幹細胞を移植することで、低下した造血機能を回復させることです。そのために、正常な機能を持つ「骨髄(造血幹細胞)」という1つの「臓器」を移植するわけですから、造血幹細胞移植は心臓や肝臓、腎臓といった固形臓器の移植と同様に、「臓器移植」であると考えられます。他の臓器移植と異なり、造血幹細胞移植のドナーの方は提供後もその臓器機能の低下はほとんど認められず、速やかに回復します。

再生不良性貧血や骨髄異形成症候群(こつずいいけいせいしょうこうぐん)など造血機能の低下を認める疾患が、こうした造血幹細胞移植の適応になります。また、造血機能や血球機能が低下する遺伝性疾患(慢性肉芽腫症(まんせいにくげしゅしょう)、Fanconi貧血(ファンコニー ひんけつ)等)も造血幹細胞移植の適応です。先天性代謝異常症の中にも、造血幹細胞移植の適応となる疾患があります。白血病や悪性リンパ腫、多発性骨髄腫は、原疾患やその後の治療によって正常な造血機能が低下していることが多く、その機能を回復させることも造血幹細胞移植の大きな目的の1つです。

3)同種免疫による抗腫瘍効果に期待する

「免疫」とは、体に侵入した病原体や異物を認識して排除する働きのことです。体が病原菌に感染しないで過ごせたり、感染しても病原菌を排除して回復できるのは、この免疫機能が存在するからです。免疫機能は、主として白血球が担っています。

臓器移植でも、免疫は重要な役割を果たしています。心臓や肝臓などの固形臓器移植では、移植されて患者さんの体内に入った臓器は、体にとっては「異物」と認識されます。そこで患者さんの白血球などは、この臓器を排除しようする働きを起こします。この反応は「拒絶」と呼ばれ、拒絶を起こさないことが臓器移植の成功に大きくかかわります。

造血幹細胞移植では、免疫は違った役割を果たします。移植された造血幹細胞から分化した白血球は免疫機能を担い、移植された患者さんの体そのものを異物と認識します。そして、皮膚や肝臓、腸管といった部分で免疫反応を起こします。こうした反応によって起こる症状を、「移植片対宿主病(いしょくへんたいしゅくしゅびょう、Graft Versus Host Disease:GVHD)」と呼びます。
移植片対宿主病については「造血幹細胞移植の副作用:移植片対宿主病 1.移植片対宿主病とは」をご参照ください。

もし、患者さんの体にがん細胞が存在していれば、移植された白血球にとってはそのがん細胞もまた異物です。移植された白血球はがん細胞に対して免疫反応を起こし、がん細胞を排除しようとします。これを、「同種免疫反応による抗腫瘍効果」といいます。この効果は前述した抗がん剤や放射線照射とは異なる働きで、がんを縮小させる治療法の1つといえます。「同種」というのは「同じ種の生物」という意味で、ヒトからヒトへの造血幹細胞移植のことを示します。

造血幹細胞移植によって生じる同種免疫反応に抗腫瘍効果を期待する治療法は、まず腎細胞がんで報告されました。その後、さまざまな固形がん(大腸がん、膵がん等)に対して同種造血幹細胞移植が試みられています。がんの種類や併用する薬剤によってこの抗腫瘍効果は異なると考えられ、現在も臨床試験が行われています。同種免疫反応による抗腫瘍効果は、白血病や悪性リンパ腫などの血液悪性疾患でも認められていて、同種造血幹細胞移植後のがんの再発を予防する効果があると考えられています。また、予防だけでなくがんの再発の治療に対しても、同種免疫反応が用いられています。

4)免疫系の異常を是正して再構築する

免疫とは、本来は体に侵入した病原体や異物を認識して、排除する働きのことです。しかし、免疫を担当している白血球などの細胞が自らの身体を誤って「異物」と認識し、自己のさまざまな臓器で免疫反応を示して臓器障害を引き起こすことがあります。このような機序で起こる疾患を「自己免疫疾患」と呼び、慢性関節リウマチや全身性エリテマトーデス(SLE)等の疾患があります。これらの疾患に対する治療は、免疫反応を抑える薬剤を投与するのが一般的ですが、中にはこうした治療に対する反応が悪い症例があります。従来の治療に抵抗性のある難治性の自己免疫疾患に対して、造血幹細胞移植を実施することがあります。

自己免疫疾患は、免疫を担当している細胞(白血球など)が、自己の臓器などを異物と認識するという異常を来している状態です。造血幹細胞移植は、異常な免疫担当細胞を壊滅させた後に正常な造血幹細胞を移植することで、正常な免疫機能の再構築を目指した治療法です。

自己免疫疾患に対する造血幹細胞移植は、現時点では臨床研究の段階です。適応となる疾患や病気の状態等について、今後の研究の成果が待たれます。

2.全身状態

上述のように、造血幹細胞移植の適応となる疾患は多岐にわたります。しかし、これらの疾患と診断されたすべての患者さんが、造血幹細胞移植を受けられるわけではありません。造血幹細胞移植という治療法は、従来の化学療法や放射線療法に比べて患者さんにかかる身体的負担が大きく、さまざまな造血幹細胞移植に関連した合併症(移植関連合併症)が高率に発症します。したがって、高齢の患者さんや移植前の全身状態が悪化している患者さんでは、移植関連合併症によって重篤(じゅうとく)な状態になる可能性が非常に高いと考えられるため、造血幹細胞移植を行わないこともあります。移植関連合併症には、移植前治療関連毒性によるもの、感染症、GVHD等が考えられます。造血幹細胞移植の前には、「移植前治療」という大量の抗がん剤投与および放射線照射による治療を行います。移植前治療の目的は、造血幹細胞移植の前にがん細胞をできるだけ死滅させることと、移植された造血幹細胞を速やかに患者さんの体内に生着させることです。移植前治療に関連する毒性は、治療に用いる薬品の種類や量によってさまざまで、時として重症になることがあります。

移植前治療によって、患者さんの造血機能は非常に低下します。移植されたドナーの造血幹細胞が、患者さんの体内で新たに造血を行うまでの約2〜3週間は、患者さんの免疫機能は非常に低い状態が続きます。そのため、この時期はさまざまな病原体による感染症にかかりやすく、またこれらの感染症は高頻度で重症化します。

同種造血幹細胞移植時には、移植された造血幹細胞に由来する免疫担当細胞が、患者さんの体内のさまざまな臓器に対して免疫反応を起こします。これをGVHDと呼びます。GVHDを予防するために、同種造血幹細胞移植では免疫抑制剤を使用します。それでも時として、重症のGVHDが発症することがあります。

このように、造血幹細胞移植を実施するに当たっては重篤な移植関連合併症の発症が予測されるため、患者さんの体がこれらの合併症に耐えられるかどうかを、あらかじめ評価する必要があります。

患者さんの全身状態を評価する指標の1つは年齢です。もちろん、暦年齢と実際の全身状態との間には患者さんごとに大きなバラツキがありますから、一概にはいえません。ただ一般的には、従来の造血幹細胞移植を受けることができるのは、55〜60歳までといわれています。また、患者さんの年齢が高くなるにつれて、移植関連合併症の発生率も高くなると考えられています。現在では、60歳を超えた患者さんに対しても造血幹細胞移植は実施されていますが、その場合には、工夫が必要になります。
この工夫については「造血幹細胞移植の種類 4.前処置治療法の種類による分類」をご参照ください。

その他の全身状態の評価としては、移植前に患者さんの循環器系、呼吸器系、消化器系、肝機能、腎機能、中枢神経系(ちゅうすうしんけいけい)、その他の全身疾患等について検査を行います。

移植関連合併症の発症に関係する臓器障害は、循環器系については不整脈や心筋梗塞(しんきんこうそく)、心臓弁膜疾患(しんぞうべんまくしっかん)の存在や心機能の低下、呼吸器系については呼吸機能の低下や呼吸困難感の存在、消化器系については炎症性腸疾患や消化性潰瘍(しょうかせいかいよう)の存在、肝臓については肝機能の低下や慢性肝炎、あるいは肝硬変の存在、腎臓については腎機能の低下や人工透析中であること、中枢神経系については脳血管障害の存在、その他の全身疾患として、糖尿病、肥満、感染症、膠原病(こうげんびょう)、固形がんの既往(病歴)等があげられています。造血幹細胞移植を受ける患者さんが移植前に持っている、上記のような併存疾患の程度と造血幹細胞移植の成績との関連についての研究が、わが国からも米国からも報告されています。そのいずれも、移植前の併存疾患が重症であるほど、移植成績が低下していることが示されています(図1)。

図1 全身状態と移植成績
図1 全身状態と移植成績
HCT-CIは移植前の全身状態を示す指標で,数字が大きいほど全身状態が悪いことを表す
HCT-CTが大きいほど,移植成績が悪化していることが示されている
(加藤 他.第47回米国血液学会 2005 より引用)


造血幹細胞移植を受ける患者さんは、移植前に全身状態を正しく評価し、移植関連合併症などが発症する危険性について、十分に検討したうえで移植に臨む必要があります。

3.ドナーの条件

同種造血幹細胞移植は、正常な造血機能を持っている健常人から造血幹細胞の提供を受ける必要があります。造血幹細胞の提供者をドナーといいます。

造血幹細胞移植を受ける患者さんとドナーの方は、HLAと呼ばれる白血球の血液型が一致しているか、あるいは類似していることが必要です。HLAが一致していることは、移植後の患者さんの体内で造血幹細胞が生着するかどうかや、移植後のGVHDの発症等に大きくかかわってきます。
HLAについては「造血幹細胞移植の副作用:移植片対宿主病 2.HLAとは?」をご参照ください。

造血幹細胞を移植するためには、ドナーの方の体内から造血幹細胞を採取しなければなりません。幹細胞を採取する方法には、骨髄採取と末梢血幹細胞採取の2種類があります。いずれの採取方法にせよ、また血縁者間移植、非血縁者間移植にせよ、ドナーの方は自らの健康には全く問題がないにもかかわらず、造血幹細胞を提供するために針を刺される、あるいは各種の薬剤を投与されるといった身体的な負担を強いられます。
造血幹細胞の採取方法については「造血幹細胞の採取方法」をご参照ください。

したがってドナーになっていただく方には、その健康状態を正確に評価したうえで、造血幹細胞の提供によって健康を損なわないかなど、ドナーとしての適格性を判定する必要があります。

ドナーとしての適格性の判断基準としては、骨髄採取の場合には日本骨髄バンクによる「ドナー適格性判定基準」があります。末梢血幹細胞採取の場合には、日本造血細胞移植学会などにより作成された「同種末梢血幹細胞移植のための健常人ドナーからの末梢血幹細胞動員・採取に関するガイドライン」があります。これらの基準の一部について紹介します。

ドナーとして適格である年齢は、18〜54歳とされています。しかし血縁者間移植では、この基準を外れるドナー候補が存在する場合も多いと思います。そうした場合には、採取施設の規定に従った手順でドナーとしての適格性を検討したうえで、採取の可否を判断する必要があります。

ドナーの方の健康状態にも基準が設けられています。病気治療中あるいは服薬中である場合には、ドナーにはなれません。ドナー候補で、がん、膠原病、心筋梗塞、狭心症、脳卒中、悪性高熱症、喘息(ぜんそく)、けいれん性疾患等の既往がある方や、造血幹細胞移植を通じて患者に移行する感染症(ウイルス性肝炎、梅毒等)がある方、過去に輸血を受けたことのある方は、ドナーとして不適格になります。

ドナー候補には、適格性を判断するために健康診断を受けていただきます。その項目としては、血液検査、尿検査、血圧測定、心電図、レントゲン、呼吸機能検査等があります。これらの検査にはそれぞれ基準が設けられていて、その基準を満たさないと、ドナーとして不適格と判定されます。体重については、男性は45kg以上、女性は40kg以上の方がドナーとして適格とされています。過度の肥満の方は、ドナーとして不適格と判断されることがあります。

ドナーの方および患者さんの安全をできる限り担保するために、これらのドナー適格性基準を適切に遵守する必要があるのです。

ドナーになるに当たって最も重要なことは、ドナー候補自身が造血幹細胞の提供について、その内容や危険性等を十分に理解することです。また、ドナー候補の気持ちだけではなく、その家族の理解と協力がなければ、ドナーとして適格であるとは判断されないと考えられます。

特に血縁者間移植では、ドナー候補は患者さんが治癒に向かって欲しいという気持ちが強く、そのために造血幹細胞を提供したいと強く希望すると思います。しかし先に述べたとおり、造血幹細胞採取はドナーの方に大きな負担を強います。数は極めて少ないながらも、造血幹細胞を採取したことによってドナーの方が死亡した事例もあります。あるいは、造血幹細胞採取術に伴う合併症や後遺症が発生した事例もあります。ですから、ドナーとして造血幹細胞を提供するに当たっては、ドナー適格性基準に基づいて適格性を正確に判断するとともに、本人とその家族の十分な理解と同意が必要なのです。

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