造血細胞移植に限らず、医学関係の治療成績は、生存曲線で示されることが多いです。これはなぜでしょうか? 例えば10人に移植した結果、7人が生存している場合、移植治療の成績を単純に“7/10 = 70%”と示すことが可能です。しかしながら、この方法では大きな誤りが生じることがあります。





造血細胞移植学会ホームページ(
http://www.jshct.com/)
話が前後しますが、ここで生存曲線の見方を説明します。上記は、日本造血細胞移植学会の全国調査に登録された、1991年から2002年までに第1回目の造血幹細胞移植を受けた16歳以上の患者さん、14,255人の生存曲線です。横軸の経過年数の時点での生存率の予測値をつないだものであり、例えば5年の時点での生存率予測値は48%になりますし、10年の時点では43%になります。
日本で行われた造血細胞移植の成績は、日本造血細胞移植学会が毎年まとめています。その結果は実施数とともに、
日本造血細胞移植学会ホームページで見ることができます。
また、このホームページでは、年によってテーマ別に集計した結果も見ることができます。
「
平成16年度全国調査報告書 5. 成人における造血幹細胞移植の解析」では、1991年から2002年までの16歳以上の内科領域の移植の成績を見ることができます。
「
平成17年度全国調査報告書 5. 小児における造血幹細胞移植の解析」では、1991年から2004年までの小児(15歳まで)の移植の成績を見ることができます。
ここで、その一部を紹介します。
以下は、白血病、悪性リンパ腫、再生不良性貧血、固形がんと分けた場合の生存曲線です。Leukemiaとあるのが白血病、Lymphomaが悪性リンパ腫、AA(Aplastic Anemia)が再生不良性貧血、ST(Solid Tumor)が固形がんです。

造血細胞移植学会ホームページ(
http://www.jshct.com/)
実際には、同じ白血病でも急性骨髄性白血病(AML)、急性リンパ性白血病(ALL)、成人T細胞性白血病(ATL)、慢性骨髄性白血病(CML)が含まれますし、骨髄異形成症候群(MDS)も白血病に含めて集計されます。それぞれに分けると以下のようになります。これらに分類されない白血病もあります。

造血細胞移植学会ホームページ(
http://www.jshct.com/)
悪性リンパ腫も、大きくホジキンリンパ腫(Hodgkin Disease:HD、以前はホジキン病と呼ばれていました)と、非ホジキンリンパ腫(Non-Hodgkin’s Lymphoma:NHL)に分かれます。

造血細胞移植学会ホームページ(
http://www.jshct.com/)
さらに、同じ急性骨髄性白血病(AML)でも、多くの亜型(あけい)に分類され、その亜型によって成績は異なります。

造血細胞移植学会ホームページ(
http://www.jshct.com/)

造血細胞移植学会ホームページ(
http://www.jshct.com/)
さらに、移植を受ける時期(第一寛解期か第二寛解期か再発期か等)や年齢によっても成績は変わりますし、受ける移植の種類(自家移植か同種移植か)や細胞の提供者(HLAの一致した血縁か、非血縁者か、臍帯血(さいたいけつ)か)でも成績は変わります。これらを組み合わせて、「AMLで非血縁者から移植を受けた、40歳未満の場合の病期別生存曲線」を示すことも可能です。

造血細胞移植学会ホームページ(
http://www.jshct.com/)
かなり多くの組み合わせで表示してありますので、その他については
日本造血細胞移植学会ホームページをご覧ください。また、以下のホームページにおいても、それぞれ移植の成績を独自に公表しています。
・日本骨髄バンク(骨髄移植推進財団)ホームページ「
成績報告書」
・日本さい帯血バンクネットワークホームページ「
さい帯血バンクと移植の現状」
これまで説明してきておわかりのように、移植成績を考えるには、疾患、病期、年齢、移植種類、ドナー(細胞)等多くの組み合わせが存在します。すべてを組み合わせて数字を出すとデータの数が少なくなって、逆に不正確な予測になってしまう場合も考えられます。むしろ、他の条件も含めて算出した数字から類推するほうが適切な場合もあります。データを検討する場合は、主治医など医療関係者を含めて相談したり、アドバイスをもらうほうがよい場合もあります。
移植成績は、生存率としてパーセンテージで表示されるのが通例です。しかし当然のことですが、1人の人が60%生きていて、40%死んでいるという状態はありえません。100%生きている人と、残念ながら0%の人の集合であって、その割合を表示しているに過ぎません。生存率95%という場合でも、全員が生きているわけではありませんし、生存率5%でも生きている人はいます。またどんな数値であっても、それを高いと受け止める人もいれば、低いと感じる人もいます。移植を受けない場合の可能性が異なったり、個人の受け止め方が異なるためです。データを求めることは大切ですが、あまり考えすぎないほうがよい場合もあります。
最近は、医療以外の世界でも「格差」という言葉がはやっています。医療の成績の公表を促し、その施設間の違いの有無を求める動きがあり、違いがあった場合は「格差」と呼ばれています。この「違い」は常に悪いものとされ、「医療格差の是正」などということがかなり議論されています。しかしながら、人間の体は設計図に基づいて正確に産生される工業製品とは、本質的に異なります。顔つきや背格好、筋力、体力などの能力、性格がすべて異なるように、一人一人が独自の存在です。このため、薬剤を投与した場合の反応も微妙な部分で必ず違いはあり、一律になることはありません。このような違いは「ばらつき」と呼ばれ、医療成績にも必ず「ばらつき」は生まれます。どこの施設でも全く同じ成績になることはありえません。この「ばらつき」を「格差」と誤解しないことが大切です。施設別に成績を出すと、ある施設の成績は他の施設より優れてみえるかもしれません。しかし、それが本質的な「格差」なのか、単なる「ばらつき」であるかを見極めることは困難です。造血細胞移植に限らず、血液腫瘍の治療にリスクは必ず存在します。このことを留意したうえで、治療成績をご覧ください。
| 1) | 日本造血細胞移植学会全国データ事務局. 平成16年度全国調査報告書. 2005. |
| 2) | 日本造血細胞移植学会全国データ事務局. 平成17年度全国調査報告書. 2006. |
| 3) | 骨髄移植推進財団データ・試料管理委員会. 日本骨髄バンクを介した非血縁者間骨髄移植の成績報告書(2005年度集計). 2006. |
| 4) | 小松秀樹. 医療崩壊: 「立ち去り型サボタージュ」とは何か. 朝日新聞社, 2006, 295p. |
| 5) | 李啓充. 市場原理が医療を亡ぼす: アメリカの失敗. 医学書院, 2004, 280p. |