健康食品やサプリメントをはじめとした、がんの代替療法(民間療法)の有効性や安全性を科学的な方法で評価しようという気運が世界的に高まっています。これまでに行われた研究を検討して、がんの代替療法の有効性と安全性についてどこまでわかっているかを整理するという試みも始まっています。
その中で最も組織的で詳しい研究の1つとして、アメリカ、ハーバード大学の研究グループによる報告をご紹介します。がんに対する「相補代替療法」の有効性と安全性をまとめたものです(「相補」とは「補う」という意味で、通常のがん治療を補う意図で行われる治療のこと。代替とは「代わり」という意味で、通常のがん治療の代わりに行われる治療法を指しています)。
この報告の中で、がんに対する相補代替療法として取り上げられているのは、「食事療法」「サプリメントや健康食品」「鍼灸」「マッサージ療法」「運動療法」「心理療法と心身療法」です。それぞれの治療法の「有効性」と「安全性」について、どのような方法で判断したか、見てみましょう(表3)。
表3 がんの代替療法の有効性と安全性のまとめ(ハーバード大学、2002年)
| 有効性−科学的根拠の質 |
有効性−科学的根拠の方向性 |
リスクの程度(禁忌以外の場合) |
禁忌 |
合理的な助言 (禁忌以外の場合) |
||
| がんの進行と生存に対する効果を意図した相補代替療法 |
||||||
| 乳がんに対する脂肪制限 | II-2 |
→ |
1 |
N |
容認して経過観察 | |
| 前立腺がんに対する脂肪制限 |
II-2 |
→ |
1 |
N |
容認して経過観察 | |
| マクロバイオティック食(野菜や玄米中心の食事) |
III |
→ |
2 |
E, N |
容認して経過観察 | |
| ビタミンAサプリメント |
I |
→ | 6 |
A, T |
反対して経過観察 | |
| ビタミンCサプリメント |
I |
↓ |
2 |
A, B |
反対して経過観察 | |
| 潜在性前立腺がんに対するビタミンEサプリメント |
I |
↑ |
1 |
A, B |
容認(場合により推奨)して経過観察 | |
| その他の前立腺がんに対するビタミンEサプリメント |
III |
→ |
1 |
A, B |
容認して経過観察 | |
| 乳がんに対する大豆サプリメント |
III |
→ |
4 |
A, B, E |
反対して経過観察 | |
| 前立腺がんに対する大豆サプリメント |
III |
→ |
1 |
A, B |
容認して経過観察 | |
| PC-SPES(前立腺がんに対するハーブ製品) |
I |
→ | 6 |
C |
現在販売中止 | |
| サメ軟骨 |
III | → | 3 |
H, An |
容認して経過観察 | |
| 心身療法 |
I |
→ | 2 |
容認して経過観察 | ||
| 症状の緩和を意図した相補代替療法 |
||||||
| 化学療法による吐き気や嘔吐に対する針灸 |
I | ↑ |
3 |
B |
容認(場合により推奨) | |
| (がんや通常治療による)慢性疼痛に対する針灸 |
III |
→ |
3 |
B |
容認して経過観察 | |
| 不安に対するマッサージ |
I |
↑ |
3 |
B |
容認(場合により推奨)して経過観察 | |
| (がんや通常治療による)疼痛に対するマッサージ |
I |
→ |
3 |
B |
容認して経過観察 | |
| (自家骨髄移植に伴う)吐気に対するマッサージ |
I |
↑ |
3 |
B |
容認(場合により推奨)して経過観察 | |
| リンパ浮腫に対するマッサージ |
I |
↑ |
2 |
容認(場合により推奨)して経過観察 | ||
| 身体機能の向上と心身症状の緩和のための運動 |
I |
↑ |
2 |
容認(場合により推奨)して経過観察 | ||
| 有効性−科学的根拠の質 | ||
| I | 少なくとも1件の、適切に計画されたランダム化比較試験による根拠 | |
| II-1 | 適切に計画された、無作為割付のない臨床試験による根拠 | |
| II-2 | 適切に計画された、コホート研究や症例対照研究による根拠 | |
| II-3 | 複数の時系列研究による根拠 | |
| III | 臨床経験、記述研究、専門委員会の報告に基づく、権威者の見解 | |
| 有効性−科学的根拠の方向性 | ||
| ↑ | 治療が有効であることを、現行の科学的根拠は示唆している | |
| ↓ | 治療が有効でないことを、現行の科学的根拠は示唆している | |
| → | 治療の有効性について、現行の科学的根拠は一致していない | |
| リスクの程度 | ||
| 6 | 重大(生命に関わるか恒常的な障害をもたらす)な有害作用。複数の報告があり、治療との因果関係が確立。 | |
| 5 | 重大(生命に関わるか恒常的な障害をもたらす)な有害作用の報告。 | |
| 4 | 重大な有害作用が生じる理論的可能性(作用メカニズムに関する現在の知識や、前臨床的研究に基づく)。 | |
| 3 | 軽度の有害作用の報告。 | |
| 2 | 軽度の有害作用が生じる理論的可能性があるが、現在まで臨床例の報告がない。 | |
| 1 | 有害作用の報告も理論的可能性もなく、有害作用はないと思われる。 | |
| リスクの程度が4以上の場合は、治療に反対することが適切である。 | ||
| 禁忌 | ||
| A | 抗酸化物質。放射線治療や化学療法との併用を避ける。 | |
| An | 血管新生を抑制する可能性。妊婦、小児、血管不全疾患(冠動脈疾患を含む)での使用を避ける。 | |
| B | 出血の可能性。抗凝固療法を受けている患者や、血小板数が低下している患者での使用を避ける。経口剤については、手術前後の時期での使用も避ける。 | |
| C | 放射線治療や化学療法と併用した場合の影響についてデータなし。より多くの科学的知見が集まるまで、併用を避けるほうが適切。 | |
| E | 植物性エストロゲン。乳がんの女性では使用を避ける(特にエストロゲン受容体陽性の場合)。特に、タモキシフェンを服用中の患者は、相互作用の可能性について警告すべき。子宮体がんの女性でも使用を避ける。 | |
| H | カルシウム含量が高い。高カルシウム血症の既往者では使用を避ける。 | |
| N | 強度の食事制限。低栄養の患者では使用を避ける。 | |
| T | 胎児に対する催奇形性。妊娠の可能性のある患者では使用を避ける。 | |
| 合理的な助言 | ||
| 推奨 (Recommend) |
科学的根拠は、有効性と安全性の両方を支持している。3件以上のランダム化比較試験があり、その75%以上で有効性が示されている場合など。 | |
| 容認場合により推奨 (Accept; May consider recommending) |
科学的根拠は、有効性と安全性の両方を支持している。1件以上のランダム化比較試験があり、その50%超で有効性が示されている場合など。 | |
| 容認 (Accept) |
科学的根拠は、有効性については一致しないが、安全性を支持している。 | |
| 反対 (Discourage) |
科学的根拠は、有効性がないか、重大な危険性があるかの、いずれかを示している。 | |
「有効性」については、2つの面から検討しています。1つは、「がんの進行を遅らせたり、生存率を高めるかどうか」についての検討です。もう1つは、「がんそのものやがんに対する治療などが原因で生じる吐き気や倦怠感などさまざまな症状を和らげるかどうか」についての検討です。つまり、症状緩和という意味での有効性を調べたものです。
一方、「安全性」については2つの観点から検討しています。それは、「直接的な有害作用」があるか、「手術・放射線治療・化学療法など通常の治療法に対する干渉作用」があるかどうか、という2点です。
こうした有効性と安全性のバランスを考えながら、研究グループはそれぞれの治療法について総合判定をしています。判定は次の4つの段階に分かれます。
| 「推奨」 | その治療法を勧めるという判定 |
| 「容認、場合により推奨」 | 患者さんがその治療法を使うのを認める、場合によってはお勧めするという判定 |
| 「容認」 | 文字どおり、「認める」という判定 |
| 「反対」 | これも文字どおり「認めない」という判定 |
この2つが意味するのは、「有効性を示す根拠もあるし、安全性を支持する根拠もあるので、勧める」ということです。ただし、「推奨」のほうが、「容認、場合によっては推奨」よりもお勧めする程度が強いことを意味しています。具体的な裏づけとしては、ランダム化比較試験が3件以上あり、そのうちの75%以上の研究で効果が認められるような場合に、この判定がされることになっています。
「容認、場合によっては推奨」は「推奨」よりも弱い判定で、1つ以上のランダム化比較試験があり、そのうちの50%を超える研究で効果が認められたような場合が当てはまります。
「容認」には、お勧めするという意味合いはありません。「有効性については、きちんとした根拠はない。けれども、安全性については、重大な危険はない。だから、がん患者がその利用を望むのであれば、あえて否定せずに容認する。つまり認める」という判定です。「反対」は、「効果がない。または、重大な危険性がある」ので、利用には反対するという判定です。
まず、「がんの進行を遅らせ、生存率を高める」ことについての検討はどうでしょうか。ここで「推奨」、つまり「勧める」と判定されているものは、1つもありません。意外に思われるかもしれませんが、がんの相補代替療法の中で、がんの進行を防ぐとか、生存率が上がるという効果を、この研究グループが認めて推薦するものは、1つもないということです。
「容認、場合により推奨」と判定されているのは、「前臨床期の前立腺がんに対するビタミンEのサプリメント」1つだけです。残りの代替療法はすべて、「容認」あるいは「反対」と判定されています。「容認」、つまり「有効性ははっきりしないけれども、患者がその利用を望むのであれば、あえて否定せずに認める」と判定されている治療法の例として挙げられているのは、「乳がんと前立腺がんに対する低脂肪食」、「マクロバイオティク食(野菜や玄米中心の食事)」、「臨床期の前立腺がんに対するビタミンEのサプリメント」です。
一方、「反対」という判定はどうでしょうか。これはつまり「効果がないか、害のあることがはっきりしているので反対する」という判定です。一般に、がんに対して有効と思われている、「ビタミンAとビタミンCなどの抗酸化物質のサプリメント」と、「乳がんに対する大豆サプリメント」の2つは、この「反対」という判定になっています。
この判定は、ビタミンAやCなどの抗酸化物質が通常の治療効果を弱めてしまう可能性があるためです。放射線治療や化学療法など、通常のがん治療の一部は、活性酸素を発生させてがん細胞を攻撃することにより治療効果を発揮します。ところが、ビタミンAやビタミンCなどの抗酸化物質をサプリメントとして大量にとると、活性酸素の作用が弱くなるため、こうした通常治療の効果を阻害する可能性があります。そのため、判定が「反対」とされているのです。
また、「乳がんに対する大豆サプリメント」も、この論文では「反対」とされています。植物性エストロゲンは大豆製品に多く含まれており、女性ホルモンのエストロゲンと化学構造が似ています。大豆製品に含まれる植物性エストロゲンが、本来のエストロゲンの働きを抑えて、乳がん予防につながるという仮説があります。
けれどもその一方で、植物性エストロゲンが、本来のエストロゲンと同じ働きをすることで、かえって乳がんのリスクを高めてしまうという可能性も考えられています。こうした有害作用についての理論的な可能性を現時点では否定できないことから、判定は「反対」という結果になっています。
もう1つの有効性である、「吐き気や倦怠感など、症状を和らげるための相補代替療法」についての判定はどうでしょうか。こちらもやはり、勧める度合いがもっとも高い「推奨」という判定がされているものは1つもありません。
「容認、場合により推奨」と判定されている治療法の例として、「化学療法による悪心嘔吐に対する鍼灸」、「不安、悪心、リンパ浮腫に対するマッサージ」、「運動療法」が挙げられています。
また、「容認」と判定されている治療としては、「痛みに対する鍼灸」、「痛みに対するマッサージ」があります。
以上が、がんの相補代替療法の有効性と安全性について、研究グループが判定したまとめです。この論文では、安全性と有効性の評価だけではなく、リスクの程度、使ってはいけない禁忌の状況などについても、具体的に特定しているので、参考にしてください。
なお、総合判定の3番目にあたる「容認」については、正確に理解しておく必要があります。この判定に分類された治療法は、「効果の可能性があるので承認する」というように「積極的」に認めているわけではありません。決して、有効性が科学的に確認されている、という意味ではないのです。生命にかかわるような大きな有害作用が現時点で報告されておらず、またそのようなことが生じる理論的可能性も低いということにすぎません。
つまり、「効果は未確認だが、重大な害の可能性は低いので、患者が使用を希望する場合には、反対しないでその意思を尊重する」ということです。これは、積極的なお勧めではなく、いわば「消極的」な意味合いのものということを頭に入れておいてください。