急性前骨髄球性白血病(Acute Promyelocytic Leukemia:APL)は急性骨髄性白血病(AML)の1病型で、図1に示すように特徴的な形態を持つほかに、AMLの中でも特徴的な病像を示すことで知られる白血病です。この白血病では播種性血管内凝固症候群(はしゅせいけっかんないぎょうこしょうこうぐん、Disseminated Intravascular Coagulation:DIC)を伴うことが多く、それにより強い出血傾向が生じ、脳出血などによる治療初期の死亡がまれではありませんでした。播種性血管内凝固症候群とは、普通は血管の中を流れる血液は固まりません。血が固まることを凝固といいますが、何らかの原因で全身の血管内で異常な凝固が無秩序に起こり、その結果発生した小さな血のかたまり(血栓といいます)で血管が詰まったり、血小板を消費し尽くしてしまうため、今度は出血が止まらなくなる状態のことです。
全トランス型レチノイン酸(ATRA、ベサノイド(R))は、ビタミンAの活性型代謝産物で、のみ薬です。レチノイン酸には構造上cis型とtrans型があります。1980年代から、レチノイン酸には、骨髄性白血病の幼弱な細胞を芽球レベルから好中球へと分化・成熟させる作用があることが、実験室レベルですがわかっていました。1987年、急性前骨髄球性白血病(APL)の患者さんの24例中23例で、活性型ビタミンA代謝物(ATRA)をのむことによって完全寛解にすることができたと報告し、中国・上海のWang博士が脚光を浴びました。そして2000年には、APLの白血病細胞ではレチノインレセプターαに異常があり、そのため白血病になること、また、高用量のレチノイン酸がそこに作用することによって、治療効果をもたらすことが判明しました。こうしてATRAによる分化誘導療法は、最近多く用いられている分子標的治療にほかならないことがわかりました。
APLの初回治療は、活性型ビタミンA代謝物(ATRA)の分化誘導療法と化学療法を併用します。再発または難治性のAPLに対しては、まず亜ヒ酸により再寛解導入を行い、分子寛解(PCR法で異常な遺伝子が検出されない状態をいいます)が得られれば自家末梢血幹細胞移植を、白血病細胞が残存する患者さんでは同種造血幹細胞移植を、適合ドナーがいなければタミバロテンや亜ヒ酸による維持療法、あるいは抗体医薬のゲムツズマブ・オゾガマイシン(抗CD33抗体:マイロターグ)等の治療が妥当と考えられています。
| 1) | 河北敏郎, 麻生範雄. ”急性前骨髄球性白血病(APL)の薬物療法". よくわかる白血病のすべて. 大野竜三編. 永井書店, 2005, p. 83-91. |
| 2) | 木崎昌弘, 飛田規, 大西一功. "レチノイン酸". 分子標的治療薬: 作用機序と臨床. 元吉和夫, 大野竜三編. メディカルレビュー社, 2005, p. 55-72. |