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グリベックと新規PTK阻害剤
更新日:2006年10月01日 掲載日:2006年10月01日
1.はじめに
グリベック(R)(Glivec、一般名:メシル酸イマチニブ、販売元:ノバルティス ファーマ株式会社)の登場で、慢性骨髄性白血病の治療は劇的な変化を遂げました。グリベックという薬を飲むだけで、多くの慢性骨髄性白血病の患者さんが寛解まで得られるようになりました(寛解とは検査で白血病細胞が検出されないという意味で、完全に治る“完治”ということではありません。ただし、完治するには寛解の状態になることが絶対に必要です)。そして現在、慢性骨髄性白血病の治療は、いわゆる“グリベック時代”と呼ばれています1)。
しかし残念ながら、すべての慢性骨髄性白血病の患者さんがグリベックだけで治るわけではありません。グリベックの効かない患者さんや、いったんグリベックで良くなっても再発する患者さんがいることもわかってきました。このような問題点を克服し、より多くの慢性骨髄性白血病の患者さんを寛解に導くために、世界中で研究が続けられています。すでに多くの有望な新薬が開発されつつあり、“グリベック時代”から“ポスト・グリベック時代”へと移りつつあります。
血液の細胞の中にある染色体に異常が起こると、慢性骨髄性白血病という病気になってしまいます。この異常な染色体を、フィラデルフィア染色体と呼びます(以後、Phと略します)。慢性骨髄性白血病の病気自体の詳しい説明については、「慢性骨髄性白血病・慢性骨髄増殖性疾患」をお読みください。また、Ph染色体によって起こるもう1つのタイプの白血病であるPh陽性急性リンパ性白血病については、「急性リンパ性白血病」をお読みください。
ここでは、これら慢性骨髄性白血病あるいはPh陽性急性リンパ性白血病におけるグリベックの使用方法、効果、そしてグリベック治療の問題点について説明します。次に、グリベック以上の効果が期待されている新しい薬について説明をします。
1)なぜグリベックが効くのか?
メカニズムはよくわかっていませんが、血液の細胞の中に正常では認められない異常な染色体(Ph染色体)ができてしまうことで、健康な人間の血液細胞の中には本来存在しない、Bcr-Ablという異常な活性を持つ蛋白質(たんぱくしつ)がつくられます。この異常な蛋白質が、慢性骨髄性白血病やPh陽性急性リンパ性白血病が発症する原因になることが明らかにされています。血液細胞の中にあるエネルギーのもととなるアデノシン三リン酸 (ATP) という物質が、この異常な蛋白質のポケット(鍵穴)に入り込むと(結合)、Bcr-Ablが活発に働き、白血病細胞(がん細胞)が増加します。グリベックはこのATPの入るポケットをふさぐようにBcr-Ablに入り込み、ATPの進入を妨害します。ATPの代わりにグリベックがこのポケットに結合すると、Bcr-Ablは活動できなくなり、白血病細胞は死んでいきます。したがって薬の効果を得るためには、グリベックがBcr-Ablのポケットに結合することが必要です。
図1

2)グリベックが使用できる病気と、グリベックの服用量
図2
・グリベックカプセル(1カプセル100mg)(図2A)は、慢性骨髄性白血病の治療薬として2001年12月から日本でも発売が開始され、病院で使用できるようになりました。カプセルはやや大きく、少し飲みにくいということもあり、グリベック錠(1錠の量はカプセルと同じく100mg)(図2B)が2005年7月から発売されました。
・効果は、カプセルと錠剤で変わりません。
・慢性骨髄性白血病の患者さんでは、慢性期では1日400mg(4錠)〜600mg(6錠)、移行期、急性転化期では1日600mg(6錠)〜800mg(8錠)を服用することになっています。
・残念ながら、Ph陽性急性リンパ性白血病の患者さんがグリベックに健康保険を使用することは、現在のところ認められていません。
・KIT陽性消化管間質腫瘍 (GIST) という胃、腸のがんにもグリベックの使用が認められていますが、血液の病気ではないので説明は省きます。
※なお、「グリベックカプセル」は2007年4月にかけて、順次「グリベック錠」に剤形を統一していく予定です。
3)グリベック錠、カプセルの服用方法
・必ず主治医の指示に従い、食後にコップ1杯(200cc程度)の水またはぬるま湯と一緒に服用してください。
・飲み忘れに気づいた場合、すぐに服用しないで次の通常の服用時間に1回分を服用してください。絶対に2回分を一度に服用しないでください。
・誤って多く服用した場合は、すぐに主治医または薬剤師に相談してください。
・高齢の患者さんは、特に主治医の指示を守って服用してください。
・主治医に内緒で薬の量を勝手に減らしたり、服用をやめたりすることは絶対にしないでください(実際に、このために治療がうまくいかなくなる例が多く見受けられます)。グリベックは、1日に最低300mg(3錠)は服用しないと効果が表れないことがはっきりしています。服用すると具合が悪いからといって1錠や2錠に減らして服用していると効果がないばかりか、後で説明するグリベック耐性の白血病細胞を生み出しやすくする危険性があります。
4)グリベックを服用するとき、次のような患者さんは、必ず主治医または薬剤師に伝えてください
・以前に薬を使用して、かゆみ、発疹(ほっしん)などのアレルギー症状が出たことのある患者さん。
・ほかに薬を使用されている場合(お互いに作用を強めたり、弱めたりする可能性があります。また、薬局やコンビニで買った薬も含まれます)。
・妊婦または授乳中の方(基本的には、グリベック服用中は妊娠を避けるべきと考えられています。妊娠を希望する患者さんは、主治医とよく相談してください)。
5)生活上の注意
・ グリベックを飲んでいる間は、肝臓の働きや血液の成分を調べるため、定期的に検査をする必要があります。また、定期的に体重を測ってください。
・ グレープフルーツジュースと一緒に飲むと、この薬の作用が強く出ることが考えられますので避けてください。
・セイヨウオトギリソウ(セント・ジョーンズ・ワート)を含む健康食品と一緒に飲むと、この薬の作用が弱くなることが考えられますので避けてください。
・めまいや眠気、目のかすみが起こることがありますので、高いところでの作業、車の運転等、危険を伴う機械の操作には注意してください。
・アセトアミノフェンを含む市販の薬を飲むのは避けてください。
6)グリベックの副作用
・以下の症状が出たら、すぐに主治医または薬剤師に相談してください。
発熱や寒気がする、のどが痛む、手足に赤い点または赤い(青い)あざができる、出血しやすい(歯ぐきの出血、鼻血など)、体がだるい・疲れやすい、頭痛の持続、突然の激しい頭痛、吐(は)き気、嘔吐(おうと)、上腹部の痛み、血を吐いたり便に血が混じる(黒い便が出る)、食欲がない、発疹(ほっしん)*、皮膚の発赤(ほっせき)*、皮膚や白目が黄色くなる、胸の痛み、ピンク色の泡状の痰(たん)が出る、寝ているよりも座っているほうが息をするのが楽である、夜間になるとせき込む、息が苦しい、体重が急に増える、尿の量が減る、体や足がむくむ、から咳(せき)が出る、おなかが張る、手足の痛み、意識が薄れる。
*ひどくなると全身の皮膚が赤くはれて水ぶくれができたり、皮膚粘膜(口、目など)がただれることがあります。
・ 以下の症状が出たら、なるべく早めに主治医または薬剤師に相談してください。
筋肉痛、筋肉がけいれんする、関節が痛む、胃がもたれる、目の回りやまぶたが腫(は)れる・厚ぼったくなる等
上記以外でも気になる症状が出た場合には、主治医または薬剤師に相談してください。
3.グリベックで期待される効果
グリベックで期待される効果を、慢性骨髄性白血病とPh陽性急性リンパ性白血病に分けて説明します。ここで紹介する内容は、海外で行われた臨床試験に基づいています。日本国内で実施された臨床開発治験でも、グリベックによる有効性、安全性、薬物動態(薬の体内濃度)は、海外とほとんど変わらないことが確かめられています。
1)慢性骨髄性白血病
慢性骨髄性白血病は無治療の場合、 数年の慢性期、その後数ヵ月の移行期、急性転化期を経て死に至る病気です。1980年代からインターフェロンが慢性骨髄性白血病の治療に用いられましたが、十分な効果は10%程度の患者さんにしか認められませんでした。しかも連日の皮下注射が必要で、注射後の倦怠感(けんたいかん)などの副作用の問題がありました。
グリベックの効果は、どの時期から治療するかによって大きく変わってきます。もちろん、できるだけ早い時期から治療を行ったほうがよく効きます。
- 慢性期
- グリベックの登場以後、グリベックとそれまでによく使われていたインターフェロンのどちらが有効であるか、多くの議論がありました。この論争に決着をつけるために、初発(過去に治療を受けていない)の慢性骨髄性白血病患者さんにおける、グリベック単独グループとインターフェロン-α+シタラビンの併用グループでの大規模比較試験が行われました。本研究結果は、まず2003年3月米国の有名な医学雑誌に発表され、18ヵ月目の血液学的完全寛解注1率はグリベックグループで97%、インターフェロン-α+シタラビンの併用グループで69%、細胞遺伝学的完全寛解注2率はそれぞれ76%と15%と効果に差が認められました。その後、慢性期の慢性骨髄性白血病の第一選択薬としてグリベックが使用されるようになりました2)。
- 本臨床試験の開始後、5年を経過した時点での長期追跡結果が、2006年の米国臨床腫瘍学会で報告されました。その結果は大変素晴らしく、5年を経過した時点でグリベックを使用した患者さんの98%に血液学的完全寛解が、87%に細胞遺伝学的完全寛解が得られました。93%の患者さんは慢性期を維持しながら生存し、全生存率は90%でした。また、慢性骨髄性白血病が原因で亡くなった患者さんは4.6%でした。これらの結果からも、慢性骨髄性白血病の慢性期の治療にグリベックを選ぶことに、疑う余地はありません。
- 注1血液学的完全寛解:末梢血の状態が正常になり、臨床症状が消えた状態です。
注2細胞遺伝学的完全寛解:20〜100個の骨髄細胞のうち、Ph染色体を持つ白血病細胞が検出できなくなった状態です。
- 移行期/急性転化期
- 先に説明したように、慢性期の慢性骨髄性白血病にグリベックはとても優れた効果を示します。さらに、病勢の進行した移行期や急性転化期の患者さんに対して効果があるのかどうかについても、多くのことが調べられています。移行期の慢性骨髄性白血病患者さんに対してグリベックを1日400mgまたは600mg投与した臨床試験では、53%の患者さんで血液学的完全寛解(細胞遺伝学的完全寛解は17%)が得られました。600mg投与された患者さんのほうが、400mg投与された患者さんより高い細胞遺伝学的効果が得られました。181例における試験後12ヵ月の時点での生存率は、400mg投与された患者さんでは65%、600mg投与された患者さんでは78%で、600mg投与された患者さんのほうが高い生存率が得られました3)。また、骨髄性急性転化期でも同様な臨床試験が行われ、229例における12ヵ月目の生存率は32%でした。これらの結果から、移行期や急性転化期の患者さんに対してもグリベックは有効ではあるものの、慢性期に使用する場合と比較してその効果は劣ることが明らかになっています4) 。
2)Ph陽性急性リンパ性白血病
Ph陽性急性リンパ性白血病患者さんに対して、グリベックを1日400mgまたは600mg投与した臨床試験が行われました。それによると、60%の患者さんに何らかの血液学的効果は認められましたがその効果持続期間は短く、平均2.2ヵ月でグリベックの効果が失われ、平均生存期間は4.9ヵ月でした。この結果から、グリベックのみでのPh陽性急性リンパ性白血病治療には限界があることがわかりました。現在では他の抗がん剤との併用や、移植の前処置薬の1つとしてグリベックの利用方法が検討されています5)。
4.グリベックが効かなくなる理由(耐性機序)
グリベックは、慢性期の慢性骨髄性白血病には極めて高い効果を示します。しかし、より病状の進んだ移行期や急性転化期、あるいはPh陽性急性リンパ性白血病では、残念ながら効果は不十分です。なぜグリベックが効かない、あるいはいったん効いて寛解に入っても再発するのか研究され、多くのことがわかってきました。
グリベックが効かなくなる原因として
・慢性骨髄性白血病の原因となるBcr-Ablが、より活発に働いてしまう。
・グリベックが結合するBcr-Ablのポケットの形が変わり、グリベックが結合できなくなる(図3)。
(ポケットの形が変わるような変化は、「突然変異」と呼ばれる遺伝子異常によって引き起こされる。)現在までに、40種類程度の突然変異が報告されています。また、最近グリベックが効かなくなる原因に、別のがん遺伝子であるLynの活性化が関係しているという報告もあります。
図3
5.グリベック時代の慢性骨髄性白血病の治療選択
グリベックが登場してから、慢性骨髄性白血病の治療方法は大きく変わりました。まだ完全に意見は一致しない部分もありますが、治療方法の選択の流れを図4に示します6)。
図4
Peggs K, Mackinnon. N Engl J Med. 2003; 348: 1048-1050.より引用改変
- 図4(a)慢性骨髄性白血病診断確定後
- 診断確定後、まずグリベックを使用することに現在異論はないと思います。
- 図4(b)グリベックに対する効果の評価
- グリベックに対する反応によって、その後の治療方針は大きく2つに分かれます。グリベックに対する反応の評価について、まだ完全に意見は一致していませんが、欧州のグループは以下のような患者さんをグリベックに対する「効果不良」とし、「効果不良」をさらに「無効」と「効果不十分」に分けています7)。
- 「無効」
-
| 1) |
グリベック治療開始後3ヵ月の時点で、何ら血液学的反応が得られない。 |
| 2) |
6ヵ月で血液学的完全寛解を得られない、または骨髄細胞中Ph染色体を持つ白血病細胞の割合が95%以下にならない。 |
| 3) |
12ヵ月で、骨髄細胞中Ph染色体を持つ白血病細胞の割合が35%以下にならない。 |
| 4) |
18ヵ月で、骨髄細胞中Ph染色体を持つ白血病細胞の割合が0%にならない。 |
| 5) |
いかなる時点でも、いったん得られた血液学的完全寛解、あるいは細胞遺伝学的完全寛解が失われたとき、あるいはグリベック耐性に関与する変異が出現してきたとき。
|
- 「効果不十分」
-
| 1) |
グリベック治療開始後3ヵ月の時点で、血液学的完全寛解が得られない。 |
| 2) |
6ヵ月で、骨髄細胞中Ph染色体を持つ白血病細胞の割合が35%以下にならない。 |
| 3) |
12ヵ月で、骨髄細胞中Ph染色体を持つ白血病細胞の割合が0%にならない。 |
| 4) |
18ヵ月で、末梢血の分子遺伝学的検査(リアルタイムPCR検査)という、白血病細胞の有無を遺伝子レベルで詳しく調べる検査で0.1%以下にならない。
|
| 5) |
いかなる時点でも、新たな染色体異常が出現してきたとき、いったん末梢血のリアルタイムPCR検査で白血病細胞が0.1%以下となったのに再び増加してきたとき、グリベック耐性に関与する変異が出現してきたとき。
|
- 図4(c)グリベックがよく効いていて、移植に適切なドナーの方が見つからないとき
- このような患者さんでは、グリベックの治療を継続します。白血病細胞の数が少なければ少ないほど病状が良いとされていますが、特に白血病細胞の割合が0.1%未満になるのは、治療が非常にうまくいっているサインです。白血病細胞が十分減少しているかどうかを確認するために、リアルタイムPCR法を用いて3ヵ月ごとに測定することが重要です。リアルタイムPCR法による検査結果が2〜5倍上昇すれば、その後、早期に再発する危険性が高いと考えられています。このような上昇を認めたときはリアルタイムPCR法による検査の間隔を1〜2ヵ月とし、できるだけ早期に再発をとらえて新たな治療法に取り組む必要があります。
- ここで問題となるのは、日本ではまだリアルタイムPCR法を用いた検査が、保険適用外であるということです。2004年11月より、日本臨床血液学会は“グリベック症例登録システム(TARGET)”に登録された患者さんに対して、年2回までのリアルタイムPCR法費用を負担する事業を開始しています。もし登録されていないようでしたら、主治医に依頼して登録してもらえば、本検査が年2回までは無料で受けられます。
- 図4(d)最初はグリベックが効いていたがその後効かなくなった場合、あるいはグリベックの効果不良な場合で、移植に適切なドナーの方が見つかった場合
- このような患者さんは、可能な限り造血幹細胞移植を受けるべきと考えられています7)。慢性期で、HLA適合ドナーから移植された場合の長期生存率は、約50〜75%と報告されています。漫然(まんぜん)とグリベック治療を継続するのではなく、検査を定期的にきちんと行い、できるだけ早くグリベック耐性を発見し、可能な患者さんには造血幹細胞移植を行うべきです。しかし今後、後述する次世代の「Bcr-Ablキナーゼ阻害剤」の治療成績によっては、造血幹細胞移植の適応にも変化が生じるかもしれません。造血幹細胞移植の方法や成績については、造血幹細胞移植をお読みください。
- 図4(x)グリベックがよく効いていて、しかも適切なドナーの方が見つかっている場合
- このような患者さんに対して最良の治療方法が何であるかは、現時点では誰も答えることはできません。グリベックだけで完全に治ることが望めれば、あえて重篤(じゅうとく)な副作用を来す可能性のある造血幹細胞移植を受ける必要はありません。
- 「果たして、グリベックだけで完全に治るのでしょうか?」
- 慢性期の項で紹介した慢性期の慢性骨髄性白血病における臨床試験の5年間の観察結果では、グリベック服用開始後、年数が経過するにつれて、各年ごとに新たに病勢の悪化する患者さん(慢性期から移行期や急性転化期に進行する)の割合が減っていくことが示されました。この結果は、現在グリベックで良い経過をたどっている患者さんが、グリベックだけで完全に治癒できる可能性を示しているのかもしれません。
- 一方、グリベックだけでは完全に治ることは不可能であるという研究報告もあり、本当のところはまだ詳しくはわかっていません(本研究はあくまで数学を駆使して理論的に導かれたもので、完全に正しいかどうかは現時点では不明です)8)
。今後このような報告を背景に、グリベックで寛解を持続していても、もっと積極的に造血幹細胞移植を推進すべきとする意見が出てくるかもしれません。
- グリベックでよい効果が得られていても、もし再発したときにスムーズに造血幹細胞移植が行えるように、できるだけ早い時期にドナーになる方の検索だけはしておいて損はないと思います。備えあれば憂いなしです。
- 図4(e)(f)(g)グリベックが効かなくて、しかも移植に適切なドナーの方が見つからない場合
- このような患者さんでは、1)グリベックの量を1日400mgから600mg、あるいは可能なら800mgに増量する、2)グリベックの作用を増強する、他の抗がん剤を一緒に使用する(併用療法)、3)新しい慢性骨髄性白血病治療薬(次世代型Bcr-Ablキナーゼ阻害剤)の利用等の3つの方法を試みることになります。ただし、どれも現時点では完全に確立された治療法ではなく、主治医とよく相談してどの治療法を選択するか決定してください。
6.次世代型Bcr-Ablキナーゼ阻害剤
前述のように、グリベックの限界を克服するため、グリベック増量や他剤との併用が試みられています。しかし、ある程度の効果はあるものの、特に「4.グリベックが効かなくなる理由(耐性機序)」で説明した「突然変異(グリベックが結合するポケットの形が変わっている)」を持つBcr-Ablには、これらの方法は基本的に効果がありません(図3)。したがって突然変異を持つBcr-Ablにも結合でき、グリベックより効果が高く、かつ高い安全性を備えた新規薬剤の開発が望まれています。新規の慢性骨髄性白血病治療薬(次世代型Bcr-Ablキナーゼ阻害剤(図4(g)))の中から、特に期待される薬剤を以下に紹介します。
- スプリセル(一般名:ダサチニブ)
- スプリセルは、もともと他のがん遺伝子産物(Src)を攻撃する目的で研究されてきた薬剤の1つです。その中から、慢性骨髄性白血病に効果のあるものを選択、改良して、ブリストル・マイヤーズ
スクイブ社が開発した慢性骨髄性白血病の治療薬です。Bcr-Ablに対する効果はグリベックより100〜300倍程度強力で、ほとんどの変異型のBcr-Ablに効果があり非常に期待されています。ただし、欧米で行われた臨床試験の結果では、血液毒性がやや強く、またスプリセルに特徴的な副作用として胸水の出現があります。ただ、総じて安全性は良好であるとされています5)。
- スプリセルは、すでに海外での臨床第II相試験が終了しています。2006年6月28日に米国FDAでは慢性骨髄性白血病のみならず、Ph陽性急性リンパ性白血病についても承認し、まもなく米国では市販され一般的に使用が開始されます。グリベック耐性で苦しんでいる患者さん、あるいはグリベックに不耐容(副作用等でグリベックが服用できない)の患者さんに新たな選択肢が1つ増えました。日本では、グリベック耐性患者さんに対する臨床第I/II相試験(2006年6月現在)が行われています。早期の承認が望まれるところです。
- ニロチニブ(AMN107)
- ニロチニブは、グリベックを開発したノバルティス ファーマ株式会社が、グリベックの改良型として開発している治療薬です。Bcr-Ablに対する効果はグリベックより10〜30倍程度強力で、突然変異を持つBcr-Ablにも効果があり、こちらも非常に期待される薬です。作用の強さという点ではスプリセルに劣りますが、Bcr-Abl以外の蛋白質への作用は比較的少なく、安全性が高いことが期待されています10)。現在欧米で臨床第II相試験が行われていて、良好な結果が出てきています。日本ではスプリセルと同様に、現在臨床第I/II相試験が行われています。グリベック耐性、もしくは不耐容で困っている患者さんは、主治医に臨床試験参加が可能かどうか聞いてみてください。
- INNO-406(NS-187)
- 日本でも新しい薬が開発されています。京都大学医学附属病院輸血細胞治療部と日本新薬株式会社の共同研究によって開発された、日本発の次世代型Bcr-Ablキナーゼ阻害剤です。その特徴としては、Bcr-Ablに対する効果はグリベックより25〜55倍程度強力で、突然変異を持つBcr-Ablにも効果を示します。Bcr-Abl以外の蛋白質では、グリベック耐性に関与が疑われているLynという蛋白質を同時に阻害しつつも、Bcr-AblとLyn以外にはあまり影響を及ぼさないという特徴があります11)。2006年夏から欧米で臨床第I相試験が予定されていて、今後大いに期待される薬ですが、実際に使用されるまでには少し時間がかかりそうです。
7.おわりに
グリベックの出現以後、慢性骨髄性白血病の治療方法は劇的な変化を遂げましたが、さらに続々と新しい有望な薬剤も開発されています。また、移植方法も年々向上しています。このように、慢性骨髄性白血病の治療法は日々進化しています。主治医と十分相談のうえ、その指示を守ってグリベックをしっかり服用しつつ、主治医とともに一致協力して最新の情報の収集に努め、完治を目指しましょう。
アンケートにご協力ください
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簡単な7問ほどのアンケートですので、ぜひ、ご協力ください。