イギリスの疫学研究者DollとPetoは、数多くの科学論文をまとめ、アメリカ人のがん死亡の原因として、どの要因がどれくらいの割合を占めているかという寄与割合を推定し、1981年に発表しました 。その結果、食生活の改善により予防できるがん死亡の割合を35%(許容推計範囲:10〜70%)、喫煙が寄与する割合、言い換えると、禁煙により予防可能な割合を30%(25〜40%)と推計しています。
さらに、ウイルスや細菌などの感染が10%以上(少なくても1%)、生殖要因、性行為7%(1〜13%)、職業4%(2〜8%)、飲酒3%(2〜4%)、自然放射線や紫外線などの地球物理環境3%(2〜4%)、大気や水質などの汚染2%(1%未満〜5%)、医薬品、医療行為1%(0.5〜3%)、食品添加物と産業生産物をおのおの1%と続きます。その後、ハーバード大学(アメリカ)のがん予防センターも同様の推計を試み、1996年に発表しています(表1) 。喫煙、食事、運動、飲酒という代表的な生活習慣要因が68%を占める一方、他の多くの要因も努力次第で改善することが可能なものです。
いずれも膨大な数の疫学研究(人を対象とした研究)を根拠としていますが、肺、大腸、乳房、前立腺等の部位のがんが主要な死因であるアメリカでの推計値であって、日本人とは事情が異なることに注意が必要です。
これまでにヒトがんの原因、言い換えると、それを持つことによりがんの発生率が高くなることが明らかになっている要因について、その概要を記します。
喫煙は、肺がんをはじめとするさまざまながんの原因であることがわかっています。しかも、喫煙本数、喫煙期間、喫煙開始年齢等との関連では、トータルの喫煙量が多くなればなるほど、リスクが高くなることが示されています。逆に、禁煙期間が長ければ長くなるほどリスクが低下します。
たばこの煙には約4千種類の化学物質が含まれていて、その中にはニトロソ化合物、多環芳香族炭化水素(たかんほうこうぞくたんかすいそ)、芳香族アミン、アセトアルデヒド、砒素(ひそ)等、約60種類の発がん性化学物質が含まれています。その影響を受けるのは、たばこの煙の経路となる喉、気管支、肺等、呼吸器系の臓器だけではありません。発がん物質のいくつかは血流に乗って運ばれ、あらゆる臓器に影響が及びます。
1986年に刊行された、国際がん研究機構(IARC)による「たばこ喫煙」のヒト発がん性評価に関する報告書では、喫煙は口腔(こうくう)、咽頭(いんとう)、喉頭(こうとう)、肺、食道(扁平上皮(へんぺいじょうひ)がん)、膵臓(すいぞう)、腎盂(じんう)、膀胱(ぼうこう)に対して発がん性があると評価しています。
その後、2004年に刊行された報告書では、数多くの疫学研究、動物実験、メカニズムに関するデータが新たに加わりました 。そして、たばこ関連がんのリストに、鼻腔(びくう)・副鼻腔、食道(腺がん)、胃、肝臓、腎細胞、子宮頸部(しきゅうけいぶ)のがんと、骨髄性白血病が加わりました。さらに、自分ではたばこを吸わなくても、家庭や職場で他人の煙を吸い込んでしまう受動喫煙(じゅどうきつえん)では、肺に対して発がん性があることも確実とされました。
喫煙と全部位および主要5部位(胃、大腸、肺、肝臓、乳房)のがんとの関連について、
日本人を対象とした疫学研究に基づいた評価(生活習慣改善によるがん予防法 の開発と評価)では、喫煙は、全部位および胃と肺のがんは確実、肝臓がんはほぼ確実にリスクを上げると判定されています。また、乳房と大腸のがんについては、リスクを上げる可能性があるとされています。そして、日本人を対象とした5つのコホート研究のメタ・アナリシスでは、喫煙者が何らかのがんになったりがんで死亡したりするリスクは、非喫煙者の1.5倍(男性で1.6倍、女性で1.3倍)と推定されています。
また、厚生労働省研究班による多目的コホート研究では、40〜69歳の一般住民約9万人を8〜11年追跡した結果、喫煙者が何らかのがんになるリスクは、非喫煙者に比べ男性で1.6倍、女性で1.5倍高くなっていました。たばこを吸っていたけれどもやめた人では、男性で1.4倍、女性で1.5倍でした。
これらの相対リスクを日本の喫煙者や禁煙者の割合に当てはめて推計すると、男性のがんの29%に当たる年間約8万人、女性のがんの4%にあたる年間約8千人、合計で年間約9万人に、喫煙が原因のがんが発生したという結果になりました。
もっと詳しく知りたい方は→「喫煙とがん」
「はじめに」で述べたように、食事と肥満は、がんの原因の30%を占めています2。このことは、食習慣の改善ががん予防につながることを示します。ただし今の時点では、食品や栄養素レベルでの関連はまだ詳しく解明されていません。
世界保健機関(WHO)と食糧農業機関(FAO)が各国の専門家を集めて評価を行い、その結果を2003年に、『食物、栄養と慢性疾患の予防』という冊子にまとめて発表しました(表2)。
そこで「関連が確実」と判定された項目は、運動で結腸がんのリスクが低くなること、過体重と肥満で食道(腺がん)、結腸、直腸、乳房(閉経後)、子宮体部、腎臓の各がんのリスクが高くなること、飲酒で口腔、咽頭、喉頭、食道、肝臓、乳房の各がんのリスクが高くなることでした。また、特殊な食品では、アフラトキシンというカビ毒で肝がん、中国式塩蔵魚(ちゅうごくしきえんぞうぎょ)で鼻咽頭がんのリスクが高くなることが「確実」と判定されました。
「おそらく関連が確実」と判定された項目は、野菜と果物で口腔、食道、胃、結腸、直腸の各がんのリスクが低くなること、運動で乳がんのリスクが低くなること、貯蔵肉で結腸と直腸のがんのリスクが高くなること、塩蔵品および食塩で胃がんのリスクが高くなること、そして熱い飲食物で口腔、咽頭、食道のがんのリスクが高くなることがあります。
それ以外の関連については「可能性がある」、または「不十分」という評価にとどまり、さらに研究を積み重ねる必要があるという段階です。
飲酒については、発がん物質が体内に取り込まれやすくする作用や、アセトアルデヒドによる影響、薬物代謝酵素(やくぶつたいしゃこうそ)への影響、エストロゲン代謝への影響、免疫抑制、栄養不足等によるメカニズムが考えられます。飲酒頻度や飲料の種類よりも、エタノール摂取量との関連が強いと考えられています。アルコールの通過経路である口腔、咽頭、食道等の上部消化管のがん、体内に吸収されたアルコールの分解を担う肝臓のがん、ホルモンと密接な関連を持つ乳房のがんのリスクをあげることが、「確実」とされています。
飲酒と全部位および主要5部位(胃、大腸、肺、肝臓、乳房)のがんとの関連について、
日本人を対象とした疫学研究に基づいた評価(生活習慣改善によるがん予防法 の開発と評価)では、飲酒は、全部位および肝臓のがんは「確実」、大腸がんは「おそらく関連が確実」にリスクをあげると判定されています。また、日本人を対象とした疫学研究(えきがくけんきゅう)では、喫煙者に限って、飲酒量が増すほどがん全体のリスクが高くなるという相互作用が観察されています。
野菜と果物については、カロテン、葉酸(ようさん)、ビタミン、イソチオシアネート等さまざまな成分が、体内で発がん物質を解毒する酵素の活性を高める、あるいは生体内で発生した活性酸素などを消去するなどのメカニズムが考えられます。野菜や果物と、食道、胃、大腸など消化管のがんのリスクが低くなることは、「おそらく関連が確実」とされています。しかし、たくさん食べれば食べるほどがんの予防効果があるというデータは、ありません。現状では、野菜や果物不足にならないことが、がんを予防するために大切なことだといえます。
高濃度の塩分は、胃粘膜を保護する粘液を破壊し、胃酸による胃粘膜の炎症やヘリコバクター・ピロリ菌の持続感染を引き起こすことで、胃がんリスクを高めるというメカニズムが考えられます。さらに、塩蔵食品の保存過程では、ニトロソ化合物などの発がん物質が多く産生されます。塩や塩蔵食品と胃がんとの関連は、おそらく確実とされています。胃がんの多い日本の疫学研究でも、塩や塩蔵食品の摂取量が多い人や地域で胃がんのリスクが高いことが示されています。
肉類については、貯蔵や加熱等の調理によって生じるニトロソ化合物、ヘテロサイクリックアミン、多環芳香族炭化水素などの発がん物質や、肉や脂肪による腸内細菌叢(ちょうないさいきんそう)の変化等のメカニズムが考えられます。ハム、サラミ、ベーコン等、貯蔵肉と大腸がんとの関連は、おそらく確実とされています。一方、牛、羊、豚等の赤身肉と大腸がんとの関連が複数報告されていますが、評価はまだ定まっていません。肉については種類だけでなく、調理法による違いがあるのではないかと考えられ、研究されているところです。
運動については、肥満の解消、インスリン抵抗性(インスリンの働きが弱まること)の改善、免疫機能の増強、腸内通過時間の短縮、胆汁酸代謝(たんじゅうさんたいしゃ)への影響等のメカニズムが考えられます。大腸がんのうち、結腸がんの予防効果は確実であり、乳がんの予防効果もおそらく確実とされています。
国際的な研究では、BMI(Body Mass Index:肥満指数)が25以上を過体重、30以上を肥満とします。BMIは、体重(kg)を身長(m)で2回割り算した値(体重60kg、身長160cmなら、60÷1.6÷1.6で求められます)で示されます。肥満については、脂肪組織から放出される女性ホルモンのエストロゲン(子宮体がん、閉経後乳がん)や、インスリン抵抗性(インスリンの働きが弱まること)による高インスリン血症(減少したインスリンを補うために、インスリンが大量に放出されること)や遊離型インスリン様増殖因子の持続的増加(結腸がん)、胃酸の胃−食道逆流(食道腺がん)等、さまざまなメカニズムによるリスク上昇が考えられます。過体重と肥満によって、食道がん、大腸がん、腎がん、子宮体がん、閉経後乳がんのリスクが確実に高くなるとされています。
日本人などアジアのコホート研究では、過体重でのがん発生リスクの増加は一部のがんでは認められるものの、がん全体に対してははっきりとはみられません。むしろ、やせすぎによるリスクの増加が観察されています。これは、栄養不足に伴う免疫機能の低下や抗酸化物質の不足等によるものと推察されます。
もっと詳しく知りたい方は→「食生活とがん」
国際がん研究機構(IARC)の報告(2003年)によれば、全世界でウイルスや細菌等の持続感染が原因で発生するがんの割合は、18%程度と推計されています(表3)。その割合は、「はじめに」で述べたアメリカ人のがんの原因(表1)の推計値よりも高めになります。このような感染に起因するがんは、先進国全体では9%と比較的低いのに対し、発展途上国では23%となっています。
また、日本については胃がんや肝がんが多いため、感染に起因するがんは20%と、先進国の中では高いほうです 。
持続感染によるがんは、B型肝炎ウイルス(HBV)、C型の肝炎ウイルス(HCV)による肝がん、ヒトパピローマウイルス(Human Papillomavirus:HPV)による子宮頸(しきゅうけい)がん、ヘリコバクター・ピロリ菌(Hp)による胃がんがその大半を占めています。そのほかに、EBウイルスによる悪性リンパ腫や鼻咽頭がん、ビルハルツ住血吸虫による膀胱がん、タイ肝吸虫による肝がん、ヒトT細胞性白血病ウイルスによる白血病、悪性リンパ腫等があります。発がんのメカニズム、持続感染者の発がんリスクは、感染体やそのタイプによってさまざまです。
予防策としては、ワクチン投与による感染予防(HBV)、感染者への投薬による感染体の駆除(HCV、Hp、住血吸虫)、あるいは抗炎症薬による対症療法等があげられます。また、がん死亡を減少させるために、症状のない持続感染者の洗い出しや、定期検診による早期病変の検出と治療が行われています。
肝炎ウイルスについてもっと詳しく知りたい方は→
「厚生労働省>健康>感染症情報>肝炎について」
ある種の職業や、職業的に多く接触することになる化学物質によって、発がんリスクが高くなることが知られています。国際がん研究機構(IARC)によって2003年にまとめられた、世界中の職業に起因するがんとその原因物質について、表4に記します。このようないわゆる職業がんには、肺がんをはじめ化学物質が直接接触する皮膚、吸入の経路である鼻腔、喉頭、肺、胸膜、そして排泄(はいせつ)される尿路等のがんが多いのが特徴です。先進国では職場環境が改善され、発がんの可能性のある化学物質を禁止、または最小限に制限し、取り扱いには徹底した管理を課しています。
日本では、1997〜2001年の5年間に新規労災補償で業務によると認定されたがんでは、「石綿にさらされる業務による肺がん又は中皮腫」(212件)が最も多く、「ベンジジンや2−ナフチルアミンにさらされる業務による尿路系腫瘍」(40件)、「コークス又は発生炉ガスを製造する工程における業務による肺がん」(33件)、「クロム酸塩又は重クロム酸塩を製造する工程における業務による肺がん又は上気道のがん」(20件)等があります。
また、がんの発生には一定の潜伏期間があり、過去に接触していた発がん物質が現在、未来のがんを生み出すことになります。例えばアスベストについては、20〜40年の潜伏期間があり、対応が最も早かったアメリカでは2010年ごろ、それより遅れたヨーロッパでは2020年ごろ、さらに遅れたわが国では2030年ごろに、胸膜中皮腫発生のピークを迎えることが予想されます。
大気や室内空気、水、土壌等に含まれる発がん物質でも、ヒトの発がんリスクが高くなることが知られています。その多くは特定の地区に限られ、可能な限り予防のための対策がとられています。
アスベスト鉱山や製造工場の周辺住民、またはそれらの労働者と同居する家族に、悪性中皮腫などアスベスト特有のがんが発生しています。
工場排気や自動車排ガス等に含まれるベンツピレン、ベンゼン、クロム等による大気汚染は、先進国では肺がんの原因の5%未満程度になっているものと推計されています。また、石炭ストーブの燃焼や不純物の混ざった植物油の高温調理により生じる煙(中国の一部地域)、他人のたばこの煙、あるいは欧米の一部地域の地下室等で高い濃度が検出されるラドンによる室内環境汚染は、肺がんのリスク要因となることがわかっています。
その他、フロンガスによるオゾン層の破壊の影響で地上に届く有害な紫外線が増加しつつあり、北米やオーストラリア等で皮膚がんのリスクの上昇が問題になっています。また、バングラデシュ、台湾、アルゼンチン、チリ等では、砒素含有量の高い井戸水を飲用、生活用水として使用したため、さまざまな急性疾患とともに膀胱、皮膚、肺がんのリスクが高くなっていることが示されています。
エストロゲン、プロゲストーゲン、アンドロゲンなどの性ステロイドホルモンは、乳房、子宮体部、卵巣、あるいは前立腺のがんの発生に重要な役割を果していると考えられています。乳がんは、閉経までは年齢が高くなればなるほど増えますが、日本では、閉経とともにいったん減少傾向に転じます。また、初経年齢が早い、閉経年齢が遅い、出産歴がない、初産年齢が遅いこと等によって、乳がんのリスクが高くなります。卵巣がんも、出産歴がないことがリスク要因です。子宮体がんは、生殖要因との関係ははっきりしない面があります。ただ、肥満は体内のホルモンレベルをあげることが知られていて、子宮体がんと肥満との関連が確実とされています。
医療に用いられるホルモン剤や抗ホルモン剤は、一部のホルモン関連がんのリスクをあげる一方、別の部位のがんのリスクを下げることが知られています。国際がん研究機構(IARC)による、「エストロゲンとプロゲストーゲンの併用による経口避妊薬(ピル)と閉経期ホルモン補充療法の発がん性評価(
IARC Monographs Vol.91)」が2005年に発表されました。これによれば、ピルを飲んでいたグループで乳がん、子宮頸がん、肝臓がんのリスクがやや高くなっていました。ただし、ピルの使用を中止してから約10年で、使用しなかったグループと同程度のリスクに戻ることが示されました。一方、子宮体がんと卵巣がんのリスクは、ピルの使用期間が長くなればなるほど低くなっていました。
閉経期の更年期障害などに用いられるホルモン補充療法については、期間が長ければ長いほど乳がんと子宮体がんのリスクが高くなっていました。ただし子宮体がんについては、エストロゲンにプロゲストーゲンを併用する日数が増えるほどリスクが低くなり、毎日併用すればリスクは高くならないと評価されています。
また、抗エストロゲン剤として乳がんの治療に用いられるタモキシフェンについては、乳がんのハイリスクグループに対する大規模な無作為化比較試験の結果、投与グループで乳がんリスクが低くなったものの、子宮体がんのリスクは高くなったという結果が報告されています。
胡麻(ごま)や大豆など植物に含まれるリグナンやイソフラボン等は、化学構造がエストロゲンに似ています。そのため、これらを含む食品を摂取する習慣によって、体内のエストロゲンの作用が強められたり弱められたりすることで、発がんを予防したり促進したりする可能性が指摘されています。イソフラボンの多い大豆製品を習慣的に食べる日本人は、その作用で乳がんが少ないのではないかという仮説もあります。
肥満、食べすぎや運動不足等から生じるエネルギーバランスの不均衡(摂取が消費を上回る状態)が続くと、血糖値を下げるホルモンであるインスリンの働きが弱まり(インスリン抵抗性)、それを補うためにインスリンが大量に放出される高インスリン血症という状態になります。そうすると、インスリンやインスリン様成長因子1(IGF1)の血中濃度が高くなります。これらの物質には、細胞増殖やアポトーシス(細胞死)の抑制という発がんにつながる作用があるので、大腸がんや前立腺がん等のリスク要因になるのではないかと考えられています。
国際がん研究機構(IARC)によって、ヒトに対する発がん性が確実と評価されている物質に、ディ・エチル・スチル・ベストロール(DES)があります。DESはホルモン剤で、1950年ころアメリカを中心に、流産防止を目的として広く妊婦に投与されていました。ところが、DESを投与された母親から生まれた女児の思春期の膣がんなどとDESとの関連が明らかになり、妊婦への使用は禁止されました。これなどは極端な例ですが、医療用に処方された薬剤が、後のがんの原因となる場合があります。
具体的には、産婦人科で処方される女性ホルモン剤によるホルモン関連がんへの影響、フェナセチン含有解熱鎮痛薬の長期連用による尿管移行上皮(にょうかんいこうじょうひ)がんリスクの増加、抗がん剤使用による白血病などの第二次がんリスクの増加、臓器移植後の免疫抑制剤の長期服用による悪性リンパ腫やカポジ肉腫のリスクの増加等が明らかになっています。ただし、その薬を使っていたためにがんになってしまう人の割合は、薬を使っていないのにがんになってしまう人の割合と比べて必ずしも大きくはないので、薬剤使用によるメリットとのバランスをよく考慮したうえでの処方が求められます。
自然界や職場、医療等で人工的に発生する電離放射線は、白血病、乳がん、甲状腺がんをはじめとしたさまざまながんのリスクを高めることが知られています。
広島・長崎の原爆被爆者約5万人を対象とした追跡調査(1950年〜1990年)では、がん死亡4,863人のうち、5ミリシーベルト(mSv)以上の被曝が原因と考えられる割合は、9%程度(このうち、白血病176人については51%)でした。5mSvは、爆心地から2.5km以内で被爆した人の平均値とほぼ同等の線量で、自然界や宇宙からの放射線に数年間被曝する線量、あるいは放射線作業従事者に許容されている年間平均被曝線量(20mSv)の約4分の1に当たります。白血病以外のがんで死亡するリスクは、爆心地から1km以内の強い線量での被爆者で、2.5kmより遠方での被爆者に比べ1.7倍高くなり、爆心地からの距離が遠くなるにつれて次第に低くなっていました。
(
放射線影響研究所)。
そのほかに、「職業および環境汚染」で触れたように、屋内ラドンによる肺がんや有害紫外線による皮膚がんのリスクが高くなることが知られています。
血縁者に同じがんの発生率が高いという場合には、その要因としてまず遺伝子の類似性(遺伝素因)が考えられますが、生活習慣の類似性(環境要因)についても考慮する必要があります。また、飲酒行動のように、一人一人のアルコールを代謝する酵素の働きを決める遺伝素因によって、飲める、飲めないという体質の違いが生じ、そのために生活習慣が決まることがあります。さらに発がん化学物質の代謝については、特定の代謝酵素の遺伝子多型という一人一人の体質を決める遺伝素因が、関連する発がん物質への接触という環境要因の影響を強めたり弱めたりすることがわかっています。
スウェーデン、デンマーク、フィンランドの同性の双子4万5千組についてがんの発生を追跡調査し、一卵性と二卵性で同一部位のがんにかかる率の差から、遺伝素因の影響の大きさを推定した研究があります。
検討した11部位のがんのうち、大腸がん、乳がん、前立腺がんの3部位で、遺伝素因の寄与が統計的に有意に検出されました。その割合は、大腸がん35%、乳がん27%、前立腺がん42%とされています。あとの残りが環境要因の影響となります。ただし、遺伝素因の中にも環境要因の影響を強めたり弱めたりする部分があるので、大部分は環境要因を変えることで予防できると考えられます。また、双子の1人がその3部位のうちいずれかのがんにかかった場合に、もう1人が75歳までに同じがんにかかるリスクも推計されています。一卵性と二卵性のそれぞれの場合、大腸がんが11%と5%、乳がんが13%と9%、前立腺がんが18%と3%になっています。遺伝素因の影響の強いこれらのがんでも、たとえ遺伝子が100%一致していても、同じがんになる確率は1〜2割に過ぎないことが示されています。
それでは、がんは「遺伝」は心配しなくてよいのでしょうか。がんの種類にもよりますが、大体、全部のがんの5%以下が「遺伝するがん」といわれています。
すなわち、ほとんどの人は心配しなくてもよいのですが、遺伝するがんも間違いなくあることがわかっています。
がんのなりやすさについては、遺伝素因と環境要因の両方を考える必要があります。その割合は、一人一人違うと考えられます。
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遺伝するがんは、「家族性」腫瘍ともいうくらいですから、家族(血縁者)に多いことが1つの特徴ですが、そうでない場合もあります。例えば、(1)普通より特に若くしてがんにかかった場合、(2)1人で複数のがんに次々にかかった場合、(3)男性の乳がんのように滅多にないがんにかかった場合、(4)その他、皮膚や骨等に遺伝性腫瘍に特徴的な症状がある場合や、(5)生まれつき染色体の異常が疑われる場合等があります。
このように遺伝性腫瘍が疑われる場合には、専門の遺伝相談外来を受診して遺伝について理解し、今後の対策などについて相談することが大切です。
もっと詳しく知りたい方は→「遺伝性腫瘍・家族性腫瘍」
環境要因による発がんリスクを強めたり弱めたりする、一人一人の体質を決める遺伝子多型に関する研究結果が蓄積されつつあります。例えば、たばこ煙中にはベンツピレンなどの多環芳香族炭水化物、芳香族アミン、ニトロソ化合物等、約60種類の発がん物質があります。そうした発がん物質の多くは体内で活性型に変化し、細胞内のDNAに結合してDNA付加体が形成されます。このDNA付加体によって、遺伝子の変異が引き起こされるというメカニズムの説明がされています。体内で発がん物質を活性化させたり、解毒したり、あるいは付加体となったDNAを修復するために、さまざまな酵素がかかわっています。そうした酵素の働きは、体質を決める遺伝子多型によって変わることが知られています。例えば多環芳香族炭水化物は、肝臓でCYP1A1という代謝酵素によって活性化され、GSTM1という代謝酵素によって解毒されます。それぞれの酵素の遺伝子にはいくつかのタイプ(多型)があり、タイプによって活性や解毒の能力が異なることが知られています。このように、喫煙による発がんリスクの大きさは、遺伝素因で変わる可能性が指摘されています。これまで環境要因による発がんリスクの差が研究されてきましたが、今後、環境要因に加えて関連する遺伝子多型によって発がんリスクがどう変わるかを調べるために、ゲノム情報を取り入れた疫学研究を実施し、遺伝子‐環境相互作用を理解することが課題となっています。
もっと詳しく知りたい方は→「がんと遺伝子」
表1 米国人のがんの原因 −確立したがんの要因のがん死亡への推定寄与割合(%)−
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| 要因 | 寄与割合 |
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| 喫煙 (Tobacco) |
30
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| 成人期の食事・肥満 (Adult diet/obesity) |
30
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| 座業の生活様式 (Sedentary lifestyle) |
5
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| 職業要因 (Occupational factors) |
5
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| がんの家族歴 (Family history of cancer) |
5
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| ウイルス・他の生物因子 (Viruses/other biologic agents) |
5
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| 周産期要因・成長 (Perinatal factors/growth) |
5
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| 生殖要因 (Reproductive factors) |
3
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| 飲酒 (Alcohol) |
3
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| 社会経済的状況 (Socioeconomic status) |
3
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| 環境汚染 (Environmental pollution) |
2
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| 電離放射線・紫外線 (Ionizing/ultraviolet radiation) |
2
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| 医薬品・医療行為 (Prescription drug/medical procedures) |
1
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| 塩蔵品・他の食品添加物・汚染物 (Salt/other food additives/contaminants) |
1
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| 関連の強さ | リスクを下げるもの | リスクを上げるもの |
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| 確実 (Convincing) | 身体活動(結腸) | 過体重と肥満(食道<腺がん>、結腸、直腸、乳房<閉経後>、子宮体部、腎臓) 飲酒(口腔、咽頭、喉頭、食道、肝臓、乳房) アフラトキシン(肝臓) 中国式塩蔵魚(鼻咽頭) |
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| 可能性大(Probable) | 野菜・果物(口腔、食道、胃、結腸、直腸) 身体活動(乳房) |
貯蔵肉(結腸、直腸) 塩蔵品および食塩(胃) 熱い飲食物(口腔、咽頭、食道) |
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| 可能性あり/データ不十分(Possible/Insufficient) | 食物繊維、大豆、魚、N-3系脂肪酸、カロテノイド、ビタミンB2, B6, 葉酸、B12, C, D, E、カルシウム、亜鉛、セレン、非栄養性植物機能成分(例:アリウム化合物、フラボノイド、イソフラボン、リグナン) | 動物性脂肪、ヘテロサイクリックアミン、多環芳香族炭化水素、ニトロソ化合物 |
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| 感染原 | がんの部位 |
年間罹患数
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割合
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| ヘリコバクター・ピロリ菌 (H. pylori) | 胃 | 490,000 | 5.4 |
| ヒトパピローマウイルス(Human Papillomavirus:HPV) | 子宮頸部・他 | 550,000 | 6.1 |
| 肝炎ウイルス(B、C型)(HBV, HCV) | 肝臓 | 90,000 | 4.3 |
| EBウイルス (EBV) | リンパ腫、鼻咽頭 | 99,000 | 1.1 |
| ヒト・ヘルペス・ウイルス8型 (HHV-8) | カポジ肉腫 | 54,000 | 0.6 |
| ビルハルツ住血吸虫 (Schistosoma haematobium) | 膀胱 | 9,000 | 0.1 |
| ヒトT細胞性白血病リンパ腫ウイルス (HTLV-1) | 白血病・リンパ腫 | 2,700 | 0.1 |
| 肝吸虫 (Liver flukes) | 胆管細胞がん | 800 | |
| 感染関連がん総数 | 1,600,000 | 17.7 | |
| がん総数(1995年) | 9,000,000 | 100 |
| 物質 | がんの部位 | 主な産業・使用 |
| 4−アミノビフェニル | 膀胱 | ゴム製造 |
| 砒素および化合物 | 肺、皮膚 | ガラス、金属、農薬 |
| アスベスト | 肺、胸膜中皮腫 | 断熱材、フィルター材、繊維 |
| ベンゼン | 白血病 | 溶剤、燃料 |
| ベンジジン | 膀胱 | 染料・顔料製造 |
| ベリリウムおよび化学物 | 肺 | 航空宇宙産業・金属 |
| ビス(クロロメチル)エーテル | 肺 | 化学工場中間産物・副産物 |
| カドミウムおよび化合物 | 肺 | 染料・色素製造 |
| クロロメチル メチルエーテル | 肺 | 化学工場中間産物・副産物 |
| クロム(VI) 化合物 | 鼻腔、肺 | 鍍金、染料・顔料製造 |
| コールタールピッチ | 皮膚、肺、膀胱 | 建材、溶接棒 |
| コールタール | 皮膚、肺 | 燃料 |
| エチレンオキシド | 白血病 | 化学工場中間産物、滅菌剤 |
| ミネラルオイル(精製がされていないか不十分なもの) | 皮膚 | 潤滑剤 |
| マスタードガス(硫黄マスタード) | 咽頭、肺 | 化学兵器ガス |
| 2-ナフチルアミン | 膀胱 | 染料・顔料製造 |
| ニッケル化合物 | 鼻腔、肺 | 治金、合金、触媒 |
| シェールオイル | 皮膚 | 潤滑剤、燃料 |
| 石英結晶(シリカ、クリスタライン) | 肺 | 石工、採鉱、鋳造 |
| 煤煙 | 皮膚、肺 | 顔料 |
| 硫酸を含む強い無機酸ミスト | 喉頭、肺 | 金属、電池 |
| アスベスト様繊維を含むタルク | 肺 | 紙、塗料 |
| ダイオキシン (2,3,7,8-TCDD) | 複数の臓器 | 非意図的産生 |
| 塩化ビニル | 肝臓 | プラスチックモノマー |
| 木材のくず | 鼻腔 | 木材産業 |
| 1 | Doll R and Peto R, eds. The causes of cancer. Oxford University Press, Oxford 1981. |
| 2 | Harvard Report on Cancer Prevention. Volume 1: Causes of human cancer. Cancer Causes Control 1996;7 Suppl 1:S3-59. |
| 3 | IARC. IARC Monographs on the evaluation of the carcinogenic risk of chemicals to humans. Volume 38: Tobacco smoking. IARC, Lyon (1986) |
| 4 | IARC. IARC Monographs on the evaluation of the carcinogenic risks to humans. Volume 83: Tobacco smoke and involuntary smoking. IARC, Lyon (2004) |
| 5 | Inoue M, et al. Evaluation based on systematic review of epidemiological evidence among Japanese populations: tobacco smoking and total cancer risk. Jpn J Clin Oncol. 2005;35:404-11. |
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