発がんやがん予防の情報はたくさんありますが、正確な知識を持って情報に接することが大切です。まず、発がん要因やがん予防の要因を究明するための研究は、どのように行われるかについてご紹介します。
特定の物質に発がん性、あるいはがんを予防する効果があるかどうかを調べる場合には、マウスやラットからときにはサルやチンパンジーまで、幅広い動物を使った実験が行われます。
動物実験の結果を、全部そのまま人間にも当てはめられるとはかぎりません。それでも動物で発がん性が認められた場合に、人間でも危険がある、すなわち発がんの可能性があると考えるのが予防の原則です。
動物実験といってもさまざまなレベルのものがあります。どの動物(種、系統、月齢、性別等)を使って、どのような計画(動物の数、振り分け、遺伝子操作や発がん促進などの初期条件、検討する物質の状態、投与経路・期間・量等)で実施されたのか、どのような結果(生存率や期間、病巣の部位や重症度や個数等)がどのような解析方法で得られたのか等を詳しく検討し、最終的にヒトの発がん性評価のための科学的根拠の1つとして評価します。
疫学研究では、人間集団を対象に病気と原因の関連を調べます。主な方法として、介入研究、コホート研究、症例対照(ケース・コントロール)研究、あるいは、地域相関(エコロジカル)研究があります。
疫学研究から特定の関連する科学的根拠を評価するには、たまたまそうなっただけかもしれないという「偶然性」、人の記憶の誤りや対象となる人の選び方が原因で生じるデータの偏りから、本来の結果にも偏りが生じたかもしれないという「バイアス」、他の要因が潜んでいたために、関連を正確に量れなかったかもしれないという「交絡(こうらく)」の3つが、どの程度コントロールできているかという側面から、研究の質を検討する必要があります。
偶然性は、統計学的な有意差が検出できるまで対象者数を増やすことで回避します。バイアスは、要因をあらかじめ調べる前向きの研究計画によって、また、交絡は、調べたい要因以外を無作為に割り付けたり、統計的な方法で他の要因の影響を取り除いたりすることによってコントロールします。
そのほか、研究の内側はよくコントロールされていても、その結果を研究の外側に適応して一般化する場合に、注意が必要です。例えば、集団健診の受診者という健康意識の高い方が多いグループを対象にした研究結果から導かれた相対リスクの値は、一般集団に必ずしも当てはめられないかもしれません。特定の対象から得られた1つの研究結果だけを頼りに一般人口で試算をすると、思わぬ誤算が生じることになりかねません。
同じような内容をテーマとする複数の疫学研究があれば、その結果やデータを用いて改めて分析するメタ・アナリシスで、最終的にその関連の有無や強さが評価されることもあります。複数の研究結果を検討することで、より客観的な判断を下すことができます。
動物実験や疫学研究の結果を裏づけるのが、試験管内研究で説明される生物学的メカニズムです。どの物質のどの成分、どの分子が、どのように作用して正常な細胞のがん化を促すのか、またはがん化を予防するのかという作用の仕組み(メカニズム)を説明します。発がん性、またはがん予防という現象が動物やヒトで観察されても、メカニズムが説明できなくては科学的根拠が十分とはいえません。ある発がん物質に関して、体内への吸収と分布、代謝(たいしゃ)と排出を示す毒性動力学、発がん性メカニズムとヒトでの可能性、感受性の大きい個体や集団、ライフステージの情報、その他の関連データと副作用に関する研究報告も、メカニズムの説明に欠かすことのできない参考資料です。
がんの研究は、医学研究の中でも最も盛んな分野だといえるでしょう。世界中から毎月、数多くの研究結果が積み重ねられています。ヒト発がん性、がん予防の可能性の評価は、その中から議論に値するすべての結果をより分けることからはじまり、最終的に、誰にでもわかりやすい形で伝えるまでの一連の専門家による作業です。ある要因が実際にヒトのがんの原因になっている、あるいはがんを予防できると公表できるのか、各種機関ではさまざまな方法に基づいて、できるだけ科学的(客観的)に評価する試みが行われています。そして、その判定基準はおおむね以下の点で共通しています。
以上のような吟味を経てわかってきた、ヒトがんの原因や予防にかかわる要因を中心に紹介するとともに、そのような知見に基づくがんの予防法を示します。