血液中には白血球、赤血球、血小板という3種類の血液細胞があり、体の中でいろいろな働きをしています。これら3種類の細胞は、「骨髄」という場所でつくられています。血液細胞を生産する骨髄は、例えていえば「工場」のようなものです。実際には体中の骨の中心部分に存在し、特に骨盤や背骨などの大きな骨の骨髄では、血液細胞をさかんに生産しています。血液細胞は骨髄の中で、未熟な若い細胞の状態から、本来の役割を果たせる成熟した状態へと変化する過程をたどります。未熟な若い細胞は、「幼若な細胞」や「芽球(がきゅう):blast(ブラスト)」等と呼ばれています。
骨髄を「工場」に例えましたが、血液(血液の専門用語で「末梢血(まっしょうけつ)」と呼ばれます)は、できあがった製品を出荷する「小売店」に例えられます。本来、未熟な細胞は工場の中で成熟し、十分に活動可能な製品の状態になってから血液中へと出荷されます。
| 工場(=骨髄) | 小売店(=末梢血) | ||||
| 種の細胞 | → | 未熟な白血球(芽球) | → | 成熟した細胞→(出荷) | →白血球 |
| (造血幹細胞) | → | 未熟な赤血球 | → | 成熟した細胞→(出荷) | →赤血球 |
| (3種類共通) | → | 未熟な血小板 | → | 成熟した細胞→(出荷) | →血小板 |
血液は、血管の中を流れて全身の細胞に酸素や栄養分を運ぶ、重要な役割を担っています。ヒトの体内を流れる血液の量(循環血液量)は、成人では体重1kgあたり約70ml、小児で約80mlです(例えば体重60kgの成人では、循環血液量は4.2Lとなります)。血液は、赤血球、白血球、血小板などの血液細胞(血球)と、血漿(けっしょう)と呼ばれる液体成分からなり、その比率はおおよそ45%と55%です。血漿の95%以上は水分で、残り5%に血漿蛋白質(けっしょうたんぱくしつ)、微量の脂肪、糖、ミネラルが含まれています。
赤血球は直径約8µm、厚さ約2µm、中央がわずかにくぼんだ円盤状をしていて、血液1µlに約500万個存在します。赤血球の主な役割は、酸素を運ぶことです。赤血球中にはヘモグロビン(血色素)と呼ばれる蛋白質があり、ここに酸素を結合させて運んでいます。赤血球は骨髄でつくられ、血管の中で約120日間働いた後、肝臓や脾臓で壊されます。
白血球は、細菌、ウイルス、真菌(カビ)といった外敵やがんから体を守る働きをしていて、通常血液1µlあたり約3,500〜8,500個存在します。白血球には顆粒球、単球、リンパ球等の種類があり、それぞれが特有の役割を果たしています。
顆粒球は、細胞の中に殺菌作用のある成分を含んだ「顆粒」を持つ白血球です。顆粒の染色性の違いで、好中球(顆粒が酸性の色素にも、塩基性の色素にも染まらない)、好酸球(酸性色素に染まる)、そして好塩基球(塩基性色素に染まる)の3種類に分けられます。
中でも、好中球は白血球全体の約45〜75%を占め、強い貪食(どんしょく)能力を持ち、細菌や真菌感染から体を守る主要な防御機構となっています。
リンパ球は白血球の約25%を占めます。顆粒球とは違い、チームでウイルスなどの外敵や腫瘍などの異物を攻撃します。さらにリンパ球は、体内に侵入した異物を記憶し、それが再び体内に侵入してきたときに記憶に基づいて素早く対応し、速やかに排除する働きを持っています。チームにはNK細胞、B細胞(Bリンパ球)、T細胞(Tリンパ球)等の細胞がいて、B細胞は主に液性免疫(異物と特徴的に反応する蛋白質:抗体)を介して、T細胞は主に細胞性免疫(細胞成分)を介して、異物の排除を行います。
単球は白血球の3〜8%を占め、感染に対する防衛の開始に重要な細胞です。細菌などの異物を細胞内に取り込み、消化し、異物の一部を細胞表面に提示します(抗原提示)。これをT細胞が認識して、体の防衛が開始されます。単球は血管外の組織に移動すると、マクロファージ(大食細胞)と名前を変えます。
血小板の役割は出血を止めることです。大きさは約2〜5µmと血液の中でいちばん小さい球状の細胞で、1µlあたり15万〜35万個存在します。血液は通常、血管内を流れていますが、何らかの原因により血管の外へ血液が流れ出してしまうことを出血といいます。血管が破れると、血小板が破れた部位に付着します(粘着反応)。するとその血小板から仲間を呼ぶ物質が放出され(放出反応)、周りの血小板がどんどん集まってきます(凝集反応)。その結果、血栓(かさぶたのようなもの)がつくられ、血液の流出が食い止められます。
骨髄は血液細胞(白血球、赤血球、血小板)をつくる「工場」です。すべての骨の中にあり、そこにはいろいろな成熟(成長)段階の血液細胞が認められます。骨髄には、造血幹細胞と呼ばれる細胞があります。すべての血液細胞に成長でき、かつ自分自身も複製することができる“血液の種”のような細胞で、ここからすべての血球がつくられます。通常、造血幹細胞は骨髄の中に存在し、ごく少数が血液中を流れています。また、骨髄(工場)からは十分に成熟した血液細胞(完成品)のみが血液中に流出していき、未熟な細胞は骨髄の外へ出ていきません。
リンパ節は、体全体に分布する免疫器官の1つです。免疫とは、「疫病(病気)を免れる」という意味で、非自己(自分の体の外から入ってきた細菌やウイルスなどの敵)や変質した自己(腫瘍細胞など)を攻撃、排除する働きのことです。リンパ節は、全身の組織から集まったリンパ液が流れるリンパ管の途中にあります。そこで組織内に進入、あるいは生じた非自己異物をチェックし、免疫応答を発動する「関所」のような機能を持ちます。被膜に包まれた1〜25mmの大きさの卵形をしていて、中には免疫担当細胞であるリンパ球が集まっています。リンパ節が腫脹(腫れて大きくなること)する原因としては、感染症、免疫・アレルギー異常、血液のがん、その他のがんの転移などがあります。
脾臓(ひぞう)は、おなかの左上に位置するこぶし大の臓器です。血液のなかを流れる細胞や、年老いた血球を除去するフィルターのような役割をします。また、免疫器官としても重要な役割を担っています。
脳脊髄液(のうせきずいえき)とは、脳と脊髄(背骨の中にある太い神経の束)、そしてこれらを包んでいる膜(硬膜)の間を流れる無色透明な液体です。髄液とも呼ばれます。脳脊髄液は脳室(脳の中の空洞)でつくられ、循環し、脳の表面にあるクモ膜顆粒で吸収されて静脈に戻ります。成人では180ml前後の髄液がたまっています。役割は明らかではありませんが、主に脳の水分含有量を調節し、形を保つ役割をしていると考えられています。造血器がんでは、がん細胞が脳脊髄液に移行することがあるので、脳脊髄液を採取してがん細胞の有無を検査したり、その中に抗がん剤を注入したりする場合があります。がん細胞が脳脊髄液に認められることを、髄液浸潤といいます。
骨髄でつくられる血液細胞の、“おおもとの種”に当たる最も未熟な若い細胞(原料)は「造血幹細胞」と呼ばれ、3種類とも共通です。つまり、「工場」(骨髄)には、白血球、赤血球、血小板という3つの生産ラインがあり、「造血幹細胞」という同じ原料から血液細胞がつくられます。
血液疾患の患者さんの多くは、末梢血の血液検査で血液細胞の異常を指摘され、病院を受診します。「小売店」である末梢血を調べて、例えば白血球が多いとか、赤血球が少ないなどの異常がわかった場合には、原因を探るために「工場」である骨髄がどんな状態なのかを知る必要があります。「工場」での生産状態が悪いのか? それとも「工場」は正常につくっているのにどこかで消費されているのか? 等を見極めなければなりません。このために、骨髄を検査することがどうしても必要になるのです。骨髄の検査をすると、工場にある3種類の生産ラインのうちの、どの部分の調子が悪いのかもわかります。
前胸部にある胸骨、もしくは腰にある腸骨に針を刺して、骨の中にある骨髄組織を採る検査です。通称で「マルク」と呼ばれているものです。穿刺吸引法(せんしきゅういんほう)と針生検法(はりせいけんほう)があります。穿刺吸引法は、胸骨もしくは腸骨から注射器で骨の中の骨髄組織を吸引する方法です。針生検法では、腸骨に太めの針を刺し、骨髄組織を針の中にとらえて一部を採取します。吸引した骨髄はスライドガラス上に薄く広げて染色した後、顕微鏡で観察します。これにより、造血機能や血液疾患の原因、さらにがん細胞の有無などが明確になるため、血液疾患の診断や治療法の選択、治療効果の判定において重要な検査です。骨髄の中で白血病細胞が増殖する疾患である白血病も、骨髄検査によって診断され、治療効果の判定も骨髄検査で行います。
リンパ節が腫れている場合に、その原因を調べるためにリンパ節を丸ごと、もしくは一部を取り出す検査をリンパ節生検と呼びます。局所麻酔で行われることが多いですが、リンパ節の腫れている場所によっては、全身麻酔が必要な場合もあります。リンパ節が腫れる原因には炎症(感染症など)、がん(転移や悪性リンパ腫)等さまざまな原因があります。取り出したリンパ節を固定し、スライドを作成し、顕微鏡で見て診断を確定します。悪性リンパ腫などの造血器がんを疑ってリンパ節生検を施行する際には、リンパ節の一部をほぐして細胞の浮遊液をつくり、それを後述する染色体分析、細胞表面マーカーの検索、遺伝子検査に提出します。
脳脊髄液を採取する検査で、腰椎穿刺(ようついせんし)とも呼ばれます。通常、体を海老のように丸めて横向きになり、背中の第3もしくは第4腰椎間に針を刺し、脊髄腔(骨髄と硬膜の間の空間)に針を進めて5〜10ccの脳脊髄液を採取します。採取した脳脊髄液を用いて、その中に含まれる蛋白質や糖の量、細胞の数や形態を検査します。抗がん剤を脊髄腔に投与する場合には、液を採取した後、針を抜かないでそこから直接抗がん剤を注入します。髄注と呼ばれます。
造血器がんはその種類によって、有効な治療法や予後が大きく異なります。そのため、診断を適切に下すことは極めて重要です。しかし顕微鏡で細胞組織を見ただけでは、正確な診断ができないことがあります。細胞表面マーカー検査は、フローサイトメトリーという機器を使用し、細胞の表面の抗原(細胞の起源や性格を示すいろいろな目印、蛋白質などの物質からなる)を解析する方法です。抗原の多くはCD番号で呼ばれます(CD20など)。血液、骨髄血、リンパ節から採取したいずれの細胞でも検査可能です。この検査により、顕微鏡で観察しただけでは判断がつかないがん細胞のタイプを、その日のうちに見分けることが可能になります。また、治療後に少量のがん細胞が残っているかどうかの判断にも利用できます。
染色体は遺伝情報を担う物質で、細胞の中にあります。ヒトは、常染色体44本(22対:1番から22番と番号がついています)と、性染色体2本(XXまたはXY)合わせて46本の染色体を持っています。「46,XX」は女性で、「46,XY」は男性です。この染色体の数と形態(構造)異常の検索をするのが、染色体検査です。採取した細胞を分裂させ、そこで出てくる染色体を固定して検査します。しかし個々の染色体を同定するには、染色体を適切に染色(分染)して得られる、バンドのパターンを比較すること(G分染法)が必要です。最近ではすべての染色体を色分けしていて、正確に検査ができる「SKY法」も開発されています。造血器がんでは、各疾患に特徴的な染色体異常が多く確保されていて、この検査は診断に重要です。また治療効果の判定にも重要で、染色体異常が検出されなくなることを、「細胞遺伝学的寛解」と呼びます。
染色体の異常は、遺伝子に異常があることを意味します。がんに特徴的な遺伝子異常が存在する場合、極めて微量な試料からでも、特定のDNA断片(数百から数千塩基対)だけを選択的に増幅させることができます。「PCR(Polymerase Chain Reaction)法」といいますが、この方法を用いて、診断時に迅速に遺伝子異常の有無を検査することができます。この方法も診断だけでなく、治療効果の判定に用いられます。PCR法での遺伝子異常が検出されなくなることを、「分子遺伝学的寛解」と呼びます。
化学療法とは、抗がん剤を用いた治療のことを意味します。抗がん剤は1剤、あるいはいくつかの薬剤を組み合わせて投与します。化学療法はいろいろな目的で行われます。一般に、造血器悪性腫瘍は化学療法による治療効果が期待できるので、治癒や長期に持続する治療効果を目的とすることが多いのですが、がんの種類や病状によっては、症状緩和を目的とした治療である場合もあります。また、手術や放射線と組み合わせて行われることもあります。
完全寛解の達成を目指した化学療法を、寛解導入療法と呼びます。(寛解については、4.治療効果 1)寛解・治療 に詳細がありますので、そちらをご覧ください。完全寛解に至ると寛解後療法に進みますが、寛解に至らない場合、通常は再度寛解導入療法を行うことになります。しかし、それでも寛解に至らない場合、救援療法が行われます。

白血病の場合、完全寛解となっても患者さんの体内にはがん細胞が残っています。そのまま放置すると必ず再発するため、治癒を目指すには治療を続けることが必要です。寛解後療法は、寛解に至った後に治癒を目指して追加する治療です。寛解後療法の強さや期間、必要性は造血器がんの種類によって異なります。
初回寛解導入療法で完全寛解が得られない場合、あるいは造血器がんが再発したときに行う治療を、救援療法と呼びます。がんの種類によってその内容は異なりますが、多くは抗がん剤の量や組み合わせを変えた多剤併用療法です。
放射線は、細胞の核にあるDNA(核酸の一種で、遺伝情報を担う)に直接作用して、細胞を死に至らしめます。放射線は、がん細胞だけでなく正常細胞にも同様に作用しますが、一般的に正常細胞のほうががん細胞よりも障害の程度が軽く、放射線照射前の状態に回復しやすいとされています。したがって放射線は分割して照射することで、がん細胞をより障害することができます。照射の方法や量は、がん細胞の種類や場所によって違ってきます。放射線療法の主な副作用としては、全身倦怠感(ぜんしんけんたいかん)、食欲低下、嘔気(おうき)・嘔吐(おうと)、皮膚の変化等があげられます。長期的には照射された臓器の機能低下や、二次性発がんの発生等があげられます。
造血幹細胞移植は、造血幹細胞を多く含む細胞(骨髄、末梢血、臍帯血等)を移植(輸注)する治療法です。がん根絶を目的とした大量化学療法や、放射線療法を組み合わせた強力な治療(前処置といいます)の後で、正常な造血(血球をつくる力)や免疫系を回復させるために行われます。あらかじめ保存しておいた自分の造血幹細胞を移植する場合(自家移植)と、他人(ドナー)の造血幹細胞を移植する場合(同種移植)があります。副作用の強い治療法ですが、がんによっては造血幹細胞移植治療を行うことによって、根治する可能性を高めることができます。
支持療法とは、それ単体ではがんに対する効果はないのですが、がんあるいはそのがんによって起こる合併症を予防、軽減する治療です。支持療法は、治癒につながる治療を成功させるために極めて重要です。感染症対策、輸血療法、制吐剤の投与から精神的サポートまで、多岐にわたります。
輸血療法は、赤血球や血小板などの血球、凝固因子(出血を止めるのに必要な蛋白質)が何らかの原因で減少した場合に、それを補充する治療です。特殊な状況においては、顆粒球も輸注されることがありますが、造血器がんでは疾患や治療によって造血が障害されることが多く、輸血療法は重要な支持療法です。輸血はボランティアからの献血に依存しているため、有効利用が重要です。また、輸血療法にはウイルスの混入など一定のリスクを伴います。
中心静脈カテーテルとは、頸部(くび)、鎖骨下(肩)、鼠径(そけい:足のつけね)から点滴用の細いプラスチックの管を挿入して、上大静脈あるいは下大静脈に留置することを指します。高カロリーの点滴を行う場合、通常の点滴では投与困難な薬剤を用いる場合(持続的な抗がん剤投与や、血管痛を伴う薬剤)、通常の点滴ルートを確保することが困難な場合、血液を体外循環させる必要がある場合(血液透析など)等に使用されます。肘(ひじ)から挿入するタイプの中心静脈カテーテル(PICC:ピック)もあります。
造血器がんでは、疾病や治療によって顆粒球やリンパ球の減少、粘膜の傷害が起こり、細菌、カビ、その他の病原体による感染を起こしやすい状態(易感染状態)に陥ることがあります。この状態での感染を予防するために行われる、手洗い、うがいの励行、加熱食、フィルター(HEPA)を用いた空気の清浄化等のことを指します。
臨床的に、症状や検査成績によってがん細胞の存在を確認できなくなった状態を「寛解」といいます。寛解となっても患者さんの体内にはがん細胞が残存しており、放っておけば必ず再発してくるため、完治(完全に治った状態)とは異なります。造血器がんでは、疾患によって完全寛解の期間が長期に持続した場合、経験的に完治と判断されます。
急性白血病の場合には、診断時に通常1兆個もの白血病細胞が存在し骨髄を埋め尽くしているため、正常の白血球、血小板、赤血球をつくることができない状態です。治療により、その白血病細胞が減少して正常の白血球や血小板、赤血球が回復し、顕微鏡で形態を見たとき骨髄中の芽球が5%未満となります。末梢血、骨髄が正常化することにより、白血病に基づく症状や所見が消失した状態を血液学的完全寛解と呼びます。さらに細かい検査を利用して少量のがん細胞の残存を検査することにより、細胞遺伝学的寛解、分子生物学的寛解といった寛解の程度を判断することも可能です。残存している可能性のあるがん細胞の量は、血液学的寛解>細胞遺伝学的寛解>分子生物学的寛解となります。急性白血病では、完全寛解状態が3〜5年以上続いた後の再発はまれですので、完全寛解が5年以上続けば治癒したとみなしています。

症状や検査成績によって完全寛解となった後で、再びがん細胞の増殖が確認された状態をいいます。出現してきたがん細胞の量(それを検出できる検査方法)により、分子生物学的再発>細胞遺伝学的再発>血液学的再発と区別されることがあります。
薬の作用の中で治療に必要な作用を主作用、それ以外の作用を副作用といいます。そのため、あらゆる薬に程度の差こそあれ、副作用は必ず存在します。抗がん剤を用いた化学療法では、がん細胞を抑える作用以外の作用が副作用となります。用いる抗がん剤の種類や投与量によって、起こりやすい副作用が異なります。一時的な副作用としては、骨髄抑制、口内炎、嘔気、下痢、脱毛等があります。一部にはもとの状態に回復しない副作用もあり、また、治療が終わって長い時間がたってから起こる不妊や二次性発がんなどの副作用もあります。
抗がん剤は細胞分裂が活発な組織に作用するため、血液が活発につくられている骨髄に強く影響を及ぼし、結果として血液細胞をつくる働きを低下させます。これを骨髄抑制といいます。抗がん剤の最大の副作用です。白血球が減る、赤血球が減る(貧血)、血小板が減る状態により、それぞれに応じた症状が出現します。白血球や血小板は細胞の寿命が短いため、これらの減少は、赤血球の減少に比べて化学療法の早い時期にみられます。
白血球(顆粒球)が減少すると、病原体(細菌、真菌等)に感染しやすくなります。特に、好中球が血液1μlあたり1,000個未満になると感染のリスクが高くなり、500個未満になるとそのリスクは大幅に上昇します。このようなときには手洗いやうがいを励行し、抗生剤や抗真菌剤を予防的に内服して対処します。また、好中球を増加させる顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)を、治療後に投与することがあります。
ヒトの体には生来、無数の微生物がすみついています。また、空気や水や土などの身近な環境の中にいた微生物が体内に入り、共存することもあります。このような微生物と生体の関係を、「感染」と呼びます。ところが、毒性の強い微生物が体の中に進入して増殖した場合には、ヒトの体に重大な症状を引き起こすことがあります。この状態を「感染症」といいます。また、免疫力の低下した状態では、毒性の弱い微生物でも感染症が起こる可能性があります(日和見感染症)。感染症の症状は感染した微生物や臓器によってさまざまですが、造血器がんの場合には感染症が重篤(じゅうとく)になることが少なくありません。
赤血球数が減少し、酸素運搬能力の下がった状態を貧血と呼んでいます。抗がん剤や放射線による治療では、骨髄抑制によって貧血を生じます。しかし、赤血球の寿命は120日と長いため、貧血の症状は治療1〜2週間後より徐々に出現してきます。貧血による症状がつらかったり、症状がなくともヘモグロビンの値が一定の値以下になれば、赤血球輸血が行われます。
抗がん剤治療に伴う骨髄抑制が起こると血小板が減少し、その結果、出血が起こりやすくなります。血小板数が血液1μlあたり10万個以下になると出血しやすくなりますが、2万個未満になると、脳出血や消化管出血などの重篤な出血を起こす危険が増してきます。具体的に出血とは、体をほんの少しぶつける、あるいは皮膚を強くこするだけで皮下に出血する、鼻を強くかむと鼻血が出る、歯ブラシで強く歯肉をこすると出血する、硬い便をすると肛門から出血する等の症状をいいます。血小板が著しく減少して出血の危険が高い場合に、予防的に血小板輸血が行われます。
造血器がんでは治療(抗がん剤、放射線)が奏効することが多く、場合によっては大量のがん細胞が短期間で壊されてしまうことが起こります。その場合、がん細胞の「死がい」(成分)により、高尿酸血症、高リン酸血症、低カルシウム血症、代謝性アシドーシス(血液が酸性になること)、高カリウム血症、腎不全、呼吸不全等のいろいろな症状を生じます。これを「腫瘍崩壊症候群(しゅようほうかいしょうこうぐん)」といいます。補液や適切な薬剤の投与で予防もしくは対処しますが、重篤な場合、血液透析などの血液浄化療法を必要とすることがあります。これが予想される場合には、血清尿酸値上昇を避けるため、抗がん剤治療開始前より補液による尿量確保や尿のアルカリ化を促すとともに、頻繁に尿酸値や尿量を測定するなど対処します。
抗がん剤や放射線による正常細胞の障害のために、治療を終えた数年から数十年後に、もとの病気とは別の種類のがんや白血病を生じることがあります。これを二次性発がんと呼びます。
抗がん剤や放射線は細胞分裂が活発な組織に作用するため、がん細胞だけでなく、正常な細胞にも大きな影響を与えます。特に、精子や卵子は非常にデリケートな細胞であるために、治療が終了してももとの(治療前の)状態に回復できない可能性があります。その場合、男性、女性にかかわらず不妊になります。不妊を避けるためには、治療前に精子や卵子を凍結保存しておく方法があります。しかし、治療開始を急ぐことが望ましい場合には困難かもしれません。