4-4-2 切除不能進行・再発大腸がんに対する薬物療法

手術によりがんを取りきることが難しいと診断された場合に行います。がんを小さくして手術ができるようにしたり、がんの進行を抑え、延命および症状を軽減したりすることが目的です。薬物療法のみで完治することは難しいですが、薬物療法を行った方が、生存期間が延長し、クオリティ・オブ・ライフ(QOL:生活の質)が向上することが分かっています。

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薬物療法を受けることができるかどうかは、以下の条件などを参考に検討し、「適応となる」「問題がある」「適応とならない」の判断をします(図7)。

・少なくとも、自分で歩くことができ、身の回りのことを行える

・肝臓や腎臓などの主な臓器の機能が保たれている

・ほかに重い病気がない

「適応となる」のは、これらの条件を満たし、一次治療の細胞障害性抗がん薬や分子標的薬の併用に問題がないときです。「問題がある」のは、これらの条件を十分に満たさず、「適応となる」場合と同じ薬を使うことは難しいものの、体の状態や臓器の機能などに応じた薬物療法を受けることができるときです。体の状態が良くない、または主な臓器の機能が保たれていない、ほかに重い病気がある場合は「適応とならない」と判断されます。

また、大腸がんでは、一次治療を始める前に、がんの組織の遺伝子を調べる検査(RAS遺伝子検査、BRAFV600E遺伝子検査、MSI検査)を行い、その結果によって治療を検討することが勧められています(図7)。

このほかに、HER2ハーツーと呼ばれるがん細胞の増殖に関わるタンパク質があるかどうかの検査を行うことも妥当と考えられています。

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【20ページ図 図7.一次治療を決定する際のプロセス】

大腸癌研究会編.大腸癌治療ガイドライン 医師用 2022年版.2022年、金原出版.より作成

図七

【図終わり】

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薬物療法には、複数のレジメン(薬剤の用量や用法、治療期間を明記した治療計画のこと)があります。まずは一次治療から開始し、治療の効果が低下した場合や、副作用が強く治療を続けることが難しい場合には、二次、三次…と順に別のレジメンを続けていきます。どの段階まで治療が可能かは、その人の状況によって異なります。

(1)MSI-Highの場合

一次治療では、免疫チェックポイント阻害薬(免疫ががん細胞を攻撃する力を保つ薬)を用いることが勧められています。

二次治療では、一次治療で使用しなかった細胞障害性抗がん薬と分子標的薬(がん細胞の増殖に関わるタンパク質などを標的にして、がんを攻撃する薬)を併用する複数のレジメンの中から検討します。一次治療で免疫チェックポイント阻害薬を使用しなかった場合には、二次治療で用いることがあります。

三次治療以降では、二次治療までに使用しなかった細胞障害性抗がん薬もしくは分子標的薬のいずれか、または細胞障害性抗がん薬と分子標的薬を併用する複数のレジメンの中から検討します。なお、二次治療までに免疫チェックポイント阻害薬を使用しなかった場合には、三次治療以降で用いることがあります。

(2)MSI-Highでない場合

一次治療では、RAS遺伝子検査、BRAFV600E遺伝子検査の結果に関わらず、細胞障害性抗がん薬と分子標的薬を併用する複数のレジメンの中から検討します。なお、遺伝子検査で遺伝子変異がなく、かつ、がんが下行結腸、S状結腸、直腸にある場合には、分子標的薬のみのレジメンを用いることがあります。

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二次治療では、一次治療で使用しなかった細胞障害性抗がん薬と分子標的薬を併用する複数のレジメンの中から検討します。また、RAS遺伝子検査、BRAFV600E遺伝子検査のいずれかで遺伝子変異が認められ、一次治療で分子標的薬のみの治療を行わなかった場合には、二次治療で用いることがあります。

三次治療以降では、二次治療までに使用しなかった細胞障害性抗がん薬もしくは分子標的薬のいずれか、または細胞障害性抗がん薬と分子標的薬を併用する複数のレジメンの中から検討します。また、RAS遺伝子検査、BRAFV600E遺伝子検査のいずれかで遺伝子変異が認められ、二次治療までに分子標的薬のみの治療を行わなかった場合には、三次治療以降で用いることがあります。