運動や感覚、思考や言語などのさまざまな機能は脳の中でそれぞれ担当する部位が決まっています。脳の中に腫瘍ができると、腫瘍や脳浮腫によってその部位の機能が障害され、局所症状として出現するため、脳のどの部位がどのような機能を担っているのかを理解することが大切です。
脳は大脳、小脳、脳幹からなります。そして大脳は、前頭葉、側頭葉、頭頂葉、後頭葉、大脳基底核に分けられ、それぞれに異なった機能を担っています(図2)。
腫瘍がどこにあるかは、手術のリスクや今後どのような症状が出る可能性があるかを予測する上で重要です。
【図2.脳の表面図と断面図】
【図終わり】
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前頭葉には思考や記憶力の中枢があります。前頭葉と頭頂葉の間には中心溝という大きな溝があります。
前頭葉側には運動野(中心前回にある体を動かす機能を受け持つ部分)があり、頭頂葉側に感覚野(中心後回にある刺激を感じる機能を受け持つ部分)があります。
顔、手、足の運動や感覚は、脳の外側から、中心側(左右大脳半球間裂)に向かって整列しています。したがって、脳腫瘍などが脳の内側(左右大脳半球の間)にある場合には足に強い麻痺や感覚障害が生じ、外側(側頭葉側)にある場合には、手に強い麻痺や感覚障害が生じます。
人の脳は大脳半球と呼ばれる左右の脳に分かれます。右利きの人のほとんど、左利きの人の7割程度は、左の大脳半球が優位半球です。
優位半球とは言語中枢(話す、理解する)がある大脳半球で、この優位半球が障害されると、言葉での意思の疎通が障害される可能性が出てきます。非優位半球(多くは右脳)の病気ではあまり症状があらわれないこともあります。
側頭葉のウェルニッケ野には言語理解の中枢があり、前頭葉のブローカ野には発語の中枢があります。そしてこれらに障害があり、発語や言語の理解ができなくなることが失語という症状です。
一般に左脳の広い障害では、利き手の右手足が不自由になるばかりでなく、言語の障害も起きるため、右脳の障害よりもはるかに日常生活上の困難が伴います。手術を行う際にも右脳と左脳ではリスクも異なります。
頭頂葉前部には痛みや触覚などを感じる感覚野があります。優位半球の頭頂葉の障害では計算障害などのほかに失読・失書(字が読めない・書けない)などの症状が出現します。
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後頭葉は視覚情報の認識に関わります。光は網膜から視神経に伝えられますが、視神経は頭蓋内に入ったところにある視交叉という部分で交わり、視覚情報が伝達されます。つまり、視界の右側の情報は左後頭葉へ、視界の左側の情報は右後頭葉へとそれぞれ視放線を通って伝えられます。
脳腫瘍により視交叉の前で左視神経が障害されると、左の視力が落ちます。視交叉の後で、左の視放線や左後頭葉が障害されると、左右の視力は保たれますが、右側の視界が見えなくなる半盲という状態になります。
また下垂体腫瘍などによって視交叉が圧迫されると、耳側性半盲(視野の外側が見えなくなる状態)が起こります。
小脳はバランスの中枢で、運動の学習効果を獲得する機能があります。小脳は大脳と異なり、同側性支配です。つまり右大脳の障害では左手足の障害をきたすのに対して、右小脳の障害では右側の運動障害を生じます。
小脳に腫瘍があると、ふらつきやめまいなどの症状がみられます。
また小脳浮腫を起こすと、直前にある脳幹を圧迫したり、第四脳室を閉塞するため髄液の流れが滞り水頭症をきたし、 急速に意識障害が進行することがあります。
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以下に、脳の各部位が担う機能(表2)と、腫瘍が存在する場所に応じた局所症状の例(表3)を示します。
【表2.脳の各部位が担う機能 】
【表終り】
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【表3.局所症状の例】
【表終わり】
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