5.薬物療法や放射線治療とリハビリテーション医療

薬物療法や放射線治療においても、体力低下の予防や、だるさ(倦怠感けんたいかん)の軽減に役立ちます

薬物療法や放射線治療の治療中・治療後のリハビリテーション医療といわれても、多くの人はピンとこないかもしれません。しかし薬物療法や放射線治療による治療中は、筋力の低下や身体機能の低下が起こりやすくなるため、リハビリテーション医療を受けることが重要です。

薬物療法や放射線治療を受けているときは、治療による体への負担や精神的なストレスを感じたり、気持ちがふさぎ込んだりするなどして、心身ともに疲れ果ててしまうことがあります(全身衰弱)。それに伴い、食欲が低下して栄養状態が悪くなったり(栄養障害)、だるさ(倦怠感)を感じて活動量が少なくなったりすること(活動性低下)もあります。

体の中にがんが存在している状態(担がん状態)では、がんの組織がほかの正常な組織が摂取しようとする栄養を奪ってしまうことによる体の衰弱(がん悪液質)が起こりやすく、身体機能にさらに悪影響を及ぼします。

こうして栄養障害が起き活動性が低下すると、筋力が落ちて体力も低下し、少し動いただけでエネルギーをたくさん消費するため、11ページいっそう疲れやすくなります(筋萎縮[筋肉の容量が減ること]・筋力の低下・身体機能の低下)。(注)筋肉量が減少し、筋力や身体機能が低下している状態のことを、サルコペニアと呼ぶこともあります。そして、疲れるから動かない、動かないから体力が低下するといった悪循環におちいり、ついには寝たきりの要介護状態におちいることもあります(図4)。

【図4.全身衰弱と筋肉の萎縮・筋力低下の関係】

図4

【図終わり】

このような悪循環を阻止するためには、運動によるリハビリテーション医療と栄養管理が最も重要です。運動をすることによって身体機能が高まるため、動いてもエネルギーをそれほど消費しなくなり、疲れにくくなります。12ページまた、すっきりした気分になり、精神的苦痛も軽減されて毎日が快適になることが期待できます。

運動によるリハビリテーション医療は、治療中から開始すると、より効果が高いといわれています。週150分以上の中等度の有酸素運動と週2〜3日(1日おき)の上半身・下半身の大きな筋肉を中心とした筋力トレーニングとストレッチを行うのが理想的です(図 5)。

中等度の有酸素運動には、早足での散歩や、自転車エルゴメーター(注)エアロバイクともいわれる、自転車の形をした、室内用の運動器具(図 5@)などがあります。筋力トレーニングには、スクワットや腕立て伏せなど自分の体重で負荷をかけて行う自重トレーニングや、専用のおもり(ダンベルなど)やゴムバンドを用いる方法、トレーニングマシンで行う方法があります。大胸筋だいきょうきん広背筋こうはいきん大腿四頭筋だいたいしとうきんなどの大きな筋肉を中心に、それぞれ1日に8〜12回行います。自分にとってどのような方法が良いか、適切な回数はどのくらいかについて、担当医や、リハビリテーション科のスタッフに尋ねてみましょう。
13ページ
【図5.薬物療法や放射線治療の治療中・治療後に効果的な運動】

図5

【図終わり】

運動の強度は、「ややきつい」と感じる自覚的な強さ(自覚的運動強度)が目安になりますが、特に治療中の場合には、体の調子をみながら、少し物足りないくらいから始めて、無理をせずに自分のペースで、毎日コツコツ続けるようにしましょう。

また、運動によるリハビリテーション医療にあわせて、栄養管理が行われます。栄養管理では、管理栄養士による栄養指導が行われることがあります。体の状況や、日常的な食事を見直して、栄養が十分足りているかを評価します。必要な場合には、栄養補助食品を用いるなどして、栄養状態を維持・改善します。

14ページ