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奈良県のがん診療におけるPDCAサイクルの取り組み
奈良県がん診療連携協議会関係者インタビュー

奈良県立医科大学附属病院 がん診療対策プロジェクト

~顔の見える関係だからこそできたトップダウン型PDCAサイクル~

奈良県立医科大学 放射線腫瘍医学講座 教授
奈良県立医科大学附属病院 放射線治療・核医学科 部長
長谷川正俊
(取材日:2016年12月8日)

長谷川 正俊 写真1

経緯:「何をすればいいかわからない」からの始まり

——奈良県におけるPDCAサイクルの取り組みの経緯についてお聞かせください。

正直に申し上げますと、「拠点病院の指定要件だからやらなくてはいけない」というのがはじまりです。ただ、その一方で「何をやればいいかわからない」、「PDCAって何?」という声があったのは事実ですので、その意味を全体で共有するところが実務的なスタートとなりました。
その上で、奈良県の場合はよくも悪くも「トップダウン」でスピード感をもって進められたと思っています。

理由の1つとしては、奈良県が比較的小さな県で、「県内の関係者のあいだに『顔が見える関係』という土壌があったこと」があげられます。それによって、県拠点病院が中心になって取り組みを遂行していく体制がとれていたため、「どうせやるならしっかり進めていきましょう」という声が浸透しやすかったのです。

トップダウンで進められたもう1つの理由は、「緩和ケアなどの満たすべき指定要件が増える中、それを満たす際にPDCAサイクルを使えば、スピード感をもって進められるし要件もクリアできるという意味で『一石二鳥』である」という理由づけができたことにあるかと思います。

ただし、県拠点病院は、院内だけでなく、地域拠点病院の旗振り役も務めなければなりません。その点、がん診療連携協議会に集まってくる病院長クラスの人たちの説得が重要になります。
奈良県では、「こういうことが拠点病院に求められています。その上でPDCAサイクルを使ってこういうことを進めていこうと思っています」とご説明したところ、誰からも反対がありませんでした。がん診療連携協議会で決まるということは、各病院の院長の了承を得たということです。
そのあたりが、私どもがうまくできたところだと思っています。


——院内では普段からコミュニケーションがとれていると思いますが、はじめての試みとなる院外の方々とはどのように意思疎通を図ったのでしょうか?

ご指摘の通り、院内に比べれば院外の方とは少し距離があります。
例えば、各病院から私どもに問い合わせがくるなど、比較的コミュニケーションがとりやすい環境ではありました。しかし、はじめから取り組みがうまくいくわけではないので、「訪問チェック」を通した議論がかなり重要となりました。

例えば1年目は県立病院に行ったのですが、事前のやり取りでチェック項目を渡し、「ここまでやってほしい」と依頼していました。しかし、返送していただいたチェックシートを見ると、全然できていない。そこで、訪問チェックを通して議論を重ねた結果、一気に理解が深まり、その次の年のサイクルは非常にうまく回るようになっていました。
私どもは、はじめから100%可能だとは思っていなかったため、行われている内容のチェックだけではなく、「方法論として進んでいるのか」を含めて相互チェックを行うようにしました。そうした形をとることで、評価される側の病院の理解が深まりますし、評価委員になっている先生方も自分の病院の理解に繋がるというよいサイクルになっています。

もともとコミュニケーションをとりやすい関係ではあるが、足りない箇所を訪問チェックなどで補っていこうという考え方をしたことが、うまくいっている要因の1つだと考えています。

組織づくり:「奈良県がん診療連携拠点病院 PDCAサイクル評価委員会」の設置の経緯や目的

——奈良県では、もともと存在していた県の拠点病院の連携協議会に加え、PDCAサイクル評価委員会を設置されました。この組織の位置づけはどのようなものでしょうか?

PDCAサイクル評価委員会は、分科会とは別個にがん診療連携協議会から了承を得てつくった組織です。私がかなり強引につくりました。委員会のよいところは「すぐに実行するところ」だと思っていますので、部会を立ち上げてからでは歩みが遅いと判断し、実行を早めるために組織しました。

以前に地域連携のパスをつくった際も、はじめは県(奈良県がん対策推進協議会)と協議会(奈良県がん診療連携協議会)のどちらでつくるかについての議論がありました。しかし、県でやると間に合わないと判断し、協議会ですぐに組織したのちに双方で一緒に進めていこうとなりました。結果、まずがん診療連携協議会の部会で冊子をつくり、それを県のほうで印刷をしてもらい、配布に関しても県で迅速に行ってくださいました。つまり、「両者がそれぞれ得意なところを補いあうという構図」が生まれ、「成功体験」を県と協議会で共有できたことが大きいと思っています。

また、県の協議会(奈良県がん対策推進協議会)は私がずっと会長をしているため意識共有がしやすいこと、拠点病院の奈良県がん診療連携協議会のほうは、奈良県立医大の病院長がトップではあるものの、総括的な実務のほとんどを私と事務局が担当していることも、連携をとりやすかった要因にあたるかと思います。


——この図を見て、分科会にしてしまうと他組織の取り組みが見づらくなってしまうので、「横並び」と言うよりもむしろ「横串で指す」という印象を受けました。

もちろん各所への報告は行いますが、がん診療連携協議会で決めたことを実務として行っているため、むしろトップの診療連携協議会の直轄の委員会と考えていただいたほうがいいと思います。

なお、PDCAについては委員会で方向性を決めて、各専門部会が具体的なモデルをつくり、各施設単位で実施する仕組みをとっています。

進行:院内でのPDCAサイクルの進め方

——院内のPDCAサイクルの進め方について伺えますでしょうか?

例えば、「苦痛のスクリーニングの実行」という項目があがってくると、「これは緩和ケアの担当だな」という具合に担当部署にまず投げます。そうすると緩和ケアの部門で議論がなされ、「最初にどこにスクリーニングをかけるか」「次にどこでするか」という計画を立てて、それを実行するフェーズに移っていきます。

最初の1年ほどは、大体がDoくらいまでで報告があがってきました。しかし、2年目にもなると、場合によってはDoまでではなく、いよいよ部門内でのCheckが入ってあがってくることもありました。

なお、この院内でのPDCAサイクルの取り組みは平成26年度から開始したのですが、一番特徴的な変化としては、院内の委員会によるチェックがはじめは年に1回だったのが、2016年からは2回になった点だと思っています。


——緩和ケアの話が例としてありましたが、院内でPDCAサイクルを回したのはいくつくらいでしょうか?

1年目は、ほぼ緩和ケアのみの取り組みでしたが(新しい指定要件についてサイクルを回しましたので約10件)、2年目からは、緩和ケア以外でも少しずつ取り組みを開始して、さらに増やしています。

他病院との関わり:介入方法や情報共有について

——奈良医大の取り組みは県内でモデルになっていますが、ほかの病院はどのような状況でしょうか?

初年度はほとんどできていなかったので、私から「これをやってください」と指定をしました。拠点病院としては、やる必要があるわけですから、指定をされてそれに対応する分には他院にとっても不都合はありませんでした。
特に、緩和ケアに関しては、PDCAの記入シートを配りました。期限を切って、「いついつまでにやってください」という形です。そうすると、先ほど申し上げたように、1年目はうまく回せていないケースが目立ちましたが、2年目になるとさすがに回せるようになっていました。中には、「おお、ここまでやるか」というレベルのところもあったほどです。
ただ、「どこで何をした」ということを記録し、どんどん積み重ねができるようにすることが重要だと考えたため、つい最近からではありますが、エクセルシートで次のステップ(~サイクルの)記録・管理もできるようにしました。


——C1、C2、C3とチェック項目が積み重なっていくイメージでしょうか?

そうです。
改善に関しては、A(Act)を積み重ねる場合もあれば、次の列を作成し、次のP(Plan)にいく場合もあります。

このシートはまだ完成形ではありませんので、次々とサイクルを回していく様子を表現できるように改良していきたいと思います。


——各病院が行っている取り組みは、県内でどのように共有するのでしょうか?

今は全体の状況はそこまで把握できておりません。

実はかつて、委員会(PDCAサイクル評価委員会)では上が介入するか否かの議論も行いました。最初は誰も具体的なイメージをもてていなかったため、取りあえずは県拠点病院から出たプランに基づいて実行していきましたが、ある程度慣れてきたときに、病院ごとに独自で行う形に変更しました。
なお、介入する場合には、あまりうまく回っていないところを優先するようにはしていますが、全体のPDCAサイクルをこちらで把握し、すべての病院を強引に何とかしようという発想は今のところはないですし、本来そういうものでもないと思います。


——各病院の診療の質をあげるために拠点としてしっかり「支援」をしよう、ということでしょうか?

そうですね。「(PDCAサイクルを)うまく使えているかどうか」という点を、順番にチェックしている状態です。
つまり、すべてのPDCAを完璧に行っているかどうかではなく、むしろそれを使ってうまく機能しているかどうかというのをチェックする程度が妥当であると思っています。


——PDCAサイクル委員会には「県の関係者で集まり意見交換をする機会にもなっている」という側面はありますか?

そういう意味では機能しておらず、あくまで「評価」のための委員会です。
評価を共有し、総合チェックをするために使っている委員会なので、ほかのことにはそこまで力を入れていません。例えば緩和ケアだったら緩和ケアの関係者で集まる機会を設けていますが、今のところPDCAの委員会ではそこは目指していません。ただ、そういうことが本当に必要になればやってもいいと思います。

その点、少なくともうちの病院に関しては、PDCAを「普通に使っていく」と言うと変ですが、何か計画を立てるときには原則としてPDCAの枠組みを活用しようと思っています。というのは、チェックが簡単だからです。ある程度任せてしまっても、報告時にできていないものが明確になりますし、できているように見えていても内容の密度がすぐに明らかになります。

ただし、それを県内全部でやるかというと、まだ難しいかと思います。うちの病院に関しては、実務を通して枠組みを用いることにマイナスがないことがわかってきたため、積極的に取り入れています。


——各病院で成功している取り組みを外部に伝えることで、波及したりほかの病院を触発したりする効果もありそうです。

開始当初は、ある程度強制的にやってもらって、それを滞りなく運用できているかをチェックに行き、うまくできていない場合にアドバイスを行う体制はとれていたかと思います。その調整は、県の拠点病院に求められる責務の1つかと思います。
ただし、すべてを完璧にできるようにチェックするのはやりすぎかとも思いますので、バランス感覚が重要だと思っています。

訪問調査:その負担や意義について

——訪問調査をする上では、県内関係者が多数いらっしゃるかと思います。年間で考えると訪問に行く負担について、いかがお考えでしょうか?

今後、回数を増やすかどうかはまだ検討段階ですが、県内のすべての病院を完璧に調べるわけではないので、回数を決めて計画的に回るようにしています。
今のところ、PDCAサイクル評価委員会は年に2回行っており、訪問調査は年に1回のペースで行っています。


——実際に訪問する意義についてですが、形式的なチェックという意味だけではなく、「中身のある意見交換」という意味もありそうです。

それは大きいと思います。実際に対面して議論することで「なるほど」と納得できるケースも多いようです。
訪問調査では、Checkよりも、評価シートで可視化された診療プロセスの課題についての解決方法の検討にも重きを置いています。今年(2016年)などは特に、本来の目的以上の議論ができたように思います。

例えば緩和ケアにおける「スクリーニング」はうまくできないところが多いのですが、その改善のために参考となるような議論はできたと思います。「ここがよくできていますね。どうやっているのですか?」「誰がスクリーニングを行っているのですか?」といった議論です。

通常であれば、指定要件で要求されていることから、どうしても「YESかNOか」の話に目が行ってしまうかと思いますが、奈良では内容的な議論を尽くすケースが見られたというのは非常に意義あることだと思っています。

1年目はそのような議論を交わすことは難しかったのですが、2年目、さらに3年目になってくると「宿題」の域を越えるディスカッションをほぼ毎回できるようになり、単にサイクルを回すだけではなくなっています。

長谷川 正俊 写真2

効果:第三者によるチェックの簡便化と質の向上

——業務を質的に改善している事例を、他院や他部署にうまく活用・転用している例はあるのでしょうか?

事例と言っても、本音を言うとまだまだこれからです。

例えば緩和ケアの内容としてもまだまだで、ダメ出しをすることもしばしばです。そういう意味では、(第三者による)「チェックをしやすくなった」ということは言えるかと思います。つまり、「ボロが出やすい」という意味です。
当然、チェックをする第三者としては質的な向上を要求するでしょうから、そういう意味ではいい機会だと思います。


——今までは「なんとなく」で感じていた部分も、客観的に評価できるようになりましたか?

そうですね。
ただし、項目を多くつくりすぎてしまうと「取りあえずできたことにする」という状況に追い込まれてしまうため、注意が必要だと思います。過大で多様なことを要求するのではなく、最も重要かつ実現可能な部分を確実に改善していくことが大切です。
例えばスクリーニングにしても、すべての患者さんに適用するなんて目標を立てると、普通であれば到底間に合いません。もちろん余裕があるならそれでも構いませんが、その場合は「検診で○○が見つかったら〇〇する」というような別の議論になるのだと思います。
つまりは、実際に患者さんの役に立つ内容を追求することがやはり重要です。それができているかどうかの評価は簡単にはできませんので、そこは本当に難しいところですね。


——スクリーニングの話が出ましたが、何かやってみることで、実は必要ないこと、あるいは場合によっては目標設定の修正ができていくのかもしれません。

現状は緩和ケアが矢面に立ち、スクリーニングの話が取り上げやすくなっているため、現場と合わない目標が立てられやすいのかもしれません。緩和ケアの関係者がたくさんいる病院とそうでない病院の違いを勘案して現実的な目標設定をすることが重要になってきます。
なお、別の観点から言えば、緩和ケアの先生があらゆる分野を理解しているわけではないため、全体のバランスを勘案して慎重に進めなければならないということも言えるかと思います。


——管理者という立場を抜きにして、実際に現場でPDCAサイクルの効果を感じている部署はありますか?

現状、緩和ケアを重点課題として抽出しており、それ以外はごく一部の段階ですが、緩和ケアのメンバーは悪い印象をもっていないと思っています。
むしろ、病院として緩和ケアについて取り組んでいるということで、一生懸命取り組んでいただけています。


——現場の方からすると、自分たちのやっていることをしっかりアピールできる貴重な材料になるかと思います。

何もないよりも、しっかりと見える化した上で実行できるというのは価値があるものだと思います。
また、「アピール」かどうかはわからないですが、第三者に見せる形としては悪くないと思います。結果だけではなく経過も見えるという意味で、実行する側にとってもやりやすいかもしれません。


——奈良県立医科大学附属病院以外の病院のPDCAサイクルの効果についてはいかがでしょうか?

ほかの病院がどの程度自主的に取り組みを進めているかは定かではないですが、実際に、PDCAサイクルを積極的に導入することで有意義な議論に結びついた病院もあります。
また、繰り返しになりますが、1年目にうまく機能しなかった病院も、2年目のシートではうまく活用できているという印象を受けています

今後:県内の地域拠点病院にも積極的に提案を

——PDCAサイクルをひと通り回してみて、奈良県のがん診療の質を向上するために今後やっていきたいことはありますか?

PDCAサイクルの導入が「目的」ではないことが前提ではありますが、PDCAを使って「見える化」した形で多くの施策を回していくことは非常に意義があると思っています。

県拠点病院はもちろんこの方法を活用しますし、地域拠点病院にも積極的に提案していきたいと思っています。ただし、県拠点病院と地域拠点病院では規模が全然違うという点には注意が必要と考えます。病院(の規模)によっては、直近の導入は厳しいところもあると思いますので、無理に「強制」しようとまでは考えていません。


——県のがん対策推進計画も第3期が始まり、その中にがん診療に関する項目もあります。そうすると今度は、「県」の立場でいろいろと考える必要があると思います。その点、計画を立てる県と、実際にがん医療の現場を担う病院はどのような形で連携していくのがよいとお考えでしょうか?

そこはまさに図(※下図参照)の通りで、行政が絡む計画を立てる部隊と現場の実働部隊の連携がカギになると思います。県によってはだめなところもあるらしいのですが、奈良県の場合は私も含めてかなりの委員が両方にオーバーラップしており、有機的に連携できています。例えば「がん登録」では、研修会の開催やがん教育など、幅広い分野で連携しています。


——連携を深めるためには、県の計画ないしは目標の策定に一丸となって取り組むことが重要になってくるかと思います。

そこが本当は一番大事なところだと思います。
私は県内のいくつかの委員会や部会の委員長をしていますが、いくら計画をつくっても、実際の現場で動きがなければ意味がありません。

何よりがん医療は多岐にわたりますので、チェックの体制づくりが非常に重要です。
そこを、PDCAサイクルを使ってうまくチェックしていく必要があると思っています。さらに、「どうやってチェックしているかをチェックする」と言ったら変ですが、仕組みが機能しているかどうかのチェックも必要だと思います。


——そうした体制が構築できれば、県の目標に対して現場が責任をもつというモデルが構築できるかと思います。

そうは言っても、まだまだ改善が必要な部分はたくさんあると思っていまして、仕組みが本当に機能し、現場、ひいては患者さんにダイレクトに結びつくのはまだ数年先のことも多いと思います。

例えば患者さんの満足度調査1つとっても、「評価の仕方」を評価しなければならないという課題があったりします。まだまだやることはたくさんあるので、PDCAサイクルというツールを使って議論を深めていかないといけません。

分析:県単位のPDCAサイクルの成功要因とは

——奈良の場合、PDCAサイクルをうまく回すための要因の1つに、長谷川先生のようなキーパーソンの存在があげられるかと思います。ただ、他県の場合だとそれが違う可能性もある。そこで、長谷川先生が関係各所に号令をかけるときに一番苦労した点について伺いたいです。

そこはなかなか答えるのが難しいですね。というのも、急にできるようになったわけではないためです。それこそ、最初は、奈良県は「全国でビリ」と言われていたので。(笑)
そういうところから始めたという意味では厳しい状況だったのですが、3つほどの要因はあげられるかと思います。

1点目は、個人に関する要因です。
まず私自身の話になりますが、病理でがんを6年やったのちにがんの治療を行うようになりましたので、これまで「がん」に関わり続けてきたという経歴をもっています。しかも、「がん」に関しては、診断から全身のがんの治療まで、何でも診てきました(その分、広く浅いと言われるかもしれませんが)。それもあって、私は、がん治療には基礎的な病態から始まり、患者さんの心理的な部分や社会的な部分を含めたトータルな視点が必要だと思っています。

今回のPDCAサイクルの取り組みを開始する頃、私には病院で「がん診療プロジェクトリーダー」という名前が与えられましたが、それ以前から「がん」と名のつく書類のほとんどすべてが私のところに回ってくるようになったのです。しかし、がんは幅広いため、同じ「がん」でも種類によってまったく異なります。例えば肺がんの専門医と乳がんの専門医では考え方などがまったく異なるのはイメージがつくと思いますが、それはほかの分野でも同じです。それらは、一分野の知識だけでは到底追いつくことはできません。

つまり何が言いたいかというと、分野横断的な知識をもっている人がとりまとめをしないと、結局相手が何を考えているかがわからないということです。相手が苦労している点をある程度理解した上で「じゃあ、これならできますか?」と提案する。もちろん自分で全部できるわけではないので、「ここは先生の得意領域なので、ぜひお願いします」と依頼する。このような形でお願いしてパスを作成したこともありますので、「分野横断的」という要素は重要ではないかと思っています。

2点目は、動いてくれる人物を集めることです。
やはりその人だけががんばっても周りがついてこないと困るので、「周りが手伝ってくれそうだ」と思える人選をするのも大事なことだと思います。
ただし、これは奈良県のような小さな県だからできるのであって、東京でやろうと思うと規模が大きすぎて極めて難しいと思います。例えば都の拠点病院がどこかの地域拠点病院が何をやっているかなんて把握しきれません。しかし、奈良県の場合は誰がどこで何をやっているかはある程度把握していますし、情報も入ってきます。裏を返せば、1カ所に情報を集めさえすれば、スムーズに事を運べる可能性もあるということですので、他県でも情報をしっかり集めることは非常に重要だと思います。
もし奈良県が今よりも強引に進められない状況だとすれば、私は応援してくれるチームや何名かの(必要な分野の)プロを集めることに尽力するでしょう。

3点目は、県と拠点病院がうまく連携できるかどうかという点です。
行政と病院で考えているところや目指しているところが違うとかなり難しい。奈良県の場合は、各病院の主な先生だけではなく、県の担当者も含めた協力体制がつくれたことが大きかったと思います。この詳細については、私自身の動き方や組織構成など、これまでお話した通りです。


——非常にわかりやすい整理をありがとうございます。別の論点になりますが、PDCAのメリットの1つに、ノウハウが蓄積される点があるかと思います。現に奈良県ではエクセルシートも導入されています。全体として、その導入を促進するための要因には何があったのでしょうか?

1年目は言葉だけが先行している状態ですが、そこを早期に解消できた点は大きかったと思います。いくら言葉で説明しても違和感はなかなか拭えないものですが、奈良県では取りあえずやってみて、皆でディスカッションをした際に、「こういう風にやればいいのか」というのがわかってきたのだと思います。
そこは進め方の問題ではなく、純粋に方法論の「理解」の問題だと思っています。


——改めてのご質問ですが、DoやCheckの質が大幅に改善された要因は何でしょうか?

先ほどご説明したことに即していえば、まずは単純な「YESかNOか」というチェックの在り方を脱することかと思います。すでにDoが完了していることを前提として、内容について議論を行うことができれば、次のサイクルに生かすことができます。さらには、セルフチェックまで入ってくれば、改善内容の精査もできますし、一度改善を試みたのならば、サイクル自体を精査することができます。そうすると、結果的に質があがっていくのではないかと思います。


——質の向上と同時に、チェック項目の数もどんどん膨れ上がっていく可能性もあると思いますが、そのあたりはいかがでしょうか?

確かに、今後その点をうまくかじ取りしていくことが課題の1つだと思います。
「最初の目的がどれだけ具体化されて始まったとしても、1サイクル回るとそこで課題が出たり、残ったりする。それが次の課題となり、その課題に対して新しくPDCAを回す必要が出てくる。」
こうしたイメージをもっていますので、最初からC(Check)を固定して進めるのではなく、むしろ課題をクリアにした上で何度もサイクルを回すことが重要であると考えています。PDCAサイクルは1周で終わりではないことを念頭に置いて進めることが肝心だと思っています。
また、先ほどはエクセルシートにて、C2C3と項目が連なっていくお話をしましたが、次のサイクル(P2、P3...)に対しても同様の形式が適用できると考えています。場合によっては、同じP(Plan)の中で積みあがることも考えられます。


——ありがとうございます。今回先生のお話を伺っていて感じたのが、最終的に患者さんの役に立たないと意味がないということでした。

そうなんです!
私は医療現場で長年過ごしてきましたので、結局そこが重要だと思っています。きれいなお餅を絵に描くだけで満足していてはだめで、患者さんが食べて喜んでいることが大事です。
PDCAサイクルを有効活用して、そこまでもっていきたいですね。

長谷川 正俊 写真3
更新・確認日:2017年04月20日 [ 履歴 ]
履歴
2017年04月20日 掲載しました。
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