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がん検診について

更新日:2016年05月02日 [ 更新履歴 ]
更新履歴
2016年05月02日 「6.がん検診マネジメント」「7.受診率対策」を更新しました。
2010年04月05日 更新しました。
2006年10月01日 掲載しました。

1.はじめに

がん対策の基本は、がんの罹患率・死亡率を減少させることにより、国民の疾病負担を軽減することにあります。この目標に到達するために、予防・診断・治療・緩和ケアなどさまざまな対策がとられています。その中でも、がん検診は適切な実施により確実な効果が得られることから重要な役割を担っています。

がん対策基本法にも定められるように、がん検診の実施には、(1)がん検診の方法等を検討し、正しく行われるための(2)がん検診の事業評価(いわゆる精度管理)を実施するとともに、(3)がん検診の受診率の向上を図ることが必要です。
(1) がん検診の方法等の検討とは、がん検診の根拠となる研究を科学的に検証し、ガイドラインを作成すること、すなわち、がん検診アセスメントです。有効ながん検診を明らかにすることが、がん検診の基礎になります。
(2) 科学的根拠のあるがん検診の精度を改善・維持し、正しく行うための支援をするのが、がん検診マネジメントの役割です。
(3) さらに、有効ながん検診をより多くの人が受診するための受診率対策を推進していきます。
がん検診の3本の柱はいずれか1本でも欠けていると、目標に到達することはできません。3本の柱が互いに支え合うことで、当初の目的であるがんの罹患率・死亡率の減少が達成できます(図1)。
図1 がん検診の基本的な考え方
図1 がん検診の基本的な考え方

2.がん検診の3本柱

1)がん検診アセスメント

がんを早期に見つけることができる検査は、すべてがん検診として効果があるとは限りません。高精度の検査は、確かに、がんを早期に見つけられるものもありますが、同時に、死亡の原因となるまでには至らない前がん病変や早期のがんも発見されます。こうしたがんを多く見つけることは、検診によるがん発見率は高いものの、がん死亡率の減少にはつながらない可能性があります。

がん検診を行うことで、がん死亡率が確実に減少しているかどうかについて、国内外の研究を系統的に検索し、科学的に吟味した上で、わが国におけるがん検診としてどのような方法が妥当であるかを検証し、その上でわが国の対策型検診として実施すべきか否かの判断を「推奨」としてまとめたものが「がん検診ガイドライン」です。

2)がん検診マネジメント

有効性の確立したがん検診であっても、正しく実施しないことには真の成果を発揮することはできません。そのためにも、現状のがん検診が正しく行われているかどうかを検証しながら、不備な点を改善していかなければなりません。また、がん検診を行う検査について、技術的な支援だけではなく、がん検診がシステムとして適切に運用されているかどうかを検証しつつ、その結果に基づき改善を進める必要があります。

3)受診率対策

有効性の確立したがん検診を正しく実施しても、多くの人々が受診しないことにはがん死亡率の減少は達成できません。ただし、いくら受診者が増えたとしても、有効性が不明な検診を行っていたり、精度管理が不十分な場合には最終的な目標への到達は困難です。

確実にがん死亡率を減少させるという目標に到達するためには、受診者の方々にがん検診の正しい知識を知ってもらうことが第一歩です。その上で、医療従事者が受診者に対して適切に後押ししながら、検診の必要性を喚起し、継続して受診してもらえる環境づくりに努める必要があります。さらに、諸外国の事例などを参考にしながら、わが国における受診率対策を確立することが求められています。

3.わが国におけるがん検診

1)対策型検診と任意型検診

わが国におけるがん検診は、市区町村などの住民検診に代表される「対策型検診」と、人間ドックなどの「任意型検診」があります(表1)。対策型検診は、地域などにおけるがん死亡率の減少を目的として導入されるものです。対象となる人々が公平に利益を受けるためには、有効性の確立したがん検診が選択されます。一方、任意型検診は、医療機関などが任意で提供する医療サービスです。このため、さまざまな検診方法がありますが、その中には、がん検診として有効性の確立していない検査方法が含まれる場合もあります。しかし、個人が自分の目的や好みに合わせて検診を選択できるという利点があります。
表1 対策型検診と任意型検診
検診方法 対策型検診 任意型検診
目的 対象集団全体の死亡率を下げる 個人の死亡リスクを下げる
概要 予防対策として行われる
公共的な医療サービス
医療機関・検診機関などが
任意で提供する医療サービス
検診対象者 構成員の全員
(一定の年齢範囲の住民など)
定義されない
検診費用 公的資金を使用 全額自己負担
利益と不利益 限られた資源の中で、
利益と不利益のバランスを考慮し、
集団にとっての利益を最大化
個人のレベルで、
利益と不利益のバランスを判断

2)対策型検診における受診率の動向

わが国では、昭和58年(1983)から老人保健法施行により対策型検診が全国で開始されました。最初に導入されたのは、胃がん検診・子宮頸がん検診でした。その後、肺がん、乳がん、大腸がん検診が順次導入されました。現在は、健康増進法によりがん検診が行われています。しかし、肺がん検診が20%をわずかに超えている以外は、いずれの検診も受診率は20%以下にすぎません(図2)。

都道府県格差はあるものの、がん検診の受診率はそれほど高くないのが現状です。胃がん検診は導入時やや増加し、その後横ばいでしたが、近年は減少傾向にあります。一方、大腸がん検診は増加傾向が続いています。乳がん検診・子宮頸がん検診については、平成15年度(2003)から検診間隔が1年から2年に変化しました。これは、検診間隔が1年から2年に延長した場合でも、同様の死亡率減少効果が期待できる上に、できるだけ多くの人が受診できるように受診機会を確保するためです。導入時に受診率の算出方法について多少混乱があり、受診率が減少したかに見えますが、以降は若干増加の傾向にあります。

市区町村のがん検診のほかにも、職域健診とともに行われるがん検診や人間ドックなども行われています。こうした他の受診機会を含めた受診率は、3年ごとに行われる国民生活基礎調査でも調査されていますが、受診率は若干増加するものの、いずれのがん検診も20%台にとどまっています。
図2 対策型検診におけるがん検診受診率の推移
図2 対策型検診におけるがん検診受診率の推移

3)がん検診の実績

昭和58年の老人保健法施行以来、市区町村では、胃がんおよび子宮頸がん検診の実施を開始し、続いて、肺がん、乳がん、大腸がん検診が行われています。平成11年度から、がん検診は一般財源化され、検診の実施、検査方法の選択などは市区町村の判断に委ねられています。表2に、平成19年度のがん検診の実績を示しました。
表2 平成19年度のがん検診の実績
がん検診 胃がん 大腸がん 肺がん 乳がん 子宮頸がん
検査方法 胃X線 便潜血 胸部X線 視触診および
マンモグラフィ
細胞診
受診者数(%) 4,262,048
(11.8)
7,176,312
(18.8)
7,066,168
(21.6)
1,892,834
(14.2)
3,538,132
(18.7)
発見がん数(%) 6,551
(0.15)
12,284
(0.15)
3,084
(0.04)
5,194
(0.27)
1,921
(0.05)
要精検者数(%) 427,949
(10.0)
521,695
(7.3)
196,932
(2.8)
161,971
(8.6)
40,023
(1.1)
精検受診者数(%) 321,855
(75.2)
286,785
(55.0)
138,954
(70.6)
128,877
(79.6)
24,153
(60.3)

4.諸外国におけるがん検診

1)受診率の比較

イギリスや北欧では、乳がん検診・子宮頸がん検診は、国策として組織型検診が行われており、高い受診率を維持しています。一方、アメリカでは任意型検診が主体ですが、乳がん検診・子宮頸がん検診は高い受診率を維持しています。乳がん検診・子宮頸がん検診について、イギリス・アメリカと比較して、わが国の受診率は4分の1程度です。ただし、受診率の国際比較では、受診率の算出方法が各国により相違があることから、その解釈に注意が必要です(図3)。

わが国のデータは、地域保健・老人保健事業報告であり、毎年の住民検診の結果をまとめたものです。この中には、職域健診や自主的に受けた人間ドックは含まれていません。

イギリスでは、子宮頸がんについては25歳から49歳を対象に3年に1回、50歳から64歳には5年に1回の検診が行われています。25歳から64歳をまとめて、過去3年以内の対象者のうち、検診を受診した割合が受診率として算出されています。一方、乳がん検診は50歳から70歳までが対象で、3年に1回の受診となっています。

アメリカの調査は、乳がん検診については、40歳以上の人が過去2年間にマンモグラフィを受診した割合、子宮頸がん検診については、18歳以上の人が過去3年間に細胞診を受診した割合を調査したものです。イギリスの受診率算出は医療記録に基づいていますが、アメリカの調査は州ごとに無作為抽出された人への電話調査によるものです。

アメリカの医療保険は職場単位や個人の任意の加入ですが、その多くは乳がん検診や子宮頸がん検診をカバーしています。かかりつけ医は、医療保険でカバーできるがん検診の受診を積極的に勧めています。また、医療保険に加入できない貧困層には、子宮頸がん検診や乳がん検診が無料で提供されるプログラムも準備されています。
図3 がん検診受診率の国際比較(乳がん検診・子宮頸がん検診)
図3 がん検診受診率の国際比較(乳がん検診・子宮頸がん検診)

2)組織型検診

「組織型検診」は、がんの死亡率減少をより確実にするために公共政策として行われる検診です。いわば、対策型検診の理想型であり、その方法は基本的には対策型検診と同一です。より確実な成果をあげるために、有効性の確立したがん検診を正しく実施するだけではなく、多くの人々が受診できるようなシステムが構築されています。

「組織型検診」の第一歩は、科学的根拠が明らかながん検診を行うことです。国際的にも、がん検診として確固たる証拠があるのは、子宮頸がん検診、乳がん検診、そして大腸がん検診です。子宮頸がん検診、乳がん検診はすでに先進国の多くで導入されていますが、大腸がん検診については導入が始まったばかりです。イギリスや北欧では「組織型検診」が行われ、子宮頸がんや乳がんの死亡率減少に成功しています。

「組織型検診」の基本条件は以下のとおりです。
  1. 対象集団の明確化
    どの地域の、何歳から何歳までをがん検診の対象とするといった基本方針が明確化されています。
  2. 対象となる個人が特定されている
    1の条件にかなった人々が個人単位で把握され、がん検診の対象となる人々の名簿が作成されています。
  3. 高い受診率を確保できる体制
    確実に検診を受けるためのサポートシステムが管理されています。2で作成された名簿に基づき、検診を受ける時期には個人あての案内やリーフレットが送付され、予約などの事務手続きもサポートされます。
  4. 精度管理体制の整備
    質の高い検診を提供するため、到達目標を定めて検診の事業評価を行います。
  5. 診断・治療体制の整備
    検診でがんが疑われた場合には、適切な診断や治療が受けられるような医療の標準化、医療機関へのアクセス確保など医療提供体制が整備されていることも必要です。
  6. 検診受診者のモニタリング
    がん検診でがんが疑われた場合、精密検査などを受けているかどうかを確認します。未受診の場合には、精密検査の必要性を説明し、受診のためのサポートをします。また、その検査結果について情報を収集します。
  7. 評価体制の確立
    実施されたがん検診が対象となるがんの死亡率減少に本当に貢献したかということを、検診データベースとがん登録、死亡登録などと突き合わせながら検証します。

5.がん検診アセスメント

1)有効性評価の考え方

がん検診の有効性を評価するためには、適切な指標を設定する必要があります。がん検診の評価指標は、がんの死亡率です。このため、死亡率減少効果を示すことで、がん検診としての有効性が証明されます。罹患率やQOLも重要な指標ですが、最終結果ではないことから次善の評価指標と位置づけられています。

がん検診の評価方法としてよく用いられるものとして「発見率」や「生存率」があります。これらの方法は算出が容易で、医療従事者になじみやすいものです。しかし、両者ともに検診を評価するためのバイアスがあることから、真にがん検診の有効性を示す指標とはなりません。

有効性評価の方法として、最も信頼性が高いのは無作為化比較対照試験(Randomized Controlled Trial: RCT)です。次善の方法として、コホート研究や症例対照研究がありますが、その信頼性は表3の下段に進むに従い低下します。したがって、がん検診の有効性は専門家の意見だけで判断することはできません。
表3 有効性評価のための研究方法
信頼性 研究方法
高い






低い
無作為化比較対照試験
(Randomized Controlled Trial)
コホート研究
症例対照研究
記述的研究
横断研究
症例報告
専門家の意見

2)がん検診の利益と不利益

がん検診による最大の利益は、早期発見によりがん死亡率が減少することです。個人に言い換えれば、がんの死亡リスクが減少するということになります。その他の利益としては、対象となるがんの罹患率の減少、QOLの改善、治療野の軽減などがあげられます。

がん検診の利益は受診する人にあまねく行き渡るわけではありません。がん検診には利益だけでなく、重大な不利益もあります。むしろ、この不利益こそが受診者に広く行き渡る可能性があります。がん検診は、対象となる臓器や検査の種類により、不利益の種類は異なります。しかし、どのようながん検診にも共通し、多くの人が遭遇する可能性のあるものは「偽陰性」、「偽陽性」と「過剰診断」です。

「偽陰性」とは、がんがあるにもかかわらず、正しく診断されないことです。いわゆる、見逃し例です。がん検診に限らず、検査の精度は100%ではありません。進行がんで発見された場合には、生命予後にも影響があります。しかし、早期の段階であれば、初回の検診でがんが診断できなかった場合でも、適切な間隔で検診を受け続けることにより、がんによる死亡を回避する可能性は高くなります。このため、がん検診は単発の受診ではなく、適切な間隔で受け続けることが必要です。

「偽陽性」とは、がんがないにもかかわらず、がんがあるかもしれないと診断されることです。具体的には、最初に受けたがん検診の結果、精密検査が必要と判断されることです。精密検査が必要となるのは、がんの疑いを除外するためと、がんであることを確かめるための2つの意味があります。こうした結果が出た場合には、専門の医療機関を受診し、精密検査を受ける必要があります。実は、要精密検査とされた場合でも、真にがんと判断される(陽性反応適中度)のは、胃がん検診では1.5%、最も可能性のある子宮頸がん検診でも4.8%にすぎません。むしろ、多くの人々が「がんではなかった」という結果を受け取ることになります。受診者は、精密検査のための身体的な負担や追加費用だけでなく、その結果が出るまでには精神的な不安を持つことも避けられません。

もう1つの重大な不利益に、「過剰診断」があります。がん検診で発見されるがんの中には、本来そのがんが進展して死亡に至るという経路をとらない、生命予後に関係のないものが発見される場合があります。こうした「がん」は消えてしまったり、そのままの状況にとどまったりするため、生命を脅かすことはありません。また、精度が高いとされる検査で発見される前がん病変も、すべてががんに進展するわけではなく、むしろがんになるのはほんの数%にすぎません。しかし、実際にがん検診を受けて「がん」として見つかったものについては、多くの場合は通常のがんと同様の診断検査や治療が行われます。診断検査や治療には、経済的だけでなく、身体的・心理的にも大きな負担を伴います。場合によっては、治療による合併症のために、その後の生活に支障をきたすこともあります。早期発見されたがんの中には、一定の過剰診断例が含まれていますが、がんの種類や検査法によりその割合は異なります。現在の医療では、どのようながんが進展し、生命予後に影響を及ぼすかはわかっていません。

3)がん検診ガイドラインの作成方法

平成15年度から、厚生労働省がん研究助成金「がん検診の適切な方法とその評価法の確立に関する研究」班(主任研究者 祖父江友孝)では、わが国独自のがん検診ガイドラインの作成手順を定式化しました。

有効性評価に基づくがん検診ガイドラインは図4の経緯を経て、作成されます。科学的根拠となる文献を抽出し、系統的総括を行い、死亡率減少効果についての証拠のレベル(表4)を判定します。不利益は、偽陰性・偽陽性・過剰診断とともに、検査方法ごとの受診者の負担や偶発症について対比し、さらに両者の評価から、推奨グレード(表5)を決定します。系統的総括の結果に基づき、各検診方法の死亡率減少効果と不利益に関する科学的根拠をエビデンステーブルとして整理し、わが国における対策型検診と任意型検診の実施について、推奨として総括します。
図4 有効性評価に基づくがん検診ガイドラインの作成過程
図 4 有効性評価に基づくがん検診ガイドラインの作成過程
表4 有効性評価に基づくがん検診ガイドラインの証拠のレベル
証拠レベル 主たる研究方法 内容
1++ 無作為化比較対照試験 死亡率減少効果について一致性を認める、質の高い無作為化比較対照試験が複数行われている
系統的総括 死亡率減少効果の有無を示す、質の高いメタ・アナリシス等の系統的総括が行われている
1+ 無作為化比較対照試験 死亡率減少効果について一致性を認める、中等度の質の無作為化比較対照試験が複数行われている
系統的総括 死亡率減少効果の有無を示す、中等度の質のメタ・アナリシス等の系統的総括が行われている
AF組み合わせ 証拠のレベル2++の観察研究により死亡率減少効果が証明されており、さらに無作為化比較対照試験により死亡率減少効果が証明された方法を比較対照とした研究において感度・特異度が同等以上であり、Analytic framework における一連の研究の組み合わせにより死亡率減少効果がより強く示唆される
1- 無作為化比較対照試験 死亡率減少効果について一致性が認められない、あるいは質の低い無作為化比較対照試験が行われている
系統的総括 死亡率減少効果の有無を示す、質の低いメタ・アナリシス等の系統的総括が行われている
2++ 症例対照研究/コホート研究 死亡率減少効果について一致性を認める、質の高い症例対照研究・コホート研究が複数行われている
地域相関研究/時系列研究 死亡率減少効果について質の高い地域相関研究・時系列研究が複数行われており、その結果は極めて一致性が高い
2+ 症例対照研究/コホート研究 死亡率減少効果について一致性を認める、中等度の質の症例対照研究・コホート研究が複数行われている
地域相関研究/時系列研究 死亡率減少効果について一致性を認める、質の高い地域相関研究・時系列研究が複数行われている
AF組み合わせ 1)死亡率減少効果の有無を示す直接的な証拠はないが、Analytic framework における重要な段階で、無作為化比較対照試験が行われており、一連の研究の連係により死亡率減少効果が示唆される
2)死亡率減少効果の有無を示す直接的な証拠はないが、証拠のレベルが2++の観察研究により死亡率減少効果が認められた検診方法を比較対照とした研究において感度・特異度が同等以上であり、死亡率減少効果が示唆される
2- 症例対照研究/コホート研究 死亡率減少効果について一致性が認められない、あるいは質の低い症例対照研究・コホート研究が行われている
地域相関研究/時系列研究 死亡率減少効果について一致性が認められない、あるいは質の低い地域相関研究・時系列研究が行われている
AF組み合わせ 死亡率減少効果の有無を示す直接的な証拠はないが、Analytic Frameworkを構成する複数の研究がある
3 その他の研究 横断的な研究、発見率の報告、症例報告など、散発的な報告のみでAnalytic Frameworkを構成する評価が不可能である
4 専門家の意見 専門家の意見
AF: Analytic Framework
注1) 研究の質については、以下のように定義する。
質の高い研究:バイアスや交絡因子の制御が十分配慮されている研究。
中等度の質の研究:バイアスや交絡因子の制御が相応に配慮されている研究。
質の低い研究:バイアスや交絡因子の制御が不十分である研究。
注2) 系統的総括について、質の高い研究とされるものは無作為化比較対照試験のみを対象とした研究に限定される。
無作為化比較対照試験以外の研究(症例対照研究など)を含んだ系統的総括の研究の質は、中等度以下と判定する。
注3) 各検診方法を評価するための研究において、死亡率減少効果について一致性を認められない場合には、証拠のレベルを下げることを考慮する。
注4) AF組み合わせによる評価を行う場合は、死亡率減少効果の確立した方法を比較対照とし、感度・特異度を測定することが原則である。
さらに、以下の条件を満たした場合には、同等の効果があると判断する。
(1)同種の検体を用い、かつ検査の基本的手技が同様であること、(2)死亡率減少効果の確立した方法と比較し、感度・特異度の両者が同等以上であること。
表5 有効性評価に基づくがん検診ガイドラインの推奨グレード
推奨 表現 対策型検診 注1)
(住民検診型)
任意型検診 注2)
(人間ドック型)
証拠のレベル
A 死亡率減少効果を示す十分な証拠があるので、実施することを勧める。 推奨する 推奨する 1++/1+
B 死亡率減少効果を示す十分な証拠があるので、実施することを勧める。 推奨する 推奨する 2++/2+
C 死亡率減少効果を示す証拠はあるが、無視できない不利益があるため、対策型検診として実施することは勧められない。

任意型検診として実施する場合には、安全性を確保し、不利益に関する説明を十分に行い、受診するかどうかを個人が判断できる場合に限り、実施することができる。
推奨しない 条件付きで実施できる 1++/1+/2++/2+
D 死亡率減少効果がないことを示す証拠があるため、実施すべきではない。 推奨しない 推奨しない 1++/1+/2++/2+
I 死亡率減少効果の有無を判断する証拠が不十分であるため、対策型検診として実施することは勧められない。

任意型検診として実施する場合には、死亡率減少効果が不明であることと不利益について十分説明する必要がある。その説明に基づく、個人の判断による受診は妨げない。
推奨しない 個人の判断に
基づく受診は妨げない
1-/2-/3/4
注1) 対策型検診は、公共的な予防対策として、地域住民や職域などの特定の集団を対象としている。
その目的は、集団におけるがんの死亡率を減少させることである。
対策型検診は、死亡率減少効果が科学的に証明されていること、不利益を可能な限り最小化することが原則となる。
具体的には、市区町村が行う老人保健事業による住民を対象としたがん検診や職域において法定健診に付加して行われるがん検診が該当する。
注2) 任意型検診とは、医療機関や検診機関が任意で提供する保健医療サービスである。
その目的は、個人のがん死亡リスクを減少させることである。
がん検診の提供者は、死亡率減少効果の明らかになった検査方法を選択することが望ましい。
がん検診の提供者は、対策型検診では推奨されていない検査方法を用いる場合には、
死亡率減少効果が証明されていないこと、および当該検診による不利益について十分説明する責任を有する。
具体的には、検診センターや医療機関などで行われている総合健診や人間ドックなどに含まれているがん検診が該当する。
注3) 推奨Iと判定された検診の実施は、有効性評価を目的とした研究を行う場合に限定することが望ましい。

国立がん研究センターがん予防・検診研究センター検診研究部「科学的根拠に基づくがん検診推進のページ」有効性評価に基づくがん検診ガイドライン作成手順

4)がん検診ガイドラインの推奨

標準化された方法に基づき、胃がん検診、大腸がん検診、肺がん検診、子宮頸がん検診のガイドラインが更新されました。乳がん検診については、まだ更新されていませんので、平成10年3月の厚生省老人保健推進費補助金 老人保健福祉に関する調査研究等事業「がん検診の有効性評価に関する研究班」報告書(主任研究者 久道 茂)の結果を示しています。

有効性評価に基づくがん検診ガイドラインについては完全版、簡略版以外にも、市民版、英文版があります。詳細は、国立がん研究センターがん予防・検診研究センター検診研究部「科学的根拠に基づくがん検診推進のページ」をご覧ください。

6.がん検診マネジメント

わが国におけるがん検診の精度管理は、必ずしも十分に行われておらず、都道府県格差があります。平成20年3月に、厚生労働省がん検診事業の評価に関する委員会により、わが国における今後の精度管理の在り方が示されました。

精度管理の向上には、1)目標と標準の設定、2)質と達成度のモニタリング・分析、3)改善に向けた取り組みの3段階があります(図5)。わが国におけるがん検診を推進するためには、この3段階における関係者(国、都道府県、市区町村、検診実施機関など)の役割を明確化し、その役割を担う必要があります。
図5 がん検診精度管理・事業評価推進のための3段階
図5 がん検診精度管理・事業評価推進のための3段階
目標と標準の設定については、精度管理のための評価指標として、「技術的・体制的指標」、「プロセス指標」、「アウトカム指標」が示されています(表6)。技術的・体制的指標は、がん検診実施のための構造を整理するため、検診実施機関における設備、医師・技師等の確保などの体制確保や実施手順の確立が求められています。一方、がん検診の最終的な目標であるアウトカム指標はがん死亡率ですが、有効性の確立したがん検診では、最終目標に至るまでの過程から、その改善を図るべきです。その指標としてプロセス指標があり、具体的には、がん検診受診率、要精検率、精検受診率、陽性反応適中度、がん発見率などが該当します。
表6 精度管理のための評価指標と具体例
指標 具体例
技術的・体制的指標 検診実施機関の体制確保(設備、医師・看護師・放射線技師など)
実施手順の確立(標準的撮影法、二重読影など)
プロセス指標 がん検診受診率、要精検率、精検受診率、陽性反応適中度、がん発見率
アウトカム指標 がん死亡率


がん検診受診率、要精検率、精検受診率、陽性反応適中度、がん発見率の定義は以下のとおりです。
がん検診受診率
対象集団のうち、スクリーニング検査を受診した者の割合
要精検率
がん検診受診者のうち、精密検査が必要と判断された者の割合
精検受診率
要精検者のうち、精密検査を受けた割合
陽性反応適中度
要精検者のうち、がんが発見された割合
がん発見率
がん検診受診者のうち、がんが発見された割合
厚生労働省「今後の我が国におけるがん検診事業評価の在り方について」報告書(がん検診事業の評価に関する委員会、平成20年3月)によるプロセス指標については、がん検診を適正に実施する上で基本的な要件である許容値と、理想として目標値が提示されました(表7)。
表7 各がん検診に関する精度管理指標と許容値・目標値
  乳がん 子宮頸がん 大腸がん 胃がん 肺がん
精検
受診率
許容値 80%以上 70%以上 70%以上 70%以上 70%以上
目標値 90%以上 90%以上 90%以上 90%以上 90%以上
未把握率

許容値 10%以下 10%以下 10%以下 10%以下 10%以下
目標値 5%以下 5%以下 5%以下 5%以下 5%以下
精検
未受診率
許容値 10%以下 20%以下 20%以下 20%以下 20%以下
目標値 5%以下 5%以下 5%以下 5%以下 5%以下
精検未受診・
未把握率

許容値 20%以下 30%以下 30%以下 30%以下 20%以下
目標値 10%以下 10%以下 10%以下 10%以下 10%以下
要精検率(許容値) 11.0%以下(※) 1.4%以下 7.0%以下 11.0%以下 3.0%以下
がん発見率(許容値) 0.23%以上(※) 0.05%以上 0.13%以上 0.11%以上 0.03%以上
陽性反応適中度(許容値) 2.5%以上(※) 4.0%以上 1.9%以上 1.0%以上 1.3%以上
(※)乳がん検診の要精検率、がん発見率および陽性反応適中度については、参考値とする
   (算出対象の平成17年度データはマンモグラフィ検診が本格実施された最初の年のものであり、
   初回受診者の割合が著しく高いことに影響され、過大評価されている可能性が高いため)。
またこの報告書では、がん検診の質と達成度のモニタリング・分析のために必要な各種がん検診について「事業評価のためのチェックリスト」や「仕様書に明記すべき必要最低限の精度管理項目」が提示されています。

7.受診率対策

1)受診率の算定

近年、わが国におけるがん検診の受診率が、欧米に比べ低い状況にあることが問題となっています。しかし、わが国におけるがん検診受診率は、必ずしも正確に把握されていません。市区町村の住民検診については、毎年の成果は地域保健・健康増進事業報告(旧地域保健・老人保健事業報告)としてまとめられています。しかし、この報告は住民検診に限定されたものであって、職域健診に付随して行われるがん検診や人間ドックは含まれていません。このため、平成16年から3年ごとに行われる国民生活基礎調査健康票の項目にがん検診の受診の有無が追加され、検診対象者への直接の調査が行われるようになりました。この国民生活基礎調査による受診率には、住民検診以外で受けた検診も含まれています。

表8は地域保健・健康増進事業報告と国民生活基礎調査による受診率を比較したものです。いずれの検診も、地域保健・健康増進事業報告より国民生活基礎調査の受診率は高くなっています。しかし問題点としては、国民生活基礎調査の回答者が、検診と診療を明確に区別して回答しているかがわからないため、診療で受けた検査が検診受診に含まれている可能性があります。

国民生活基礎調査による都道府県別受診率は集計表のダウンロードで閲覧できます。
表8 がん検診の受診率の比較(平成19年度)
調査報告 項目 胃がん
検診
大腸がん
検診
肺がん
検診
乳がん
検診
子宮頸
がん検診
地域保健・老人
保健事業報告
受診率 11.8% 18.8% 21.6% 14.2% 18.8%
国民生活基礎
調査
受診率 28.7% 24.9% 23.3% 20.3% 21.3%
注)対象年齢は、子宮頸がん検診は20歳以上、他のがん検診は40歳以上とした。
地域保健・健康増進事業報告(旧地域保健・老人保健事業報告)におけるがん検診受診率算出の問題点は、実施主体の市区町村により、がん検診の対象についての考え方が異なることです。これまで、市区町村によりその定義がさまざまであった対象人口を明確に定義し、市区町村間の比較ができるようになりました。標準算定法の分母・分子は以下のとおりです(図6)。各市区町村の受診率については、集計表のダウンロードで閲覧できます。
図6 標準算定法の概念
図6 標準算定法の概念
分母
  • 市区町村人口:国勢調査
  • 就業者数:国勢調査の第2次基本集計
  • 農林水産業従事者数:国勢調査の第2次基本集計
  • 要介護4・5の認定者
分子
地域保健・健康増進事業報告(旧地域保健・老人保健事業報告)における各がん検診受診者数

2)受診率対策の科学的根拠

がん検診の受診率を向上させるためにはさまざまな方法があります。本来はヨーロッパで行われている組織型検診に準じたがん検診システムを構築することが理想的ですが、わが国の現状からは急激な体制変化は望めません。しかしながら、検診対象者への介入(アプローチ)であれば、これまでの検証で有効性が認められたアプローチを参考に、効果的な受診率向上対策を立てることが可能です。

米国疾病予防管理センター(Centers for Disease Control and Prevention :CDC)では、乳がん検診・子宮頸がん検診・大腸がん検診の受診率向上対策に関する科学的根拠をまとめています。表9はその一部を抜粋したもので、検診対象者へのさまざまな介入方法について、有効性の有無をまとめたものです。これによると、いずれの検診でも手紙や電話などによる勧奨・再勧奨(コール・リコール)、スモールメディア(パンフレットやニュースレターなど)、1対1の教育(医療従事者が行う健康教育や啓発など)による身近な情報提供が受診率向上に効果的なことがわかっています。その他の方法については十分な評価がまだ行われていませんが、複合的アプローチ(さまざまな方法を組み合わせた複合的なアプローチ)はいずれの検診でも、受診率向上に効果的であると判断が下されています。
表9 乳がん検診・子宮頸がん検診・大腸がん検診の受診率対策に関する科学的根拠(CDC)
対象者への介入(アプローチ)方法 乳がん検診 子宮頸がん検診 大腸がん検診
手紙や電話などによる勧奨・再勧奨
(コール・リコール)
推奨 推奨 推奨
スモールメディア
(パンフレットやニュースレターなど)
推奨 推奨 推奨
1対1の教育
(医療従事者が行う健康教育や啓発など)
推奨 推奨 推奨
費用以外の障害の軽減
(例 休日夜間の受診、アクセス向上)
推奨 証拠不十分 推奨
自己負担費用の低減
(検診費用の補助など)
推奨 証拠不十分 証拠不十分
グループ教育
(講演など)
推奨 証拠不十分 証拠不十分
報奨のみ
(少額の現金やクーポン)
証拠不十分 証拠不十分 証拠不十分
マスメディア 証拠不十分 証拠不十分 証拠不十分
複合的アプローチ 推奨 推奨 推奨
これらの方法と並んで、受診率向上に影響を与えるのは、かかりつけ医からの受診勧奨です。かかりつけ医が個々の受診者の健康状態を把握した上で、必要な検診を勧めることは、受診者にとって、正しい知識に基づき受診を決定できることにつながります(Shared Decision Making、医療者と検診受診対象者の共同意思決定)。信頼できるかかりつけ医からの情報を基に、共同で意思決定をすることが、治療だけではなく、検診でも求められています。。

かかりつけ医によるがん検診の推奨は、がん検診の動機付けとして重要な役割を果たしています。平成22年3月には厚生労働省がん検診受診向上指導事業として、かかりつけ医が行う受診勧奨について、以下のマニュアルを作成しています。

かかりつけ医のためのがん検診ハンドブック 〜受診率向上をめざして〜
(平成21年度 厚生労働省がん検診受診向上指導事業、平成22年3月)


外部サイトへのリンク 厚生労働省 がん対策情報 「がん検診」 かかりつけ医ハンドブック
用語集
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