SUMMARY
学習目標
小児がんを取り巻く社会的な要請と小児がん拠点病院および相談支援センターに求められている役割について、基本的な知識を身につけることを目指します。
内容
小児がん患者が必ずしも適切な医療を受けられていない可能性があることへの懸念から、小児がんの診療および支援体制の充実や積極的かつ効果的な施策の展開が望まれ、第2期のがん対策推進基本計画の重点的に取り組むべき課題の1つに、小児がん対策が掲げられました。小児がん拠点病院において整備すべき要件が示され、平成25年2月には、全国15カ所の小児がん拠点病院が指定されました。がん相談専門員においても、これらの基本方針や小児がん拠点病院や相談支援センターに求められている役割はどのようなものかを理解し、日々の業務の中で実践していくことが求められます。
1.小児がん拠点病院の設置
小児がん患者が必ずしも適切な医療を受けられていない可能性があることへの懸念から、小児がん診療および支援体制の充実を図り、小児がんに関する積極的かつ効果的な施策を展開していく必要性が認識されるようになりました。平成24年5月「小児がん医療・支援のあり方に関する検討会」(以下「検討会」とする)が発足し、平成24年6月に閣議決定されたがん対策推進基本計画(以下「基本計画」という)においては、新たに小児がん対策が重点的に取り組むべき課題の1つとして掲げられました。基本計画の中では、小児がん患者とその家族が安心して適切な医療や支援を受けられるような環境の整備を目指し、5年以内に小児がん拠点病院と小児がんの全国の中核的な機関の整備を開始することが目標に定められています。
平成24年9月3日に取りまとめられた検討会の「小児がん医療・支援の提供体制のあり方について(報告書)」に基づいて、「小児がん拠点病院の整備に関する指針」(以下「指針」という)が策定されました(表2—1)。この指針の中で指定される小児がん拠点病院の役割や小児がん拠点病院に設置が義務づけられる相談支援センターの役割が示されています。
平成25年2月には全国15カ所の小児がん拠点病院が指定されました(表2—2)。また平成26年2月に、中央機関として、国立成育医療研究センターと国立がん研究センターが指定され、小児がん医療や支援の提供体制の整備が徐々に進められているところです。
表2ー1 「小児がん拠点病院の整備に関する指針」関連部分を一部抜粋
健発0907第2号
平成24年9月7日
最終改正 健発0205第4号
平成26年2月5日
各都道府県知事 殿
厚生労働省健康局長
小児がん拠点病院の整備について
別添
小児がん拠点病院の整備に関する指針
Ⅰ.小児がん拠点病院の指定について | |||
1. | 小児がん拠点病院(以下「拠点病院」という。)は、第三者によって構成される検討会の意見を踏まえ、厚生労働大臣が適切と認めるものを指定するものとする | ||
2. | 小児がん患者の数が限られている中、質の高い医療および支援を提供するためには、一定程度の医療資源の集約化が必要であることから、地域バランスも考慮し、当面の間、拠点病院を全国に10カ所程度整備するものとする。 | ||
3. | 厚生労働大臣が指定する拠点病院は以下の役割を担うものとする。 | ||
(1) | 地域における小児がん(思春期に発生するがんを含む。以下同じ。)医療および支援を提供する中心施設として、地域全体の小児がん医療および支援の質の向上に資すること。 | ||
(2) | 小児に多いがん(造血器腫瘍および固形腫瘍(脳腫瘍や骨軟部腫瘍)を含む。以下同じ。) のみならず、再発したがんおよび治療の難しいがんにも対応すること。 | ||
(3) | 成長期にあるという小児の特性を踏まえた、全人的な小児がん医療および支援を提供す ること。すなわち各職種が専門性を生かし協力して、患者のみならず、その家族やきょうだいに対しても、身体的なケア、精神的なケアを提供し、教育の機会の確保など社会的な問題にも対応すること。 | ||
(4) | 専門家による集学的治療および緩和ケアの提供、心身の全身管理の実施、患者とその家族に対する心理社会的な支援の提供、適切な療育・教育環境の提供、遊びを含む日常的な活動の確保、医師等に対する研修の実施、セカンドオピニオンの体制の整備、患者およびその家族ならびに医療従事者に対する相談支援体制の整備等を進めること。 | ||
(5) | 自施設が小児がん医療および支援に関して、優れた機能を有するのみならず、小児がん診療に携わる地域の医療機関と連携し、これらの医療機関の診療機能を支援すること。 | ||
(6) | 地域の小児がんに関する臨床研究を主体的に推進すること。 | ||
(7) | 地域の医療施設等と役割分担および連携を進め、患者が発育時期において可能な限り慣れ親しんだ地域にとどまり、他の子どもたちと同じ生活・教育環境の中で医療や支援 を受けられるような環境を整備すること。 | ||
(8) | 地域の中で長期にわたって、患者およびその家族の不安、治療による合併症および2次がんなどに対応できる体制を整備すること。 | ||
(9) | 医療機関の管理者は、(1)から(8)までの期待される役割を果たす責務を負っていることを十分に認識し、関係者に対して必要な支援を行うこと。 | ||
……(中略)…… | |||
Ⅱ.拠点病院の指定要件について | |||
3 | 情報の収集提供体制 | ||
(1) | 相談支援センター | ||
①および②に揚げる相談支援を行う機能を有する部門(「相談支援センター」という。なお相談支援センター以外の名称を用いても差し支えないが、その場合には、がん医療に関する相談支援を行うことがわかる名称を用いることが望ましい)を設置し、当該部門においてもアからキまでに揚げる業務を行うこと。なお、院内の見やすい場所に相談支援センターによる相談を受けられる旨の掲示をするなど、相談支援センターについて積極的に広報すること。 | |||
① | 小児がん中央機関による研修を修了した小児がん患者およびその家族等の抱える問題に対応できる専任の相談支援に関わる者1名以上を配置すること。 | ||
② | 院内および地域の医療従事者の協力を得て、院内外の小児がん患者およびその家族ならびに地域の住民および医療関係機関等からの相談などに関する体制を整備すること。また、相談支援に関し十分な経験を有する小児がん患者団体との連携協力体制の構築に積極的に取り組む こと。 | ||
相談支援センターの業務 | |||
ア | 小児がんの病態、標準治療法等小児がん診療に関する一般的な情報の提供 | ||
イ | 領域別の小児がん診療機能、診療実績および医療従事者の専門とする分野・経歴など、地域の医 療機関および医療従事者に関する情報収集、提供 | ||
ウ | セカンドオピニオンの提示が可能な医師の紹介 | ||
エ | 小児がん患者の発育、教育および療育上の相談 | ||
オ | 地域の医療機関および医療従事者等における小児がん診療の連携協力体制の事例に関する情報の収集、提供 | ||
カ | 必要に応じて、地域の医療機関に対して相談支援に関する支援を行うこと | ||
キ | その他相談支援に関すること |
表2ー2 小児がん拠点病院に指定された施設一覧(平成25年2月8日付け)
ブロック | 都道府県 | 医療機関名 | がん診療連携拠点病院* |
---|---|---|---|
北海道 | 北海道 | 国立大学法人北海道大学 | ○ |
東北 | 宮城 | 東北大学病院 | ○ |
関東・信越 | 埼玉 | 埼玉県立小児医療センター | |
東京 | 独立行政法人国立成育医療研究センター | ||
東京 | 東京都立小児総合医療センター | ||
神奈川 | 地方独立行政法人神奈川県立病院機構 神奈川県立こども医療センター |
||
東海・北陸 | 愛知 | 名古屋大学医学部附属病院 | ○ |
三重 | 三重大学医学部附属病院 | ○ | |
近畿 | 京都 | 京都大学医学部附属病院 | ○ |
京都 | 京都府立医科大学附属病院 | ○ | |
大阪 | 地方独立行政法人大阪府立病院機構 大阪府立母子保健総合医療センター |
||
大阪 | 大阪市立総合医療センター | ○ | |
兵庫 | 兵庫県立こども病院 | ||
中国・四国 | 広島 | 広島大学病院 | ○ |
九州 | 福岡 | 九州大学病院 | ○ |
厚生労働省ホームページ > 報道・広報 > 報道発表資料 > 2013年2月 > 小児がん拠点病院の指定について
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000002v0nz-att/2r9852000002v0rt.pdf より
*:○のついた番号の施設は、「がん診療連携拠点病院」の指定も受けている施設
2.相談支援センターとがん専門相談員の役割
小児がん拠点病院の相談支援センターの役割は、「院内外の小児がん患者およびその家族ならびに地域の住民および医療機関等からの相談等に関する体制を整備すること」と指針に示されています。では、相談者を目の前にしたときのがん専門相談員の役割とはどのようなものでしょうか。
小児がんに先行して、平成18年2月から整備が進められているがん診療連携拠点病院においても、必ずがん相談支援センターが置かれ、国立がん研究センターで提供される研修を修了したがん専門相談員(以下、相談員という)が配置されています。そこでは、がん専門相談員の役割は、「がん患者や家族等の相談者に、科学的根拠とがん専門相談員の実践に基づく信頼できる情報提供を行うことによって、その人らしい生活や治療選択ができるように支援する」ことと定義され、研修と相談対応の実践が行われています。
小児がんの場合にも、がん専門相談員の役割として目指すところは同じだと考えられます。さらに小児がんの相談の特徴、小児の成長期にあるという小児の特性を踏まえた全人的な小児がんの医療および支援を考慮するならば、小児がん専門相談員の役割は、「がん患者や家族等の相談者に、科学的根拠とがん専門相談員の実践に基づく信頼できる情報提供を行うことによって、その子の発達段階に応じた生活が選択できるように支援する」ことであると考えられます。
相談者に対して、提供できる信頼できる情報を準備し、提供できるようにしておくとともに、その子の発達段階に応じた生活の選択ができるよう、選択肢にあたる支援や情報を準備しておくことも、相談員が行う重要な役割です。
3.小児がん拠点病院の相談支援センターに期待される地域における役割
小児がんに対応する医療機関には、小児を専門とする「小児病院」、多くは大人を対象とする医療機関の中の「小児病棟」、小児病棟もない医療機関の「一般病棟」などさまざまな場があります。こうした医療機関の地域における役割の違いや機能の違いにより、相談支援センターの小児がんの就学に関する支援の対応範囲は変わってくると思われます。また都市部か、地方かなどによっても、活用できる社会資源は異なります。このような中で、小児がん拠点病院の相談支援センターとして、小児がんの就学に関するノウハウを蓄積していくことは重要となってくるでしょう。そしてその蓄積したノウハウを共有してさらに必要な支援やよりよい支援のあり方を検討していくことが、小児がんの就学の支援の日本全国の質の向上につながっていくと考えられます。