「プロセス指標」とは、がん検診の精度管理指標の1つであり、検診が正しく行われているかを評価するためのものです。このページでは、各プロセス指標の意義や、解釈の仕方、最新の全国の水準を都道府県別のグラフで掲載しています。
1.がん検診の精度管理と評価指標
-
がん検診の目的は、がんを早期に発見し適切な治療を行うことによりがん死亡率を減らすことです。研究で示されたがん検診の効果(死亡率減少効果)を、実際の現場で十分に発揮するのは容易なことではなく、そのためには、質の高い検診を安定的に行う仕組み(精度管理)が必要不可欠なことが海外の事例であきらかになっています。精度管理とは死亡率減少を実現するための核となる仕組みです。
わが国のがん検診には、自治体で受けるがん検診(住民検診)、職場で受ける検診、人間ドックなどさまざまな種類の検診がありますが、現時点では国の対策に沿って精度管理の仕組みを整備すべきことが明示されているのは住民検診だけです。他の検診では検診機会の提供までにとどまっていることが多く、そのあとの死亡率減少にまで結びつけるための精度管理の仕組みは、通常整備されていないのが現状です。
-
がん検診の精度管理の水準は、「技術・体制指標」と「プロセス指標」の指標によって把握します。
「技術・体制指標」とは、がん検診に関わる自治体(都道府県、市区町村)、検診機関(医療機関)が最低限整備すべき体制のことで、国は「事業評価のためのチェックリスト」として公表しています。自治体や検診機関は、この「事業評価のためのチェックリスト」を遵守するよう国から求められています。
「プロセス指標」とは、それぞれの体制の下で行った検診の結果のことで、精検受診率、要精検率、がん発見率、陽性反応適中度などが代表的です。これらは市区町村(がん検診の実施主体)や保健所が毎年国へ報告する「地域保健・健康増進事業報告※」から算出でき、都道府県別、市区町村別に把握できます。※地域住民の健康の保持および増進を目的とした保健施策に関する統計資料です。がん検診の項目では、がん種ごとに、受診者数、要精検者数、がん発見者数等がまとめられており、政府統計のポータルサイトe-statで閲覧できます。
-
国のがん対策(がん対策推進基本計画)では、「すべての市区町村で精度管理が行われること」を目標の1つとして掲げており、自治体や検診機関に対し、自らの検診技術・体制指標とプロセス指標を点検し、一定の水準に満たない場合は改善することを求めています。
これを受け、国は平成20年にプロセス指標が適切であるかを評価するための基準値※1として、許容値(最低限保つべき水準)、目標値(今後目指すべき水準)を設定し、まずは許容値の達成を都道府県に求めました。その後、多くの自治体が基準値を満たすようになったことから、国はさらなる精度管理の向上を目指してプロセス指標基準値の見直しを行いました※2。新しい基準値では、全国の標準的な性・年齢階級に基づいた基準値(上限74歳、上限69歳)の他に、男女別・年齢5歳階級別・検診受診歴別の基準値が示され、自治体によって対象集団に偏りがある場合は、それぞれの対象集団に応じた基準値を用いた評価が可能になりました。
※1がん検診事業の評価に関する委員会「今後の我が国におけるがん検診事業評価の在り方について(平成20年3月)別添6」
※2厚生労働省「がん検診のあり方に関する検討会」の報告書「がん検診事業のあり方について(令和5年6月)」
以下、各プロセス指標別に、その意味や、指標が不適切である場合に自治体に求められる対策、近年の水準を都道府県別プロセス指標(グラフ)とともに簡単にお示します。
なお、本ページでは全国の標準的な性・年齢階級に基づき、「上限74歳」、「男女計」、「受診歴計(初回・非初回計)」、胃がん(X線)・乳がん検診では「検診間隔2年」、肺がんでは「検診以外の肺に関する検査の受診なし」について算出された基準値を用います。グラフの元データ
プロセス指標データ:「がん検診に関する統計データのダウンロード 3.がん検診のプロセス指標(住民検診)」
2.全国のプロセス指標値(都道府県別)
以下、「胃がん検診(エックス線)」「大腸がん検診」「肺がん検診(エックス線、喀痰細胞診との併用含む)」「乳がん検診」「子宮頸がん検診」の各プロセス指標値について解説します。
1)精密検査(精検)受診率
-
- 精検が必要と判断された人(要精検者)のうち、精検を受けた人の割合です。
- 要精検者が実際に精検を受けたかを測る指標で、高いほうが望ましく、本来は100%を目指すべき指標です。
- 精検受診率が低い場合は、検診で早期発見が可能であったはずのがんを発見できず、検診の効果がありません。
また、精検結果の把握率が低いと、精検を受診したかどうかも把握することができず、精検受診率は低くなります。
-
精検受診率が低い背景要因を検討し、対策を講じる必要があります。
まずは、精検結果をしっかりと把握できているかを確認する必要があります。精検結果の把握体制に不備がある場合は、結果をもれなく回収する体制を整備する必要があります。
次に、精検の未受診者に対しては、精検の受診勧奨を強化する必要があります。
一方で、精検可能な医療機関を紹介しているか、医療機関の精検処理能の不足により、受診までに過度な待ち日数が生じていないか、など精検供給体制の状況を確認し、その結果に応じた改善策を検討する必要があります。
-
がん種別の全国値では、乳がん検診が最も高く(90.1%)、次いで肺がん検診(83.4%)、胃がん検診(エックス線)(81.2%)、子宮頸がん検診(76.7%)、大腸がん検診(71.4%)の順です。
国の基準値を満たしていない都道府県は乳がん検診で最も少なく(15県)、次いで肺がん検診(34県)、胃がん検診(エックス線)(41県)、子宮頸がん検診で(42県)、大腸がん検診(47県)です。
2)要精検率
-
- がん検診受診者のうち、精検が必要と判定された人(要精検者)の割合です。
- 検診で精検の対象者が適切に絞られているかを測る指標で、基本的には低いほうが望ましい指標です。
ただし要精検率が低すぎる場合は、がんの見逃し(偽陰性:本来陽性の人を誤って陰性と判定している)が多い可能性があります。
また、がん検診の対象者(健康な人)のうち、実際にがんに罹患(りかん)している人はごくわずかです(例:胃がん検診では1万人中10人程度)。したがって、要精検率が高い場合は不必要な陽性判定(偽陽性:本来陰性の人を誤って陽性と判定している)によって、本来うけなくてもよいのに精検をうける人が多い可能性がありますので、これを極力抑える必要があります。 - 要精検率は受診者の特性(がんのリスクが高い/低い)にも影響されます。
受診者に有症状者(すでに症状があり、本来がん検診の対象でない人)が多い場合、受診者にがん罹患率の高い年齢層や、はじめて受診する人が多い場合は、要精検率は高くなります。逆に、受診者にがん罹患率の低い年齢層や、定期的に受診している人が多い場合は、要精検率は低くなります。
-
要精検率が高い、あるいは極端に低い背景要因を検討し、対策を講じる必要があります。
まずは、受診者の特性をよく分析し、有症状者をきちんと診療へと誘導するような体制の整備や、検診を定期的に受診してもらえるように、受診率の低い層への重点的な受診勧奨を行うなどの対策を検討する必要があります。
次に、検査の精度と関連している可能性のある、検診機関(医療機関)の検査方法、検査体制、判定基準などを確認し、これらが不適切な場合は、改善する必要があります。
-
国の基準値を満たしていない都道府県は、肺がん検診で最も少なく(5県)、次いで胃がん検診(エックス線)(7県)、子宮頸がん(20-39歳)(40-74歳)(13県)、乳がん検診(17県)、大腸がん検診(19県)の順です。ただし上述のとおり、要精検率は受診者の特性に影響を受けるので、数値の単純比較だけで評価することはできません。
3)がん発見率
-
- がん検診受診者のうち、がんが発見された人の割合です(子宮頸がん検診ではCIN3以上(子宮頸部浸潤がん、AIS、CIN3)が発見された人の割合)。
- 検診で適切な頻度でがんを発見できたかを測る指標で、基本的には高いほうが望ましい指標です。
がん発見率が低い場合は、がんの見逃し(偽陰性:本来陽性の人を誤って陰性と判定している)が多い可能性があります。 - がん発見率は受診者の特性(がんのリスクが高い/低い)に影響されます。
受診者にがん罹患率の低い年齢層や、定期的に受診している人が多い場合は、がん発見率は低くなります。逆に受診者にがん罹患率の高い年齢層や、はじめて受診する人が多い場合は、発見率は高くなります。
受診者の中に有症状者(すでに症状があり、本来がん検診の対象でない人)が多い場合、がん発見率は極端に高くなります。 - その他、精検受診率が低い場合には、(もし精検を受けていれば)発見されたはずのがんが発見されていない可能性や、精検で発見されたがん(精検結果)が把握されていない可能性があり、がん発見率の正しい評価ができません。
-
がん発見率が低い、あるいは極端に高い背景要因を検討し、対策を講じる必要があります。
まずは、受診者の特性をよく分析し、有症状者をきちんと診療へと誘導するような体制の整備や、検診を定期的に受診してもらえるように、受診率の低い層への重点的な受診勧奨を行うなどの対策を検討する必要があります。
次に、検診および精密検査の精度と関連している可能性のある、医療機関(検診機関、精検機関)の検査方法、検査体制、判定基準などを確認し、これらが不適切な場合は、改善する必要があります。
また、精検受診率が低く、正しい評価が難しい場合は、精検受診率をあげる対策を優先的に行う必要があります。
-
国の基準値を満たしていない都道府県は子宮頸がん検診(20-39歳)で最も少なく(12県)、次いで子宮頸がん(40-74歳)(31県)、大腸がん検診(33県)、乳がん検診(37県)、胃がん検診(エックス線)と肺がん検診(47県)の順です。ただし上述のとおり、がん発見率は受診者の特性に影響を受けますので、数値の単純比較だけで評価することはできません。
4)陽性反応適中度
-
- 精検が必要と判定された人(要精検者)のうち、がんが発見された人の割合です(子宮頸がん検診ではCIN3以上(子宮頸部浸潤がん、AIS、CIN3)が発見された人の割合)。
- 検診で効率よくがんが発見されたか(陽性判定が正しかったか)を測る指標で、基本的には高いほうが望ましい指標です。
陽性反応適中度が低い場合は、不必要な陽性判定(偽陽性:本来陰性の人を誤って陽性と判定している)が多い可能性があります。 - 陽性反応適中度は受診者の特性(がんのリスクが高い/低い)に影響されます。
受診者にがん罹患率の低い年齢層や、定期的に受診している人が多い場合は、陽性反応適中度は低くなります。逆に受診者にがん罹患率の高い年齢層や、はじめて受診する人が多い場合は、陽性反応適中度は高くなります。受診者の中に有症状者(すでに症状があり、本来がん検診の対象でない人)が多い場合、陽性反応適中度は極端に高くなります。 - その他、精検受診率が低い場合には、(もし精検を受けていれば)発見されたはずのがんが発見されていない可能性や、精検で発見されたがん(精検結果)が把握されていない可能性があり、陽性反応適中度の正しい評価ができません。
-
陽性反応適中度が低い、あるいは極端に高い背景要因を検討し、対策を講じる必要があります。
まずは、受診者の特性をよく分析し、有症状者をきちんと診療へと誘導するような体制の整備や、検診を定期的に受診してもらえるように、受診率の低い層への重点的な受診勧奨を行うなどの対策を検討する必要があります。
次に、検診および精密検査の精度と関連している可能性のある、医療機関(検診機関、精検機関)の検査方法、検査体制、判定基準などを確認し、これらが不適切な場合は、改善する必要があります。
また、精検受診率が低く、正しい評価が難しい場合は、精検受診率をあげる対策を優先的に行う必要があります。
-
国の基準値を満たしていない都道府県は子宮頸がん検診(20-39歳)で最も少なく(7県)、次いで子宮頸がん(40-74歳)(23県)、大腸がん検診(27県)、乳がん検診(28県)、肺がん検診(42県)、胃がん検診(エックス線)(43県)の順です。ただし上述のとおり、陽性反応適中度は受診者の特性に影響を受けますので、数値の単純比較だけで評価することはできません。
グラフの元データ
プロセス指標データ:「がん検診に関する統計データのダウンロード 3.がん検診のプロセス指標(住民検診)」
基準値:「がん検診について 6.がん検診マネジメント」表5 各がん検診に関する精度管理指標と基準値