1.病期(ステージ)と治療の選択
小児のリンパ腫は病型によって行う治療が異なります。
1)病期
病期はがんがどのくらい進行しているかを示す言葉でステージともいいます。リンパ腫ではⅠ期、Ⅱ期、Ⅲ期、Ⅳ期の4つに分けられます。進行の程度によって治療法や予後が変わってきます。 ホジキンリンパ腫では修正Ann Arbor分類(表1)、非ホジキンリンパ腫ではMurphy分類(表2)が広く用いられています。
病期Ⅰ | Ⅰ | 単独でリンパ節領域に病変がある |
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ⅠE | リンパ節になく単独でリンパ節外臓器にあるか、 部位が限局して病変がある (ホジキンリンパ腫では稀) |
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病期Ⅱ | Ⅱ | 横隔膜の同側に2つ以上のリンパ節領域の 病変がある |
ⅡE | リンパ節の病変と関連しているリンパ節外臓器 または部位の限局した病変 (横隔膜の同側にあるその他のリンパ節領域の 病変はあってもなくてもよい) |
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病期Ⅲ | Ⅲ | 横隔膜の両側にあるリンパ節領域に病変がある |
ⅢE | および隣接するリンパ節病変と関連して限局した リンパ節外進展を伴う |
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ⅢS | および脾臓病変を伴う | |
ⅢE+S | リンパ節外進展および脾臓病変を伴う場合 | |
病期Ⅳ | Ⅳ | リンパ節病変の有無を問わず、1つ以上の非連続な リンパ節外領域の病変がある |
全身症状 | A:症状あり B:症状なし |
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病期Ⅰ | 1)単一の節外性病変または単一のリンパ節領域内に局在した病変 (ただし縦隔と腹部病変は除く) |
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病期Ⅱ | 1)単一の節外性病変で領域リンパ節の浸潤を伴うもの |
2) 横隔膜の同一側にある (2a)2カ所以上のリンパ節領域の病変 (2b)2カ所の節外性病変(所属リンパ節浸潤の有無は問わない) ※ |
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3)肉眼的に全摘された消化管原発の病変(通常は回盲部) (隣接する腸間膜リンパ節への浸潤の有無は問わない) |
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病期Ⅲ | 1)横隔膜の両側にある2カ所の節外性病変 ※ |
2)横隔膜の両側にある2カ所以上のリンパ節領域の病変 | |
3)胸郭内(縦隔、胸膜、胸腺)の病変 | |
4)腹部原発の広範囲におよぶ病変で、全摘不能であったもの | |
5)傍脊髄または硬膜外の病変(他の病変部位の有無は問わない) | |
病期Ⅳ | 1) 発症時に中枢神経系または骨髄(腫瘍細胞が25%未満)に浸潤があるもの (原発巣は上記のいずれでもよい) |
2)治療の選択
小児のリンパ腫は多くの場合、治癒が期待できるため、病型に沿った標準治療を選択することが重要です。また、同じ病型でもリスク分類などを用いて最適な治療を選択する層別化治療(※)が行われます。標準治療が確立されていない場合は、臨床試験への参加も選択の1つです。治療の初期段階に発生しやすい腫瘍崩壊症候群をはじめとしたがん救急(oncologic emergency:腫瘍に関連した緊急を要する状態)の管理も、治療を開始する前から重要となります。
近年では、卵子や精子、受精卵を凍結保存する「妊孕性温存治療」という選択肢も加わってきました。妊孕性温存治療ができるかどうかについて、治療開始前に担当医に相談してみましょう。
※層別化治療:患者をリスクに応じて層別化して行う治療のこと。予後良好(治りやすい)の場合は比較的副作用のリスクの低い治療を行い、予後不良(治りにくい)の場合は強力な治療を発症後早期から行います。
2.ホジキンリンパ腫の治療
治療は、病期や巨大腫瘤の有無などから層別化されて行われます(図3)。数種類の細胞障害性抗がん薬(以下、抗がん剤)を組み合わせて投与する多剤併用化学療法と病変領域への低線量放射線治療が標準治療です。
3.非ホジキンリンパ腫の治療
1)成熟B細胞性リンパ腫
バーキットリンパ腫と、びまん性大細胞型B細胞性リンパ腫は、成熟B細胞性リンパ腫として同じ治療を行い、化学療法のみの短期集中型治療法が推奨されます。病期・体内の腫瘍量・骨髄や中枢神経への浸潤の有無などを基に層別化治療を行います(図4)。
代表的な標準治療は、限局期(病期ⅠまたはⅡ)で腫瘍部分を完全切除できていれば、4種類の薬剤(ビンクリスチン・プレドニゾロン・ドキソルビシン・中等量シクロホスファミド)による治療を2コース行うのが標準的です。体内に腫瘍が残っていれば、治療期間の延長や薬剤(メトトレキサート)の追加が検討されます。限局期の標準的な治療期間は2~3カ月です。
進行期で腹部の腫瘍が多くを占める病期Ⅲでは、まず体の中の腫瘍量を減少させるために前治療(5~7日間の化学療法:プレドニゾロン投与にビンクリスチンやシクロホスファミドを追加)を行います。その後、限局期と同じ4種類の薬剤に大量メトトレキサートを加えた治療を4~6コース行います。
また、病期Ⅳで中枢神経に浸潤している場合は、大量メトトレキサートを増量するとともに、最低2コースの化学療法(大量シタラビンとエトポシド)を追加します。進行期の標準的な治療期間は4~6カ月です。
病期Ⅲの一部および病期Ⅳでは、近年リツキシマブを併用した化学療法の有用性が報告され、標準治療として確立されつつあります。
2)リンパ芽球性リンパ腫
急性リンパ性白血病とほぼ同じ治療を行います(図5)。まず、寛解導入療法として、3種類の薬剤(プレドニゾロン・ビンクリスチン・L-アスパラギナーゼ)に、アルキル化剤およびアントラサイクリン系の抗がん剤を加えた治療を行います。その後、寛解の程度を深める強化療法と、中枢神経への浸潤予防の治療を行った後に、さらに寛解を維持する維持療法を行い、再発予防、治癒を目指します。
3)未分化大細胞型リンパ腫
予後因子に基づいて治療を行います(図6)。全身型で中枢神経系病変がない場合は、シクロホスファミド・メトトレキサート・プレドニゾロン/デキサメタゾン・ドキソルビシンを中心にシタラビン・エトポシドの薬剤を組み合わせて行うALCL99という短期集中型治療などが行われます。中枢神経に病変がある場合、皮膚だけに病変が限局した場合は標準治療が確立しておらず、それぞれの場合に応じて治療方針が選択されます。
4)思春期・若年成人のリンパ腫
15歳から20歳前後の思春期・若年成人に発症したリンパ腫では、病型によっては成人のための標準治療よりも小児のための治療法の方が治療成績は良好であったとする報告があります。
例えば、リンパ芽球性リンパ腫では、成人の高悪性度リンパ腫の治療法よりも、小児の急性リンパ性白血病の治療法の方が効果が高い可能性があります。また、バーキットリンパ腫や、びまん性大細胞型B細胞性リンパ腫でも、小児の成熟B細胞性リンパ腫で行う短期集中型治療法の方が、成人型の治療法よりも効果が高い可能性があります。
4.緩和ケア/支持療法
がんになると、体や治療のことだけではなく、学校のことや、将来への不安などのつらさも経験するといわれています。
緩和ケアは、がんに伴う心と体、社会的なつらさを和らげます。がんと診断されたときから始まり、がんの治療とともに、つらさを感じるときにはいつでも受けることができます。
支持療法とは、がんそのものによる症状やがんの治療に伴う副作用・合併症・後遺症を軽くするための予防、治療およびケアのことを指します。
本人にしか分からないつらさもありますが、幼い子どもの場合、自分で症状を表現することが難しいこともあります。そのため、周りの人が本人の様子をよく観察したり、声に耳を傾けたりすることが大切です。気になることがあれば積極的に医療者へ伝えましょう。
5.再発した場合の治療
再発とは治療によって検査上がんが認められなくなった後に、再びがんが出現することをいいます。治療後は、定期的に通院して経過をみることが大切です。
再発・難治性の非ホジキンリンパ腫の確立された治療法はありませんが、今まで行われた治療と、現在の患者の状態に応じて、初発時とは異なる抗がん剤の組み合わせで行う救援化学療法が検討されます。救援化学療法で効果がみられた場合には、造血幹細胞移植を行うこともあります。
2022年08月17日 | 専門家による確認の上、構成を変更し、内容を更新しました。 |
2021年11月08日 | 関連情報に「小児白血病・リンパ腫の診療ガイドライン 第5章リンパ腫」へのリンクを追加しました。 |
2018年03月07日 | 4タブ形式に変更し、「臨床試験」の項目を追加しました。 |
2017年01月27日 | 「小児白血病・リンパ腫診療ガイドライン 2016年版」「造血器腫瘍取扱い規約 2010年3月(第1版)」より内容を更新し、「小児の血液がん治療における臨床試験」および「新規治療」の項目を削除しました。 |
2016年07月08日 | ホジキンリンパ腫の治療の図タイトルを「図2 小児のリンパ芽球性リンパ腫の病期と治療の流れ」から、「図1 小児のホジキンリンパ腫の病期と治療の流れ」に修正しました。 |
2014年04月22日 | 2013年6月発行の冊子とがん情報サービスの情報を再編集し、掲載しました。 |