HOME > 診療支援 > 診療ガイドライン等 > ガイドラインとは

ガイドラインとは

更新日:2014年03月06日 [ 更新履歴 ]
更新履歴
2014年03月06日
2008年09月17日 掲載しました。

1.ガイドラインとは何か

ガイドラインの正式な定義として、最も頻繁に引用されるのは米国医学研究所(Institute of Medicine)による定義であり、ここでは、「医療者と患者が特定の臨床状況での適切な診療の意思決定を行うことを助ける目的で系統的に作成された文書」とされている1。1998〜1999年に、厚生労働省・医療技術評価推進検討会で科学的根拠に基づく医療(Evidence-Based Medicine; EBM)を普及させるために、ガイドラインの作成に研究助成を行うことが決定されてから2、ガイドライン作成が促進され、さまざまながん種(乳がん、肝がん、大腸がん、胃がんなどなど)についてガイドラインが作成されている。そのほとんどは医療者向けであるが、乳がん、胃がん、大腸がん、子宮がん・卵巣がんなど患者向けに解説したガイドラインも存在する。

2.ガイドラインはなぜ必要なのか

ガイドラインには以下のような効果がある。

1)最新の臨床研究に基づいた質の高い診療の普及

医学は進歩するものであり、進歩は通常、研究発表という形で表れる。しかし、臨床現場は通常、非常に忙しいため、すべての研究発表を絶えず情報収集していくのは至難の業である。そのため、その場で最新の知見をわかりやすい形でまとめて、個々の医療者が情報を探し回る非効率を改善することにより、最新の標準や推奨に関する情報を現場に行き渡りやすくすることが診療の質を保つために重要である。

2)標準策定の機会

ガイドラインの策定という場で、専門家間においても標準や推奨を明確に決める機会が提供されるという一面がある。それまで結論を出さずにあいまいに診療がなされていた部分についての議論が深まる。もちろん、標準というほど確立したものが明確にできる分野がどれほどかは未知数的な部分があるが、少なくともこれを意識した議論の場が提供される。

3)推奨される診療の可視化、コミュニケーション・ツールとしての側面

高度な専門家以外にも現時点での推奨がどのようなものであるかが明確になり、非専門医、医師以外の医療者、患者にも、一般に推奨される診療がどのようなものであるかが簡単に理解できるようになる。

3.ガイドラインの種類と構成要素

ガイドラインには、(1) 臨床的課題(リサーチクエスチョン/クリニカルクエスチョン:CQ)形式のものと、(2) 教科書形式のものがある。(1) は、現場においてよく遭遇すると思われる疑問や課題(○○な患者に対して、△△をしたほうがよいのか)をまず設定し、その疑問に答えるために文献検索などを行った回答をもってその推奨とするものである。(2) は系統的に、病期(ステージ)ごとの知見をまとめる、という形式をとる。前者は疑問に対しては明確な答えが出るものの、対象とする臨床状況の範囲が限られる傾向にあるのに対し、後者は包括的であるが、推奨が確定していないことも対象範囲に含まれることも多くなり、あいまいになってしまう傾向がある。前者の例に乳がん、肝がん、後者の例に、肺がん、大腸がん、胃がんがある。このため近年は(1)CQ形式で記載されることが多くなってきている。

ガイドラインでは検査や治療方法などの臨床的課題(CQ)を設定する。CQの構成要素としては一般的に、PICOが用いられる。すなわち、
・P(Patients、Problem、Population)
 介入の対象となる患者特性(性別や年齢など)
 疾患や病態、症状など
 特定の地理的条件や施設的要件など
・I/C(Interventions/Comparisons、Controls)
 Pに対して行うことを推奨するかどうか検討したい介入
 介入の期間、用量、投与方法などの要素
 プラセボ(偽薬)、標準治療群か、などの比較する群
・O(Outcomes)
 どの介入が最も推奨されるか判断するための基準となるアウトカム

4.科学的根拠に基づくガイドライン策定とは

1)具体的手順

ガイドラインの中には、科学的根拠、EBMの手法と意識して表題に記載しているものがある。ガイドラインは必ずしも科学的根拠に基づいたものばかりではないが、Evidence-Based Medicine(科学的根拠に基づく医療)の考え方が広まり、その手法に基づいて策定されるのが望ましいとされている。この手法は、一般に、(1) 発表されている研究を文献データベースから網羅的に拾い上げ、(2) それを専門家が研究方法などについて吟味することで取捨選択してまとめ、(3) それらの根拠に基づいて、さまざまな臨床状況における推奨を決定する、というものである。

2)エビデンス・レベル

この (2) の研究吟味において重視される研究方法をわかりやすいように類型化して信頼度の目安を作ったのが、エビデンス・レベル(証拠のレベル)と呼ばれるものである。一般にランダム化比較試験といって、コインを振って出た表裏の面で治療群・非治療群を決めて比較する研究デザインの研究は、エビデンス・レベルが高いとされる。そのランダム化比較試験を複数集めて検討した系統的レビューが最もレベルが高く、そのような科学的データによる根拠に基づかない専門家の意見は低いとされる。しかし、これも、さまざまな団体が多様な基準を作っているため、エビデンス・レベルの記述のある文献を読む場合にはどのような基準が作成されているのかを確認する必要がある。下記はエビデンス・レベルの1例として、「外部サイトへのリンク診療ガイドライン作成の手引き20073で採用されているエビデンス・レベルである。
I システマティック・レビュー/RCTのメタアナリシス
II 1つ以上のランダム化比較試験による
III 非ランダム化比較試験による
IVa 分析疫学的研究(コホート研究)
IVb 分析疫学的研究(症例対照研究、横断研究)
V 記述研究(症例報告やケース・シリーズ)
VI 患者データに基づかない、専門委員会や専門家個人の意見
なお、システマティック・レビュー/RCTのメタアナリシスが、最上位に位置しているが、メタアナリシスとは、複数の研究を統合して統計解析を行う手法であることから、個々のRCTの質や均一性に影響される。そのため必ずしも、RCTよりも上位に位置するわけではなく、相互補完的に臨床的知見を構築していくものとして考えるべきという意見もある。また、エビデンス・レベルとは、研究の分類による結論の強さの一般的傾向を順位付けしたものであり、研究の他の要素によってもその結論の強さが影響されることにも留意して、総合的に評価する姿勢が必要である。

3)推奨グレード、推奨度

エビデンス・レベルに加えて、この推奨の確信度合いについてもわかりやすいように分類したものが、「推奨グレード」と呼ばれるものである。このグレードの付け方はガイドラインによって異なるが、通常はA〜Dに分類され、グレードAはある治療法を行うことを「強く勧める」、Bは「勧める」、Cは「勧めるかどうかあまりはっきりしない」、Dは「行わないように勧める」と分類されている。ただし、すべてのガイドラインがこの定義を採用しているとは限らないので、それぞれのガイドラインの注意書きを読む必要がある。

4)推奨グレードとエビデンス

一般にエビデンス・レベルの高いことがらほど、確信をもって推奨できるとされている。しかしながら、推奨グレードはエビデンス・レベルと必ずしも1対1に対応するわけではない4。エビデンス・レベルは、研究のデザインを中心に決定され、アウトカムの適切性、測定の適切性、効果の大きさ、効果と弊害のバランス、対象者の適切な選択などについて総合的に検討したうえで推奨の強さ(推奨グレード)を決める必要があるからである。

つまり、高いレベルのエビデンスがあれば信頼できるというわけではない。例えば、研究デザインはよくても海外の研究しかなくて、遺伝的な違い等から日本人にはあてはまらないと考えられていることがらなどもある。逆にエビデンス・レベルの高い研究がないからといって知見が信頼できないわけではない。上述のとおり、コインを振った表裏で治療を割り付けて検証するランダム化比較試験はエビデンス・レベルが高いとされるが、コインなどで治療を決めることが倫理的に許されるのは、研究前に治療効果が確定しない場合のみである。例えばタバコを吸うと肺がんが増えるかどうか、ということについては、タバコを吸う群と吸わない群をくじ引きで決めることは許されないため、そのような研究は不可能である。このような場合であっても、さまざまな状況の観察研究で一致した結果が出ていて、生物学的な検討からもその結果を支持すると考えられる場合には、十分推奨に耐えると考えられる。

5.ガイドラインについての注意

1)強制ではない

「例外のない規則はない」といわれるがガイドラインの推奨は「規則」ですらなく、比較的緩やかな推奨であるといえる。したがって、ガイドラインとは診療を縛るものではない。ガイドラインは、現場において医療者と患者が参考にしながら診療方針を考えていくもの、いわば診療の「出発点」であって「到達点」ではないことに注意が必要である。そもそも言葉の定義として、「ガイドライン」とは対象となる患者の60〜95%にあてはまることがらを示すものであるという意見もある4, 5

2)推奨は時代とともに変化する

医療は進歩するものである。そのため、ガイドラインに記された標準や推奨も時がたつにつれて変化する。ある研究によると、ガイドラインの約半数が6年弱で時代遅れになるといわれている6。3〜5年ごとに定期的に改訂されるべきものであるが、大変な労力を要するために必ずしも改訂が可能とは限らない。そのため、古いガイドライン推奨には注意が必要である。海外のガイドラインでは期間を定め、食べ物の賞味期限のように、「○年経過した後は自動的に無効とする」と明記されているものもある7

6.先端医療と標準医療

標準医療よりも、先端医療のほうが響きはよく、治る確率が高いかのように響く。これは先端医療がそもそも現在の医療では不可能な分野を可能にすることを目標に挑戦しているわけであるから当然である。しかし、公平な目で見れば先端医療はいわば「挑戦者」であり、果たして「王者」になれるかどうかわからないものである。つまり先端医療は必ずしも効果が証明されておらず、後からこの方法はよくなかったと結論されることもある。(平たくいえば「挑戦者、実は弱かった」ということである。)その時点での「王者」は「標準医療」であることを常に留意するべきである。

7.ガイドラインを手軽に見るには

出版されたガイドラインは医学書を扱う書店で入手することができる。インターネット書店でも取り扱っている。また、医療機能評価機構が、医療情報サービス(MINDS:Medical Information Network Distribution Service)というデータベースを作成しており、そこにはがんに限らず、さまざまな疾患に関してのガイドラインが電子的に掲載されている8。同様に、がん情報サービスの中の「医療関係者の方へ」の「医学情報」の中で、「各種がんのエビデンスデーターベース」のページの中にもガイドライン等へのリンク集が掲載されている。ここでは、がん情報サービスの編集方針によって選択し、評価したガイドラインを「エビデンスデータベース」と呼び、リンク先などの情報を掲載している。ガイドラインの評価には、下記のAGREE II 評価基準9を用い、掲載用にはより簡便な5段階評価を用いている。

がん情報サービスの編集方針についてはこちら

8.ガイドラインの評価

欧米ではガイドラインを作成・報告・評価する共通の仕組みを確定することによって、ガイドラインの質の向上を目指すAGREE Collaborationとよばれる共同研究が行われている9(AGREE II :Appraisal of Guidelines Research and Evaluation II )。そこでは、ガイドライン作成の手法の検討や実態調査、同じ疾患分野のガイドライン推奨の比較などさまざまな活動が行われており、2001年に公表されたAGREEが改訂されたものが公開されている。ここでは最低2名(4名以上が望ましい)が、下表の23項目について、最高の質から最低の質までの7段階でガイドラインを評価する。23の項目は6つのドメイン(領域・要素)、具体的には対象と目的、利害関係者の参加、作成の厳密さ、提示の明確さ、適用可能性、編集の独立性からなっており、それぞれの特性における得点から、ガイドラインの作成方法に焦点を当てた評価が行われる。しかし、AGREE共同研究の公式見解ではガイドライン比較の際の意思決定の道具として使い、合格点を定めて「合格」「不合格」といった使い方はすべきではないとしている。
参考:AGREE「外部サイトへのリンク厚労省研究班による邦訳
    AGREE II (「外部サイトへのリンクAGREE Enterprise website
以下は参考のための独自和訳。
視点1:対象と目的
・当該ガイドラインの全体の目的が明確に記述されている
・当該ガイドラインのカバーする臨床課題が明確に記述されている
・当該ガイドラインの対象患者・集団が明確に記述されている

視点2:利害関係者の参加
・当該ガイドライン作成者に全ての関連専門団体から出された委員が含まれている
・対象患者・集団の価値観と好みを盛り込む工夫がされている
・当該ガイドラインの想定する使用者が明確に定義されている

視点3:作成の厳密さ
・エビデンスを探索する系統的な方法がとられている
・エビデンスの採用基準が明確に記述されている
・科学的根拠の強さと限界が明確に記述されている
・推奨とそれを支持する推奨との間に明示的な関連がある
・推奨決定に際して健康への効果、副作用、リスクが考慮されている
・公表に先だって外部専門家による評価がなされている
・ガイドライン改訂の手続きが示されている

視点4:提示の明確さ
・推奨が明確であいまいでない
・患者の状態に対して、他の選択肢が明確に示されている
・(患者の状態に対する)主たる推奨を容易に見つけることができる

視点5:適用可能性
・当該ガイドラインの使用にあたってのツール(訳注:要約、参照ガイド、教育ツールなど)が準備されている
・当該ガイドラインの推奨の適用にあたって考えられる組織的な障壁の検討が加えられている
・推奨を適用するにあたって考えられるコストに検討が加えられている
・当該ガイドラインが診療評価・モニター・監査などのための主たる基準を提供している

視点6:編集の独立性
・資金提供元から当該ガイドラインの編集が独立している
・ガイドライン作成委員の利害相反に関して記載がある

引用文献

1. Field M, Lohr K. Clinical Practice Guidelines:. Washington, D.C.: Institute of Medicine., National Academies Press; 1990.
2. 医療技術評価推進検討会報告書. 1999. (Accessed 8.12, 2008, at http://www1.mhlw.go.jp/houdou/1103/h0323-1_10.html.)
3. 福井次矢, 吉田雅博, 山口直人 編. ガイドライン作成の手引き2007. 東京: 医学書院; 2007.
4. 中山健夫. EBMを用いたガイドライン作成・活用ガイド. 東京: 金原出版; 2004.
5. Eddy DM. Clinical decision making: from theory to practice. Designing a practice policy. Standards, guidelines, and options. JAMA 1990;263:3077, 81, 84.
6. Shekelle PG, Ortiz E, Rhodes S, Morton SC, Eccles MP, Grimshaw JM, Woolf SH. Validity of the Agency for Healthcare Research and Quality clinical practice guidelines: how quickly do guidelines become outdated? JAMA 2001;286:1461-7.
7. Snow V, Mottur-Pilson C, Gonzales R. Principles of appropriate antibiotic use for treatment of acute bronchitis in adults. Ann Intern Med 2001;134:518-20.
8. 公益財団法人日本医療機能評価機構. 医療情報サービスMINDS. 2014. (Accessed 3.5, 2014, at http://minds.jcqhc.or.jp/)
9. AGREE collaboration. Appraisal of Guidelines for Research and Evaluation. 2010. (Accessed 3.5, 2014, at http://www.agreetrust.org/resource-centre/agree-ii/.)
用語集
このページの先頭へ