一人ひとりが最適な治療を選択するにあたっては、標準治療や診療ガイドラインについて理解しておくことが大切です。このページでは、標準治療や診療ガイドラインの概要と、一人ひとりにとっての最適な治療を選択するときのポイント、診療ガイドラインの利用にあたって気を付けたいことを紹介しています。
1.標準治療とは
標準治療とは、科学的根拠(エビデンス:あるテーマに関する試験や調査などの研究結果から導かれた、科学的な裏付け)に基づいた観点で、現在利用できる「最良の治療」であることが示され、多くの患者に行われることが推奨される治療のことをいいます。
標準治療は、世界中で行われた臨床試験の結果を多くの専門家が集まって検討し、有効性と安全性を確認して、最良であると合意が得られた治療法です。診療ガイドラインには、これらの合意の内容の詳細などがまとめられています。また、全国のがん診療連携拠点病院などのがんの治療を行う病院では、診療ガイドラインに沿った標準治療が行われています。
なお、「最新の治療」が最も優れているとは限りません。「最新の治療」が標準治療になるためには、それまでの標準治療より優れていることが証明される必要があります。そのため、開発中の試験的な治療として、効果や副作用などを調べる臨床試験が必要です。つまり、「最新の治療」というだけでは、「最良の治療」にはならないのです。
2.診療ガイドラインとは
診療ガイドラインとは、エビデンスなどに基づいて、最良と考えられる検査や治療法などを提示する文書のことです。
診療ガイドラインは、患者と医療者を支援する目的で作成されており、意思決定の際に、判断材料の1つとして利用されることがあります。また、診療ガイドラインに基づいた検査や治療が行われることによって、診療の質が保たれます。
診療ガイドラインは、医療者向けに書かれたものがほとんどですが、乳がん、胃がん、大腸がん、肺がん、子宮がん・卵巣がんなどは、医療者向けの診療ガイドラインをもとにした「患者さんのためのガイドライン」「患者さんのためのガイドブック」なども作成されています。これらには、患者や家族など一般の方向けに、分かりやすい文章や図説で、病気や検査、治療などの解説が掲載されています。
なお、かかる人が少ないがん(希少がん)などでは、診療ガイドラインや標準治療がないことがあります。
3.「一人ひとりにとっての最適な治療」とは
診療ガイドラインには、治療や検査の方法に関する最良と考えられる推奨の程度が提示されており、基本的には、これに基づく治療が行われます。しかし、診療ガイドラインに書かれている内容は強制ではなく、これに沿った治療を必ず行わなければならないわけではありません。がんや体の状態、ほかに病気があるなどの理由で、診療ガイドラインで推奨されている治療を受けることが難しい場合もあります。
医師はまず、がんの種類や進行の程度、体の状態などを検査でよく調べ、診療ガイドラインに基づいて、提案できる治療法の中から「一人ひとりにとっての最適な治療」を探ります。
「一人ひとりにとっての最適な治療」の選択においては、がんの治療だけでなく、治療が始まってからの生活のことも含めて、その人が何を大切にしたいかがポイントになります。
患者と医療者が、診療ガイドラインを1つの判断材料として活用しながら、「一人ひとりにとっての最適な治療」を一緒に考え、コミュニケーションを取っていくことが大切です。診療ガイドラインは、患者と医療者が、よりよい解決策を見出すために一緒に診療方針を考えていくための「出発点」のようなものなのです。
4.診療ガイドラインの利用にあたって
1)診療ガイドラインを入手するには
医療者向けの「診療ガイドライン」や、「患者さんのためのガイドライン」「患者さんのためのガイドブック」は、書店やインターネットで購入することができます。書店にない場合には、取り寄せてもらうことも可能です。また、ガイドラインを作成した学会のホームページで公開されている場合もあります。
ウェブサイト「Mindsガイドラインライブラリ」では、日本で公開されている一定の基準を満たしたさまざまな疾患の診療ガイドラインが紹介されています。また、著作者から許諾が得られた診療ガイドラインについては、内容も公開されています。
このほかにも、インターネット上では、診療ガイドラインの情報をまとめたデータベースが公開されています。詳しくは、関連情報の「各種ガイドライン等の情報へのリンク集」をご覧ください。
また、がん情報サービスの「病名から探す」の各がん種のページでは、診療ガイドラインに基づいて、病気や検査、治療に関する概要を一般の方向けに書き下して掲載しています。併せてご活用ください。
2)最新の情報を確認しましょう
診療ガイドラインは最新版を利用しましょう。診療ガイドラインは、検査法や治療法のエビデンス、医療制度の変化をふまえた継続的な改定が求められており、実際にその多くが3~5年ごとに定期的に改訂されています。また、がんの種類によっては、診療ガイドラインの「速報」として、治療に関連する臨床試験の最新の結果などが学会のウェブサイトで公開される場合があります。
医療は日々進歩しています。診療ガイドラインに記された検査法や治療のエビデンス、推奨の程度などがすでに変わっているかもしれません。特に、最新版であっても、出版年が古いガイドラインに書かれている内容には注意が必要です。最新の情報は主治医に確認しましょう。
5.参考資料
- (公財)日本医療機能評価機構.Mindsガイドラインライブラリ.Minds診療ガイドライン作成マニュアル2020 ver.3.0,診療ガイドライン患者・市民向けQ&A;2022年(閲覧日2023年4月13日)https://minds.jcqhc.or.jp/