酸素は生命の維持になくてはならないものです。この酸素を全身にくまなく運搬しているのが血液中の赤血球です。赤血球の主な働きは、赤血球の中のヘモグロビンという赤い色素が肺から酸素を受けとり、体内の組織に酸素を運搬し、組織の機能を維持することです。貧血とは、赤血球の数が減少したり、または赤血球自体の酸素を運搬する能力(ヘモグロビンがこの能力を担っている)が低下したりすることをいいます。
抗がん剤や放射線は、がん細胞に作用するとともに、他の正常な細胞にも影響を及ぼします。特に血液細胞を造っている骨髄の正常な細胞は抗がん剤や放射線の影響を受けやすく、そのため血球を造る能力が低下します。しかし、赤血球の寿命は120日と長いため、すぐには影響を受けません。貧血の症状は抗がん剤による化学療法や放射線療法開始後、1〜2週間後より徐々に出現してきます。
ビタミンB12は赤血球を造るために必要です。胃切除(この場合、どのくらいとったかによりますが)や、胃をすべてとってしまうと、ビタミンB12が吸収できなくなり貧血となります。ビタミンB12の吸収には胃から分泌される内因子と呼ばれるタンパク質の助けが必要です。胃をすべてとってしまった後でも、ビタミンB12は肝臓に蓄積されているため、すぐには貧血になることはありません。貧血があらわれるのは、胃をとってから3〜4年後です。
全身にくまなく酸素を運搬することが赤血球の働きですが、実際にこの役割を演じているのは、赤血球中に含まれるヘモグロビンです。鉄はヘモグロビンの材料となり、鉄が減少するとヘモグロビンの産生が低下します。鉄剤は胃酸により吸収されやすいかたちにかわり、十二指腸や小腸から吸収されます。したがって、胃切除後は、ビタミンB12の吸収障害と胃酸の減少の相乗効果により鉄の吸収が障害され、2〜3年後に貧血を生じることが多くなります。
胃・十二指腸潰瘍、出血性胃炎、胃がん、大腸がんといった消化管からの慢性出血によって貧血になることがあります。
軽度(ヘモグロビンが正常の70%以下)の貧血では必ずしも症状はあらわれません。また、慢性の貧血は徐々に進行するため、自覚症状のない場合もあります。一般的には顔色が悪く、まぶたの裏が白くなったり、口の中全体の赤みが減ったりします。
ヘモグロビンが正常の59%以下になってしまうと、体内の酸素を補うために、多くの血液を送らなければならず、心拍数が増加したり、少しの運動をしても息が切れたりします。
ヘモグロビンが正常の40%以下になってしまうと、頭痛や、めまい、耳鳴り、集中力の低下、不眠になります。また、身体のすみずみまで酸素が行き渡らないため、疲れやすくなったり、手や足が冷えたりします。
ヘモグロビンが正常の30%以下になってしまうと、食欲がなくなったり、吐き気やむかつきなどがあらわれます。
ただし、ここにあげた貧血の程度と症状はあくまでも目安であり、年齢や性別、貧血の原因や健康状態などにより個人差があります。
必要な栄養量を食事からとれるよう、いろいろな食事をバランスよく食べることが大切です。
鉄欠乏性貧血の場合、足りない鉄を補給するために鉄剤を服用することになります。経口剤としてはスローフィー、フェルム、フェロミアなどがあります。人によっては、鉄剤を服用すると鉄が胃の粘膜を刺激するため、吐き気、むかつき、下痢などをおこしてしまう場合があります。このような症状があらわれ、指示されたとおりの服用ができない場合は担当医に報告しましょう。貧血は、鉄剤がきちんと服用されれば、約6週間で改善されますが、たとえ貧血が改善されたからといって、すぐに鉄剤の服用をやめてはいけません。なぜならば、貧血の人は、身体の中の鉄の蓄えをすべて使い果たしていますので、体内に鉄を蓄えておくために貧血が改善しても担当医の指示があるまでは鉄剤の服用を続けて下さい。また、定期的に検査を受けましょう。
経口的に服用ができない場合、服薬による効果がない場合は注射による方法もあります。なお、鉄剤を服用している時は、服用後1時間を過ぎるまでは緑茶やコーヒーなど飲まないで下さい。それは鉄剤の吸収には30分ほどかかり、これらの飲み物はタンニンを含んでいるので、せっかく服用した鉄剤の吸収を悪くするからです。便の色が暗緑色か黒色になりますが、鉄剤によるものですので心配しないで下さい。
胃を切除した人(切除した大きさにもよりますが)や、胃をすべてとった人は、ビタミンB12の注射が年に1〜2回必要となります。