患者さんによっては、さまざまな理由で標準治療を受けることができなかったり、その病状には標準治療が適さなかったりする場合があります。その際に、担当医が治療経過の中で、臨床試験への参加がよいと判断し、臨床試験への参加を提案することがあります。もし、担当医以外の方が患者さんから研究段階の医療を希望する相談を受けた場合は、患者さんの状態をよく知る担当医に伝えるように促してください。
1.研究段階の医療の種類
さまざまな制度により、研究段階の医療の中でもさまざまな種類があります(表1)。ここでは、それぞれの研究段階の医療について説明をします。
種類 | 未承認薬・ 適応外薬の使用 |
公的制度 | |
---|---|---|---|
研究段階の医療の保険適用 | 研究段階の医療以外への保険適用 (保険外併用療養費制度) |
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(1)企業治験 | あり | なし | 評価療養 |
(2)主たる治験 | あり | なし | 評価療養 |
(3)拡大治験 | あり | なし | 評価療養 |
(4)医師主導治験 | あり | なし | 評価療養 |
(5)先進医療A | なし※1 | なし | 評価療養 |
(6)先進医療B | あり※2 | なし | 評価療養 |
(7)医師・研究者主導臨床試験 (先進医療Bおよび患者申出療養を除く) |
あり | なし | なし |
なし | あり | - | |
(8)患者申出療養 | あり | なし | 患者申出療養 |
(1)企業治験
治験とは、新しい医薬品・医療機器等について安全性および有効性を検証し、厚生労働省から承認を得ることを目的として行う試験です。その多くは、薬を開発している製薬企業等が医師に依頼をして実施される企業治験で行われます。
詳しくは次の(2)主たる治験、(3)拡大治験をご覧ください。
●研究段階の医療の費用(研究のために行われる検査や使用される薬剤など)
企業治験にかかる検査や薬剤(試験薬)などの費用は、定められた期間のみ製薬企業が負担します。
(2)主たる治験
治験の一種で、研究段階で複数行われる治験のうち、安全性や有効性を確認する最終段階のものを指します。通常は、効能・効果および用法・用量が一連の開発を通じて設定された後に、安全性および有効性の検証を目的として行われているものです。
●研究段階の医療の費用(研究のために行われる検査や使用される薬剤など)
主たる治験にかかる検査や薬剤などの費用については、最終的に製薬会社が決定します。研究段階の医療に関して患者負担がある場合には説明文書に記載があります。
(3) 拡大治験
厚生労働省で承認されていない医薬品・医療機器等について、開発・承認を進める一方で、現在治験の対象とならない患者さんにも治験へのアクセスを充実させる仕組みが設けられました。拡大治験は、必要な薬の承認および保険適用までの期間を待つことができない生命に重大な影響がある疾患をもち、既存の治療法に有効なものが存在せず、新しい薬などを検討するにあたり、企業治験や医師主導治験の対象とならない患者さんに対して、主たる治験の実施は終了したがまだ承認されていない、あるいは実施中(被験者が試験参加中で募集は終了している)の治験薬で行う試験です。
拡大治験の実施については、承認されていない薬・医療機器の開発・承認が遅れ、結果的に多くの患者さんへの有効な治療の提供を妨げることのないよう、主たる治験の実施に影響を及ぼさないことが前提となっています。そのため、製薬企業が拡大治験を実施する法的義務はなく、その実施の可否は治験薬を提供する製薬企業が決定します。
●研究段階の医療の費用(研究のために行われる検査や使用される薬剤など)
拡大治験にかかる検査や薬剤などの費用については、最終的に製薬企業が決定します。研究段階の医療に関して患者負担がある場合には説明文書に記載があります。
(4)医師主導治験
新しい医薬品・医療機器等はそれらを製造し販売する企業によって治験が行われ安全性と有効性が評価されることが原則ですが、製薬企業の採算性などの理由で開発がされず、海外では承認されていながら国内では承認されていない、あるいは、その疾患に対しては使用が認められないままになってしまう薬があります。そのような状況で、医療上の必要性に基づき、企業ではなく医師が治験を実施することができる制度もあり、それが医師主導治験と呼ばれる制度です。
●研究段階の医療の費用(研究のために行われる検査や使用される薬剤など)
医師主導治験にかかる検査や薬剤などの費用は医師と患者の負担となり、製薬企業から治験薬の無償提供があるかどうかなどは試験によります。研究段階の医療に関して患者負担がある場合には説明文書に記載があります。
(5)先進医療A
先進医療は、いまだに保険診療として認められていない医療技術の中で、例外的に保険診療との併用を認められた評価療養の1つです。評価療養とは、保険診療とすべきかどうかの評価が必要であると厚生労働大臣が定めた治療法で、医療技術ごとに一定の施設基準を満たしていることを厚生労働大臣に認められた医療機関でのみ利用できます。先進医療Aは臨床試験以外の枠組みで評価中のもので、未承認薬等を含まない治療法、または人体への影響が極めて少ない未承認薬等を含む診断法です。
●研究段階の医療の費用(研究のために行われる検査や使用される薬剤など)
先進医療Aにかかる検査や薬剤などの費用は、通常全額自己負担です。
(6)先進医療B
先進医療Aと同じく、先進医療Bも評価療養の1つです。医療技術ごとに一定の施設基準を満たしていることを厚生労働大臣に認められた医療機関でのみ利用できます。先進医療Bは未承認の治療法を含む、または未承認の治療法を含まない場合でも臨床試験として、安全性および有効性の評価が特に必要とされる治療法です。
●研究段階の医療の費用(研究のために行われる検査や使用される薬剤など)
先進医療Bにかかる検査や薬剤などの費用は、一部研究者が負担する場合もありますが全額自己負担の場合もあります。
(7)医師・研究者主導臨床試験(先進医療Bおよび患者申出療養を除く)
医師や研究者が主体となって行い、これまで厚生労働省で承認された薬、治療法や診断法から、最良の方法や薬のよりよい組み合わせを確立することを目的として行う試験です。
臨床試験でも承認されていない薬が用いられることがありますが、新しい薬としての承認には治験による安全性や有効性の確認が必要です。
●研究段階の医療の費用(研究のために行われる検査や使用される薬剤など)
医師・研究者主導臨床試験にかかる検査や薬剤などの費用は、通常はすでに保険診療となっている治療法の中での試験ですので、各健康保険制度における一部負担金を支払うことになります。一方で、承認されていない薬を用いる場合は患者負担があるかどうかは試験によります。研究段階の医療に関して患者負担がある場合には説明文書に記載があります。
(8)患者申出療養
承認されていない薬などを必要とする困難な病気と闘う患者さんからの申出により、その治療法を保険外併用療養費制度の中に位置付ける新たな仕組みが作られました。申出は、臨床研究中核病院と呼ばれる一定の条件を満たす医療機関を通して、患者さんが厚生労働省に申請し、専門家からなる会議でその妥当性が評価されます。治験、拡大治験、先進医療等、研究段階の医療を評価する仕組みの中では実施されていないような医療について、将来的に保険収載につなげるためのデータ、科学的根拠を集積することを目的として実施されるものです。
国内の未承認・適応外のさまざまな治療法が対象になりますが、保険収載を前提としていますので、欧米での承認など、試験実施可能な科学的根拠(エビデンス)があるかなど、一定の安全性および有効性が確認された治療法に限ります。保険収載に向けた実施計画の作成および実施状況などの報告は、国際水準の臨床研究や医師主導治験の中心的な役割を担う臨床研究中核病院が行います。
まずは、すでに告示されている患者申出療養や治験、拡大治験、先進医療等に該当するものがないか、調べることになります。また、他の制度下で実施されている研究に該当するものがあっても実施医療機関が身近にない場合もあり、そのような場合に、条件がそろえば、通院可能な医療機関を協力医療機関として追加するように交渉がなされ、患者申出療養ではなく他の制度下での研究に参加が可能となる場合もあります。
●研究段階の医療の費用(研究のために行われる検査や使用される薬剤など)
患者申出療養にかかる検査や薬剤などの費用は全額自己負担です。その費用は、未承認薬等の費用に加え、保険収載を目指すためのデータをつくるために、 研究支援者の人件費や研究の品質管理、統計解析のための費用などもかかり、多額になる可能性があります。また、申出後に途中でやめた場合、たとえ治療にまで至らなかったとしても、それまでにかかった薬剤調達や研究準備の費用は患者さんが支払うことになります。
2.「がんの臨床試験を探す」で探してみる
「がんの臨床試験を探す」では、がんの種類、都道府県、実施状況で絞り込んで、臨床試験(先進医療等を含む)を探すことができます。ただし、ここに示される情報は、臨床試験の届け出用に作成された文書で、一般向けに書かれた内容ではありません。また、先述したように、疾患や体の状態、これまでに受けた治療など、さまざまな条件で決まります。募集終了など時期により参加できないこともあります。以下の【確認する項目】を見ながら、関係しそうな臨床試験が見つかった場合は、印刷をして必ず担当医と相談するように促してください。
【確認する項目】
- がんの種類
- 治療法
- 参加登録の有無
- 適格規準
- 実施施設
- 問い合わせ先
3.まずは担当医が窓口になります
臨床試験に関してさまざまな制度が設けられ、研究段階の医療の種類が広がりました。これらの臨床試験や制度についての相談を受けた際には、医師をはじめとする医療者が相談内容を伺い、それに応じた説明を行います。相談内容や施設の体制によっては臨床試験の相談窓口やがん相談支援センター、医事課などで補足の説明が行われることもあります。どの試験に参加可能か、利用できる制度があるかなどの検索については、担当医を中心に進められる必要があります。けれども、さまざまな制度が設けられたことで、提供できる試験や制度があるのかを探すことは、医療者にとっても非常に複雑で、難しくなっています。そのため、特定機能病院や臨床研究中核病院には、相談の窓口が設けられ、医療者に対するサポートが行われています。また臨床研究中核病院には、「患者申出療養」に関する相談窓口が設けられ、担当医から申し込みができるフォームが設けられています。通常、申し込みを行う際には、担当医が候補となり得る薬剤や治療方法名を記入して申し込みを行います。
必ずしも臨床試験に参加できるわけではありませんが、いずれの場合にも、担当医が窓口になる必要があります。各医療機関の医療者は、施設内での相談や検索のサポート体制をつくるとともに、特定機能病院や臨床研究中核病院に相談できる体制をつくっておくことが大切です。