1.「研究段階の医療」は、よりよい標準治療の確立を目指して行われます
「標準治療」とは、科学的根拠に基づいた観点で最良の医療であり、保険診療で受けることができる治療法です。
現在行われている標準治療は、より多くの患者さんによりよい治療を提供できるように、研究段階の医療による研究・開発の積み重ねでつくり上げられてきました。よりよい標準治療の確立を目指して、「臨床試験」や治験などの研究段階の医療が行われています。
臨床試験は臨床研究の枠組みの中で行われます。「臨床研究」は人を対象に行われるすべての研究を指しますが、その中でも、薬の投与、手術、放射線治療などにより、人体に対して変化を伴う研究(介入研究)が臨床試験です。また、臨床試験の中でも特に、厚生労働省から薬・医療機器としての承認を得ることを目的として行う試験を「治験」といいます。
2.研究段階の医療を受けるには
1)受けられるかどうかの判断は、患者さんを診ている担当医を通して行われます
研究段階の医療は安全性や有効性(治療効果)を明らかにする必要がある治療法です。そのため以下のような条件が設けられ、だれでもどこでも受けられる医療ではありません。検討したいときには、まずはご自身の病状をよく知る担当医に病状に適しているのか、倫理的・科学的に正しく行われているものなのかなど、医師の意見を聞くことは重要です。がん相談支援センターに相談するのもよいでしょう。
だれが研究段階の医療を受けられるのか
- 研究の内容や目的に合った方(患者さんの疾患、治療歴など)
- 他に病気がなく、安全性の確保のため体調に余裕のある方
- 新しい治療法を受けられる可能性がある一方で、効果がない、副作用を引き起こすなどの不利益を被る可能性があることも十分に理解した方
参加するための条件である「適格規準」を満たしているかについて、検査(血液検査やCT検査など)をして確認します。さらに、内容について説明文書を用いての説明や、同意書への署名などの手続きがあります。
どこで研究段階の医療を受けられるのか
- 研究内容を審査する体制が整備されている施設
- 患者さんに対して緊急の対応ができる体制が整備されている施設
これらを満たした施設で医療が受けられます。参加募集が開始されるまでには、研究の実施計画の立案・審査などに時間を要しています。
安全性や有効性が明らかになっていない研究段階の医療を行う際には、患者さんの安全性の確保のために、体調に余裕のある方を参加の対象としています。参加できるかどうかについては、患者を診ている担当医の判断が必要です。
2)受ける前に、治療法の内容を理解する必要があります
開発中の治療法は、患者さんに思わぬ副作用を引き起こすことがあるかもしれません。あるいは、残念ながら思ったほどの効果がみられないこともあります。さらに、患者さんの体には一人一人個性があり、同じ治療を受けても効果がある方とそうでない方がいます。新しい治療法を受けられる可能性がある一方で、不利益を被る可能性があることも十分に理解する必要があります。
研究段階の医療を希望する患者さんは専門家から十分な説明を受け、十分に納得した上で同意し、参加する必要があります。治療を受けると決め同意書に署名した後でも、治療が始まる前でも、すでに治療が始まった後でも、いつでも理由を問わずに治療をやめることができます。やめたいと考えたときには、いつでも担当医に申し出てください。
3.研究段階の医療を支える人たち
研究段階の医療は臨床試験によって評価されます。臨床試験を安全に、倫理的に、かつ科学的に行うために、医師や臨床試験の専門のスタッフ(臨床研究コーディネーター/CRC)を図3に示すように、医療従事者以外にも、多くの専門家が関わって研究段階の医療を支えています。
まずは、新しい治療法を臨床試験の中で実施することが倫理的かどうかを、倫理審査委員会のメンバーが判断します。実際に臨床試験が行われると、患者さんがどのような治療を受けたか、どのような副作用が出たのか、治療の効果はどうであったのかを、データマネージャーが情報を正確に集めて記録・管理します。その得られた情報から、有益な情報が得られるように、統計家がデータのとり方を考え、結果を分析します。さらに、臨床試験が適切に行われているかどうかを、医師や製薬企業から独立した中立な立場である治験審査委員会のメンバーがチェック・確認します。
4.プライバシーの保護
臨床試験では、患者さんの個人情報や診療情報などのプライバシーに関する情報を収集し利用します(利用する個人情報の項目や利用目的の詳細については、医師による説明や臨床試験の説明文書にてご確認ください)。しかし、名前や住所などの個人を特定できる情報は利用する項目に含まれず、プライバシーの保護には十分な配慮がなされています。
なお、臨床試験では、下記のような場合に第三者が個人情報を利用したり、収集された情報が公表されることがありますが、いずれの場合も個人を特定できる情報が第三者に渡されたり、公表されることはありませんのでご安心ください。
製薬企業や厚生労働省の担当者による監査
臨床試験が順守すべき規制を守り、かつ事前に作成された試験実施計画書通りに、倫理性や科学性を確保しながら行われているかどうかを確認します。担当者は、カルテや検査結果などを直接、あるいは間接的に確認しますが、担当者には秘密保持義務が課せられています。
新薬としての承認申請のための資料
「治験」の場合には、収集した患者さんの情報は、厚生労働省への新薬承認申請資料として製薬企業より提出されます。しかしながら、申請資料には個人を特定できる情報は含まれません。
臨床試験の結果の公表
臨床試験の結果は公表して初めて周知され、新しい知見として活用できるようになり、患者さんの治療に役立ちます。公表は学会や学術雑誌などで行われますが、内容には個人を特定できる情報は含まれません。
5.研究段階の医療の種類はさまざまです
研究段階の医療を評価する臨床試験に関しては、その実施方法や臨床試験の対象者を必要な患者さんに対して広げるための手続きなど、さまざまな制度が設けられています。参加できる試験や制度があるのかを探したり、参加できる試験や制度があったりした場合の手続きは、担当医を通して行われますので、参加の希望がある場合には、必ず担当医に相談してください。また、さまざまな制度が設けられているため、参加可能な試験や制度を探す際には、担当医から専門の医療機関に照会して探索、検討するなど時間がかかる場合があります。
企業治験
新しい医薬品・医療機器等について安全性および有効性を検証し、厚生労働省から承認を得ることを目的として、製薬企業等から医師に依頼をして行われる治験です。
主たる治験
治験の一種で、研究段階で複数行われる治験のうち、安全性や有効性を確認する最終段階のものを指します。通常は、効能・効果および用法・用量が一連の開発を通じて設定された後に、安全性および有効性の検証を目的として行われているものです。
拡大治験
治験の一種で、有効性・安全性を評価するために行われる通常の治験の対象とならない患者さんに対して行われる場合がある治験を指します。必要な薬の承認および保険適用までの期間を待つことができない生命に重大な影響がある疾患で、既存の治療法に有効なものが存在しない場合に、人道的見地から実施されることがある治験です。
医師主導治験
医療上の必要性に基づき、製薬企業では開発が進まないような医薬品・医療機器等について、医師自ら行う治験です。
先進医療A
保険診療として認められていない医療技術の中で、保険診療とすべきかどうかの評価が必要であると厚生労働大臣が定めた治療法(評価療養)です。臨床試験以外の枠組みで評価中のもので、未承認薬等を使用しない治療法、または人体への影響が極めて少ない未承認薬等を使用する診断法です。
先進医療B
先進医療Aと同じく評価療養ですが、未承認薬等を使用する治療法、または未承認薬等を使用しない治療法の場合でも臨床試験として、安全性および有効性の評価が特に必要とされる治療法です。
医師・研究者主導臨床試験
医師や研究者が主体となって行い、これまで厚生労働省で承認された薬、治療法や診断法から、最良の方法や薬のよりよい組み合わせを確立することを目的として行う試験です。
患者申出療養
困難な病気と闘う患者さんからの申出により、検討されるようになる治療法です。国内の未承認・適応外のさまざまな治療法が対象になりますが、保険収載を前提とするものに限ります。したがって費用については、未承認薬等の費用に加え、保険収載を目指すためのデータをつくるために、研究支援者の人件費や研究の品質管理、統計解析のための費用などもかかり、患者負担が多額になる可能性があります。申出をしても必ず受けられるようになるとは限りません。
参加できる条件や患者負担など費用の話など状況はさまざまです。まずは担当医にご相談ください。また病院の中でも担当窓口がありますので、「臨床試験について話を聞きたい」とお問い合わせをしてみてください。
詳細情報については医療関係者向けサイトにあります。内容は複雑ですが、もし研究段階の医療について興味がある、検討したいときには、こちらもご参照ください。