1.民間療法について
がんの治療法を選択するときや治療を受けているときに、手術や薬物療法、放射線治療といった標準治療のほかに、健康食品やサプリメントなどの、いわゆる「民間療法」に関心を持つ人は少なくありません。「民間療法」の定義は明確ではありませんが、「補完代替療法(※1)」や「統合医療(※2)」の一部として扱われることがあります。
- ※1補完代替療法:一般的に従来の通常医療とみなされていない、さまざまな医療、施術、生成物を用いた療法。
- ※2統合医療:近代西洋医学を前提として、これに相補(補完)・代替療法や伝統医学等を組み合わせ、さらにQOLを向上させる多種多様な療法。
民間療法といわれるものには、以下のようなものが含まれます。
- 瞑想、ヨガ、バイオフィードバック、催眠療法、リラクセーション、音楽療法、アロマセラピーなど
- ビタミン、ハーブ、サプリメント、健康食品など
- 鍼や灸、マッサージ、カイロプラクティックなど
- レイキ、セラピューテック・タッチなど
- アーユルベーダ、伝統的中国医学、ホメオパシー、自然療法薬など
このように、民間療法といわれるものにはたくさんの種類があり、定義も明確ではありませんが、ここでは、医師以外の人、または自分自身の判断で行う、病気の改善や健康増進を目的とした行為のこととして扱います。
なお、漢方薬については、日本では保険診療として認められているものもあります。また、鍼や灸、マッサージについては、慢性的な痛みや麻痺などがあり、医師が必要と認めた場合のみ、保険診療で受けられることがあります。保険診療として認められているものは、このページでの民間療法には含みません。
一方で、医師が特定の民間療法を勧めている場合もありますので、何を根拠に勧めているのか、保険診療で受けることができるのかなど、注意して情報を見極める必要があります。
このページでは、健康食品・サプリメント・食事療法を中心に、民間療法を考えるときに気を付けるべきことを説明します。民間療法を勧めるものではありません。
民間療法はがんそのものへの効果は証明されていません
民間療法は、がんそのものへの効果は証明されていません。つまり、民間療法によって、がんが消えたり、小さくなったりすることはありません。民間療法にはさまざまなものがありますが、がんの治療に最も効果があると証明されている「標準治療」のかわりになるものはありません。そのため、標準治療のかわりに、民間療法のみを受けることは、非常に危険です。
日本で行われた調査では、がんになった人が始める民間療法のうち、最も多いのは健康食品やサプリメントを摂ることだと報告されています。多くの健康食品やサプリメントは、がんの治療中の人に向けて販売されているものであったとしても、がんそのものへの効果は科学的には証明されていません。安全性や効果の確認がないまま、「有名な大学が研究」「がんが消える」「食事療法」などと書籍やインターネットなどで宣伝し、販売されているものもあるため注意が必要です。また、食事の量や種類を制限する「食事療法」にも、がんそのものへの効果が証明されているものはありません。
健康食品・サプリメント・食事療法の影響で、がんの治療ができなくなる場合もあります
がん治療中の民間療法によって、治療の効果が弱くなることや、予期せぬ副作用が出ることもあります。特に、健康食品やサプリメントを摂ること、食事療法によって、がんの治療ができなくなることがあります。
全ての人にとって、バランスの取れた食生活がなにより大切です。しかし、「ビタミンC」「ニンジンジュース」「糖質制限」など、特定の栄養素を大量に摂ったり、反対に極端に制限したりすることは、体に悪い影響を及ぼす可能性があり、がんの治療を中断せざるを得なくなる場合もあります。例えば、以下のようなことから、食品であっても注意が必要です。
- 健康食品として販売されているものの中に、医薬品成分やそれに似た成分が違法に添加されている場合があるなど、知らないうちに体に害のある成分が入っていることがある
- 過剰に摂ることや、極端に制限することで健康被害が出る場合がある
- がんの治療の薬との飲み合わせにより、治療効果に悪い影響が出る場合がある
民間療法には心や体のつらさを和らげる効果が期待できる可能性があるものもあります
民間療法は、がんそのものへの効果は証明されていなくても、がんやがんの治療による心や体のつらさを和らげる効果が期待できる可能性があるものもあります。例えば、吐き気、痛み、倦怠感などのがんの治療の副作用や、がんの治療に関する不安やストレスを和らげるために、検討してもよいとされているものもあります。
2.民間療法を考えるときに知っておいていただきたいこと
民間療法を始める前に、がんの治療の担当医や医療者に必ず相談しましょう
吐き気、痛みなどの症状には、民間療法よりも効果がある処方薬がすでにある場合があり、つらい症状を効率的に和らげ、体力の消耗を防ぐことができます。また、がんの治療中の民間療法によって、受けているがんの治療の効果が弱くなることや、予期せぬ副作用が出ることもあります。
それでもつらい症状があり民間療法を試してみたいと考えるときには、実際に始める前に、民間療法の提供者ではなく、必ずがんの治療の担当医に相談しましょう。民間療法の提供者は、医療資格がないことや、資格があってもがんの治療の専門家ではないことが多いためです。
また、すでに何らかの民間療法を始めている場合も、なるべく早くそのことを担当医に伝えましょう。民間療法の思わぬ副作用を未然に防いだり、現在受けているがんの治療への影響の有無がわかったりするなど、あなたの体を守ることにつながります。
なお、民間療法の中には、リラクセーションを目的として行うものや、一部の健康食品やサプリメントなど、担当医と相談した上で、治療中の生活の質を維持するために続けられるものもあります。続けられるかどうか、必ずがんの治療の担当医に相談しましょう。このほかにも、わからないことがあるときには積極的に尋ねてみましょう。
担当医に言い出しにくいと感じる場合には、看護師や薬剤師、受付などの医療スタッフや、全国の「がん診療連携拠点病院」等に設置されている、がん相談支援センターの相談員にも相談することができます。必要なとき、あなたと担当医の橋渡しをしてくれます。
担当医や医療スタッフへの相談の例
- この民間療法は、現在受けているがんの治療に影響しないでしょうか。
- この民間療法の効果や安全性は確認されていますか。
- この民間療法で、がんの治療に伴う副作用が和らぎますか。
- この民間療法で、がんの進行に伴う症状が和らぎますか。
落ちついて考えるために、情報を集めましょう
正しい情報を得ることは、がんの治療の担当医に相談するポイントを見極めたり、納得のいく決断をしたりする助けになります。以下のサイトでは、さまざまな民間療法について、エビデンス(根拠)に基づいた信頼できる情報が紹介されています。
自分にとって正しい情報であるかを見極めるために、「いつの情報か」「だれが発信しているか」「何を根拠にしているか」を確かめましょう。
民間療法が自分にとって本当に必要なものかどうかを考えてみましょう
がんの治療中には、ご家族や周りの人から、特定の民間療法を勧められることがあるかもしれません。民間療法は、がんそのものへの効果が証明されていないだけでなく、中には、とても高額なものや、がんの治療に悪影響を及ぼすものも含まれている可能性があります。大切に思ってくれている人からの勧めであったとしても、その民間療法が自分にとって本当に必要なものかどうか、考えてみることが大事です。
自分のことを大切に思ってくれている人から民間療法を勧められた場合は、断りたくても断りにくいこともあるでしょう。そのようなときには、以下のように伝えるのも一つの方法です。
民間療法を勧められたときの断り方の例
- 私のためにありがとうございます。私の治療に使ってよいか、担当の先生に確認してみます。
- 調べてくれてありがとうございます。がんの治療に影響しないか、病院で聞いてみます。
3.家族や周りの人に知っておいていただきたいこと
患者本人のためと思っても、民間療法を勧める前には情報をよく確かめましょう
がんという病気になることは、患者本人だけではなく、家族や周りの人にとっても大きなできごとです。家族や周りの人が、何かしてあげたい、良い治療があれば勧めたい、と思うのは自然なことです。がんになったことを初めて知ったときには、家族や周りの多くの人が、病気そのものや標準治療について調べるでしょう。すでにいくつかの治療を経ている段階では、民間療法など標準治療以外の治療法も調べることがあるかもしれません。
今日、インターネットでは手軽に情報を得ることができます。しかし、中には医学的に信頼できない情報や、誤った情報もあります。「がんが消えた」などの派手なキャッチコピーのあるサイトや情報には注意が必要です。「私はこれで治った」などの経験者の話も、患者本人に当てはまるものとは限りません。
患者本人にとっては、自分を気づかってくれる周りの人が大きな支えになります。一方で、支えとなる周りの人からの情報や民間療法の勧めは、断りにくく、つらいものとなることもあります。同じがんという病気でも、体の状態や進行具合によって個人差があり、親切心からの言葉でも、患者本人には負担となることもあるため、十分な配慮が必要です。
患者本人に民間療法を勧める前に、その情報が信頼できるか調べましょう。また、情報を伝えるときには、「必ず担当医と相談してほしい」こともあわせて伝えましょう。
以下のサイトでは、さまざまな民間療法について、エビデンス(根拠)に基づいた情報が紹介されています。インターネットなどで得た情報の信頼性を確認するのに役立ちます。
家族や周りの人が患者本人のためにできることが多くあります。以下のページでは、患者本人の支え方や、家族や周りの人自身を大切にするためのヒントを掲載しています。
4.その他の関連情報
5.参考資料
- 厚生労働省ウェブサイト.食品安全関係のパンフレット 「健康食品による健康被害の未然防止と拡大防止に向けて」(平成25年9月改定);2013年(閲覧日:2022年1月25日)https://www.mhlw.go.jp/
- 厚生労働省『「統合医療」に係る 情報発信等推進事業』.eJIMウェブサイト;「統合医療」とは?,一般の方へ 冊子・資料 がんの補完代替医療ガイドブック【第3版】,医療関係者の方へ 冊子・資料 がんの補完代替医療 (CAM) 診療手引き;2014(閲覧日:2022年1月25日)https://www.ejim.ncgg.go.jp/public/index.html
- 日本緩和医療学会緩和医療ガイドライン委員会編.がんの補完代替療法クリニカル・エビデンス2016年版.2016年,金原出版.
- 日本臨床腫瘍学会編.新臨床腫瘍学(改訂第6版).2021年,南江堂.
- American Cancer Societyウェブサイト.What Are Complementary and Integrative Methods?;2021(閲覧日:2022年1月25日)https://www.cancer.org/
- National Cancer Instituteウェブサイト.Complementary and Alternative Medicine;2021(閲覧日:2021年1月25日)https://www.cancer.gov/
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