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がんとお金

医療費の負担を軽くする
公的制度

医療費の負担を軽くするための公的制度のうち、主なものをまとめました。

医療費の負担を軽くする公的制度の中心は、国民全員を保障する「国民皆保険制度」に基づく公的医療保険制度です。公的医療保険のほかにも、所得税の医療費控除や、治療が必要になった原因や障害の有無、家庭の状況、困窮の度合いなどの状況に応じて医療費の負担を軽減する公的制度が用意されています。

1.公的医療保険制度

公的医療保険は、国民全員を保障する医療保険で、年齢や所得に応じて、実際にかかった医療費の1~3割のみを本人の負担とする制度です。負担部分が高額になった場合に、さらに手厚いサポートが受けられる仕組みもあります。

1)公的医療保険の種類

公的医療保険にはいくつかの種類があり、勤め先や住んでいる場所、年齢などによって加入する保険が異なります。保険の種類によって、手続きの窓口や受けられるサービス内容が異なることもありますので、自分の保険はどれか一度確認しておきましょう。自分が加入している保険がわからない場合は、保険証に書いてある情報に基づいて、がん相談支援センターなどで確認してもらうこともできます。

表1 公的医療保険の種類
保険の種類 運営する保険団体
(保険者)
問い合わせ窓口 主な加入者
被用者保険
(職域を土台とした
保険)
健康保険 組合管掌健康保険
(組合健保)
各健康保険組合 会社員とその扶養家族
全国健康保険協会管掌健康保険
協会けんぽ(前・政府管掌健康保険)
協会けんぽ各都道府県支部
船員保険 全国健康保険協会
船員保険部
全国健康保険協会
船員保険部
船員とその扶養家族
共済保険 各共済組合 各共済組合 公務員とその扶養家族
地域保険 国民健康保険 各都道府県
各市区町村
各市区町村の窓口 75歳未満で被用者保険に
加入していない方
高齢者医療制度 後期高齢者医療制度 後期高齢者医療広域連合 各市区町村の窓口 75歳以上の方
65歳以上75歳未満で
一定の障害がある方(要認定)

2)公的医療保険の対象

検査や治療のうち、有効性や安全性が確認されたものが公的医療保険の対象となります。年齢や所得などにより本人が支払う自己負担割合(例:70歳未満の成人では3割)が決められ、残りの費用は公的医療保険から支払われます。公的医療保険の対象となる治療については、全国共通の基準(診療点数、診療報酬)が設けられており、基本的にどこで治療を受けても同じ金額になります。

公的医療保険の対象とならないもの

① 公的医療保険の対象外の治療

開発中の試験的な治療法や薬、医療機器を使った治療は有効性や安全性が確認されておらず、公的医療保険の対象ではないため、全額が自己負担となります。また、公的医療保険の対象とならない治療と、公的医療保険の対象となる治療とを併せて受けた場合には、原則として保険対象分も合わせた全額が自己負担となります。

ただし、「先進医療」や「医薬品、医療機器、再生医療等製品の治験に係る診療」など、厚生労働省が認めた治療については、公的医療保険の対象外の診療と対象内の診療の併用が認められ、公的医療保険の対象となる部分については給付の対象になります。また、治験薬(試験薬)の費用とその治験(試験)に関する検査費用は、治験依頼企業(製薬会社)が負担します。ただし初診料など、治験に関係ない項目に関しては、一般の公的医療保険適用の自己負担分がかかります。

公的医療保険の対象とならない治療やサービスを実施する場合には、通常、実施前に患者本人や家族に説明があります。わからないことがあったらよく確認し、納得してから治療を受けるようにしましょう。

② 医療費以外にかかる費用

治療にあたり、医療費以外にも費用がかかることがありますが、公的な助成はありませんので注意が必要です。例えば、入院時の差額ベッド代(室料差額)は、医療費以外の費用のうち大きなものですが、全額自己負担となります。このほか、通院の交通費、入院中の食費、遠方の方が通院治療を受けるために宿泊施設を必要とする場合の費用、保険請求のための書類作成費用、諸雑費などの費用は実費となります。

3)高額療養費制度

公的医療保険の対象となる医療費のうち、ひと月(月の1日~末日)に医療機関や薬局の窓口で支払った額が一定の金額を超えた場合に、その超えた金額が支給される制度です。この「一定の金額」という自己負担の上限額は、年齢や所得に応じて定められています(表2、3)。また、医療費が高額になりそうなことがあらかじめわかっている場合に、事前に手続きを行うことで、医療機関の窓口での支払額そのものを、初めからひと月の自己負担の上限額までとすることができる仕組みもあります(「限度額適用認定証」)。

*制度は改正されることがあります。表の数字は目安としてお考えください。

表2 高額療養費の上限額(70歳未満)
適用区分 ひと月の上限額
(世帯ごと)
多数回該当の場合
年収約1,160万円~
健保:標準報酬月額83万円以上
国保:旧ただし書き所得901万円超
252,600円+(医療費-842,000)×1% 140,100円
年収約770万円~約1,160万円
健保:標準報酬月額53万~79万円
国保:旧ただし書き所得600万~901万円
167,400円+(医療費-558,000)×1% 93,000円
年収約370万円~約770万円
健保:標準報酬月額28万~50万円
国保:旧ただし書き所得210万~600万円
80,100円+(医療費-267,000)×1% 44,400円
~年収約370万円
健保:標準報酬月額26万円以下
国保:旧ただし書き所得210万円以下
57,600円 44,400円
住民税非課税者 35,400円 24,600円
(2022年8月現在)
表3 高額療養費の上限額(70歳以上)
適用区分 ひと月の上限額
外来(個人ごと) 外来・入院(世帯)
現役並み 年収約1,160万円~
標準報酬月額83万円以上/
課税所得690万円以上
252,600円+(医療費-842,000)×1%
[多数回該当の場合:140,100円]
年収約770万円~約1,160万円
標準報酬月額53万円以上/
課税所得380万円以上
167,400円+(医療費-558,000)×1%
[多数回該当の場合:93,000円]
年収約370万円~約770万円
標準報酬月額28万円以上/
課税所得145万円以上
80,100円+(医療費-267,000)×1%
[多数回該当の場合:44,400円]
一般 年収156万~約370万円
標準報酬月額26万円以下
課税所得145万円未満等
18,000円
(年間上限:144,000円)
57,600円
[多数回該当の場合:44,400円]
住民税非課税等 Ⅱ 住民税非課税世帯 8,000円 24,600円
Ⅰ 住民税非課税世帯
(年金収入80万円以下など)
15,000円
(注)「住民税非課税」の所得区分の方については多数回該当の適用はありません
(2022年8月現在)

費用の算出にあたっては、原則として、以下のようなルールが適用されます。

  • 月の初めから終わりまでの暦月ごとに計算
  • 医療機関ごとに計算
  • 同じ医療機関でも入院と外来は別計算
  • 同じ医療機関でも医科と歯科は別計算
  • 入院時の食費負担や差額ベッド代などは対象外

限度額適用認定証について

医療費が高額になり、ひと月の自己負担額が上限額を上回ることがあらかじめわかっている場合には、「限度額適用認定証」(住民税非課税世帯の方は「限度額適用・標準負担額減額認定証」)の手続きを行うことをおすすめします。「限度額適用認定証」を保険証と一緒に医療機関の窓口に提示すると、医療機関でのひと月の支払額そのものを自己負担の上限額までとすることができ、一時的な支払いと払い戻しの手続きをしなくても済みます。加入している保険組合に申請します。

なお、「オンライン資格確認等システム」を導入している医療機関や薬局の窓口では、健康保険証またはマイナンバーカードで本人確認ができれば、自動的に医療機関等での支払額を自己負担の上限額までとすることができるようになりました(2021年10月より)。事前の申請手続きも限度額適用認定証の提示も不要です。おかかりの医療機関等が「オンライン資格確認等システム」を導入しているかどうかは、医療機関等の支払い窓口または下記のリンクにてご確認ください。

費用の合算について

条件によっては、同じ月の複数の医療機関の受診や入院、同一世帯の家族の受診などを合算できる場合があります。払い戻しまでには少なくとも3カ月程度の期間を要します。払い戻しを受けるには、加入している健康保険組合、協会けんぽ、市区町村(国民健康保険・後期高齢者医療制度の窓口)などにお問い合わせください。

多数回該当について

高額療養費制度の多数回該当とは、その月を含む直近12か月のうち、3か月(3回)以上医療費がひと月の自己負担の上限額を超え、高額療養費の支給を受けた場合に、4回目以降の月の上限額がさらに引き下げられる制度です(表2、3)。この3回は連続している必要はありません。また、退職や就職などにより保険証が変わっても、保険者(運営する保険団体)が同一で、かつ加入者の立場(被保険者、被扶養者など)が同じ場合には、前の保険証で対象となった高額療養費の回数を引き継ぐことができます。

手続きの窓口は、各市区町村役場の介護保険の窓口、加入する公的医療保険の窓口です。

4)高額医療・高額介護合算療養費制度

世帯内の同一の医療保険の加入者の方について、毎年8月から1年間にかかった医療保険と介護保険の自己負担額を合計し、基準額を超えた場合に、その超えた金額を支給する制度です。基準額は、その世帯の所得や年齢構成によって定められます(表4、5)。

高額医療・高額介護合算療養費制度(1年単位)と高額療養費制度(ひと月単位)では負担軽減の基準となる期間が異なります。
制度は改正されることがあります。表の数字は目安としてお考えください。
表4 高額医療・高額介護合算療養費制度の自己負担基準額(70歳未満)
所得区分 基準額(年)
①区分ア
(標準報酬月額83万円以上の方)
(報酬月額81万円以上の方)
212万円
②区分イ
(標準報酬月額53万~79万円の方)
(報酬月額51万5千円以上~81万円未満の方)
141万円
③区分ウ
(標準報酬月額28万~50万円の方)
(報酬月額27万円以上~51万5千円未満の方)
67万円
④区分エ
(標準報酬月額26万円以下の方)
(報酬月額27万円未満の方)
60万円
⑤区分オ(低所得者)
(被保険者が市区町村民税の非課税者等)
34万円
(2022年5月現在)
表5 高額医療・高額介護合算療養費制度の自己負担基準額(70歳以上)
所得区分 基準額
①現役並み所得者 標準報酬月額83万円以上で
高齢受給者証の負担割合が3割の方
(現役並みⅢ)
212万円
標準報酬月額53万円~79万円で
高齢受給者証の負担割合が3割の方
(現役並みⅡ)
141万円
標準報酬月額28万円~50万円で
高齢受給者証の負担割合が3割の方
(現役並みⅠ)
67万円
②一般所得者
(現役並み所得者および低所得者以外の方)
56万円
③低所得者 Ⅱ
(被保険者が市区町村民税の非課税者等である場合)
31万円
④低所得者 Ⅰ
(被保険者とその扶養家族すべての方の収入から
必要経費・控除額を除いた後の所得がない場合)
19万円
(2022年5月現在)

手続きの窓口は、各市区町村役場の介護保険の窓口、加入する公的医療保険の窓口です。

2.所得税の医療費控除

1月1日から12月31日までの1年間に一定以上の医療費の自己負担があった場合に、納めた税金の一部を還付する制度です。なお、以下の式で計算された額が医療費控除額となります。

医療費控除額の計算式

また、翌年の住民税額は、控除が反映された所得額をもとに算出するので割安になります。手続きの窓口は、お住まいの住所地を所轄する税務署です。また、インターネットでの申請も可能で、確定申告期間とは関係なく、その年の翌年1月1日から5年間行うことができます。詳しくは、国税庁のホームページをご覧ください。

医療費控除の対象となる主な費用について

  • 医師や歯科医師による診療(セカンドオピニオンも含む)または治療に伴う費用
  • 通院交通費(ガソリン代や駐車料金は除く)、医師などの送迎費、入院時の部屋代(必要がある場合)や食事代、医療器具の購入費・賃借料など
  • 介護保険サービス(介護予防サービスも含む)利用料のうち、療養上の世話の対価に相当する部分
  • 訪問看護、訪問リハビリテーション(リハビリ)、通所リハビリテーション(デイケア)、医療機関や介護老人保健施設でのショートステイなど
  • 治療目的でのマッサージ・指圧師、鍼灸しんきゅう師、柔道整復師などの施術費用
  • 医薬品代(治療または療養のために、薬局・薬店で購入した市販薬も含む)など

3.条件・状況に応じて利用できる公的制度

公的医療保険や所得税の医療費控除以外にも、治療が必要になった原因や障害の有無、家庭の状況、困窮の度合いなどの状況に応じて、医療費の負担を軽減する公的制度があります。

1)石綿(アスベスト)による健康被害の救済制度

過去に石綿(アスベスト)を取り扱う業務に従事していた人たちが、石綿を原因とした肺がんや中皮腫などを発病した場合、労災保険(労働者災害補償保険)の対象となり、補償が受けられます。労災保険の給付を受けるためには、仕事が原因でその病気を発病したと労働基準監督署長から認定を受ける必要があります。認定を受けることで、石綿により発症した場合の療養や休業、亡くなられた場合において、労災保険の補償が受けられます。申請方法や補償内容、ご相談については、労働基準監督署にお問い合わせください。

この病気は、潜伏期間が長い(平均40年前後)ことから、原因の特定が難しいとされています。労災保険制度で補償されない場合や、労災補償を受けずに亡くなった労働者の遺族は、「石綿健康被害救済制度」による救済給付や特別遺族給付金を受けられる場合があります。

労災保険の申請窓口
労災保険等の対象とならない場合の救済制度が紹介されています
中皮腫の保障・救済制度のうち、自分に当てはまる制度をフローチャートで選べます
全国の労災病院25施設に「アスベスト疾患ブロックセンター」「アスベスト疾患センター」を設置し、患者さんからの問い合わせに専門医が対応しています。

2)障害者の医療費の助成制度

重度の障害がある方の医療費の自己負担分の全額または一部が助成される制度です。
この制度は、障害者手帳に基づく制度であるため、手帳で重度の障害があると認められた方が、医療費の助成を受けられます。ただし、対象となる手帳の等級、手帳の種類(身体障害者手帳、療育手帳(愛の手帳)、精神保健福祉手帳)、助成額、対象年齢などは、お住まいの地域により異なります。また、障害を除去・軽減するための治療の効果が確実に期待できる場合には、そのために必要な医療費(自立支援医療費)が支給されることもあります(自立支援医療(更生医療))。詳細はお住まいの市区町村窓口にお問い合わせください。

3)医薬品副作用被害救済制度

医薬品を適正に使用したにもかかわらず副作用による重篤な健康被害が生じた場合に、医療費や年金などの給付を行う制度です。(損害賠償請求ができるものは除きます。)なお、「医薬品」とは、病院・診療所で処方された医療用医薬品等ですが、対象除外医薬品等も定められています。詳しくは、独立行政法人医薬品医療機器総合機構ホームページを確認いただくか、同機構へお問い合わせください。

4)無料低額診療事業

経済的理由により適切な医療を受けることができない方に対し、無料または低額で診療を行う事業です。申込方法や減免基準は、医療機関によって異なりますので、利用にあたっては、直接、医療機関にお問い合わせください。
制度の詳細や実施医療機関については、自治体のホームページを確認するか、お住まいの管轄の福祉事務所(市役所の福祉担当など)にご相談ください。

更新・確認日:2022年08月24日 [ 履歴 ]
履歴
2022年08月24日 「2.高額療養費制度」に多数回該当について追記しました。
2022年06月14日 構成を変更し、内容を一部更新しました。
2019年08月08日 「5.石綿(アスベスト)による健康被害の救済制度」の関連情報に「(独)環境再生保全機構」へのリンクを追加しました。
2018年11月12日 「公的医療保険の仕組み」と「医療費の負担を軽くするための制度」を合わせて1ページに再構成し、 「2.高額療養費制度」に厚生労働省の資料(PDF)へのリンクを追加しました。
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