PDCAサイクル開始の経緯
- 2009年、名古屋第一赤十字病院の化学療法センターで、抗がん剤を安全に投与することを目指しPDCAサイクルの取り組みがスタート。その成果が2010年と2011年の日本臨床腫瘍学会総会、2011年の米国臨床腫瘍学会(ASCO)の総会で発表された。
- PDCAサイクルの活動は、書籍『労働安全衛生マネジメントシステム』を参考に、規約・リスクアセスメント表・リスク管理表をベースにして進められた。
- 2012年、PDCAサイクルを多施設で実施することを目的に「がん薬物療法の質・安全研究会」が結成される。
- 2014年、がん診療連携拠点病院の要件にPDCAサイクルを県単位で推進することが加わった。これを機に「がん薬物療法の質・安全研究会」を解消して、愛知県がん診療連携協議会の「PDCAサイクル推進検討部会」に移行した。
PDCAの具体的な取り組み内容や工夫
- 愛知県がん診療連携協議会に所属する27の拠点病院のすべてがPDCAサイクル推進検討部会に参加。部会の構成員は医師、看護師、薬剤師、事務員。アドバイザーとして、医療の質と安全の専門家である名古屋大学医学部附属病院教授 副病院長の長尾能雅氏に協力を依頼。
- 共通の基盤として規約・リスクアセスメント表・リスク管理表を活用。
- 医師・看護師・薬剤師の分科会を設置。各職種の視点で、愛知県全体が一体となってがん診療レベルを向上させて、高いレベルでの均てん化につながる共通の取り組みを行う。
- 年に2回、PDCAサイクル推進検討部会を開催。毎回3施設が自施設での取り組みを発表することで、取り組みの内容と成果を全員で共有するとともに、アドバイザーである長尾氏から改善点などについてアドバイスを受ける。
PDCAの成果
- 2015年5月には、拠点病院毎のPDCAサイクルの取り組み数の中央値は4、取り組み総数は133だったが、2019年2月には中央値が8、総数が250に増加した。
- 化学療法によるB型肝炎再活性化防止の取り組みによって、造血器腫瘍と大腸がんの患者に対するHB抗原/抗体検査の実施率が向上。
- 2015年3月(共通取り組み開始前 )造血器腫瘍: 90% 大腸がん:60%
- 2016年3月 造血器腫瘍:100% 大腸がん:80%
- 検査実施率の向上は一つの目標であるが、このPDCAサイクルの最終ゴールは、B型肝炎再活性化症例を減らすことである。実際に名古屋市立大大学附属病院では、発症数減が確認され、取り組みの意義が実感できた。
- このような活動により、PDCAサイクルの有効性に対する認識が高まり、その後の活動を推進する上での基盤ができた。
課題と今後の展開
- PDCAサイクルを通してアウトカウムを得るために、さらにプロセスの標準化を進め、ピアレビューをより確実に行っていきたい。
- PDCAのさらなる推進には、組織の改革が必要。そのために、PDCAサイクル推進検討部会の組織を基盤にデジタルトランスフォーメーション(DX)を進めていくことになるかもしれない。
PDCAサイクル推進のヒント
- 愛知県の取り組みを進める上で薬剤師の存在が大きかった。他の都道府県でも、リーダーシップがある薬剤師に協力を得ることで取り組みが進む可能性がある。
- 施設によって状況は異なるので、急いで活動を広めようとせず、ゆっくり推進する。
- PDCAサイクルを確実に回していくには、医療の質と安全に関する専門家の助言が重要。
- 課題に関して詳しい医療スタッフがPDCAサイクルを回していくべき。そのためにも、まずPDCAサイクルについて学んでもらうことが大切。
- 関係者を巻き込むには、成果が出た事例を通して、PDCAサイクルの有用性をある程度体感してもらう必要がある。
- アメリカのAHRQ(医療研究・品質調査機構)が開発した「チームSTEPPS」は、チーム医療を進め改革を成功させるためのエビデンスなので、ぜひ活用すべき。
更新・確認日:2021年08月24日 [
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