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千葉県のがん診療におけるPDCAサイクルの取り組み
千葉県がん診療連携協議会関係者インタビュー

千葉県がんセンター

千葉県がん診療連携協議会:協議会長補佐
PDCAサイクル専門部会部会長
千葉県がんセンター 副病院長
浜野 公明

浜野 公明先生 写真

千葉県がん診療連携協議会:相談支援専門部会部会長代行(現部会長)
小児がん専門部会部会長補佐
千葉県がんセンター 医療局診療部整形外科部長
患者総合支援センターがん相談支援センター室長
米本 司

千葉県がんセンター 医療局診療部整形外科部長 米本 司先生 写真

千葉県がん診療連携協議会:相談支援専門部会委員
千葉県がんセンター 患者総合支援センター
がん相談支援センター副看護師長
中村 晃子

千葉県がんセンター がん相談支援センター副看護師長 中村 晃子先生 写真

(取材日:2021年3月8日 オンライン形式にて実施)

経緯:平成26年に「指定要件の見直し」をきっかけにスタート

—最初に、都道府県レベルのPDCAサイクルを開始したきっかけを教えてください。

浜野 平成26年1月、がん診療連携拠点病院の指定要件が改正され、都道府県におけるPDCAサイクルの確保に関し中心的な役割を求められることになりました。具体的な対応について、同年8月に開催された千葉県がん診療連携協議会で話し合った結果、年度途中にPDCAサイクル専門部会を作ることを決め、9月に第1回の専門部会を開催しました。
第1回の専門部会では、県全体でどのような取り組みをするかを議論しました。がん診療評価指標(QI)やDPCデータを活用して新たな取り組みを始めようという提案もあったのですが、「すぐに実現するのは難しいだろう」という意見も多く出ました。一方、各専門部会ではすでに活動実績があったので、まずは各専門部会でPDCAサイクル活動を始めることにしました。前向きに取り組みがスタートしたというよりは、要件ありきという感じでした。

—がん拠点病院の指定要件があるからということですが、それでもほかの都道府県では、なかなか活動が進んでいないところがあるのも事実です。活動を推進するには、旗振り役が必要だと思うのですが、浜野先生が関係者に働きかけをされたのでしょうか?

浜野 私は協議会長補佐で、協議会活動のプランニングをする役割でした。当時の協議会長に、PDCAサイクル専門部会の設立についてプレゼンテーションした際、協議会長に「各病院から協力を得る必要があるので専門部会の運営は難しいと思う。ぜひ、部会長になっていただきたい」とお願いし体制を整えました。

概要1:体制
各専門部会が活動を進め「PDCAサイクル専門部会」が取りまとめを担当

—次に、体制について教えてください。

浜野 これが、現在の千葉県がん診療連携協議会の組織図です。
PDCAサイクル専門部会以外の各専門部会が、所掌する分野のPDCAサイクルを回し、その取り組み内容と結果をPDCAサイクル専門部会が取りまとめ、共有しています。

「千葉県 PDCAサイクルの体制」の図

PDCAサイクル専門部会には、各専門部会の実務責任者と各拠点病院のPDCAサイクル責任者が参加しています。ほかにも、がん診療連携拠点病院に指定されていない小児がん連携病院の責任者も参加しています。また、千葉県が指定する16のがん連携診療連携協力病院のうち、5施設が任意参加という形で参加しています。
各病院のPDCAサイクル責任者の役職を見てみると、病院長が2施設、副病院長が8施設で、全体の半分を占めています。それ以外は教授・部長・科長級の医師で、各施設の拠点病院事業の中心的な人物が多いです。各病院で医療の質向上についてリーダー的な役割を果たしている先生が、PDCAサイクル専門部会の委員になっているのだと思います。

—PDCAサイクル専門部会が、ほかの専門部会が実施したPDCAサイクルの取りまとめをするという形にしたのは、どのような理由からでしょうか?

浜野 最初にお話ししたように、PDCAサイクル専門部会以外の各専門部会で活動を進めることになったので、おのずとPDCAサイクル専門部会は取りまとめを担当することになりました。同時に、専門部会がない分野の取り組みはPDCAサイクル専門部会が受け持つことになりました。

—このような進め方を、専門部会のメンバーの方は、どのようにお感じになったのでしょう?

中村 相談支援専門部会としては、これまで取り組んできた活動をさらに進めればよかったので、やりやすかったです。加えて、PDCAサイクル専門部会が活動の進め方を定めてくれたので、その点でも進めやすかったと感じています。

概要2:活動内容 県単位と施設単位で活動を推進

—これまでの活動について、教えていただけないでしょうか?

浜野 活動は、県単位で行うPDCAサイクルと、施設単位で行うPDCAサイクルに分けられます。
施設単位のPDCAサイクルは、平成26年度から各病院の活動を共有する形でスタートしました。一方、県単位のPDCAサイクルは平成26年度に分野ごとに行うという方針が決まり、平成27年度に各部会で検討、平成28年に試行が始まり、平成29年度にようやく各専門部会で計画を立案できるようになりました。

「PDCAサイクルに関するこれまでの活動内容」の図

平成30年度には、県単位と施設単位の両方で、報告様式を統一するようにお願いしました。平成26年度にスタートしたときは、3つの様式から選んでもらっていたのです。1つ目は、今回の統一様式に近いもの、2つ目は現況報告書のPDCAサイクルに関する別紙をそのまま提出、3つ目は各施設が独自に使用している様式。実際には、ほとんどの施設が統一様式を使ってくれていることがわかったので、統一することになりました。
同じ年に、それまでPDCAサイクル専門部会で行っていた施設単位の活動の取りまとめも、分野ごとに各専門部会が行った方がよいという意見が出て、一部の専門部会で実施しました。令和元年からは、所掌する分野の施設単位の取り組みも、専門部会で取りまとめていただくようにお願いしました。これによって、各施設の活動と県全体の活動がリンクする素地ができました。

—県単位のPDCAサイクルで数値目標を設定するようになったのも、平成30年度なのですね。

浜野 当初は、「可能であれば数値目標を作ってください」というスタンスでした。平成30年度に、初めて緩和ケア専門部会が「緩和ケア研修受講率」という数値目標を設定しました。

—施設単位のPDCAサイクルの取り組みと成果の共有は、専門部会内だけで行われているのか、それともPDCAサイクル専門部会でも共有されているのでしょうか?

浜野 平成30年度までは、全分野の取り組みについてPDCAサイクル専門部会がとりまとめと共有を行っていました。令和元年度からは、「担当専門部会あり」の6分野の施設単位の取り組みは、各専門部会で取りまとめてもらっています。一方、「担当専門部会なし」の18分野の施設単位の取り組みは、引き続きPDCAサイクル専門部会で取りまとめをしています。

「PDCAサイクルの分野」の図

概要 3:目標設定の工夫
県共通の目標を「施設目標あり」と「施設目標なし」に分割

浜野 令和元年度には、県単位の取り組みを「施設目標あり」と「施設目標なし」に分類しました。そのうち「施設目標あり」は、県全体の共通目標の実現に向けて各施設がプランを作ることにしました。現在2年目になりますが、県単位の取り組みのうち「施設目標なし」が10課題、「施設目標あり」が9課題となっています。

「千葉県がん診療連携協議会PDCAサイクルの分野」の図

—県共通の目標を、「施設目標あり」と「施設目標なし」に分類することは、どのようなメリットがあるとお考えですか?

浜野 実は、県単位のPDCAサイクルについては、それをスタートする前から、同じような活動が行われていました。ただ、部会によって温度差があって、特に県単位(施設目標なし)に当たるテーマの扱いには差がありました。例えば、年2回の会議で報告をするだけの専門部会があれば、相談支援専門部会のように、患者さんも巻き込み、あるべき相談支援の姿を模索する部会もありました。
PDCAサイクルが開始して、県単位(施設目標なし)という形に設定することで、1年間の活動内容を明確にして、年度末には報告することが求められます。報告書はエクセルの表の形式で、PDCAサイクルをしっかり回していないと書けないようになっているので、取り組みの質が自然と向上したのではないかと思います。

—では、県単位(施設目標あり)を設定することで、どのようなメリットが得られたのでしょうか?

浜野 千葉県では以前から、各専門部会が必要に応じて現状調査をしてよいことになっていました。国に提出する現況報告より掘り下げ、ある取り組みについて各施設がどのように行っているのか、どのような体制で進めているのかを知るために、質問項目を作り調査して一覧表にまとめる。全施設が、お互いに行っていることを見えるようにする方法がとられていました。
一覧表になると、「うちの施設だけできていない」とわかるようになります。すると「やりなさい」と言わなくても、自ら改善する病院がある。もちろん変わらない病院もありますが。
それと同じことを、「PDCAサイクル実施状況報告書 県単位(施設目標あり)」を使って行ったわけです。フォームに落とし込むことで、やるべきこととスケジュールが明確になる。PDCAサイクルの活動は、ゼロからスタートしたわけではなくて、従来の活動をより計画的に行えるようにしたものなのです。

千葉県PDCAサイクル実施状況報告の図

—このフォームはどのように活用されているのですか?

浜野 年2回行われる専門部会のうち、1回目の専門部会では課題と目標、そしてPlan(計画)について議論して、その結果を専門部会長が①の部分に記入。2回目には、Do(実行)、Check(評価)、Act(改善)について中間評価をして、②と③の部分に記入していただくようにお願いしています。
さらに、翌年の1回目の専門部会では、Do(実行)、Check(評価)、Act(改善)について最終的な議論をして、その結果を反映した確定版を提出してもらっています。

—県で共通のフォーマットを使用されていると、他施設の取り組みを見て、自分たちの活動を振り返る機会になると思います。また、他領域の取り組みとも比較できるところが素晴らしいですね。他の都道府県にとって、とても参考になるものだと思います。

浜野 他の都道府県の参考になるのであれば、ぜひ使っていただきたいと思います。
(資料1)

概要 4:各部会の活動
「小児がん専門部会」と「相談支援専門部会」の活動について

—次に、各部会の取り組みについて教えていただけないでしょうか?

米本 まず、小児がん専門部会の活動についてお話しします。当部会は、令和2年度からスタートしました。千葉県内には小児がん拠点病院がなく、小児がん連携病院が5施設あるのですが、それぞれの連携が不十分という課題がありました。これを解消する意味でも専門部会を立ち上げました。
部会が掲げた県単位(施設目標なし)の課題は、下表のように2つあります。目標達成のために講演会や公開講座を実施する予定だったのですが、コロナ禍の影響で、実施できたのは医療者向けの講演会と研修を1回だけです。回数は少なかったのですが、顔が見える形でディスカッションもできて、連携が深まるきっかけになったと感じています。

小児がん専門部会・県単位(施設目的なし)の図

県単位(施設目標あり)のテーマには、移行期医療をあげました。初回ということもあり、取り上げるテーマについてみなさんと相談する時間的な余裕がなかったため、事務局の方で決めさせていただきました。移行期医療をテーマに選んだ理由は、5施設の小児がん連携病院と、小児科がない千葉県がんセンターに共通する課題として適当ではないかと考えたからです。こちらで用意したテーマにもかかわらず一緒に進めることができたのは、小児がん連携病院の先生方は、治療を担当された子どもが成長した後の移行期の問題を心配されていますし、我々も、小児がんを経験された方が、その後、当院を受診されたときの対応は不得意なところがあるという状況があるからだと思います。

小児がん専門部会・県単位(施設目的あり)の図

施設単位の目標として上げていただいたテーマは、コロナ禍の小児がん診療、先進医療(CAR-T細胞療法、ゲノム医療など)、長期フォローアップ、地域連携、AYA世代の支援などです。来年度以降は、この中から県単位(施設目標あり)のテーマを決めていく予定です。

—活動はスムーズに進んだのでしょうか?

米本 最初、委員の先生に統一様式による報告をお願いしたときには、わかりづらいという意見もありました。その後、浜野先生の方でわかりやすいマニュアルを作ってくださいました。(資料2)
小児がん専門部会でも簡単なマニュアルを作りました。最終的には、ほとんどの施設の先生が協力してくれました。質の向上はもちろんですが、副産物として施設間の連携というか、同じ方向に向かって進んでいく姿勢が生まれたと感じます。

—小児がん専門部会では関係者が関心のある共通のテーマを選ばれ、取り組みを通じてネットワークがより強固になったということで、理想的なストーリーだと思いました。
次に、相談支援専門部会の活動についてお話を聞かせていただけないでしょうか?

中村 相談支援専門部会では、平成29年度にPDCAの作業部会を設置しました。メンバーは、相談支援専門部会内の実務者と患者委員の方です。これまで、都道府県がん診療連携拠点病院連絡協議会の情報提供・相談支援部会から示されたがん相談支援センターの指標骨子をもとに、千葉県での相談支援をどういうものにするかという現実的な議論と、PDCAサイクルに関する測定指標を作る作業を進めてきました。
測定指標を作るために3つの調査を行いました。1つ目は現況調査で、相談支援の実務者に研修が修了した人が何人いるか、看板を掲げているかといった指定要件に関して調査をしました。
2つ目は利用者調査です。患者さんとそのご家族、職員を対象に、アンケート調査を行いました。この時、統計の専門家にも相談していくことについて意見が出ました。3つ目は、現地調査です。千葉県がん患者団体連絡協議会の協力を得て、がん経験者の方やご家族の方に調査員として病院に行ってもらい、ハード面とソフト面の一部を調査して点数化してもらうというものです。

—病院には、あらかじめ了解をとられたのでしょうか?

中村 はい。一定の期間を設定して、その間いつ調査に行くかわからないという形にしました。協力者には、基本的には普通の利用者として訪問すること、また、仮に病院の担当者から質問された場合は、「訪問の趣旨を伝えてください」とお願いしました。そのときに身元証明として活用してもらうため、協議会長の名前が入った手紙をお渡ししました。

—病院にとっては、かなり刺激的な取り組みですね。

中村 実は、1カ所だけ0点だった施設がありました。結果をフィードバックした日のうちに、「申し訳ありません。鋭意努力します」という電話が入りました。また、点数が低かった施設の委員の方から、部会の際に「なぜ、うちはこういう点数なのだ」と言われたこともありましたが、結果として受け止めて、これからどうするかを考え、計画に上げていくように進めてきました。
相談支援専門部会では、相談の質の担保と周知を目標にしています。また、千葉県のがん相談支援はここまでやるということを明確にするため、実務者の方が4チームに分かれてQ&A集の作成を始めました。

—県単位(施設目標なし)のテーマは、どのように決められたのですか?

中村 これまでの活動の歴史も踏まえて作業部会の中で話し合いをしながら、常に行っていくべきことだと思われる項目をテーマに設定しました。

相談支援専門部会・県単位(施設目標なし)の図

—県単位(施設目標あり)のテーマについては、どのように取り組んでいるのでしょうか?

中村 研修に関しては、調査の結果、拠点病院でも未受講者が3割いるというケースがあったので、とにかく受講率を上げていこうと。「研修は受けるべきもの」という意識が定着するまでは、毎年活動したいと思います。
周知については、その必要性がずっと言われているので、部会をあげて取り組んでいこうと考えています。地域に向けてだけでなく、職員に対しても行っていますが、具体的にどのような方法で伝えていくか苦慮しているところがあります。

相談支援専門部会・県単位(施設目標あり)の図

—各施設での活動内容は、部会で共有されているのでしょうか?

中村 はい。他の病院の活動はすごく参考になるので、部会をあげて実施しています。また、県単位の共通目標についての議論を通して、この部会でやるべきことは何かを話し合えたことがすごくよかったと思っています。力を合わせて行うべきテーマは何か、意識を統一できたと感じます。

中村 晃子先生 写真

成果:活動を通して情報共有が進んだ

—改善活動に取り組むことで得られた効果として、最も強く実感されているのは、どのような点でしょうか?

浜野 やはり情報共有だと思います。ピアレビューのような形で、お互い何をしているのかわかる。その結果「多施設がこのようにやっているなら、うちもやろうかな」と思うようになり、自然と質が上がっていく場だと思っています。具体的な成果は、まだ実感がないのですが、1つのフォーマットに落とすという情報共有の方法をとることで、論点が明確になるという効果はあると思います。

—自分たちが困っていることが、他施設でどのように行われているかが見える。それだけでも十分に価値がありますね。

浜野 例えば、ある活動を何件やりましたとか、どういう職種のスタッフを何人配置しましたといった情報だけだと、そこに至る過程が見えづらいと思うのです。
PDCAサイクルは、何らかの課題を改善したプロセスです。「PDCAサイクル実施状況報告書」を活用して情報を共有すると、活動のプロセスが見えるので、他の病院も参考にしやすいのではと思います。現実的には、みなさんがあの表をどこまで読み込んで、その取り組みを自施設に取り入れているか、わかりません。しかし、いくつかの施設では、参考にしていただいているのでは、と期待しています。

—いわゆる第三者機関による評価に向けて改善活動に取り組む病院も多いと思いますが、県単位で進めるPDCAサイクルの活動にはどのような特徴があるとお考えでしょうか?

浜野 繰り返しになりますが、お互いに情報共有ができることだと思います。例えば千葉県のPDCAサイクルの活動は、県内の十数施設が参加しているので、他施設の取り組みを見ることができる。それも、お互い顔が見えている関係だという点も大きいと思います。仮に、全国の施設の取り組みがわかったとしても、親近感がわかないので、ピンと来ない気がします。だからといって二次医療圏単位だと少し狭すぎるし、関東甲信越は広すぎる。県単位がちょうどよいサイズのような気がします。

—今後、各都道府県でPDCAサイクルの活動を進めてもらう上で、よいアイデアをありがとうございます。

関心事項:今後は、がんの診断・治療の質に関する課題に取り組んでいきたい

—今後、このような活動を進めたいといった関心事項はございますか?

浜野 関心事項というよりは、懸念事項が2つあります。
1つ目は、PDCAサイクルの分野のうち「担当専門部会なし」の18分野について、どれをピックアップして県全体の課題とするか、また、その課題をどう進めていくかについて議論ができていない状態にあることです。
もう1つは、がんの診断・治療の質に関する課題に取り組めていないことです。例えば、胃がんの治療成績を上げるための取り組みを行うといったことが、今のところテーマに上がっていません。
すでにお話ししたように、PDCAサイクル専門部会が立ち上がったときには、例えば国立がん研究センターの東先生がされているQI研究を活用した活動をするという意見も出ていました。当時は「先が見えない大きな話」ということで採用しなかったのですが、そろそろ取り組んでもいいのかな、という思いはあります。
幸い、千葉県のがん診療連携協議会の中に、地域連携クリティカルパス・臓器別腫瘍専門部会があって、そこには7つのがん種ごとの部会がぶら下がっています。例えば、そのうちの1つである胃がん部会に働きかけ、「胃がん治療の質向上をPDCAサイクルで実施しませんか」という方向にもっていけないか、まだ構想の段階です。

—先ほど米本先生から、PDCAサイクルの活動によって「施設間の連携ができ、同じ方向に向かって進んでいく姿勢が生まれた」というお話がありました。臓器別の県内ネットワークを作るためにもPDCA活動を進めるのはよいのではと思いました。

浜野 地域連携クリティカルパス・臓器別腫瘍専門部会の中に、臓器別の部会を作ったのは、クリティカルパスは臓器ごとに作る必要があったからです。その後、臓器別グループで、県内で臨床研究を行うためという理由も加わりましたが、結果として、臨床研究は拠点病院の指定要件にならなかった経緯があります。ご指摘のように、臓器別に施設間の連携を深めるためにも、PDCA活動を推進することには意味があると思います。

PDCAサイクル推進のヒント1:わかりやすくする工夫とマニュアルの整備

—他の都道府県では、まだ活動が本格的に始動していないところもあります。実際に進めていく際に、ポイントになる点があれば教えていただけないでしょうか?

米本 先ほどもお話しましたが、マニュアルがあるといいのではないかと思います。部会の委員は変わるので、持続可能性を実現するには、できるだけわかりやすいマニュアルが必要だと思います。
もう1つは、PDCAサイクルの作成プロセスをわかりやすくする工夫だと思います。例えば「PDCAサイクル実施状況報告書 県単位(施設目標あり)」はエクセルで作られているのですが、記入して欲しい部分のセルに色をつけることにより、そこに記入すればいいとすぐにわかります。

米本 司先生 写真

PDCAサイクル推進のヒント2:
横目で見ながら、参考にしながら、試行錯誤していく

—平成26年度に活動をスタートさせる際、PDCAサイクルについて学ぶ研修会を実施されたのでしょうか?

浜野 研修会をした方がいいという意見もあったのですが、私は「ゆるい感じで始めた方がいいし、慣れればできるようになる」という考え方で、最終的には研修会は実施しませんでした。ただ、今振り返ると、本当にその方がよかったのか、よくわかりません。中村さんは、研修会をしてから始めた方がよかったと思いますか?

中村 そうですね。最初に研修を行うことで、足並みを揃えたかったという気持ちはあります。作業部会のメンバーは熱心に取り組んでいるのですが、そこで議論した内容を部会にもっていくと、なんとなく冷ややかな反応だったというか。それが平成30年ぐらいまで続きました。また、作業部会のアンケートを行っていく時に、統計解析の専門家に相談できたらという話があり、このようなことを国立がん研究センターで支援してくれたらありがたいという話もありました。

—浜野先生は、なぜ、研修を行わない方がよいとお考えになったのですか?

浜野 第一に、どのような研修を行えばいいかわかりませんでした。また、がん診療についてのPDCAサイクルはあまり前例がないので、研修を行うとなると、ほかの分野で行われているPDCAサイクルを参考することになる。医療分野以外の事例から学ぶと、ミスリードする危険性もあると考えました。
米本先生は、研修をせずにいきなり活動を開始したことについて、どのように思っていらっしゃいますか?

米本 取り組みを始めたときには、何をすればよいか全くわからない状況でした。ですが他施設の取り組みを見ているうちに、浜野先生がおっしゃるように慣れてきて、実際にできているかどうかは別として、なんとなくわかってきた気がします。

浜野 他の施設や、他の部会がどのように進めているのかを横目で見ながら、参考にしながら、試行錯誤していくやり方は今でも続けています。
そういう意味では、部会間の歩調は合っていないし、同じ部会間でも、施設間の歩調が合っていないという現象が起きています。このような進め方がよいのか、ご意見をいただきたいですね。個人的に、今までの進め方はこれでよかったけれども、今後は、研修を行った方がよいかなという思いもあります。

PDCAサイクル推進のヒント3:一覧表を活用して、活動を目に見える形にする

—「横目で見ながら、参考にしながら、試行錯誤していく」というのはとても興味深い進め方だと思いました。実際にそのように活動が進むよう、工夫されている点はございますか?

浜野 例えば、PDCAサイクル専門部会には、全ての専門部会の実務責任者が出ることになっているので、他の専門部会がどのように活動しているかが見えるわけです。
また、「県単位(施設目標あり)」と「施設単位」の「PDCAサイクル実施状況報告書」を見れば、施設単位でPDCAサイクルを見ることができるので、「こうやっているのか。うちもやってみようかな」「このような書き方をしてみようかな」と参考にすることができます。
さらに、「県単位(施設目標あり)」の「PDCAサイクル実施状況報告書」は、千葉県がんセンターが模範を示すという枠組みになっているのです。
年2回行われる専門部会のうち、1回目の専門部会では課題と目標、そしてPlan(計画)について議論して、その結果を専門部会長が①(緑色の線で囲まれた部分)に記入する。記入済みの報告書は各施設に配布され、それを見ながら各施設の担当者は年間計画を立て、②の「Plan(計画)」の欄に記入します。
表を見ていただくとわかるように、千葉県がんセンターが1行目に書かれています。私は、できれば千葉県がんセンターの「Plan」を前倒しで決め、それを記入した状態で報告書を配布するようにとお願いしています。そうすれば、計画の立て方がわからない施設は、千葉県がんセンターの「Plan」を参考にして計画を作ってくれると思うのです。
2回目の専門部会では、②の「Do(実行)」「Check(評価)」「Act(改善)」について記入する必要があるので、できれば千葉県がんセンターの「Do」「Check」「Act」を記入した状態で報告書を配布するようにお願いしています。そうすれば、各施設の担当者は、千葉県がんセンターの記述を参考にしながら記入できます。実際、模範を記入している部会では、比較的うまく活動が進んでいるようです。

PDCAサイクル実施状況報告書の図

—千葉県がんセンターのご担当者が模範を書いた後、浜野先生が確認する流れになっているのでしょうか?

浜野 基本的に各担当者に任せているので、そこまでは行っていません。相談があれば、アドバイスするという形です。
テーマの選定に関するアドバイスはなかなか難しいですが、あるテーマを「共通目標あり」「共通目標なし」のどちらに設定すればよいか、「Plan」のゴールをどこに設定するか、「Check」と「Act」のまとめ方などについて、アドバイスすることがあります。

PDCAサイクル推進のヒント4:PDCAサイクルは特別なことではない!

浜野 PDCAサイクルと聞くと、特別な取り組みと感じるかもしれませんが、実は、ほとんどの医療職が、日常業務で自然にやっていることなのですよ。
例えば看護師さんがアセスメントして看護計画を展開するのは、まさにPDCAサイクルなのですね。医師がカルテを記入する際の基本であるSOAPも、Doが記載されないこと、Planが最後に来ることを除けばPDCAサイクルそのものです。SOAPでは主観的・客観的なデータ(Subject・Object)をもとに、評価(Assessment)して、治療計画(Plan)を立てる。それぞれがPDCAサイクルの「Plan」「Check」「Act」に相当します。普段の診療でSOAPが書けている人であれば、同じことをPDCAサイクルのフォーマットに落とし込むだけなので、難しくないと思うのです。

浜野 公明先生

—千葉県では、わかりやすいフォーマットがあることが大きいのでしょうね。一方、苦労されている都道府県では基本的なことはできているのでしょうが、わかりやすいフォーマットがないため、うまく形にできていないのかもしれません。

浜野 実は、「PDCAサイクル実施状況報告書」は、「拠点病院現況報告書」の別紙様式に、「分野」と「Do(実行)」「Check(評価)」「Act(改善)」を追加しただけなのです。本当に単純な表ですし、「PDCAサイクル実施状況報告書」に記入したことを転記するだけで「拠点病院現況報告書」も完成します。

PDCAサイクルの図

PDCAサイクル推進のヒント5:
得意なところから回す、意識の高い人がいるところから回す

—ほかの都道府県の中には、どのように第一歩を踏み出せばよいか悩んでいるところもあると思います。そういう方に何かアドバイスがあれば、お願いできないでしょうか?

浜野 PDCAサイクルフォーラムの発表を聞かせていただくと、PDCAサイクル本来のやり方から少し外れているのではないかと思うことがあります。
例えば、何をテーマにするかの議論に時間を使いすぎて、プランだけで終わってしまう。検証方法にこだわりすぎて、実際にPDCAが回らないということがある気がします。
千葉県では、6つの分野について担当専門部会を設置して、PDCAサイクルを回しています。一方、その他の18の分野について実施状況を調べてみると、歯が抜けたようにポツポツと抜けていて、一部の分野についてのみPDCAサイクルが取り組まれている。その病院で取り組みたい分野だけ実施されていることがわかります。このように、まずは取り組みやすいところから始めてみる形でもよい気がしますね。ある分野の取り組みを進めているメンバーの中に、PDCAサイクルにたけている人がいれば、その人が核になって、院内の活動を推進してくれるはずです。そういう意味で、得意なところから回す、意識の高い人がいるところから回すという形でよいと思います。
また、テーマが決まったら、「PDCAサイクル実施状況報告書」に記入してみるとよいと思います。この表は、PDCAサイクルを回さないと書けないようになっているので、まずこれを書いてみるところから始めればよいと思います。

PDCAサイクル推進のヒント6:継続のカギは、粛々と進めること

—千葉県では、これまで継続して活動をされていますが、続けていくためのポイントのようなものはあるのでしょうか?

中村 活動することで、何らかの成果が得られないと難しいと思います。相談支援専門部会で言えば、患者さんによる現地の調査を行ってその結果が点数化されると、愕然とする人もいると思います。一方、前回の調査結果と比較して、改善されていることがわかれば、「活動を続けていこう」という気持ちになると思います。

浜野 変わらずに実行することだと思います。年に2回、同じ時期に同じ表を送り、同じ時期に回収してもらっています。この作業を担当しているのは、各専門部会に置かれた実務担当者です。各専門部会には、実務責任者の下に実務担当者も置かれていて、どちらも、がんセンターの職員が担当しています。一方、担当専門部会なしの分野については、拠点病院事務局に担当してもらっています。

—事務的なことをバックアップしてくれる体制がないと、活動を進めることが難しいと思います。

浜野 おっしゃるとおりです。そのためにも、同じサイクルで同じフォーマットで実施することが大切だと思います。時期と作業の内容が決まっていれば、事務局の方は粛々と実行してくださいます。
令和元年度、「各施設のPDCAサイクル確保状況調査」を行いました。PDCAサイクルを担当する委員会については、多くの病院で拠点病院事業を運営する委員会が担当しています。施設によっては、QCM活動を担っている質向上委員会が担当している場合もありました。また、担当部署については、各施設の事務担当者から分野ごとの担当部署に振っている例が多かったです。
このような状況を考慮すると、仕組みを短期間で変えてしまうと、各病院は活動を進めづらくなると思います。

—本日は、実践を通して得られた知見を教えていただきありがとうございます。おそらく、PDCAサイクル推進に関わっている各都道府県の方にとって参考になる内容だと思います。

浜野 私たちも試行錯誤しながら進めているので、これが本当にいいモデルなのかよくわかりません。話の端々で感じられたかもしれませんが、現状追認型なのですよ。すでに行われている活動を形にしてみようという取り組みがかなり多い。全く新しいアイデアでゼロから立ち上げられるわけではないし、他県ではどういう雰囲気で進めているのかわかりません。千葉県では、こういうやり方でなんとなく回っている。あくまでも1つの事例として、全国に紹介していただければと思います。

—浜野先生がおっしゃるように、どの都道府県も試行錯誤で活動を進めていると感じます。中には、モデルが見つからない、何をイメージすればよいかわからないという都道府県もあるので、活動が進んでいる都道府県の取り組みを知りたいというニーズがあると考えています。活動の進め方について悩んでいる担当者にとって、本日のお話はきっと役に立つと思います。貴重なお話をありがとうございます。

参考資料

参考資料1:千葉県がん診療連携協議会PDCAサイクル実施状況調査票(資料1)

参考資料2:千葉県がん診療連携協議会PDCAサイクルの進め方(資料2)

更新・確認日:2021年09月17日 [ 履歴 ]
履歴
2021年09月17日 掲載しました。
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