1.乳がん検診検査法のまとめ
国立がん研究センターが作成した「有効性評価に基づく乳がん検診ガイドライン2013年版」では、乳がん検診の各種検査法について下記の推奨がまとめられています。推奨は、がん検診の有効性(死亡率減少効果)と、利益と不利益のバランスを勘案して決定されています。
マンモグラフィ単独法による乳がん検診(40~74歳)
検診による乳がん死亡率減少効果があるとする、相応の証拠があります。
マンモグラフィと視触診の併用による乳がん検診(40~64歳)
検診による乳がん死亡率減少効果があるとする、相応の証拠があります。
マンモグラフィ単独法およびマンモグラフィと視触診の併用による乳がん検診(40歳未満)
検診による乳がん死亡率減少効果を評価した研究は極めて少なく、死亡率減少効果を判断することはできません。
視触診単独法による乳がん検診
死亡率減少効果を検討した症例対照研究は2件、開発途上国でのランダム化比較試験も中間評価のみで、死亡率減少効果を判断することはできません。
超音波検査による乳がん検診
死亡率減少効果を検討した研究はありません。
2.乳がん検診検査法の有効性評価
欧米を中心に評価研究が行われていますが、単独の検査法の評価以外に、視触診とマンモグラフィ併用法のような併用検査群と非検査群を評価したり、J-START研究のように超音波検査およびマンモグラフィ併用と、マンモグラフィ単独法を比較した研究が行われています。
1)マンモグラフィ単独法(40~74歳)
40歳~74歳を対象にマンモグラフィ単独法を検討した5つのランダム化比較試験を用いたメタ・アナリシスの結果では25%の死亡率減少効果が認められました。40~49歳を対象にマンモグラフィ単独法を検討したランダム化比較試験は5研究あり、そのメタアナリシスの結果では19%の死亡率減少効果が認められました。50~74歳の効果を評価した4研究を用いたメタアナリシスの結果では25%の死亡率減少効果を認めました。40歳代の効果は、50歳以上に比べて小さいものの、統計学的な有意があることから、死亡率減少効果はあると判断されました。
2)マンモグラフィと視触診の併用法(40~64歳)
マンモグラフィと視触診の併用法を評価したランダム化比較試験は3研究であり、40~64歳が対象に含まれていました。65歳以上を評価した研究はありませんでした。3研究を用いたメタアナリシスによると13%の死亡率減少効果が認められました。
3)マンモグラフィ単独法およびマンモグラフィと視触診の併用法(40歳未満)
40歳未満を対象とした研究は認められず、死亡率減少効果については判断できませんでした。
4)視触診単独法
視触診単独法を評価した症例対照研究が2件認められましたが、統計学的に有意な死亡率減少効果は認められませんでした。開発途上国からのランダム化比較試験の中間報告はありましたが、乳がん死亡がエンドポイントではありませんでした。
5)超音波検査
超音波検査の死亡率減少効果を評価した研究は認められませんでした。
* わが国で行われたJ-START研究(超音波検査による乳がん検診のランダム化比較試験)は40歳代を対象とした超音波検査およびマンモグラフィ併用法と、マンモグラフィ単独法を比較した研究です。2015年に報告された結果は、初回検診の感度・特異度・発見率などの結果であり、死亡率減少効果についての解析結果ではありません。
3.乳がん検診の不利益
オランダやカナダではマンモグラフィの放射線被曝を数理統計モデルで推定した研究が行われています。マンモグラフィの放射線被曝により逆に乳がんが誘発されるのかどうかは、必ずしも確定的なエビデンスではありませんが、40歳代以上では検診による利益は、被曝による不利益を上まわるものの、40歳から検診を開始した場合の利益と不利益の差は、50歳から開始した場合に比べて小さいという傾向があるようです。検診の間隔の延長や被曝線量の低減を検討する必要があります。
がんではないのにがん疑いと診断される偽陽性については、数理統計モデルを用いた海外の研究において、検診を10回受けると累積偽陽性率は20~60%に至ると推計されています。わが国での偽陽性割合は、1回の検診あたり10%前後と報告されています。
乳がんでは、マンモグラフィ検診による過剰診断が問題となっています。乳がんと診断された場合、その方が過剰診断か否かを判断することはできませんが、一般的に年齢が高くなるに従い、過剰診断の可能性は高くなります。