1.子宮頸がん検診検査法のまとめ
国立がん研究センターが作成した「有効性評価に基づく子宮頸がん検診ガイドライン2019年版」では、子宮頸がん検診の各種検査法について下記の推奨※1がまとめられています。推奨は、がん検診の有効性(浸潤がん罹患率減少効果)と、利益と不利益のバランスを勘案して決定されています。
※1 子宮頸がん検診ガイドラインと厚生労働省の「推奨」の違いについて
現時点(2021年9月時点)で厚生労働省は、市区町村が行う住民検診及び職域検診として、細胞診の実施(20歳以上、2年に1度)を推奨しています。
厚生労働省は「有効性評価に基づく子宮頸がん検診ガイドライン」の推奨を基に、実際の運用方法(診断までのアルゴリズム、精度管理体制など)を検討したうえで、対策型検診の推奨を決定します。現在はまだ運用方法が検討段階にあります。
子宮頸部擦過細胞診単独法
子宮頸がん罹患率減少効果を示す確実な証拠があるので、対策型検診・任意型検診として、細胞診(従来法・液状検体法)による子宮頸がん検診を実施することを推奨します。検診の対象は20~69歳の女性、検診間隔は2年が望ましいです。検体は医師採取のみとし、自己採取法は認められません。
HPV検査単独法
子宮頸がん罹患率減少効果を示す証拠があるので、対策型検診・任意型検診として、HPV検査単独法による子宮頸がん検診を実施することを勧めます。ただし、がん検診として実施する前にHPV陽性者に対する経過観察の具体的な方法 (アルゴリズム) を先に確立する必要があります。検診の対象は30~60歳の女性、検診間隔は5年が望ましいです。原則医師が検体を採取します。
細胞診・HPV検査併用法
子宮頸がん罹患率減少効果を示す証拠があります。検診の対象は30~60歳の女性、検診間隔は5年が望ましいです。原則医師が検体を採取します。細胞診・HPV検査併用法は、細胞診単独法に比べて偽陽性率が高く、三つの手法の中で不利益が最も大きくなります。そのため、精度管理体制の構築、対象年齢・検診間隔の遵守、アルゴリズムに精通した婦人科医の確保などの条件が満たされた場合にのみ対策型検診・任意型検診として実施できます。
2.子宮頸がん検診検査法の有効性評価
ここで評価されている検査法は、いずれも医師採取が原則です。自己採取法を用いた子宮頸部擦過細胞診は、検体の質が著しく低いため不適切と判断されています。
1)子宮頸部擦過細胞診単独法(従来法)
子宮頸部擦過細胞診(従来法)による子宮頸がん死亡率減少効果を示した無作為化比較対照試験はありません。しかし、世界中で行われた多くの観察研究により、子宮頸部擦過細胞診(従来法)を定期的に受診すると、子宮頸がん死亡率と浸潤がん罹患率が減少することがわかりました。定期的に検診を受けることによって、子宮頸がん死亡率を最大80%まで減少させることができます。
わが国では10年間の観察において、検診を受けた人が40%以上の高実施地区では、子宮頸がん死亡率が63.5%減少したのに対して、検診を受けた人が10%台の地区では、子宮頸がん死亡率減少は33.3%にとどまっていることが報告されています。
子宮頸がん検診エビデンスレポート2019年度版で実施したメタアナリシスでは子宮頸部擦過細胞診のCIN3以上の病変に対する統合感度は、ASCUS以上を精密検査の対象とした場合65.8%であると報告されています。またこの時、がんや上皮内がんでないと判定できる統合特異度は93.4%と報告されています。またCIN2以上の病変に対する統合感度は63.5%、統合特異度は94.7%と報告されています。
以上の結果より、有効性評価に基づく子宮頸がん検診ガイドライン2019年度版では細胞診単独法は推奨グレードA※2とされています。
2)子宮頸部擦過細胞診(液状検体法)
液状検体法を用いた子宮頸部擦過細胞診による子宮頸がん死亡率減少効果・罹患率減少効果についての報告は、現在までありません。しかしながら、従来法と液状検体法はほぼ同様の方法であり、その感度・特異度はいずれの病変に対してもほぼ同等なので、細胞診(従来法)と同様に子宮頸がん死亡率減少効果を示す相応な証拠があると判断できます。
3)HPV検査を含む方法(HPV検査単独法および細胞診・HPV検査併用法)
細胞診とHPV検査を含む方法の浸潤がん罹患率減少効果を比較した無作為化比較対照試験では、細胞診単独法に比べて浸潤がん罹患は減少する傾向が示されています。子宮頸がん検診エビデンスレポート2019年度版で実施したメタアナリシスでは、細胞診単独法比べて、HPV検査単独法では14%、細胞診・HPV検査併用法では43%浸潤がん発生が低下していました。ただし、これらの結果は統計学的に有意ではありませんでした。以上より、HPV検査を含む方法が細胞診単独法に相当あるいはそれ以上の可能性があると考えられます。
一方、HPV検査を用いたがん検診の不利益の一つに偽陽性の増加があげられます。偽陽性の場合、がん検診受診者は健常であるにも関わらず、不安になったり、不要な検査・治療を受けることになります。細胞診単独法のCIN2以上の病変に対する統合特異度94.7%と比べると、HPV検査単独法の統合特異度は90.4%と低く、偽陽性は検診1000人あたり細胞診単独法に比べて42人増加します。細胞診・HPV検査併用法の統合特異度は84.4%であり、偽陽性は検診1000人あたり細胞診単独法に比べて101人増加します。
浸潤がん罹患の減少と偽陽性率を検討し、有効性評価に基づく子宮頸がん検診ガイドライン2019年度版ではHPV検査単独法は推奨グレードA※2、細胞診・HPV検査併用法は推奨グレードC※3となっています。
※2 推奨グレードA:対策型検診・任意型検診としての実施を推奨する。
※3 推奨グレードC:課題が解決された場合に限り、対策型検診・任意型検診として実施できる。
3.子宮頸がん検診の不利益
子宮頸部細胞診(従来法・液状検体法)やHPV検査では、検体採取時に出血する場合もありますが、大きなリスクや苦痛はほとんどありません。しかし、検診で発見されたCIN1やCIN2については、自然に治癒する、あるいは長期間進行しない過剰診断である可能性があります。
精密検査として、コルポスコープによる子宮頸部の組織診が行われますが、若干の痛みや出血があります。精密検査でCIN3と診断された場合は、子宮頸部円錐切除術を行います。円錐切除による流・早産率については、影響あり・なしの両方の報告があり、妊娠に対するその不利益の可能性についての報告は一定していませんが、妊娠中の産婦人科医による適切な経過観察が必要です。
4.HPV検査を用いた子宮頸がん検診導入への課題
HPV検査は、現在子宮頸がんではないけれども、将来子宮頸がんへと進展するリスクがある人を見つけることもできます。HPV検査の陽性者は治療を要する状態に至るまで長い年数の経過観察が必要です。そのためのアルゴリズムの確立が必須です。
現時点では、HPV感染症を示す保険病名が存在しないため、健康保険を用いて経過観察ができるかどうかも決まっていません。厚生労働省研究班でアルゴリズムを含めた今後の子宮頸がん検診の課題が検討されています。