プログラム
1)各県の相談支援の現状・取り組み報告
2)各県のがん相談支援センターにおける先駆的な取り組みを紹介
テーマ:相談員の情報支援の力をつける
~情報を見極めて、相談者が活用できる情報にするために~
講師:がん対策情報センターがん情報提供部部長 高山智子先生
「がん相談支援センターで扱う情報について」
「がん専門相談員が行う支援を考える」
グループワークの発表・共有
開会あいさつ
国立がん研究センターがん対策情報センターの若尾文彦センター長より、開会のあいさつがありました。今回のフォーラムには相談員の方だけでなく行政の方も参加しており、相談員の方も行政の方も、隣県の活動を知ることで自県の活動につなげていっていただきたいとの言葉がありました。
また、社会の中で間違った情報があふれていることや、拠点病院の整備指針改訂によりがん相談支援センターの業務範囲が拡大したこと等について触れ、情報の正確さを判断するための考え方を学ぶ機会として今回のフォーラムを活用していただきたい、また相談員だけでなく病院全体を巻き込んで相談業務に取り組んでいっていただきたいとのあいさつがありました。
各県の活動内容の発表
午前中は、各県のがん相談支援の取り組みに関する発表が行われました。香川労災病院の伊原志乃さんの司会のもと、香川県、愛媛県、高知県、徳島県の順で各県20分程度の報告が行われました。
まず香川大学医学部附属病院の小田優子さんから、香川県の取り組みについて報告がありました。
第2回香川県がん患者ニーズ調査の結果から、診断を受けたときの相談相手としては近しい人が多く、病院のがん相談窓口の利用は少ないこと、相談室があること自体を知らないという人も3割いたこと等が紹介され、広報活動を継続していくことの必要性が述べられました。
また、相談支援部会の取り組みとして、実務者連絡会の定期開催、がん相談支援センターの体制や活動内容等に関する拠点病院間での相互評価の実施、香川県版PDCAチェックリストを用いた自己評価の実施、拠点病院以外の方も含めた相談員研修の開催等が紹介されました。
続いて、香川県健康福祉総務課の古川憲男さんから、行政の立場での取り組みについて報告がありました。拠点病院への専門家(社会保険労務士・美容師・折紙講師・音楽療法士等)派遣や、がん患者ピアサポート研修の実施、香川県版がん患者必携の作成、ゲストティーチャー(がん看護専門看護師・保健師等)によるがん教育の推進等、第3次香川県がん対策推進計画に基づきさまざまな事業を実施していることが紹介されました。
次に、愛媛大学医学部附属病院の塩見美幸さんから、愛媛県の取り組みについて報告がありました。
がん相談支援専門部会下に4つのワーキンググループが設けられており、年2回相談員研修を企画開催していること、「えひめの療養情報」の作成やがん相談支援センターのPR活動に取り組んでいること、PDCAの一環として年1回、各施設でPDCAチェックリストをつけた結果を集約し、部会として取り組む課題を抽出していること等が報告されました。
また、がん登録専門部会・がん相談支援専門部会・患者会等で構成される合同ワーキングにより作成された「がんサポートサイトえひめ」についての紹介があり、患者会の意見を取り入れながら項目を選定したこと、経験談が多く盛り込まれ親しみやすい構成となっていること、各病院のがん登録のデータや設備・スタッフの状況も把握できること等の特徴が述べられました。
続いて、高知大学医学部附属病院の前田英武さんから、高知県の取り組みについて報告がありました。
高知県版がんサポートブックの作成等、高知県では行政(県庁)が中心となってさまざまな取り組みを進めてきた経緯があり、情報提供・相談支援部会にも行政が副部会長として参画していること、部会では年2~3回の研修開催や県内共通のPDCAチェックリストを用いた評価実施に取り組んでいることが紹介されました。今年度の研修では「相談対応の質保証(QA)を学ぶ」を研修テーマとして扱い、高知県版の相談対応マニュアル作成が次年度の計画にあがっていることについても述べられました。
また、県全体で相談内容の評価・分析を行う必要があるとの課題認識のもと、記録様式統一の取り組みが進められ、2019年4月より全機関で継続して「相談記録の基本形式 データ入力ツール」への入力を行う方針となったことが報告されました。
最後に、徳島大学病院の高田裕子さんから、徳島県の取り組みについて報告がありました。
徳島大学病院では、がんゲノム医療連携病院としてがんゲノム医療に関する相談対応の体制整備に取り組んでいること、徳島赤十字病院や徳島県立中央病院では、治療と仕事の両立支援の取り組みが進められていること、また、徳島市民病院では、救急診療が必要となる可能性のある患者に「あんしんカード」を発行し救急時にいつでも対応できる体制を整備していること等が紹介されました。
講義「相談員の情報支援の力をつける」
午後は、香川大学医学部附属病院の三木晃子さんの司会のもと、「情報支援」をテーマとした講演、グループワークが行われました。
まず、国立がん研究センターがん対策情報センターがん情報提供部の高山智子部長より、「相談員の情報支援の力をつける~情報を見極めて、相談者が活用できる情報にするために~」というテーマでの講演がありました。
約10年前、相談支援センターが設立された当初は、情報がないことが問題であったものの、現在は情報過多により信頼できる情報を見つけにくくなっているのが問題であること、科学的根拠に基づきまとめられた信頼できる情報である診療ガイドラインはこの10年で急速に増加し、2019年現在80種類近くの診療ガイドラインがあることが述べられました。中山健夫氏による「医療情報を読み解くポイント」やHealth On the Net Foundationによる「HONコード」の紹介を交えながら、信頼できる情報であるかどうかを判断する際の目安として、次のような観点がポイントとなることが紹介されました。
- 複数の批判的な目で、利用する人に対して責任を持った体制で、新しい情報を提供しているかどうか
- 中立的な立場で、エビデンスに基づく情報を、バランスよく出しているか
- 世に出る(臨床応用)までのどの段階のものか、複数知見をまとめたものか
また、情報環境や社会の変化により、求められるがん情報の範囲は広がっており、情報にたどりつける人/たどりつけない人、情報を理解できる人/理解が難しい人等、利用者側のヘルスリテラシーの幅も広がっていくなかで、その人が情報を活用できるように、わかりやすく情報を提供すること等の必要性が述べられました。情報支援におけるアセスメントの中核は、主訴の背景にある病気や治療に対する認識、病気と向き合う姿勢であること、また、次のような視点を持って相談者と対話し、相手を理解していくことが必要であることが述べられました。
- どのように情報を収集しているか
- 収集している情報の範囲や深さ、理解の状況は
- 話の組み立て方は(論理的かどうか)
- 相談者が大事にしていること、話のなかでポイントとなる表現(言葉)は何か
- 何を知っていて、何を知らないか
- 相談者の話は、標準的な医療の考え方と相違はないか
- 相談員が相談者の全体像をつかめているか
信頼できる情報を相談者の状況に合わせて提供することにより、相談者の情報探求や情報を活用した意思決定・問題解決を支援することが、がん相談における情報支援であり、相談員それぞれのバックグラウンド(看護・心理・福祉)に応じた得意とする着眼点を活かしながら、がん専門相談員として情報支援を行うための力のさらなる向上に取り組んでいただきたいとのお話がありました。
グループワーク1「がん相談支援センターで扱う情報について」
グループワーク1では、はじめに、日ごろ相談対応する中で、どのような情報を探しているか、調べたすべての情報を相談者に伝えているか等について、グループの中で討議が行われました。次に、講義で紹介されたHONコードの8つの観点に着目して、ウェブサイトを確認していくというワークが行われました。
がん情報サービスのサイトを確認したグループからは、HONコードの観点をきちんと押さえてウェブサイトが作成されているという意見や、どのような手順で情報を作成しているかということが編集方針に書かれているが、実際の状況は分からないため、記載されていることをそのまま鵜呑みにはできないとの意見が挙がりました。一方、グループメンバーの施設のウェブサイトを確認したグループからは、トップページ以外のページにも更新日の記載は必要かという質問や、複数の目で検討されているかどうかをどこで判断すれば良いのか迷ったという意見が挙がりました。
最後に、今後、情報を見るときに着目したい視点としてどのようなものがあるかをグループで検討し、情報の更新時期や出典を確認したい等の意見が挙げられていました。
グループワーク2「がん専門相談員が行う支援を考える」
グループワーク2では、事例教材の音声を聞き、情報支援のアセスメントの観点から相談者について理解を深めるというワークが行われました。
相談者の語りの中でポイントとなる表現はあったか、それについて対話の中でどのように掘り下げるかという投げかけに対し、会場からは「抗がん剤は毒」という相談者の発言があるが、それはどこで得た情報なのかを掘り下げてみてもよいのではとの意見が挙がりました。
また、危機状態にあることによって、この相談者が本来もっている判断力や理解力が十分に機能していない可能性があるといった意見や、相談者が自身の気持ちを言語化できるような支援が必要といった意見、さらには外来終了後に外来看護師によるフォローが十分に行われていないのではないかといった診療体制上の課題への指摘等も挙げられました。
閉会あいさつ
香川県がん診療連携協議会相談支援部会の池田政身部会長より、閉会のあいさつがありました。
午前中の取り組み報告では、それぞれの県による特色があり、お互いの良いところを吸収してさらに取り組みを発展させていっていただきたいとの言葉がありました。
また、情報支援に関しては100点満点の正解というものはなく、患者にとってより良い決定ができるよう、プロセスを大切にしながら情報支援に取り組んでいっていただきたいとのあいさつがありました。
最後に、池田部会長から次年度フォーラム開催に向けての激励の言葉があり、愛媛県がん相談支援専門部会の灘野成人部会長と愛媛県の相談員の方々への引き継ぎが行われ、閉会となりました。