- 日時
- 2017年09月15日(金)17:30~19:00
- テーマ
- 当院で行っている若手診療放射線技師への教育システム ‐下咽頭がんを例として‐
(国立がん研究センター 東病院発信)
司会 国立がん研究センター東病院 放射線技術部 放射線診断技術室 副室長 永井 優一
はじめに
国立がん研究センター東病院 放射線技術部 放射線診断技術室 青柳 俊
当院では継続的な教育システムの構築を行ってきた。この教育システムは、各がん種に対する検査・治療・放射線技術をデジタルテキスト化することで、固定されたモダリティだけでなく、他のモダリティや他職種検査を学習することを目的に行っている。
今回は「下咽頭がん」の典型的な疾患例を挙げて、当院の各モダリティにおける放射線技術学を紹介する。また、併せて教育システムの開発の進捗についても報告する。
1.下咽頭がん概論
国立がん研究センター東病院 放射線技術部 放射線診断技術室 稲川 日華里
下咽頭がんに対する治療法の選択肢が増え、正確な進展範囲を把握するための高い画像診断技術が求められている。下咽頭がんは頭頚部がんのうち18%を占めており、5年生存率は全がん種と比較し44.7%と低い。また食道がんを併発していることが多いことも予後に影響している。病期は画像診断や内視鏡検査により分類され、治療方法はリスク群によって選択される。
2.CT検査
国立がん研究センター東病院 放射線技術部 放射線診断技術室 郷戸 允
下咽頭がんに対するCTの主な役割は、病変の進展範囲とリンパ節転移の判定にある。当院の特徴として、Dual-Energy CT(DECT: 100 kV, Sn140 kV)を用いたCT検査を行っている。軟骨浸潤の進展範囲の評価に、通常の軟部条件画像に加えて、DECTによる物質弁別の技術を用いて、ヨード分布を示した画像(iodine overlay image: IO image)を追加作成している。IO imageを追加することで、軟骨浸潤に対してより正確な診断を実現している。
3.MRI検査
国立がん研究センター東病院 放射線技術部 放射線診断技術室 渋谷 俊之
下咽頭がんに対するMRI検査の主な役割は、病変の進展範囲の診断である。特に軟骨・骨浸潤や周囲への浸潤の評価に優れている。撮像シーケンスは、主にT2WI、T1WI、DWI、STIR、3D撮像である。さらに、DWIはADC(apparent diffusion coefficient)mapを、造影後の3D撮像ではMPRを作成する。撮像範囲は、腫瘍および外側咽頭後リンパ節(ルビエールリンパ節)を含めた撮像を行う。MRI検査では、検査時間が長いため嚥下等のモーションアーチファクトが発生しやすく、患者への十分な検査説明と協力が必要不可欠である。
4.PET/CT検査
国立がん研究センター東病院 放射線技術部 放射線診断技術室 栁澤 かおり
頭頸部ガイドラインにおける18F-FDG PET/CT検査の位置付けは、機能画像として病期診断におけるN・M 因子の診断のみならず、再発診断についても有用であるとされている。FDG PET/CT検査は糖代謝を利用し、体内の薬剤分布を画像化することで、一度の検査で全身評価が可能である。またCT画像とPET画像を重ね合わせることにより、視覚的に簡便に集積の有無を確認できるため、術後の非対称な解剖や内視鏡的アプローチが難しい頸部リンパ節の評価に有用とされる。一方で、術後の炎症、発声や嚥下による筋肉運動によってFDG薬剤が集積する可能性があり、注意を要する。
5.放射線治療
国立がん研究センター東病院 放射線技術部 放射線治療技術室 武田 陽平
下咽頭がんに対する放射線治療として、当院ではIntensity modulated radiation therapy: IMRTを行っている。標的やリスク臓器の輪郭作成を医師が担当し、治療計画は技師が担当している。放射線治療のメリットは、病期にもよるが、喉頭を温存した治療を行うことにあり、標的への十分な線量処方と周囲臓器への線量低減が必要とされる。放射線治療中は抗がん剤治療を併用していることで、体重減少が治療精度の低下要因となるため、体重測定等による患者の状態を把握し、定期的な位置照合を実施し適宜補正を行っていく。
6.SISHAMOシステム新着情報
国立がん研究センター東病院 放射線技術部 放射線診断技術室 青柳 俊
当院では、がん種を軸にして各モダリティの放射線技術、研究成果を電子カルテ端末上に構築し、いつでも閲覧できる教育システム(SISHAMOシステム)を考案し、順次開発を進めている。
現在の運用としては、新採用者やローテンション時のスタッフの教育に活用している。本システムを使用することにより、実際に検査・治療に応用されている放射線技術を効率的に学ぶことができ、モダリティ内の知識共有、検査・治療技術の水準を担保する効果がある。
今後、より多くのがん種を本システムに構築するとともに、構築済みのがん種についても新しい要素技術の導入に合わせてテキストの追記・修正し、さらには他職種の検査技術についても挿入しブラッシュアップを図っていく。
おわりに
今回は当院におけるに下咽頭がんに対する放射線技術学ならびに教育システム(SISHAMOシステム)の新着情報を紹介した。現在もSISHAMOシステムは、円滑にコンテンツが展開できるよう問題点を洗い出し、更新中である。
現在は放射線技術部の教育システムとして本システムを構築している。今後は放射線検査に関わる他職種がSHISHAMOシステムを利用して放射線検査について学習できるよう他職種向けのテキストも挿入し、診療・研究・教育に有効利用できるシステム構築を検討していきたい。