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小児がん患者就学支援

第1章 病気の子どもにとっての教育の意義を理解する

SUMMARY

学習目標

小児がんの就学に関する相談対応と支援を行うために、対象者を理解することは、最も基本的となる重要な要素です。ここでは、病気の子どもにとっての教育の意義や意味を理解することを目指します。

内容

入院期間中の子どものQOLの充実のみならず、退院後の学校生活や社会生活への適応を願うとき、病院の中で「成長発達を保障しながら、退院後の生活を視野に入れた関わりをする学校」と、病院の外で「目標となり、帰りを待ち迎えているメッセージを送る学校」、両方の学校が大きな役割を担っています。入院中の多くの子どもは、過酷で不安な日々を過ごしながらも、「病気は治るはず」「退院して自宅や元の学校に戻れるはず」などの、未来への希望や目標を抱いています。学校教育が制限されやすい入院環境の中で、学ぶことの意味を深く考えたり、感謝の念を強くする子どもがいます。

病状が厳しくなったときにも、学びを強く求める子どももいます。そのような子どもたちの声を聞くと、学んでいるという実感は、「未来に向かって成長し続けている」現在の自分を確かめることにつながっているように思われます。子どもが将来への見通しをもちにくい状況の中でも、そのような希望を抱き続けられることが、子どもにとって確かな心の支えとなることもあるのではないでしょうか。

1.入院中の子どもにとっての医療と教育

医療の著しい進歩の中で、多くの小児がんの子どもたちが、病気を克服し、その後の長い人生を歩んでいきます。治療の経過の中では、長期にわたる入院治療が必要となる時期があり、子どもたちにとっては病院がしばらく生活の場となります。病院が治療の場であるとともに、その子どもらしい育ちの場として捉えたときに、医療とともに学校教育は大きな役割を果たすことになります。小児がんを含めて病気の子どもたちへの教育は、特別支援教育の一環である「病弱教育」がその中心を担っており、入院中の小児がんの子どもたちに対しては、病院にある学校で病弱教育が提供されています。病院の中での教育は、特別支援学校(本校・分校・分教室)、特別支援学級、訪問教育などさまざまな形態で行われていますが、ここでは病院にある学校と総称しています。

2.病気の子どもが抱える心理社会的困難

入院治療を余儀なくされた子どもたちにとって、病棟での体験は非日常的なものであり、なじみのない医療施設や医療スタッフ、苦痛を伴う医療的処置、治療から生じる外見上の変化など、入院する前の日常生活が分断された感覚をもちやすくなります。このことは身体面のみならず、心理社会面において、多くの喪失やその予期を伴うために、怒り、不安、抑うつなどの感情をもたらします。入院治療中は、自分で何かを選択したり、決定することが許されにくい環境であるために、子どもたちのコントロール感が低下したり、無力感が生じることがあります。治療の経過の中では、学校での学びが分断されることがあります。学習に空白期間が生じると学力不振におちいりやすく、学習活動への意欲や自尊心の低下が懸念されます。また、入院前の学校生活とは異なり、集団での活動が制限されやすい病棟生活では、子ども同士で関わることで育ちやすい社会性の獲得が妨げられやすくなります。

3.入院中に教育を受ける意義

日常・集団生活の保障

生活の中で病気や入院によって突然の不連続が生じたときに、その子どもの中に日常と連続していると感じられる環境があることは安心感をもたらします。入院する前の子どもたちにとって、学校で過ごす時間は日常生活の中心を占めるものです。入院中も入院前と同じように、小学生や中学生等として学校に通い、教師や仲間と一緒に学び遊ぶ時間は、「病気になっても変わらない自分」を感じることにつながります。

入院中の学習の機会は、現実的な学力を身につける上で大きな役割を果たすため、退院後の学校生活での適応に寄与し、進学における選択の幅を広げます。さらに、病院にある学校では、同じ境遇にある仲間と活動することによる連帯感や、仲間と力を合わせて成功することの達成感など、子ども同士が関わることで得られやすい感情が体験されます。その中で、対人関係の葛藤の中で自分の言動を調整する力や、集団におけるルールを学習するなど、将来の集団生活に求められるスキルの獲得の機会として重要な役割を担っています。

ポジティブ・ネガティブな感情の体験と共有

達成感、満足感などのポジティブな感情体験を引き出す材料を用意しやすいことは、学校教育の特徴の1つだろうと思います。また、実際に学習に取り組む中で、主体的に解答を導き出そうとする努力や、正答を導き出したプロセスで感じる「自分にもできた」「できなかったことが、できるようになった」という気持ちは、コントロール感や自信の回復に寄与します。また、教師と一緒に学習することによって、解けなかった問題が解けるようになる経験は、「うまくいかなったことも、サポートを受けながらやり直すことができる」あるいは「これからもできるようになるだろう」という困難への対処可能性を高めたり、将来の見通しを明るくすることに貢献します。

治療の場面を離れ、仲間や教師とともに過ごす時間は、気持ちが解放されやすく、詩や絵画等の表現活動を通して、ひとりでは言語化されにくい希望や不安が表現されやすくなります。それらのポジティブのみならず、ネガティブな感情も共有してくれる周囲の存在は、あるがままの自分を認める気持ちや、生きていく世界を信頼する気持ちを育てていく上で大きな役割をもっているように思います。入院中の思い出が「嫌だった、つらかった」体験だけでなく、「楽しいこともたくさんあった」「当たり前だと思っていたことのありがたさに気付いた」など、病気や入院経験への肯定的な側面への気付きを得るために、学校で過ごす時間が果たす役割は少なくありません。

4.退院後の生活を視野に入れた関わり

前籍校1* とのつながり

病院の中にある学校で教育を受けるためには、原則として前籍校から病院にある学校への転籍が必要となり、入院治療終了後は再び前籍校へと復帰します。入院中の子どもや家族の前籍校に対する思いは、子どもの心身の状態や、入院前に抱いていた前籍校への感情の違いによって個別性が高いものです。一般的には、病状が安定すると、子どもも家族も前籍校のことが気がかりとなり、前籍校への復学は入院治療における大きな目標の1つとなります。入院中の子どもは、「仲間に自分のことを忘れられていないだろうか」という不安を抱いていることも多く、前籍校のクラスメイトからの応援のメッセージによって、「自分のことを覚えてくれている仲間がいる」「帰りを待ってくれている場所がある」という実感を得ることができます。このことは、心理的な安定のみならず、実際に復学する際の不安・緊張の軽減に役立つことが期待されます。一方で、前籍校の担任が入院中の子どもの状況を推し量りながら連絡を控えていたり、進級に伴うクラス替えなどが理由となって、入院中の子どもと前籍校とのつながりが疎遠になることがあります。その結果、子どもの復学への意欲や治療意欲が低下したり、家族の前籍校に対する感情がネガティブなものとなる可能性があります。前籍校への復学を円滑なものとするためには、関係者が入院中の子ども・家族と前籍校とのつながりの状況について心を配り、必要に応じて両者の橋渡しをすることが求められます。

1* 前籍校:病弱教育では、一般的に入院する前に通っていた学校のことを「前籍校」と呼びます。

復学後の配慮の確認

復学後の経過に応じた適切な配慮や、想定外の問題に対処していくためにも、関係者の継続した連携が必要です。特に復学前には、家族、病院内関係者と前籍校の関係者(担任教師・管理職・養護教諭等)とが、退院後の学校生活について話し合いをする機会をもつことが望まれます。医療者や病院にある学校の教師からの情報提供、子どもや家族の抱いている不安や要望、前籍校側の疑問、あるいは受け入れ態勢などについて、メンバー間での共有や意見交換がなされておくことが重要です。

5.医療と学校教育の連携

病気の子どもへの教育を行う上で、医療と学校教育との連携は欠かせないものです。近年の小児医療では、病気の子どもへの教育について、その意義や効果が十分に認識されつつあります。ただ、担当する教師の病院内での教育経験が浅かったり、1人ないし少人数で子どもに対応している場合は、「どのように医療者と連携をとればよいのか」「どのような情報を提供したり、得る必要があるのか」について、戸惑いながら教育実践が行われていることも少なくありません。最近ではチーム医療の一員として、教師もカンファレンスに参加する機会が増えています。その場でさまざまな領域の参加者から、学校教育に対する期待や要望などを聞くことは、チームの中で担っている教育独自の役割の重要性を再認識することにつながるでしょう。また、教師から子どもが学校で過ごしているときの様子や、取り組んでいる課題などが医療スタッフに伝えられることで、子どもの総合的な状態を関係者全体で理解することができ、病院関係者にとっても心身の状態に即した関わりが提供されやすくなります。

更新・確認日:2015年12月24日 [ 履歴 ]
履歴
2015年12月24日 掲載しました。
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